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Pain to Pain(前編) ◆HlLdWe.oBM




「はやてちゃん……」
「なんで分かってくれへんのや……」
「なのはもはやても落ち着いてくれ!」
「お前たち、今の状況を考えろ!」
「二人とも冷静になって!」
「私は……」
「なのはさん……八神部隊長……」
「…………ぅ…………ぅ」
「かがみん……」
「あ、そ、そんなつもりじゃ……」
「おい、お前も落ち着け!」

風変わりな青系統の着物を身にまとった魔導師が説得を試み――。
茶色の陸士制服の胸元を真っ赤な血で染めた魔導師が主張して――。
深緑のスーツを着こなす司書長が場を静めようとして――。
ジャケットとジーンズという格好の天の道を往き総てを司る男が咎め――。
真紅のコートに身を包んだガンマンが仲裁を図ろうとして――。
薄汚れた下着の上に着物の上着という露わな姿を晒す女子高生は怯え――。
白きバリアジャケットを展開する魔導師は苦悶して――。
薄紫の大きな帽子と橙色の大きなリボンで着飾った幼き子は未だ眠り続け――。
水色と白のセーラー服とスカートを着用した女子高生は悩み――。
烈火と蒼天の二人の融合騎は急転する状況に混乱を隠せず。

(おいおい、なんだこれは……)

現状を端的に一言で表そうとすれば“混沌”。
そんな言葉が相応しいとバクラは一人で思いを巡らせていた。
デスゲームの会場北東部、鬱蒼と木々が茂った森の中に隠れるように建設されたスカリエッティのアジト。
その入り口付近に集った参加者は延べ9名+精霊みたいな奴2名+バクラ。
総勢60人もいたデスゲームの参加者も24時間の間に全体の8割にも及ぶ48人が脱落した結果、残りは僅かに12人。
つまり実に生き残った参加者の4分の3がアジト前に集結している事になる。
しかも9名とも一応全員今のところは積極的に殺し合いをして優勝を目指すつもりではないらしい。
だが優勝するつもりがないからと言って、皆で一致団結してプレシアを打倒しようという流れにならないのは悲しいかな人の性か。
人が集まれば集まるほど力は結束して強まる場合もあるが、その反面僅かな諍いからせっかく結集した力が崩壊する場合もある。
それが集団というものの宿命であり、どうやら今は後者の場合になりかけているらしい。

最大の焦点はバクラの元宿主でもある柊かがみへの処分についてだ。

だが実のところ大半の参加者はそれぞれ程度の差はあれど改心したかがみを信じて許す方向に傾いている。
それに対してはやてだけが強硬に禍根を断つべき、つまりここで始末するべきだと主張していた。
一応リインフォースⅡもはやての意見に同調する様子を見せているが、それでも一見すると大勢は明らかに思える。
しかしはやての主張にも納得できる部分があるために、誰もがはやての意見を頭から抑える事が出来ないでいた。
さらに危険人物のキングやアンジール、不審な行動が目に付く金居といった参加者が今もどこかで暗躍しているのかもしれない。
このままでは早々に事態の解決を図らないと最悪全滅の可能性も出てくる。
一方ではやてはここでかがみを始末しないと後々必ずや災いとなると確信しているので、何がなんでもかがみを殺そうと必死だった。
それゆえに誰も彼もが不安と焦りを知らず知らずのうちに胸の内に抱えていた。

だがそれこそバクラの望むところだ。

(ヒャハハハハハァ、元宿主様は良い仕事してくれるねぇ。なるほど、この状況なら……)

ヴァッシュの首にかけられた千年リングの中で盗賊王の魂は盗賊らしく盗みの準備に取り掛かろうとしていた。


     ▼     ▼     ▼


(どちらも強情だな。しかしここで上手く収まったところで前途多難だな)

