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戻らないD/スバル・ナカジマ ◆gFOqjEuBs6




 少女は堕ちて行く。
 暗い、暗い、闇の底へと。
 それはまさしく、底なしの沼。
 死ぬまで這い上がる事の叶わぬ地獄。

 或いは、少女はもう既に堕ちていたのかも知れない。
 救われた様な気がしただけで、実際には救われてなどいないのかも知れない。
 だけど、それでも――救わなければならない。何としてでも、救い出さなければならないのだ。
 もう一度あの底なしの地獄に脚を踏み込んでしまう前に。

「かがみさんの気持ちも、わかる……けど、それじゃダメなんだ!」

 ああそうだ。彼女の気持ちが分からない訳じゃない。
 大切な物を奪われた瞬間に感じる気持ち。痛い程に分かる。
 だから、ここでかがみを止める事が絶対に正しいだなんて言い切る事は出来ない。
 もしかしたら、今のままかがみを止めた所で、かえって逆効果かも知れない。
 だけど、それ以上に強い気持ちが、スバルを突き動かすのだ。

 ――これ以上、目の前で救える命を奪われたくはないから!

 ――これ以上、かがみさんの手を血で染めさせたくはないから!

「だからあたしは、貴女と戦う――そして!」

 スバルが憧れたヒーローは、誰より強くて、誰よりも優しくて、誰よりも格好良かった。
 何度も諦めかけた、あの絶望の淵から――あの人は自分を救い出してくれたのだ。
 その瞬間から、スバルの人生が変わった。目指すものも、未来も、何もかもが。
 だからスバルは力を求めた。あの人の様に、誰かを救える人間になりたいと。
 そうだ。出来るとか出来ないとかの問題では、最早ない。
 あの日誓った夢の為にも――やるしかないのだ。
 この手で、この力で!

「……救って見せる! あたしの力で……安全な場所まで、一直線に!」

 その願いには、一切の迷いも無い。
 今のかがみを止めるには、自分の全力全開をもって想いをぶつけるしかない。
 例えこの身体が朽ち果てようとも、自分の全力を叩きつけるしかないのだ。
 憧れたあの人が、どうしても想いを伝えられない相手にそうしたように。
 そして、救い出す。あの闇の中から、安全な場所まで一直線に。
 ずっと背中を追い続けた、“あたしの師匠”がそうしたように。
 そして貫くのだ。この想いと誇りを、全力全開で、真っ直ぐに!

「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 ジェットエッジによる噴射推進。
 暴力的な加速が、スバルの身体を前方へと押し出す。
 それを迎え撃たんと放たれる、紫色のエネルギービーム。
 柊かがみが変身する「デルタ」の、唯一の武装だ。
 デルタのフォトンブラッドのエネルギーは、常に最大値。
 そこから繰り出されるエネルギーをまともに受ければ、例え戦闘機人と言えど一たまりも無い。
 だが、それは“当たれば”の話だ。当たりさえしなければ、どうという事は無い。
 当然の如く、そんな単調な射撃攻撃に今のスバルを止められる訳が無かった。
 一撃、二撃と、鋭角的な動きで全ての光弾を回避して、前進を続ける。

「速い――!? でも!!」

 眼前のデルタが、デルタムーバーの照準器を閉じた。
 元々はビデオカメラのディスプレイ画面として使用されていたものだ。
 次にその引き金を引いた時には、一度に発射されるビームの数が、増えていた。
 紫の高出力ビームが、同時に三方向に向かって発射されたのだ。

(かわし切れない……!? それならっ!)

