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罪 ◆LuuKRM2PEg



夜空は、とても美しかった。
数え切れないほどの星々と満月に照らされ、その光は地上を照らしていく。
一切の濁りが見られないほど、神秘的な黒い色に満ちていた。
二つの輝きに包まれた辺り一帯は、静寂に満ちている。
夜という世界を象徴するかのように。
この世界の出来事を何も知らなければ、平和な場所だと誰もが思うだろう。
しかし、ここは破壊と殺戮に満ちたアルハザードと呼ばれる戦場。
プレシア・テスタロッサの手によって、数多の世界から集められた多くの人間が、強制された殺し合いを行う場所だ。
僅かな安堵だろうと、抱く者は誰一人としていない。
そんな世界に、微かな微風が流れていた。
木々に生えた葉と、地面に生えた草が音を立てて揺れていく。
暗闇で満ちている森林の中を、三つの人影が進んでいた。
その先頭を、一人の青年が周囲を警戒しながら、足を動かしている。
頭髪は癖が強く、鍛え抜かれた長身痩躯の肉体を、ジャケットとジーンズで包んでいた。
天道総司は辺りを見渡しながら、思考を巡らせている。
十分という遅れがあった先程の放送。
時間に関する真相もそうだが、それ以外にも思案するべき問題がある。
あの中では、キングとアンジール・ヒューレーの名前が呼ばれなかった。
これが意味することはただ一つ。あの二人は未だに生きていること。
潰し合わせる為に離脱したが、それが失敗に終わってしまった。
それどころか、あの二人が共闘するという最悪の可能性も存在する。
だが、優勝という道を決めたアンジールが、何故そのような選択を選んだか。
可能性は低いが、キングが何か余計なことを吹き込んだかもしれない。

(俺は……一体何をやっている)

天道は、自分自身に憤りを覚えた。
突然、この会場に連れてこられたという失態もそうだが、これまでに多くの命が失われている。
偉大なるおばあちゃんから、多くのことを学んだはずだ。
ひよりを守るために、ワームとの戦いに備えて七年間、体を鍛え続けたはずだ。
そして天の道を往き、世界を照らす太陽の神、仮面ライダーカブトに選ばれたはずだ。
それにも関わらずして、このザマだ。

(だが、今は悔やんでいる場合ではない。まずは急ぐことが先決だ)

ここで悲しみと後悔に溺れ、止まることは許されない。
それでは、この戦いを仕組んだ主催者、そしてキングの思う壺だ。
あの放送では、後ろに歩く高町なのはと柊かがみの知る人間で、呼ばれていない者がいる。
なのはの幼なじみである、八神はやてとユーノ・スクライア。
愛弟子である、スバル・ナカジマ。
娘である、ヴィヴィオ。
グラーフアイゼンからの情報で知った人物、ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
そして、かがみの親友である泉こなた。
ヴァッシュとはやてに関しては、まだ不確定な部分がある。
しかしそれでも、残された彼らの命は救わなければならない。
それが自分の使命なのだから。

「なのはさん!?」

天道が考えながら歩いていると、突如として声が響く。
後ろから聞こえてきたそれによって、彼は反射的に振り向いた。
見ると、なのはは驚愕の表情を浮かべている。
彼女の視界の先には、見知らぬ一人の少女が立っていた。
短く整った青い髪、僅かに跳ねた毛先、宝石のような輝きを持つ瞳、小柄な背丈を包むレディーススーツ。
その背中には、更に小さい体格の少女が背負われている。

「スバル……それに、ヴィヴィオ!?」

現れた二人の少女を見たなのはの声は、震えていた。
そこには、安堵と驚きが込められている。




スバル・ナカジマはヴィヴィオを背負いながら、辺り一面に生えた雑草と木の根を踏みしめながら、先を進んでいた。
視界はとても暗く、足下が不安定なので、先程のように慌てて進んではいけない。
それにもし転ぶような事をしては、背中にいるヴィヴィオにも響いてしまう。
ホテルで繰り広げた戦いのせいで身体はボロボロで、顔色も悪い。
そんな彼女に無理をさせては駄目だ。
だから、移動のペースを落とす必要がある。
C-9地点にあるジェイル・スカリエッティのアジトに着くまで、時間がかかるというデメリットはあるが、焦るわけにはいかない。
もしそれで集中力を乱し、殺し合いに乗った者の襲撃を受けては全てが無駄となる。
そんなことになっては、こんな下らないことで命を奪われた人達の、無念は晴らせない。
スバルは唇を噛みしめながら、自分に言い聞かせた。

(始さん、ヴィータ副隊長…………ッ!)

四度目の放送で呼ばれた七人の名前。
その中で、知っている人が呼ばれてしまった。
出会って間もない自分を、命を賭けて守ってくれた相川始。
彼はアンデットという生命体だったらしいが、それは違う。
始さんは正真正銘の人間で、立派な仮面ライダーだ。
それだけは、紛れもない事実。
そして、未熟な自分を一生懸命に鍛えてくれたヴィータ。
彼女は尊敬する恩師、高町なのはと一緒に多くのことを教えてくれた。
訓練はとても厳しかったが、それがあったお陰で今の自分がある。
だからこんなところで止まっている場合ではない。
もしも泣くようなことをしたら、それこそ二人に対する侮辱になる。
今やるべき事は、一刻も早くアジトへ向かい、こなたやヴァッシュ達との合流だ。

(こなた、ヴァッシュさん、なのはさん、八神部隊長……無事でいて下さい!)