天道はこの状況が収集した後に待ち受ける事態に危惧を抱いていた。
未だにこの会場を闊歩している危険人物キングとアンジール、そして裏で何を考えているか分からない金居。
そのうちアンジールはまだ説得の余地がありそうだが、ここで大きな問題がある。
アンジールがいた世界ではナンバーズはアンジールにとって妹のような存在であったらしい。
そのナンバーズ達が殺された事でアンジールが修羅に落ちた事は今までの様子から容易に想像がつく。
だがよりにもよってかがみはそのナンバーズの一人であるチンクを殺している。
もしアンジールに仲間になるよう説得するとなると、この事実を隠し通すか打ち明けるか悩みどころだ。
仮に隠し通した場合、万が一ばれた時アンジールとの対立は決定的になる可能性が高い。
逆に素直に打ち明けたところでアンジールがかがみを許すとは到底思えない。
どちらを選択しても穏便には済まないだろう。

(だが、まずはこの二人をどうにかする方が先決か)


     ▼     ▼     ▼


(やっぱり、あの時はやてはかがみに……)

二人の間に割って入りつつヴァッシュは少し前の出来事を思い出していた。
それははやてがかがみと二人っきりで話したいと言って森の中に入っていった時。
今までの話からするとはやてがかがみを殺そうとしているのは疑う余地もない。
おそらくあの時も自分が見ていないところではやてはかがみを殺そうとしたのだろう。
そして殺害が失敗に終わって逃げられたのでかがみに襲われたと嘘をついて誤魔化したのだろう。
つまり本当ならかがみはあの時はやてに殺されていたかもしれないのだ。

(俺は何をやっていたんだ……フェイトの時も、新庄君の時も、何度同じ過ちを繰り返すんだ……)

それは悔恨。
自分の知らないところで起きた凶行、だがもしかしたら止められたかもしれない惨劇。
それは確実にヴァッシュを苛む小さな要因になっていた。


     ▼     ▼     ▼


(なのはとはやてのこんな光景を見るなんて……くそっ、デスゲームめ……)

ユーノもまたなのはとはやてを仲裁しようとしている一人だった。
実はその気になれば天道やヴァッシュと違ってユーノは得意のバインドを使って二人の動きを封じる事もできた。
だがユーノの脳裏に数時間前の失敗が絶えず過ってその手段の行使を躊躇っていた。
それはいきなりバインドで相手を捕獲してしまったせいでその人物を修羅に落としてしまったという出来事だった。
相手は元一般人で白夜天の主として覚醒した天上院明日香。
もちろんバインドを使ったのは止むを得ない事情があったからだが、明日香にその意図は伝わらないまま別れてしまった。
そしてユーノの知らないところで明日香は死んでいった。
だから同じような過ちを繰り返さないためにも強硬手段に打って出るのは極力避けたかった。

だがユーノは知らなかった。
その明日香を殺した張本人が目の前にいるはやてである事に。


     ▼     ▼     ▼


(なんでこんな事に……)

スバルは今の状況を見ているしかできなかった。
初めて目の当たりにする隊長同士が本気でいがみ合う場面に気圧されたのかもしれない。
だが理由はそれだけではない。
なのはとはやての諍いの他にも、背中で回復中のヴィヴィオ、かがみを責めるような発言をしたリイン。
複数の問題が同時に発生してスバルは正直軽くパニック状態だった。
本来なら頼りになるはずの上官であるリインは自分で自分の身体を強く抱きしめてガクガク震えている。
隣でアギトが話しかけているが、それは全く耳に入っていないようだ。
先程のかがみへの非難に対して激しく自己嫌悪に陥って葛藤しているのは目に見えて明らかだ。

(それにこなたも……)

ふと横目で見たこなたの表情は相変わらず暗いままだった。
それも当然だ。
ずっと心から願っていた再会が、待ちに待った親友との再会が、このような暗雲漂う形となってしまったのだ。
しかも親友であるかがみがその渦中の真っ只中で、それが原因でこうしてなのはとはやてが激しく口論を交わしている。
その心中に渦巻く感情の複雑さは容易には計り知れないものだった。

(ルルーシュ、あたしどうしたらいいんだろう)

そんな時に思い出すのは異世界の自分と縁の深かった青年、ルルーシュ・ランペルージ。
ルルーシュならこの紛糾する状況を打開する策を考え付くのだろうか。
亡き仲間に想いを馳せつつ左手に視線を向けてみた。
そうする事で少し不安が和らぐような気がしたから。
その薬指にはなんとなく先程デイパックから取り出したお守り代わりのエメラルドの指輪が嵌っている。