 動かない左腕の所為で、動きは格段に鈍っていた。
 加速を続ける自分の目の前から、同時に三方向へと照射されたエネルギー。
 放たれたビームの速度は、通常の銃弾と遜色ない。止まらないジェットエッジの加速。
 判断までの時間は、一瞬にも満たない刹那。当然、考える時間すらも与えられない。
 されど、人間の比にもならない演算能力と、類まれなる戦闘力を持ったスバルには、それで十分。
 ビームが己の身体へと着弾する前に、跳躍。

「ハッ!」

 水色に煌めく魔力を纏わせ、その右脚を振り抜いた。
 空中で振り抜かれた右の回し蹴りは、放たれたビームを叩き落し、掻き消した。
 一瞬にも満たない攻防。瞬きの間に、スバルのローラーブレードは再び地面を駆ける。
 スバルがデルタのレンジ内に突入するのに掛った時間は、加速開始からほんの数秒。
 ジェットエッジで得た加速をそのまま活かして、再び繰り出される右のハイキック。

「つッ……!?」
「まだまだぁッ!」

 ジェットエッジがデルタの仮面を強打した。
 そのまま崩れ落ちるデルタに、追撃とばかりに左のキックを振り抜く。
 ライダーのマスクに直接的な攻撃が効かない事は、先の王蛇戦で経験済み。
 なればこそ、ライダーの耐久力という壁を越える為に必要となるのが、加速と連撃だ。
 デルタが反応するよりも早く、左のハイキックはデルタの顔面を再び強打。
 キックの勢いそのままに、デルタの身体を右方向へと軽く吹っ飛ばした。
 だが、隙を与えはしない。バランスを取り直して着地したデルタに、再び肉薄。
 振りかぶった右の拳を、真っ直ぐに突き出した。

「させないわよっ!」

 ――が。
 拳がデルタの仮面を叩く前に、突き出されたのはデルタムーバー。
 寸での所で拳を止める。デルタもまた、スバルの顔面に銃口を突き付けていた。
 この柊かがみという少女、伊達にライダーの力を連続使用していただけの事はある。
 それがデルタの能力でもあるのだろうが、根本的な戦闘能力が底上げされているのだ。
 戦闘機人の、それもスバルの連撃に追随する等、ただの一般人にはあり得ない事なのだから。

「あんたは強い! ええ、そりゃあ、心も身体も、私なんかよりもずっと……!」
「あたしが強くなれたのは、守りたいものがあるから! 救いたい人が、そこに居るから!」
「でも、でもね! 私にだって譲れないものがあるのよ! あの子がそんな事を望まないとしても!」
「手が届くのに伸ばさなかったら、死ぬほど後悔するから……! それが嫌だから!」

 言葉として吐き出される、それぞれの想い。
 揺るがぬ決意と共に、想いを叩きつけようとするスバル。
 涙を押し殺した声で、スバルに訴えかけるかがみ。
 二人の想いは、どちらも単純で、真っ直ぐで――。

「その為に私は――!」
「だからあたしは――!」

 銃撃音と共に放たれる、デルタムーバーからの三連ビーム弾。
 されど、それらが放たれたのは全て、遥か上空へ向けて、だ。
 放たれた薄紫のビーム兵器は、何処にも命中する事無く、夜空の闇へと溶けて行った。
 では何故スバルに突き付けられていた筈の銃口が、遥か天空へと撃ち放たれたのか。
 その答えは、至極簡単――。

「……ウイングロードッ!」

 デルタの身体を吹っ飛ばしたのは、突如宙に現れた光の道。
 蒼く輝くそれは、近代ベルカの魔法陣で形成された、スバルの得意技。
 空を飛べないスバルが、この大空を駆け抜ける為に作った、文字通り“翼の道”だ。
 ウイングロードはスバルの翼となりて、スバルの身体を空へと誘う。
 一方で、地べたを一回転し、起きあがったデルタが取った行動は。

「ファイアッ!」

 掛け声と共に、放たれる三連ビーム。
 それを二回、三回と立て続けに撃ち放つ。
 ほんの数秒の後には、空を駆けるスバルを襲うビーム弾幕の出来上がりだ。
 されど降り注ぐビームのシャワーと言えど、スバルに命中はしない。
 寧ろ、地上戦と言う縛りから解放されたスバルは先程よりも身軽で――。