幸いにも、まだ名前の呼ばれなかった人達もいる。
だが、安堵などしていられない。
ヴァッシュやなのはやはやてはともかく、こなたは一般市民だ。
リイン曹長が一緒にいるとはいえ、彼女をこれ以上待たせては何があるか分からない。
こなたの身を案じながら、スバルは足を進める。
その最中だった。

「…………え?」

突然、近くから音が聞こえる。
草木を踏むような、ほんの僅かな足音が。
常人ならばあっさり聞き逃してしまうだろうが、彼女は戦闘機人。
察知するのは、造作もない。
スバルは呟きながら、歩みを止めてしまう。
たった今、音が聞こえてきたことを意味するのは、たった一つのみ。
この近くに、誰かがいること。
それは一つだけでなく、複数に聞こえる。
彼女は反射的に、物陰に隠れた。

(どうしよう……)

誰がいるにしても、警戒しなければならない。
殺し合いに乗ってないなら良いが、そうでない可能性もある。
もしも、近くにいるのが後者ならば、自分はひとたまりもない。
疲労が溜まっている上に、左腕も折れている。
加えて背中には、ヴィヴィオがいるのだ。
こんな状況で戦いなどやっても、負ける結果しか思い浮かばない。
気が付くと、足音がこちらに近づいていた。
木の陰に身を潜めているスバルは、覚悟を決めてそちらを覗き込む。
その瞬間、彼女は目を見開いた。

「えっ、まさか……!?」

驚愕の表情で、スバルは口を開く。
闇に包まれた木々の間から現れたのは、見知らぬ青年。
しかしその後ろには、合流を望んでいた高町なのはの姿があった。
さらになのはの背中には、この戦いに乗っていた筈の柊かがみもいる。
背負われているかがみの顔からは、一切の殺意が感じられない。
何故彼女が、なのはと一緒にいるのかは分からないが、話を聞く必要がある。
そう思ったスバルの行動は、決まっていた。

「なのはさん!?」




一同は合流してから、互いに情報を交換している。
これから向かうアジトに、こなたとヴァッシュとはやてが待っていること。
かがみに重傷を負わせたはやて。
ホテルで起きたヴィヴィオの暴走。
危険人物であるキングとアンジール。
はやてと一緒にいた、金居という謎の男。
ヴァッシュに渡した千年リングという、危険な支給品。
そして、罪を償うと決意したかがみ。

「ごめんなさい、本当にごめんなさい……!」

なのはに背負われたかがみは、涙を流しながらスバルに謝罪した。
大切な人を、三人も殺してしまったことに。
何も理解しようとせずに、自分を助けようとした彼女を殺そうとしたことに。
そして、スバルを支えてくれた人やこなたを否定したことに。
そんなかがみの様子を見て、スバルは安堵を覚えた。

「大丈夫ですよ、かがみさん」

彼女は微笑みながら、優しい声で告げる。
スバルには、確信が出来た。
生きる力を取り戻した今の彼女なら、こなたと会わせても大丈夫。
初めはきっと、罪の意識に悩まされるだろう。
でも、そんな苦しみをかがみさん一人に背負わせたりはしない。
なのはさんや、一緒に説得してくれた男の人みたいに、彼女を支えてみせる。

「こなたも、絶対に喜んでくれますよ。かがみさんが元に戻ってくれたことに」
「うん…………」
「これから、一緒にやり直せば良いんです。だから、頑張りましょう」

弱々しいかがみの呟きに、スバルは笑顔で答えた。
その瞳は今までとは違って、殺気と言った負の感情は一片たりとも感じられない。
ふと、かがみはスバルに背負われているヴィヴィオに視線を向ける。
そして、彼女は左腕を掲げた。

「ねえ、スバル……これをその子に使ってあげて」
「え、でもそれって……!」
「私はもう大丈夫だから、お願い…………!」

かがみは、自分の命を助けた白い大きな腕輪、デュエルディスクをヴィヴィオに渡そうとしている。
これは彼女の出来る、せめてもの償いだった。
見ると、なのはの娘であるヴィヴィオの顔色はとても悪く、息も荒い。
このまま放置しては、自分のように命の危険に晒されてしまう。
もうこれ以上、誰かの命が失われるのは嫌だった。
そんなかがみの意志を察したのか、天道は口を開く。