そしてスバルの切なる願いに答えたのか一瞬指輪が輝いたように見えた。


     ▼     ▼     ▼


(そ、そんな、そんなつもりじゃなかったのに……)

祝福の風を運ぶはずの融合騎リインフォースⅡは自らの発言に激しく後悔していた。
いくらシグナムやエリオを殺した張本人だからとはいえ、あんな風にかがみを悪しざまに非難するような言葉を言うなんて最低だ。
しかもこなたやスバルの目の前で何の配慮もなしに吐露するなど、普段のリインからは想像しがたい行動だった。
だが殺し合いという環境は本来無邪気であったリインの精神を蝕むのに十分すぎるものだった。
次々と死んでいく仲間、何もできない自分の無力さ、そして突然対面した仲間殺しの犯人。
まだ幼いリインが冷静に対処するには酷な状況というものだ。

だがリインとて管理局に身を投じる一員だ。
自らの発言をなかった事にするなど出来ない事ぐらい分かっている。
だからこそ自らの非を認めて、その上で相手に誠意を込めて謝る事を優先しなければいけない。

そのはずなのだが。

(でも、本当にかがみは許してもいいんでしょうか?)

まだ幼いリインにとって理性よりも感情が行動に与える影響は大きい。
だからこそ思い悩むのだ。
本当にかがみは許されるべき存在なのか。
実のところリインの家族であるはやてや守護騎士は闇の書事件の罪を償って今に至るという経緯がある。
だがあの時は守護騎士達が誰も殺す気はなかった事もあって、誰一人として死者は出なかった。
しかし今回は明確な殺意を持って殺人を繰り返した上での改心だ。
果たしてそのような人物でも罪を償えるものなのか。
まだ人生経験の浅いリインには俄かには判断が付かない難問だった。

(はやてちゃん……はやてちゃん……! リインは、リインはどうしたいいんですか……!)

ふと項垂れていた頭を上げて激しく主張を繰り返す主の方に顔を向けた。
何か少しでも不安を取り除きたかったから。
ほんの少しでもいいからこんな嫌な気持ちを振り払いたかったから。


そして――光が見えた。


その光は次の瞬間にはリインの目の前まで迫っていて――。

(え、なん、で……す…………か――)

――気付いた時にはもうリインの胴体は光に喰われていた。

何もできなかった。
何も分からなかった。
何も理解できなかった。

そしてリインは驚愕と苦悶に満ちた表情と共に消えていった。


     ▼     ▼     ▼


それはあまりに唐突な出来事だった。
それは誰も気づかないうちに終わっていた。
それは静かに奪っていった。
それは光、誰にも阻まれる事なく一瞬で全てを持っていく光。

その光が皆の前から奪っていったもの――それは幼き祝福の風、リインフォースⅡの命だった。

蒼天の融合騎は最期まで自身の身に降りかかった悲劇を理解できないまま死んでいった。
そしてこの場に残された者達も皆一様に突然の凶事に理解が追い付いていなかった。
驚愕と苦悶に満ちたリインの生首が地面に落下して光の粒子となって消える同時に、皆ようやく何が起こったのか理解できた。

「い、いやああああああああああ!!!!!!!!!!」

最初に反応したのはリインのマイスターであるはやてだった。
もちろん慟哭という形で。
数秒前まで言い争っていたなのはも、あれほど殺そうと躍起になっていたかがみも放り出して、リインが消えたであろう場所にしゃがみ込んで泣き叫ぶ姿はさっきまでの姿とは打って変わって痛々しかった。
そのあまりに鬼気迫る様子にリインの傍にいたスバルやこなたは自然とその場から離れていた。

そして、残りの全員も事態を把握すると当然の疑問が湧き上がった――つまり誰がリインを殺したのか。
しかしこれはすぐに分かった。
なぜなら下手人は右手の凶器を構えたまま棒立ちになっていたからだ。