「当たらないっ……! 動きが、速過ぎる!?」

 照準を狙い定めている内に、ウイングロードは上空で一回転。
 まるでジェットコースターの様に、コースに沿って走り続ける。
 もうスバルに対して銃は役に立たないと、そう判断したのだろう。
 腰のハードポイントにデルタムーバーを装着し、両腕で構えを取る。
 素人に毛が生えたような、形ばかりの構えであった。

「来なさい、スバル……! 私を倒してみせなさいよ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 デルタの眼前で、ウイングロードは終わりを告げた。
 スバルが自分の意思でウイングロードの具現を説き、その身を空中へと投げ出したのだ。
 右の拳、その表面に、青白い魔力が生成される。重力による落下と、スバル自身の力。
 そして、マッハキャリバーやリボルバーナックルの協力が無いのが心もとないが、繰り出される一撃。
 対するデルタが取った行動は、両腕による前方へのガード。
 だけど、そんな素人芸ではスバルの一撃は止められない。

「はぁっ!!」
「……きゃっ!?」

 その拳をデルタの両腕の甲に叩きつけた。
 白銀のブライトストリームが眩しい両腕に叩き込まれる一撃。
 ライダーシステムの装甲が、内部へのダメージは遮断するものの、衝撃は殺し切れず。
 デルタの身体は、地面をバウンドして、後方へと転がるように倒れ込んだ。

「やっぱり、強いわね、スバル……! 仮面ライダー相手に、ここまでやるなんて!」
「立って下さい、かがみさん! 貴女の全力を、貴女の想いをあたしに見せ付けて下さい!」
「言われなくてもやってやるわ! バクラでもデルタでもない、これが本当の私だから!」
「そうでないと、かがみさんは一生そこから救われない! 例えあたしに負けても、このままずっと……!」
「救われなくたっていい! 私はそれだけの罪を犯した……呪われて当然の人間だから!」

 かがみの言う通りだ。
 いくら罪を背負うと言った所で、かがみの罪は重すぎる。
 人を三人も殺して、その上でさらにもう一人殺そうと言うのだ。
 そんな人間が救われていい筈がないと思うのは、何もかがみだけではないだろう。
 それこそ、この戦いを生き抜いたとしても、法によって処刑される可能性だってある。
 だけど――!

「「それでも!」」

「あいつだけは! 八神はやてだけは! この手で殺さなきゃ、私はもっと救われない!」
「もしも貴女をこの先へ進ませたら、あたしはきっと一生後悔する! そんなのは嫌だから!」

 重なり合う二人の絶叫。
 最早、お互いの耳に、お互いの頭に。
 お互いの言葉の意味など届いては居ないのだろう。
 ただ「負ける訳には行かない」という信念だけが通い合った。
 そして、後に残った問題は、最後にどちらが立っていられるか。
 今の二人には、その事実だけで十分だ。

「見せてみなさいよ、あんたの力を!」

 両腕を軽く掲げ、戦闘の構えを取るデルタ。
 先程までとは違う。より改善された、ファイターに近い構え。
 これまでに培われたデルタの戦闘データが、デモンズイデアとなってかがみの脳波に干渉。
 デルタのメインコンピュータが、最善の戦闘スタイルを直接かがみの頭に叩き込んでいるのだ。
 されど、今のかがみにデモンズイデアによる精神汚染は見られない。
 一度デルタに変身した事と、極限状態で戦い続けた事。
 その二つの事実が、驚異的な速度で免疫を作らせたのだ。

「ハァッ!」
「くっ……!」

 一瞬で間合いに入りこんできたスバルの蹴りを、左腕で受け止める。
 ジェット加速をつけてのハイキック。だがそれは既に痛い程に味わった。
 理想的な兵士を作る為のシステムであるデルタに、そう何度も通用する技ではない。
 とは言うものの、スバルの一撃の威力は生半可な物では無い。
 ここ24時間で実績を積んだだけの少女に、完全に耐えきれる訳がなかった。
 多少なりともバランスを崩したデルタに、スバルは容赦なく追撃を叩き込む。