「いいだろう」
「え、ちょっと……!?」
「ありがとう……」

スバルの抗議は、かがみの声に遮られた。
天道はその行動を見て、おばあちゃんより教えて貰った大事な言葉を思い出す。
子どもは宝物。この世でもっとも罪深いのは、その宝物を傷つける者だ……と。
そしてもう一つ。
小さな親切を受けたら、大盛りで返しなさい……と。
かがみが取り戻した『献身』の感情を、無駄にするわけにはいかない。
幸いにも、命に別状がない段階まで体の調子を取り戻した。
天道はかがみの腕からデュエルディスクを外し、スバルの背で眠るヴィヴィオに取り付ける。
その瞬間、小さい呼吸は徐々に整っていき、身体の擦り傷も治り始めた。
出来るならば、かがみの時のように回復に時間を置きたいが、そういうわけにもいかない。
まずは、ナカジマが言っていた仲間達の合流が、先決だ。

「とにかく、そのアジトに向かうぞ。行動に移すのは合流してからだ」
「分かりました」

天道の言葉になのはが頷く。
彼は再び先頭に立ち、前に進み始めた。
その背中を見たスバルは、ハッとしたような表情を浮かべる。
勢いに流され、呆気に取られてしまった彼女は、大事なことを聞き忘れていたのだ。
耳打ちするように、なのはに尋ねる。

「あの、なのはさん」
「ん、どうかしたのスバル?」
「そういえば、あの人は一体……?」

そう、名前を聞き忘れてしまった事。
ヴィヴィオやこなた達、そしてかがみの事に気が向かっていたので、そこまで行かなかったのだ。
そんなスバルの疑問を、なのはは答えようとする。

「ああ、あの人はね――」
「おばあちゃんはこう言っていた」

しかし彼女の声は、あっさりと遮られた。
それをしたのは、決まっている。
なのはでもない。
スバルでもない。
ヴィヴィオでもない。
かがみでもない。
声の主である男は、突然足を止めた。
そのまま、背後に振り向く。

「俺は天の道を行き、総てを司る男――」

彼は天空に向かって、堂々と左腕を高く掲げた。
まるで、世界は自分を中心に回ってる、と宣言するかのように。
その直後、木々の間から光が射し込まれてくる。
彼を照らすスポットライトとなるように。
それは月の輝きであるはずなのに、とても眩しく見えた。
例えるならば、世界全てを包み込む太陽の光。
スバルは、不意に目を細める。
その一方で、男は強い意志の込められた瞳を向けたまま、最後の言葉を口にした。

「俺の名は……天道 総司」
「…………へ?」

名乗りを上げた天道に対し、スバルは呆気にとられるしかできない。
どういう反応を取ればいいのか、彼女には分からなかった。
変人。
会って間もない人間に対して失礼かもしれないが、そんな印象を持ってしまう。
それと同時に、スバルは天道の言葉に、とてつもない力が存在していると、錯覚してしまった。




余談だが、これはまるである出来事を再現しているかのようだった。
ここにいる天道総司も、ここにいるスバル・ナカジマも知らない事実。
それはとある時間の、とある世界の出来事。
来るべき全ての戦いを終えた天道は、異世界より突如現れたスバルと、出会いを果たしたことがある。
偶然の重なった、運命によって起こってしまった事。
本来ならば有り得ないはずだった、二人の邂逅。
奇しくも、その世界で起こった出会いと、とても酷似していた。
REVOLUTIONの名を持つ出会いと――




「はやてちゃん……!」
「ごめんな、リイン。心配かけて」

祝福の風の名を持つユニゾンデバイス、リインフォースⅡは涙を流しながら、八神はやての胸に飛び込んでいた。
その様子を、烈火の剣精アギトは、呆れたような表情で眺めている。

「てめえな、こんな時に泣いてんじゃねえよ」
「な、泣いてなんていませんよっ!」

リインは否定するが、その瞳は未だに潤んでいた。
その様子を、泉こなたは笑みを浮かべながら眺めている。
C-9地点、スカリエッティのアジトの前では、四人の人間と二人のユニゾンデバイスが集まっていた。
一人は、厳密には人間ではないプラントの名称を持つ生命体。
そして、元々いた本来の世界で人間台風と呼ばれ、600億$$の懸賞金が付けられた男。
針鼠のように伸びた黒い頭髪、その中で僅かに混ざった金髪、長身を包む炎のように赤いロングコート、朱色のレンズが埋め込まれたサングラス。
百年以上の時を生きてきた優しい死神、ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
彼の前に立つのは、ユーノ・スクライアだった。

「……そうなんですか、あなたがフェイトを」
「ごめん、本当にごめん……!」

ヴァッシュは、必死に頭を下げて謝罪している。
彼ははやてと共にこの場所に到着してから、全てをユーノに話した。
自分が、フェイト・T・ハラオウンを殺したことを。
目の前にいる青年からは、確かにユーノの面影が感じられた。
とても賢く、とても優しいあの少年の。
ユーノが立派に成長してくれた事が、ヴァッシュにはとても嬉しかった。
たとえそれが、平行世界の彼でも。
しかし、今のヴァッシュにはそれを喜ぶ事が出来ない。
何故なら、フェイトをこの手で殺してしまったのだから。