真紅のコートに身を包んだヴァッシュ・ザ・スタンピードは右腕を水平に構えたまま呆然とした表情を浮かべていた。


下手人の正体が分かると、再び場は凍り付いたように動きを止めていた。
その静止した空間の中で唯一地面に蹲ったはやての喉から洩れる嗚咽だけが現状の悲惨さを物語っていた。
だが次の瞬間その凍り付いた時間を動かすようにいきなりヴァッシュが我に帰って身震いすると、すぐさまはやての元に駆け寄ろうとした。
当然他の皆は急展開する事態に思考が追い付かず、それを黙って見ているしかなかった。

「はやて――」

そこでヴァッシュの声をかき消すように皆の耳に冷たく静かに一つ単語が飛び込んできた。

「……憑神刀(マハ)」

その単語が何を意味するのか理解する間もなく、もうすでに真紅の旋風は皆の目の前まで迫っていた。


     ▼     ▼     ▼


“憑神刀(マハ)”。

異世界よりも持ち込まれた巫器(アバター)はこれまでも幾度となく参加者に大いなる被害をもたらしてきた。
その性質上その時の所有者の心の喪失に対する強靭な意志を糧として。
一度目はシグナムを失ったはやて(小)によって。
二度目ははやて(小)を失ったセフィロスによって。
三度目は家族を失ったはやて(大)によって。

だがこの3人の中ではやて(大)だけは少々事情が違った。

それは他の二人とは違って失ったものが戻ってくる可能性がある点だ。
一度目と二度目の場合、シグナムははやて(小)の目の前で、はやて(小)はセフィロスの目の前で死んで二人の命は永遠に失われてしまった。
それに対して三度目の場合、はやて(大)の家族は元の世界で存命中だ。
ただしゴジラを封印するために再会が限りなく困難という意味で失った事に大きな差はない。

だからはやては当初からこの会場にいる家族は全て偽者であると断じて、時として非情な対応もしてきた。
だがリインフォースⅡだけは別だ。
リインだけは唯一はやての下に残された家族であり、リインだけがこの会場内で正真正銘の家族であった。
その家族が殺された。
これは憑神刀(マハ)を手にした時の喪失を遥かに上回るものだった。
しかもこの時はやては怒りのあまり人が身体を保護するために無意識にかけているリミッターを半ば外してしまっていた。
それゆえに限界以上の魔力を注ぎ込んだ今回の『妖艶なる紅旋風』の威力は果たして半端なものではなかった。

案の定周囲にいた参加者は一人の例外もなく全員方々に吹き飛ばされてしまった。

まずなのは・ユーノ・スバルといった魔導師達はさすがと言うべきか反射的に防御魔法を展開させていた。
だがその直前ヴァッシュの凶行に気を取られていた3人の対応には一瞬の遅れが生じざるをえなかった。
しかも背後にいたこなた達のような力のない参加者を守ろうと効果範囲を広げた事で逆に耐久力が落ちた事も一因だった。
それゆえに不十分な状態で展開されたなのは達3人のプロテクションは直撃こそ防いだが、威力を完全に相殺する事は出来なかった。
はやてなら自分の身を優先してこなた達を切り捨てる選択をしたが、なのは達がその選択肢を取るはずがなかった。

次にこなたとかがみは後ろの方にいたおかげでなのは達の思惑通りプロテクションの効果範囲に入っていた。
スバルに背負われていたヴィヴィオは言わずもがなだ。
しかもここでこなたは密かに壁代わりとしてバスターブレイダーを召喚していた。
だが単純な強さならもう一枚のカード、レッド・デーモンズ・ドラゴンの方が強い。
なぜわざわざ弱い方のカードを選んだのか。
それはレッド・デーモンズ・ドラゴンの召喚に必要なチューナーをどうすればいいか分からなかったからだ。
しかも今回は攻撃ではなく防御なので守備力2000のレッド・デーモンズ・ドラゴンよりも守備力2300のバスターブレイダーの方が適していると判断した。
結果的に少し防いだだけで破壊されてしまって、次いでなのは達のプロテクションが破壊された事で吹き飛ばされてしまったが。