「耐えきったっ……!? でも……!」
「耐え切れるっ……!? これなら……!」

 またしても二人の声が重なる。
 矢継ぎ早に繰り出されたのは、左のハイキック。
 短時間ではあるが、デルタはスバルの攻撃を何度も受けた。
 デルタのシステムがその攻撃パターンを記憶し、かがみの脳に刻み込む。
 一度目のハイキックで、ジェットの加速を殺した。
 二度目のハイキックは、加速無しの左腕骨折状態というハンデ付き。
 威力を十分に出し切れない現状ならば、未だ発展途上のかがみでも対応出来る。

「そこぉっ!」
「こんのぉっ!」

 スバルの攻撃パターンと、デルタとしての記憶。それらのファクターから捻出された答え。
 それは、スバルに負けるとも劣らない、理想的なハイキックのフォームであった。
 腰を捻り、その脚を振り上げる。弧を描いたハイキックが、スバルのハイキックと激突した。
 二つのキックによる衝撃は、お互いの身体を相対的に吹っ飛ばす。
 だが、こんな事で終わりはしない。終れる筈がないのだ。
 即座に体勢を立て直したデルタが、真っ直ぐに駆け出した。

「行けるっ……!」

 やはりデルタの装甲の能力は素晴らしい。
 スバルとの激突でお互いに蓄積されたダメージは、どうやらスバルの方が多かったらしい。
 デルタが駆け出した時、ようやくスバルはその身を起こし、次の動作へ移ろうとしていた。
 右腰にマウントしたデルタムーバーのグリップを握り、銃口をスバルへと向けた。
 当たらなくたって構わない。動きさえ封じられればそれで良いのだ。
 真っ直ぐにスバルに向かって走りながら、三連のビームを発砲。

「チッ……!」

 スバルが舌を打つ音が、デルタのマスクを通して聞こえる。
 回避か、退避か、突貫か。如何なる行動でこの攻撃をやり過ごすのであろうか。
 あらゆる状況に応じて的確に行動を選ばなければ、この勝負に勝ち目は無い。
 デルタのコンピュータとかがみの脳。それらをフル回転させて、考える。
 対するスバルが取った行動は――跳躍。想像を絶する、驚異的な跳躍力で。
 夜の闇へと跳び込む様に、スバルの身体は一気に真上へと跳び上がったのだ。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 漆黒の夜空を仰ぎ見る。
 デルタの視界に飛び込んだのは、蒼の魔法陣で構成された光の道。
 跳び上がった地点からデルタの眼前まで、一直線に伸びるウイングロード。
 スバルの咆哮と、甲高い車輪の音。その二つが威圧感を伴って、デルタに迫る。
 最早間違いない。スバルの次の攻撃は、真上からの一撃。
 何と真っ直ぐで、力強い攻撃であろうか。

(何て分かりやすい……!)

 スバルらしい攻撃だ。
 それはまるでその拳に意思を投影しているかのようで。
 きっとそれは間違いじゃない。その心を真っ直ぐにぶつける。
 素直じゃない自分には絶対に出来ない芸当。それ故に、恐ろしい。
 真っ直ぐ正面からぶつかりあって、全力全開で打ち倒す。
 そんな単純な戦い方なのに、今はこいつが誰よりも恐ろしい。

(けど……! こんなもんで、行く道退いてらんないのよ!)

 こいつは壁だ。目の前に立ち塞がる壁だ。
 ここで壁に阻まれたまま終わるのでは、結局自分は何も変わらない。
 現実から逃げて、罪から逃げて……知らん顔をして、親友に背を向けるのか?
 否。そんなものは違う。圧倒的に違う。これ以上、そんな醜態を晒したくはない。
 故にかがみは反逆するのだ。己の全てを賭けて、何も抗って来なかった今までの自分に。
 なればこそ、成すべき事は一つ。目の前の壁をぶち壊して、その先へ進むのだ。
 そしてこの手で、罪のない親友の命を奪ったアイツを叩き潰す!
 それを果たすまでは、一歩も退く訳には行かない!