「ヴァッシュさん、あなたがフェイトを殺したのは事実かもしれません……」

ユーノは、寂しげな表情を浮かべながら口を開く。
初めは真実を知った時、ユーノの中でどす黒い物が吹き出ていた。
憎悪という名を持つ、負の感情。
しかし一緒にいたはやてが言うには、フェイトの命を奪った力はもう暴走しないらしい。
そして、今度からはみんなを守るために、その力を使うと。
長きに渡る付き合いである彼女が言うからには、ヴァッシュを信頼しても良いかもしれない。
それにこのような憎しみを抱いても、死んだフェイトは戻らないし、喜ばないはずだ。

「でも、はやてが言うように、その力はみんなの為に使ってください。フェイトも、それを望んでいるはずですから」
「わかったよ、ユーノ……」

ユーノの言葉を聞いて、ヴァッシュは顔を上げる。
先程はやてに言われたのと、同じような言葉だった。
それでも、自分の罪が許されるとは決して思っていない。
この世界では、もう一人のなのはやクロノ・ハラオウンも犠牲となった。
リンディさんや士朗さんや桃子さん、それに恭也や美由希は絶対に許しはしないだろう。
もっとも、こんな不甲斐ない自分など、恨まれて当然だ。
見知らぬ場所に流れ着いた、自分の面倒を見てくれたのにも関わらず、恩返しも出来ない。
もしも、みんなから罵倒されるような事になっても、当然だ。
例え殺されたって、文句は言えない。

(俺は……何をやってるんだろうな)

ヴァッシュの中で、自己嫌悪の感情が強くなっていく。
それは、ここに辿り着いた時に流れた放送を聞いたことも、原因の一つだった。
あそこで呼ばれた、相川始の名前。
これから一緒に戦えると思ったのに、それがもう出来ない。
やはり、スバルと一緒にあそこに残った方が良かっただろうか。
顔も知らない彼だったが、悪い奴ではなかったはず。
出来るなら、一緒にここから脱出して色んな事を話し合いたかった。
そしてお互いのことも、腹を割って語り合いたかった。
唯一安堵できたのは、スバルが生きていたこと。
今は、彼女を待つ事しかできない。

(それに、どうしよう。あの子にかがみの事を伝える訳には……)

不意にヴァッシュは、こなたの方に顔を向ける。
彼女はホテルで暴れていた少女、柊かがみの親友らしい。
ここに辿り着いてユーノ達と情報交換して、スバルからの伝言を伝えた。
その際に、向こうは既に首輪の解除を成功したと知る。
しかし、自分もはやても今のかがみの事だけは伝えていない。
でも、このまま黙ったままでは、いつ彼女がここに来るか分からない。
そうなっては、こなたは命の危機に晒される。
どちらの道を行っても、傷つくことになってしまう二択の問題。
選べと言われても、簡単に選べる物ではなかった。

「はやてちゃん!? ユーノ君!?」

ヴァッシュが悩んでいると、聞き覚えのある声がする。
刹那、その場にいた全員が背後に振り向いた。
そこに現れたのは、彼らがよく知る人物。

「なのはっ!?」
「なのはちゃんに……スバル!?」

高町なのはの顔を見て、ユーノとはやては同時に口を開いた。
その一方で、ヴァッシュとこなたは一緒にいたスバルの元に駆け寄る。
彼女の背中には、ヴィヴィオの姿があった。

「スバル、無事だったんだな!」
「心配かけてすみません、あたしはこの通り大丈夫です!」

スバルは、ヴァッシュに力強い笑みを浮かべる。
だがこなたの顔が、急に青ざめた。
その理由は、変わり果ててしまったヴィヴィオの姿を見たため。

「え……? ヴィヴィオ、どうかしたの!?」
「あ、ヴィヴィオなら大丈夫だよ! 今、治療してる最中だから」
「どういうこと?」
「えっと、それはね……」

困惑したこなたの疑問に、スバルは答えようとする。
しかしそれを口にすることは、出来なかった。

「何でや……何であんたがここにおるん!?」

突然、はやての怒号が響く。
それに反応して、三人の顔はそちらに向けられた。
すると、ヴァッシュとこなたの顔は驚愕で染まる。
その先には、探していた柊かがみがいたからだ。

「君は……!?」
「え、かがみん……!?」
「こなたっ…………!」

背中から降りたかがみは、浮かない表情で呟く。
その様子を横目で見てからなのはは、はやてに顔を向けた。
そして、事情を説明しようとする。

「はやてちゃん、聞いて。この子は――」
「そうか、なのはちゃんが助けたんか。その阿呆餓鬼を」

しかしなのはの言葉は、一瞬で遮られた。
彼女の前に立つはやての声と瞳は、恐ろしいほどの冷たさを放っている。
それを向けられたかがみは迫力に押されてしまい、思わず後退った。

「変やと思ったんや。何で、名前が呼ばれなかったのか」
「え、名前が呼ばれなかった……?」

はやての言葉を聞いて、ヴァッシュは怪訝な表情を浮かべる。
ここに着く前、彼女は「かがみが急に暴れ出して、逃げられた」と話したはずだ。
それなのに、何故。
ヴァッシュが疑問を抱く一方で、はやては自分のデイバッグに手を入れる。
その中から一丁の黒い拳銃、コルト・ガバメントを取り出して、銃口をかがみに向けた。
彼女の行動を見た瞬間、この場に集まった全員の目が見開かれる。