だが天道は効果範囲から少し外れたためにこなた達以上に、ヴァッシュに至ってははやてに近づいていたがために直撃を食らっていた。

そしてが『妖艶なる紅旋風』が収まると、月光の下には惨憺たる被害の様子が晒されていた。
あれほど鬱蒼としていた森の木々は大部分が根こそぎ倒されて、アジト前の一帯は完全に荒れ地と化していた。
さらにあちこちに多種多様な道具やその残骸があちらこちらに散らばっている。
ここまでの激戦で痛んでいたデイパックのいくつかが限界に達して、とうとう破れて中身が散乱した結果だ。
しかも元が大量生産品の基本支給品一式を皮切りに、耐久力が低い道具はことごとく破損しているようだ。
その上アジトの入り口は岩盤の崩落という甚大な被害を被って、アジトへの出入りはほぼ不可能な状態となっていた。

そして『妖艶なる紅旋風』を発動させた張本人であるはやては未だにリインが消えた場所に蹲ったままだった。
だがその胸にはかつてないほどの激情がはっきりと渦巻いていた。


     ▼     ▼     ▼


『ヒャハハハハハァ! 計 画 通 り !』

一連の惨劇の発端を作ったバクラは現状に大いに満足していた。
先程バクラがした事は簡単に言うと“乗っ取り”だ。
万丈目やかがみにしたようにヴァッシュの身体を一時的に乗っ取ったのだ。
だが今回は今までとは違った。
まず乗っ取った時間は僅かに数秒が限界で、しかも完全に身体を乗っ取る事は不可能だった。
それは間違いなくヴァッシュの強固な精神の賜物。
最初の見立て通り今のバクラではヴァッシュの身体を乗っ取って自由に行動する事は不可能であった。

だが完全ではなくとも、片手を上げさせて、その精神をコンマ数秒ほど揺るがす事は可能だ。

例えるなら今のヴァッシュは水が入った器。
バクラの狙いはその器を少しでも傾けて中の水を外に零す事。
古来より「覆水盆に返らず」と言われているように、一滴でも零れた水はもう器に戻る事はない。

つまり精神の安定を崩してエンジェルアームを暴発させる事こそバクラの狙いだった。

確かに“持っていく力”で万物を消滅させるエンジェルアームはデスゲーム参加者の中でも随一の兵器だ。
だがどんな強力な力も使える時間が短ければ意味がない。
理想的なのはその力でこの場にいる参加者を皆殺しにする事だが、僅かな数秒暴発させるだけではそこまでの戦果は無理だ。
それにヴァッシュが身体の自由を奪い返したら、有無を言わさずリングが破壊されるのは必然。
でもバクラにとってはその一瞬だけで十分だった。

八神はやての家族であるリインフォースⅡを殺すのにはそれで十分だった。

そもそもこのまま現状維持だとバクラの魂が宿る千年リングは遠からず破壊される事は目に見えていた。
なぜならホテルを離れる際にスバルがヴァッシュにリングの危険性を説明して処分を頼んでいたからだ。
幸いにもアジトに向かう事が優先されたために保留扱いになっているが、いつリングの破壊が実行するかは時間の問題だった。
新たに出会った参加者もバクラの今までの所業を説明されれば破壊を止める者などいないはず。
まさにかがみ以上に百害あって一利なしの存在。
それはバクラ自身が一番分かっていた。
だから早急に何か手を打たないとみすみす滅びの時を待つだけだ。

そこで降って湧いたかのように勃発したのがかがみの処遇を巡る騒動。
これによって強硬に意見を主張するはやては若干孤立気味になっていて大分気が立っていた。
そこでヴァッシュが事故とはいえ大切な家族であるリインを殺せばどうなるか。
今以上の大混乱が起きるのは火を見るより明らか。
僅かな時間しか発動できないエンジェルアームでも人間に比べてはるかに小型な融合騎ぐらいなら殺す事は可能だ。
あとはその混乱に乗じてリングが別の人に拾われるのを待つだけ。

正直これはかなり危険な賭けだった。
だがこのまま何もしないでいるのは座して死を待つだけ。
それならば最期まで足掻いて活路を見出すしかない。

『さて、ここまでは順調だ。だが問題は誰が俺様を拾うかだ』

死んだリインを除いてあの場にいたのはアギトも含めて10人。
そのうちバクラの危険性を知っていて且つ即座に破壊しそうな奴以外ならだれでもいい。
この混乱に乗じて上手く誘導すれば今の状況よりも悪くなる事はないはず。