「スゥゥゥバァァァァルゥウウウウウウウウウウウウウッ!!!」

 腰を捻って、右の拳を真上の敵へ向かって突き出す。
 奴のパンチは、デルタの装甲さえあれば防ぐ事が出来る。
 されど奴は違う。何の装甲も無しにデルタの拳を受ければ一たまりも無いだろう。
 チャンスは一瞬。この一瞬に持てる力をつぎ込んで、狙うは必殺のクロスカウンター。
 されど、相対するスバルはやはり、かがみの想像を超える相手であった。
 絶妙なタイミングで振り上げた筈の拳は、しかし目標への直撃ならず。
 攻撃を予測したスバルが、僅かに首の角度を捻ったのだ。
 結果、デルタの拳はスバルの左頬を掠めるだけに終わった。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああぁッ!!!」

 デルタは気付かない。否、気付こうとすらしなかっただろう。
 真っ直ぐに目標を見据えるスバルの瞳の色が、変色していた事に。
 数秒前までは、エメラルド色の瞳をしていた。されど今は、黄金色。
 まるで得物を仕留めんと空を翔ける猛禽類の如き、鋭く煌めく黄金の瞳。
 スバルの持つIS。その名は振動破砕。瞳の変化は、ISを解き放った証。
 勿論、リボルバーナックルが無い今、必殺の振動拳を放つ事は不可能だ。
 されど、振動破砕は“触れるだけ”でもダメージを与える事が出来る接触兵器。
 例え振動拳が使えなくとも、拳にISの効果を乗せて振り抜けば威力は十分。
 右の拳頭に、蒼く輝く魔力を込めて、振り抜く拳はストレートパンチ。

「ぐっ……ぁぁぁああっ!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 スバルの拳は、デルタの左頬へ直撃。
 盛大に体勢を崩したデルタの仮面が、拳ごと地面へと叩きつけられた。
 仮面を中心に、浅くめり込む森の土。即座に拳を振り上げて、追撃へと移る。
 頭から先に大地へ突き刺さったデルタの身体は、一拍遅れて頭を追いかける。
 軽く跳躍したスバルは、右のハイキックで落下中のデルタの身体を蹴り上げた。

「――ぁぁぁぁあああッ!」
「はぁっ!」

 意思に反して、漏れ出す絶叫。
 デルタの装甲とスーツを貫通してのダメージに、気が遠くなる。
 だが、スバルの追撃は止まらない。軽く吹っ飛んだデルタの身体に、もう一撃。
 今度はジェット噴射で加速した、左のキックを胴体へと叩き込まれた。
 最初のクロスカウンターを外してからの三連撃に、一秒と掛ってはいない。
 それぞれの攻撃を、一つ一つ知覚する隙も余裕も有りはしなかった。
 それこそ、三つ合わせて一つの攻撃ではないかと錯覚してしまいそうになる程だ。
 もしもこの攻撃を生身で受けていたら、本当に死んでいたかもしれない。
 スバルの攻撃は、デルタの装甲を抜いて内部まで振動を与える。
 だが、デルタも伊達に“最強のライダーズギア”を名乗ってはいない。
 その装甲とスーツが振動を極力抑え、かがみの生を繋いでくれた。
 まだ戦える。痛くとも、辛くとも、まだ立ち上がる事が出来る。

「こんな事で終わりじゃないでしょう、仮面ライダーなら!」
「言われなくとも……こっちだって、まだまだ戦えるわよっ!」

 デモンズスレートがかがみの闘争本能を刺激し、その身を起こさせる。
 しかし、前回デルタに変身した時とは全く違う。感覚が、意識が、何もかもが違っている。
 今回の戦いは、欲求に任せた無意味な戦いでは無い。目の前の敵を倒さねばならぬ理由があるのだから。
 故にこそかがみは、たった一つの目的と、明確な自分の意思を持って、この戦いに挑む。
 マイナス方向に傾けば精神に異常を来すデモンズイデアも、プラスに傾けば話は別。
 上手く使いこなす事が出来れば、これ程心強いライダーズギアは存在しない。
 攻撃を受ければ受ける程、デルタは学習する。かがみを勝利へと導いてくれる。
 大容量のハードディスクに蓄積されたデータが、かがみの脳に直接戦い方を叩き込んでくれる。
 この一日の戦いの記憶と、明確な戦闘の意思。それらと相俟って、かがみは驚異的な速度で成長していた。
 故にかがみは思う。八神はやてとの決戦の前に、この戦いは必要な布石であったのだと。