「は、はやてちゃん。何を――!?」
「なのはちゃん、そこ退いてくれへん? 私は今からその阿呆餓鬼を始末するから」
「えっ……!?」

なのはの事などお構いなしに、はやては引き金に指を絡ませた。
当然、それを見逃す者はいない。
天道は右腕を伸ばしてはやての行為を制止し、ヴァッシュはかがみの前に立った。

「おい、何を考えている!」
「はやて、ちょっと待った! ストップ! ストップ!」
「何ですか、二人とも? 邪魔をしないで下さい」

しかしはやては、あっさりと冷たく二人に言い放つ。
再び現れたかがみを見た瞬間、彼女の中で二つの感情が膨れ上がっていた。
憎しみと殺意。
放送でその名前が呼ばれなかったので、悪い予感はしていた。
そして、それは見事に的中。
はやてには、エリオとシグナムを殺した挙げ句、それを自己正当化しようとするかがみが許せなかった。

(のうのうと生き延びたはいいが、まさかなのはちゃんやスバルと一緒にいるとはな……)

お人好しな彼女たちが現れたのなら、助かっても当然かもしれない。
だが、自分はこれ以上かがみに情けをかけるつもりは無い。
泉こなたに真実を伝えなかっただけでも、有り難いと思うべきだ。
ユーノと一緒にいた彼女に何故伝えなかったのは、彼女自身わからない。
何の力も持たない一般人だからか。
それとも、かがみに対する最後のお情けだったのか。

(けど、もう関係あらへん……)

こうなった以上、やるべきことは一つ。
なのはやスバルがやらなかったのなら、自分がここで引導を渡すべきだ。
大方、二人に命乞いでもして、助けてもらったのだろう。
そして、ここにいる自分達を殺そうと企んでるに、違いない。
何にせよ、これ以上甘やかしては、どうなるかは火を見るよりも明らかだ。
恐らく、自分の行動も確実に知られているだろう。

「なのはちゃん、一ついいことを教えてやろうか? その阿呆餓鬼の事を」

銃を構えるはやては、かがみを冷たく睨み付けながら、言い放つ。
彼女の様子を見たヴァッシュは、ハッとしたような表情を浮かべた。
ここには、かがみの親友であるこなたがいる。
そして、はやてから放たれる冷たい雰囲気。
この二つの事柄から、天道とヴァッシュは危機感を感じた。

「待て!」
「待つんだ、はやて!」
「そいつはな、エリオとシグナムを殺したんや。その挙げ句に、殺人を正当化するような救いのない極悪人なんやっ!」

しかし、彼らの制止は届かない。
はやては声色に悪意を込めながら、言い放った。
彼女の怒号は、闇に包まれた森の中に響き渡る。
いや、わざとそうなるように力を込めたのだ。
その言葉は無論、かがみの耳に容赦なく入っていく。
それは、まるで鋭利な刃物のように、彼女の心を抉っていった。

「え、かがみん…………やっぱり、なの?」

続くように響いたのは、こなたの声。
反射的に、かがみはそちらに振り向いた。
そこにいるこなたの瞳は、信じていた者に裏切られたような、絶望が感じられる。
親友の視線に耐えることが出来ず、かがみは目をそらした。
その行為がはやての勘に障ったのか、顔がより一層歪んでいく。
かがみの表情を見て、なのははもう一度前を向いた。

「お願いだから聞いて、はやてちゃん。この子は、もう危ないことなんてしないよ!」
「なのはちゃん、私が何を言ったか聞いたんか? そいつはな――」
「知ってる! この子から全て聞いた! シグナムさんやエリオの事も!」
「なら、何でそいつを庇うんや!? そんな甘ったれた奴を生かしていたらな、なのはちゃんもすぐに殺される!」
「だからって、銃を向けるのはやめて!」
「何でそんな事言うんや!? 二人を殺しただけじゃない、なのはちゃんやスバルの善意を裏切った! それがわからんのか!?」

なのはとはやては、お互いに怒号を飛ばしあう。
危機を察したユーノは、二人の間に割って入った。

「落ち着いてよ、二人とも!」

双方の勢いが、一瞬だけ緩む。
しかしはやての目から感じられる憤怒は、未だに収まっていない。
普段の彼女からは想像できない様子に、ユーノは少しだけ戸惑う。
それでも二人を落ち着かせるために、口を開いた。

「なのはもはやても、そう熱くならないで。今は揉めてる場合じゃないでしょ」
「何や、ユーノ君もその極悪人を庇うつもりなんか」
「そういうことじゃないよ! 僕は詳しい事情は知らない、でもこんなことをしたって何にもならないって!」
「じゃあ、ここでみんな仲良くその阿呆餓鬼に殺されろって言うんか?」
「違うって! なのはも言ってたでしょ、その子はもう人殺しなんてしないって……」
「それはどうなんでしょうか」