だが最後の最後で天はバクラに微笑まなかった。

「IS起動……」

一番重要なところで引いてはいけないジョーカーを引いてしまったのだから。

『はぁ、また俺様の負けか』
「……振動破砕!!」

こうして千年リングに宿った盗賊王バクラの魂による最後の盗みは一応成功に終わった。
ただし自らの存在という大きすぎる代償を払った上で。


     ▼     ▼     ▼


「鋼の軛」

その言葉と共に一つの魔法が発動した。
守護騎士が一人“蒼き狼”の二つ名を持つ盾の守護獣ザフィーラが得意とした拘束魔法。
本来なら対象を突き刺して動きを止める・室内の通路を塞ぐという形で使われる捕獲系の魔法だ。
だが今回は違った。
明確な殺意を以て地面より伸びた1本の条は地面に横たわる青年の首と胴体を容赦なく切り離していた。

もうそこにあるのはヴァッシュ・ザ・スタンピードという参加者のなれの果てだ。

「…………ッ、仇は取らせてもらったで」

切断された首が衝撃で跳ね上がってこちらに2度3度バウンドして転がってくる。
八神はやてはそれに一瞥すると、その向こうに見える首なし死体に冷たい目線を浴びせていた。
そしていつのまにか心の底で吹き荒れていた感情が捌け口を求めて口から吐き出されていた。

「……仮に100歩譲ってあの阿保餓鬼のシグナム殺しを許したとしてもな、あんたが仕出かしたリイン殺しは天地が引っくり返っても許されへん!
 あの子はな、シグナム達みたいな偽者やのうて本物の家族や! 私のとってはたった一人残された家族や!!
 だから! それを奪ったあんたは!! あの阿保餓鬼以上に許されへん!!!」

今のはやてにとってヴァッシュはもう協力者でも何でもなかった。
たった一人残された家族であるリインフォースⅡを殺した極悪人。
どんな事情にせよエンジェルアームを暴発させてしまった危険人物。
この時点ではやてにとってヴァッシュはかがみ以上に生かしておくべきでない人物になったのだ。
だからこそ先程のように邪魔が入る前に禍根を断った。
幸いにもヴァッシュは近くで気絶した状態で転がっているところをすぐに発見できた。
先程無理して『妖艶なる紅旋風』を放った反動で身体を動かすのも辛い状況だったので、その場から動かずに始末できたのは助かった。
だが逆に『妖艶なる紅旋風』の影響で周囲には土煙が舞い上がっているのは好都合だった。
そのおかげで月光だけが頼りの闇夜との相乗効果で視界の確保は困難だ。
つまり誰が何をしようと他の人に気付かれる可能性が大幅に低くなっている。

「で、これがボーナスか。ちっ、リボルバーナックルとか重たくて使えないちゅうねん」

ヴァッシュ殺害に際して送られてきたボーナス支給品は右手用のリボルバーナックル。
だが近接戦闘を得手としないはやてにとってそれは外れの部類だった。
初期支給品の組み合わせといい今回のボーナスといい、どうも運に恵まれていない感がある。
しかも『妖艶なる紅旋風』でデイパックがどこかへ飛んでいってしまったせいで、せっかく手に入れたボーナス支給品も置いていくしかないようだ。

「まあいいわ。全く外れというわけでもないからな。それよりも今のうちにあの阿保餓鬼を殺さな……そうや、今が絶好の好機や……」
「おい、ちょっと待てよ」

本命の柊かがみを探そうと悲鳴を上げる身体に鞭打って立ち上がり、ヴァッシュの生首に一蹴り入れて移動しようとしたその時。
背後から誰かを呼び止める声が聞こえてきた。
この場には少なくともはやてと、ヴァッシュの死体と、呼びかけてきた人物しかいない。
つまりこの呼びかけは考えるまでもなく八神はやてに向けられたものである。
そして呼び声には聞き覚えがあった。