「あの壁を乗り越えて、私は先へ進む……!」
「その先に未来は無いって言ってるのに……!」
「なら力づくで止めて見せなさいって言ってるでしょう、スバル!」

 それ以上の言葉は必要ない。
 スバルの返事を聞く前に、デルタは駆け出していた。
 真っ直ぐに、加速をつけて。どうせこの身体はもう、止まらない。
 自分の力では、どうやったって止める事なんて出来はしないのだ。
 かといって後ろに退き下がるなんて論外だ。そんな事はかがみの心が許さない。
 ならば残された道はたった一つ……ただ一直線に、突き進むのみ。
 前に、前に……行ける所まで、ひたすら真っ直ぐに!

「はっ! ふんっ!」

 スバルが吐き出す荒い息が、デルタの仮面から耳に入る。
 ひゅんと風を切り裂いて、振り上げられた左の回し蹴りと、右のストレートパンチ。
 片腕が骨折している人間に繰り出せるとは到底思えない、洗練されたフォーム。
 だけれど、デルタにはその攻撃が見える。それも、先程までよりも鮮明にだ。
 巧みに身を翻し、繰り出された連撃を全て回避したデルタは、一瞬でスバルへと肉薄。

「はぁぁっ!!」
「なっ……速っ――ガァ……ッ!?」

 デルタが突き出した拳が、スバルの頬を確かに捉えた。
 その拳に感じる、確かな直撃の手応え。相手が人間であれば、まず骨折は間違いない。
 声にならない呻きと共に後方へと吹っ飛んだスバルを見て、次に自分の拳を見遣る。
 初めて感じる手応え。初めて与えたダメージ。初めて一人で、戦う事が出来た。
 この分ならば、自分の想いをぶつけられる。お互いの気持ちをぶつけ合える!

「もう、一発ッ!!」
「ぐっ……ストラーダ! カートリッジロード!」

 地べたをバウンドして転がるスバルに向かって駆け出す。
 同時に、スバルの左腕に添えられた槍が、一発の弾丸を装填した。
 魔力の弾丸が排出される頃には、スバルは再びその身で構えを取っていた。
 かがみの予想を越えた、規格外のタフさ。戦闘機人であるが故の耐久力。
 そう。スバルの底力はこんなものではない。こんな程度で終わりはしない。
 入れてしまったのだ。今の一撃で、スバルの中のスイッチを。

「今のパンチは効いたよ、かがみさん」

 対するスバルの思考は、至って冷静。
 口内の血液を吐き出して、唸るように呟いた。
 スバルとしても、認識を改めざるを得ない。刻み込むしかない。
 柊かがみの、その覚悟を。負けられないというひたむきなまでの意地を。
 それら全てを真っ向から受け止めた上で、この拳で想いをぶつける。
 今のかがみを止める事が出来る唯一の方法。そして、それを出来るのは自分だけだ。
 歯を食い縛った。拳を引き、構えを取った。金の瞳に、デルタを見据えた。
 高町なのは譲りのこの一撃……放つ準備は整った。

「うおおおおおおおおおおッ!」
「一撃、必倒ッ……!!」

 これで何度目であろうか。かがみの咆哮とスバルの唸りが、重なった。 
 デルタがスバルの間合いに踏み込んで、一瞬と待たずにその拳を振りかぶった。
 勢いの乗せた、飛び込み様のパンチ。フットワークの速さで、一気に畳み掛ける気だ。
 驚異的な学習能力だと、スバルも思う。今のかがみは王蛇として戦った時とはまるで違う。
 これがかがみの意地か。何としてでも自分を打倒し、その先へ進みたいという意地か。
 ちっぽけだけれど、愚直なまでに真っ直ぐな意地が、かがみをここまで成長させたのか。
 だというなら、こっちもそれに恥じない戦いをしなければならない!
 全力の自分を見せつけなければ、この戦いは終われないから……!