ユーノは必死に説得をしていると、新たにリインの声が入る。
振り向くと、その瞳からは今にも涙が流れそうだった。
同時に、今のはやてとよく似た、黒い感情も感じられる。

「だって、その人はシグナムを殺したそうじゃないですか。そんな人を、許すなんて……」
「リインまで、やめてよ!」

その瞬間、ユーノは気づいた。
リインの小さな身体が、震えていることに。
彼女も、理屈では分かっている。
かがみという少女をいくら責めたところで、エリオやシグナムはもう帰ってこない。
そして憎しみを抱いても、エリオやシグナムは喜ばない。
だが、それ以前の問題だった。
なのはは「もう人は殺さない」と言っているが、関係ない。
二人を殺した張本人が、目の前にいる。
それだけでも、リインの中で憎しみを沸き上がらせるのに、充分だった。
先程ホテルから離れた時に固めた決意を、忘れさせてしまうほどに。
なのはには、リインの言い分も理解できた。
家族を殺されたのだから、憎しみを抱くのは当然。
しかしそれでも、分かって貰う必要がある。

「とにかくはやてちゃん、お願いだからこの子の話を聞いて」
「はっ、今更何を……」
「お願いっ!」

なのはは必死になって、詰め寄った。
はやてが警戒するのも無理はない。
でも、かがみは本当は優しい心を持っている。
現に自分のことを構わず、怪我をしたヴィヴィオを助けようとした。
それをわかって欲しい。
そんななのはの姿を見たかがみは、覚悟を決めた。

「え、ちょっと……!」

彼女はヴァッシュの後ろから、はやての前に出る。
その瞳を見て、殺されそうになった時のことを思い出した。
しかしそれでも、逃げてはいけない。
天道やヴァッシュ、なのはやスバルはこんな自分のことを庇ってくれた。
その好意に、答えなければならない。

「何や、腹を括ったんか? ええ度胸やな、ならお望み通りに……」
「ごめんなさいっ!」

はやてによる怨嗟の声は、途中で止まる。
かがみは頭を下げて、精一杯の謝罪を始めた。

「謝っても許して貰えないのは分かってる、私がみんなを裏切ったのは分かってる、何も知らないのにみんなを侮辱したのも分かってる……どれだけ酷いことをしたかも、分かってる! 
私がどうしようもない馬鹿ってことも、分かってる! 本当に、本当にごめんなさい!」
「かがみん……」

彼女の様子を見て、こなたの表情に希望が戻る。
はやてっていうあの人は、かがみが人を二人も殺したと言った。
それを聞いた時、ショックで倒れそうになった。
信じていた大切な友達が、殺人を犯したという事実。
そして、その殺された人達と親しいはやてとリインの憎悪。

(でも、かがみんは元に戻ってくれたんだ……!)

もうこれ以上、かがみが間違いを犯さない。
その事実が、こなたにとって何よりも嬉しかった。
クラスメートであるなのはが、それを証明してくれている。
それなら、信頼できた。
こなたは笑顔を浮かべていく一方、なのはははやてに声をかけた。

「はやてちゃんやリインの言いたいことも分かる。でも、かがみは本当は優しい子なの! その証拠に、今までの罪をちゃんと償おうとしてる!
だから、今からでもやり直せる! 死んだ人達の事を忘れずに、罪を背負って生きていく事だって出来るよ!」

奇しくも、その言葉は似ていた。
夢の中ではやてに責められていた際に、なのはがかがみを庇うときに言った言葉と。
初めは、二人は許さないかもしれない。
でも、時間をかけてゆっくりとかがみの事を分かってもらう。
自分も、そうやってはやて達と分かりあえたのだから。
その思いを、なのはは言葉に込める。
しかし、彼女の希望が叶うことはなかった。

「言いたいことはそれだけか」
「「え?」」

突然、はやての声が聞こえる。
それに反応して、かがみは顔を上げた。
その瞬間、コルト・ガバメントの銃口が、彼女の視界に飛び込んでくる。

「――ッ!」

反射的に天道は腕を伸ばし、銃身を掴んだ。
その瞬間、はやては銃のトリガーを引く。
そして、一発の乾いた銃声が、森の中で響いた。




辺りに、火薬の匂いが漂う。
銃口からは、一筋の煙が吹き出した。
しかしそれらは、冷たい風がすぐに流していく。
何故、このような事が起こったか。
その答えは一つ。

「…………貴様、どういうつもりだ?」

沈黙は、天道によって破られた。
彼は、はやての握るコルト・ガバメントを左斜め上に向けている。
それによって、放たれた銃弾は誰にも当たる事はなかった。
横で立つ天道を、はやては睨みつける。

「それはこっちの台詞ですよ? 何で邪魔をするんですか」

そのまま彼女は腕を振り払った。
そして、はやては再びかがみに銃を向けようとする。
しかしそんな彼女の前に、なのはが立った。

「はやてちゃん…………どうして?」
「それはこっちが聞きたいわ」

疑問は、あっさりと返される。
はやての表情は、一向に変わらない。
いや、むしろ先程よりも険しさを増していた。
彼女の中で溢れる、怒りと憎しみの二つも。
結論からすると、かがみの謝罪は何の意味も成さない。
それどころか、負の感情をより一層増幅させる、スパイスとなってしまったのだ。
はやては、銃声によって地面にへたり込んでしまったかがみを睨みながら、口を開く。