それはリイン亡き今この場に残されたもう一人の融合騎のものだった。

「なんやアギトか。無事でなによりやわ」

烈火の剣精アギト。
その二つ名に相応しく両手には燃え盛る炎を灯していて、両目にも炎が灯っていた。
はやてはそれを冷静に見ていた。
なぜ二人しかいないこの場でアギトがそのような事をしているのか。
この時点で既にアギトが何を見ていたのか予想は付いた。

「お前、今自分が何をしたのか分かっているのか」
「ああ、やっぱり見ていたんか。はぁ、仕方ないやろ。あんなまたいつ暴発するかも分からへん危険人物をこのままにはしておけへん」
「だから殺したのか?」
「……そうや、みんなは優しすぎるからなあ。私が汚れ役は引き受けたるしかないやん」

アギトの詰問に対してはやてはしばらく黙ってから、少し間を置いて答えを返した。
自分でも驚くほど思考が冷めているのが分かった。
本当にそう思っているのかは自分でもよく分からない。
おそらくただ単に家族が殺されたから仇を取ったというのが本音だ。

「じゃあ、シャマルはどうなんだよ」
「…………」

守護騎士が一人“風の癒し手”の二つ名を持つ湖の騎士シャマルの名を聞いた瞬間、はやての表情は一瞬凍り付いた。
だがそれを知ってか知らずかアギトは胸の内に抱えていた心境を吐露していた。

「あたしはこの耳で聞いたんだぞ、お前がシャマルを見殺しにしたって!
 それにさっきシグナム達は偽者って、それじゃあヴィータもお前にとっては偽者で、あれは捨て駒だったのか!!
 それってつまりあのバッテンチビ以外はお前にとって家族でもなんで――」
「蒐集」
『Sammlung.』
「な――お、お前、そこま――」

最後まで言葉を言う暇もなくアギトは光の粒子となって消えていった。
そしてその粒子は手持ちに残っていた夜天の書に余さず吸収される様子をはやては冷静に見つめていた。
ヴァッシュの時と同じ。
特に思う事など何一つなかった。

「……ベラベラと要らんこと喋って五月蝿いわ」

はやてがアギトを蒐集した理由はいくつかある。
まずは口封じ。
アギトは先程のヴァッシュ殺しの他にもシャマルを見殺しにした話も聞かれている。
今でさえ立場が微妙なのにこれ以上悪くされたら取り返しのつかない事態になってしまう。
それにアギトは融合騎だから蒐集すればそれなりの魔力を蓄える事ができる。
闇の書時代に所有者達が最後のページを埋めるためによく守護騎士で行っていた方法だ。

だがそれ以上に――。

(シグナム達の事をどう思おうが私の勝手やろ、ホンマ胸糞悪いわ……)

――アギトの言葉がはやてをどうしようもなく苛立たせていた。


     ▼     ▼     ▼


「ありがとう、バスターブレイダー」

水色と白の制服に付いた土埃を払いながら今は亡き戦士に対してこなたは感謝の言葉を送っていた。
リインがヴァッシュに射殺されて、はやてが『妖艶なる紅旋風』を放った瞬間。
こなたはとっさにデイパックからバスターブレイダーのカードを取り出してモンスターを召喚していた。
最初の直撃を防いだ時点でバスターブレイダーは破壊されたが、そのおかげでこなた達へのダメージはいくらか軽減されたはず。
だからこそ今こうして生き延びられているのだ。
だがこうして生き延びた命もあれば、散っていった命もある。

(タイミング悪すぎるよ……リイン、せっかくはやてと再会できたのに……)

はやての事を誰よりも案じていたのはリインだった。
こなたもかがみと再会したいとずっと願っていたから、はやてとリインが再会した時は自分の事のように嬉しかった。
それが再会できた直後、しかもあんな形で死に別れしてしまうなんてあまりにも酷すぎる。

(そうだ、みんなは、かがみは!?)