「あんた、確かかがみと言ったな。一つ聞いてもええか?」
「え…………?」

声をかけられた事によって、少女の体がピクリと震えた。
それを見て、はやての苛立ちは更に強まる。
しかし、今は我慢だ。
この極悪人には、教えなければならないことがある。
拳銃を撃ちたい衝動を必死に堪えながら、彼女は言葉を続けた。

「今更謝られても『ハイそうですか。許してあげます』って、言ってもらえる思ってたんか? だとしたら、随分おめでたい頭をしとるんやな」
「ち、違う…………!」
「わざわざそんな三文芝居を見せつける為に、なのはちゃんに命を助けてもらうとはな…………」

言葉による暴力を、はやては止めない。
怯えるかがみの中で、先程の記憶がフラッシュバックしていく。
はやてから放たれる憎悪。
自分の犯した罪の重さ。
体中から流れていく血液。
時間と共に消える命。
そして、一人になった自分。
次々と記憶は蘇り、かがみは恐怖を覚える。
かつての自分自身と、はやてに対して。

「そんな猿でも出来るお芝居を考えるくらいなら、とっとと…………」
「はやてちゃんっ!」

かがみへの責めは、唐突に終わる。
乾いた音が響くのと同時に、はやての頬に衝撃が走った。
彼女の体は少しだけ、よろめいてしまう。
だが、すぐに体勢を立て直した。

「…………どういうつもりや、なのはちゃん」

八神はやては、冷たい怒りを燃やしながら呟く。
そして、振り向いた。
自分のことを引っ叩いた親友、高町なのはの方へと。
彼女もまた、怒りを燃やしている。
涙を、その瞳から流しながら。

「…………それはこっちの台詞だよ、はやてちゃん」

二人は、互いに睨みあう。
互いに同じ夢を持った、親友同士が。
互いに色々な事を語り合った、親友同士が。
互いに遊んだ、親友同士が。
互いに涙を流した、親友同士が。
互いに何度も助け合った、親友同士が。
互いに笑い合った、親友同士が。
先に口を開いたのは、はやてからの方だった。

「何でわからないんや、なのはちゃん。放っといたら……!」
「はやてちゃんこそ、何で分からないのっ!」

彼女達は、一歩たりとも譲らない。
今の二人が持つ感情は、とても違うようでとても似ていた。
何も知らないのに、はやてがかがみを侮辱したことに怒るなのは。
何も知らないのに、かがみがなのはを侮辱したことに怒るはやて。
別の世界からやって来た彼女達だが、胸の中に持つ思いは似ていた。
それが皮肉にも、対立の原因を作ってしまっている。

「二人とも、待ってくれよ!」
「お前達、いい加減にしろ!」

ヴァッシュと天道は、二人を止めようとした。
このまま揉め続けては、取り返しの付かないことになる。
それは誰の目から見ても、明らかだった。
なのはとはやては、一瞬だけ止まる。
その隙を付いて、ヴァッシュと天道は説得を続けた。

「なのはもはやても落ち着いてくれ! さっきユーノが言ってたみたいに、今は揉めてる場合じゃないでしょ!」
「その通りだ。この戦いに乗った奴はまだ残っている……こんな時に、そいつらが来れば一巻の終わりだ。状況を考えろ!」

彼らは言うが、なのはとはやての間では剣呑な雰囲気が漂い続ける。
そんな中、天道とヴァッシュに続くように、ユーノも二人の間へ出てきた。

「なのは、はやて。君たちの言い分は分かる。でも、今は……!」
「そんな風に言って、そいつの罪を有耶無耶にするんか?」

しかし、彼の言葉ははやてによって遮られる。
無論、ユーノにそのような意図は全くない。
これ以上、長年付き合ってきた二人が言い争うのが、耐えられなかったのだ。
こんな事を続けていては、きっとフェイトは悲しむ。
なのはとはやての目線は未だに交錯する中、ユーノはそう思った。




(まずいな……このままでは、崩れ落ちるのも時間の問題だ)

二人が睨み合う中、天道は考える。
そう簡単に解決するとは思っていなかったが、まさかこんな事になるとは。
あの八神はやてという女性は、自分の知る八神はやての面影を確かに持っている。
しかし、あの時の少女からは想像できないような憎悪が、感じられた。
だがそんな事は関係ない。
今、この会場にはキングとアンジールという、殺し合いに乗った二人が残っている。
そして、金居という謎の人物。
奴らがここに現れる可能性も充分にある。
このまま二人の口論が続き、襲撃など受けてしまっては、ひとたまりもない。
こんな状態では、まともに脱出することも出来ない。
まずは、二人を落ち着かせて、それから全員を纏めなければならないだろう。

(とにかく今は、口論を止めることが先決か)

天道は結論を付けた。




(どうする……どうする……どうする!? 考えろ、考えるんだ! ヴァッシュ・ザ・スタンピード!)

二人が睨むあう中、ヴァッシュは考える。
何故、はやてはかがみをあそこまで責めるのか。
何故、スバルがかがみと一緒にいるのか。
何故、はやては「名前が呼ばれなかったのか」とかがみを見たときに言ったのか。
わからないことだらけだ。
そしてスバルと一緒に現れた、なのはと呼ばれた女性。
恐らく、はやての言っていた自分とは別の世界から来た、もう一人の高町なのはだろう。
その顔と声は、あの優しい少女を思い出させる物だ。
生きていたことは、非常に嬉しい。
それと同時に、罪悪感も沸き上がった。
でも、感慨に浸ることは出来ない。
なのはの親友であるフェイトは、自分が殺したのだから。
彼女が現れてから、それを伝えようと思っていた。
しかし、今はそんな空気ではない。
ヴァッシュは、不意にかがみの方へ振り向いた。

(もう、こんな戦いには乗らないんだな……良かった)

彼女からは、ホテルで出会ったときのような敵意は感じられない。
ということは、なのはが言ったことは真実だ。
彼は荒廃した世界で、数え切れないほどの死線を切り抜けてきた男。
敵意を持つ者と持たない者を見分けるのは、造作もなかった。
だがそれよりも、友達同士の二人をこれ以上争わせてはいけない。

(とにかく今は、二人を落ち着かせないと)

ヴァッシュは結論を付けた。




(なのは……はやて……)

二人が睨み合う中、ユーノは考える。
先程から何度説得しても、一向に収まる気配がない。
むしろ、時間と共に酷さを増していた。
バインド魔法を使って、強制的に止める方法もある。
だが、力ずくで説得したところで、届くわけがない。
それどころか、逆効果になる。やるにしても、これは最終手段にしなければならない。
はやてはあのかがみという少女が、シグナムを殺したと言っていた。
それを許すことが出来ないのは、当然だろう。
現に自分も、その事実を聞いたとき、ヴァッシュの時のような憎しみを感じた。
でも、なのははこれ以上人を殺さないとも言っていた。
どちらの言い分も理解できるが、どちらかに肩入れするわけにもいかない。
そんな事をしては、余計に険悪な空気になる。

(とにかく今は、なのはとはやてを止めないと)

ユーノは結論を付けた。




「なのはさん、八神部隊長……」

なのはとはやてが言い争っている光景を、スバルは不安な表情で見つめている。
普段の二人からは、まるで想像する事が出来ない状況だ。
はやての意見は理解することが出来る。
かがみは自分やヴァッシュや始に危害を加え、こなたすらも殺そうとした。
だが、それは以前の話。
今のかがみは、自分の罪をしっかりと受け止めて、これからを生きると決めた。
だから、死なせたくはない。

「……スバル、貴方は本当にその人を信じてるんですか?」
「え?」

リインの声が聞こえ、スバルは振り向いた。
八神家の一員である祝福の風は、未だに憎悪の視線をかがみに突き刺している。
その隣で漂うアギトも、同じように警戒しているような表情を浮かべていた。

「その人は、スバル達を裏切ったそうじゃないですか……それに、シグナムやエリオも……」
「リイン曹長っ!」

冷たい言葉を、スバルは遮る。
その瞬間、リインはハッとしたような表情を浮かべた。
彼女は憎しみのあまりに、忘れてしまっている。
ここには、かがみの親友であるこなたがいることを。
はやての手によってかがみが射殺されそうになったとき、彼女は一瞬だけ思ってしまった。
当然の報いだ、と。
スバルやこなたがいるにも関わらずして。
そう気付いた瞬間、リインは自己嫌悪に襲われた。
今のかがみは、只の一般人。
もっとも、そのような考えに至っても当たり前かもしれない。
加えて、彼女は次々と家族を失ったことで、精神が疲弊していた。
いくら多くの戦場を潜り抜けたと言って、仕方のないこと。

「こ、こなた……わ、私はそんなつもりで……!」
「おいっ!」

リインの声が震えた途端、アギトはそれを一喝する。
しかし、それは届かない。
一方のこなたは、未だに震えたままのかがみを、悲しい目で見つめていた。
出来ることならかがみのことを、守ってあげたい。
でも、今の状況で出てきたところで、何かができるとも思えない。
けれど放っておいたら、取り返しのつかないことになる。

(どうしたら、どうしたらいいの…………? かがみん…………)

出来ることなら、かがみの為に何かをしたい。
だが、どうすればいいのかこなたには分からなかった。
答えは、未だに出てこない。




(ほう? 何か随分面白そうなことになってるじゃねえか)

盗賊王、バクラは笑みを浮かべていた。
このアジト前で起こった、騒動を見たことによって。
一時はどうなるかと思っていたが、まだチャンスはある。
騒ぎに乗ずれば、何かが出来るかもしれない。
前の宿主であるかがみがいるが、もはやどうでもいい。
今は、チャンスを待つのみ。

(さて、精々頑張ってくれよ……正義の味方さん達よ!)

千年もの時を越えた王は、何を見るか。


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