いくらか落ち着いて真っ先に思い至るのは仲間の安否、特に親友であるかがみの安否。
先程再会したかがみの姿は想像していた以上に痛々しかった。
こなたが知っているかがみは、紫のツインテールを揺らして、陵桜学園の制服を着て、ツッコミを入れてくれる元気な女子高生だ。
だが再会したかがみは、ツインテールの片方はなくなってサイドポニーが寂しく揺れて、下着に着物の上着だけというみすぼらしい格好で、どこか怯えている少女だった。
同じ24時間を過ごしていてもあそこまで変わるのかと驚いたが、あの言い合いを聞く限りそれも無理もない。
今までの話を総合すると、かがみはこのデスゲームで3人もの参加者の命を奪ったのだ。
しかもそれ以上の数の参加者に襲いかかった事もあるらしい。
つまりこのデスゲームの趣旨通りずっと殺し合いの中に身を投じていたのだ。
せめてもの救いはこうして悔い改めて罪を償うと言っている事だ。
だがせっかく再会できたかがみも先程の騒動でまた離ればなれになってしまった。

(かがみん、どこにいるの? 私もっとかがみんと話したいよ。そして、かがみんの口からどんな事があったのか聞きたい)

それが“柊かがみ”の親友としての務めであり、それこそ“泉こなた”にしかできない事だ。
今までみんな自分にできる事を精一杯やっている中で自分だけが何もできなかった。
でもこれはようやく巡ってきた仕事だ。
それに自分はこうして運良く大した怪我もなく生きているが、かがみもそうだとは言い切れない。
もしかしたらさっき吹き飛ばされた時に打ち所が悪くてどこかで一人寂しく死にかけているのではないか。
そんな不安が胸に去来してさらに不安になるが、背後からの呼び声でそれは杞憂に終わった。

「……痛っ! ん、ここは……え、こなた……」

いつもツッコミを入れてくれる聞き慣れた声。
それは間違いなくかがみの声だった。
つまりは柊かがみが生きている証拠だ。

「か、かがみん!!」
「……こなた」

親友の声を聞くなり急いで後ろを振り返ると、ほのかな月明かりの下少し離れた場所でこちらを見ているかがみの姿があった。
どうやら見た感じあちらも大きな怪我はしていないようだ。
その姿を見たらもう何も考えられなかった。
だから必死に足を動かして、走って、走って、走って――。

「かがみん!」

――思いっきり突き飛ばした。

そしてこなたは目にした――自分目がけて伸びてくる紅い光を。


     ▼     ▼     ▼


「きゃっ!?」

かがみは地面に突っ伏しながら何が起こったのか訳が分からなかった。
ようやく再会できた親友に突き飛ばされた。
少し前までのかがみなら別人だとか思いこんだ挙句に疑心暗鬼に陥って、敵意を剥き出しにしていただろう。
だが今は違う。
数々の苦難を経験して、時に人の浅ましさに、時に人の優しさに触れてきた。
だからこれもきっと何か理由があるのだとかがみはまずは気持ちを落ち着ける事ができた。
そして、その理由を教えてもらおうと視線を向けた先にあったのは――。

「こなた、いった……い、え、こ、こなた……」

――かがみを庇った結果、頭から血を流して倒れていく親友の最期の瞬間だった。

「いやああああああああああああ!!!!!!!!!!」

悲鳴を上げながらもなんとか両手でなんとかこなたの身体を支えようとしたが、それは無駄な事だった。
頭を貫通した穴から血が噴き出して止まる気配はなく、水色だった髪は真っ赤に染まっていき、緑色だった瞳は光が消えて虚ろな状態。
誰がどう見ても既に事切れているのは明白だった。

「嘘でしょ! ねえ目を開けてよ、こなた! 私、私、あんたに謝らないといけないのに! ねえ、こなた! こなた! こなた!」

当然ながらかがみが何度必死に呼びかけてもこなたの目に再び光が灯る事はなかった。
それでもかがみはこなたの死を受け入れられなかった。
何か近くにこなたを生き返らせるものがないかと見渡せど、ベルトやら時計やらが目に入るばかりで役に立ちそうなものは何一つ見当たらない。
それでもかがみは周囲の事などお構いなしに何度も何度もこなたの名を呼び続ける事を止めなかった。

だからかがみは気付かない――背後から忍び寄る殺意を乗せた刃に。


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