「ディバインッ……! バスタァァァァァァァァァッ!!!」
「なっ――」

 最早左腕の痛みなど忘れて、右の拳を振り抜いた。
 デルタの拳が風を切って、スバルの顔面の真横を通り抜けて行く。
 相手の攻撃を寸での所で回避してからの、この一撃。
 次の瞬間には、右の拳頭に集束された魔力が、光の奔流となってデルタを飲み込んだ。
 デルタの装甲に魔法攻撃がどれ程通用するかは分からないが、それでもタダでは済まない筈だ。
 リボルバーナックルによる補助が受けられないのが口惜しいが、腐ってもこの技は一撃必倒。
 確かな手応えと共に、重たいデルタの装甲が軽々と吹っ飛ばされるのを感じた。

「――ぁぁぁああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 吹っ飛んだデルタの身体が、激しい粉塵を巻き上げて、岩肌に激突。
 一秒と待たずに激突した岩肌に亀裂が入り、次いで粉砕。
 粉々に砕け散った岩と共に、デルタの身体がどさりと崩れ落ちた。
 その奥に見えるは、つい先刻入口を封鎖されたスカリエッティのアジト。
 入口を塞ぐように降り積もった岩が、今の攻撃でバランスを崩して崩れ去ったのだ。
 砕かれ、崩れ去った岩石はさらに激しい粉塵を巻き上げ、デルタを完全に覆い隠した。

「はぁ……はぁ……ぐっ!?」

 一部始終を眺めるや否や、左腕に感じる激痛。
 へし折れた左腕からの警鐘だ。声にならない呻きを漏らし、患部を押える。
 痛みは当然。例えストラーダを添え木として使おうと、これだけ派手に戦ったのだ。
 骨折個所へと振動が響くのは当たり前。痛みを感じるのは至極当然。
 だけれど、例えどんなに傷が痛もうと、スバルは倒れない。地に膝を付かせもしない。
 当然だ。かがみの敗北を確認するまでこの戦いは終らないのだから。
 故にこそ、ここで自分が先に倒れる事は、スバルのプライドが許さなかった。

「ああ、そうだ……まだ、終わってない!」

 両の脚で大地を踏みしめて、痛みに堪える。
 重たい頭を上げて、粉塵の中のデルタを見据える。
 手応えは確かにあった。だが、まだだ。まだ足りない。
 こんなもので終わるとは思えないし、終れる筈も無かった。
 かがみには、まだ何かがある。奴はこの短期間でここまで進化し、歴戦のスバルを殴った。
 あの重たい一撃を放った相手が、こんな事で簡単に負けてくれるとはどうしても思えなかった。
 やがて徐々に粉塵は晴れてゆく。スバルは、クリアになっていく視界を凝視した。

「かがみ、さん……!?」

 そこに居たのは、力無く横たわるデルタの姿であった。
 黒のボディは砂色に汚れ、白銀のフォトンストリームはくすんで見えた。
 白銀の翼をイメージさせるデルタの身体も、こうなってしまえば翼をもがれた鳥も同然。
 だが、スバルの毛穴は未だ開いたまま。目の前の脅威に、本能が警鐘を鳴らしているかの様に。

「う……ぐっ……」
「……ッ!!」

 何秒、何十秒。或いは何分間であろうか。
 一瞬だった気もするし、果てしない時間が流れた様にも感じる。
 無限にも思える緊迫した空気を引き裂いたのは、眼前のデルタであった。
 横たわったまま、砕けた小さな岩石を握り潰して、その拳を握り締める。
 大地を殴りつける様に、その拳を地面へと叩き付けた。
 それを拠り所に、デルタがふらふらと立ち上がった。

「ぬるいわね…………甘くて、ぬるいっ!」
「そんなになっても、まだ戦うんですか……?」

 消え入りそうな声。
 涙を堪えて、押し殺したような声。
 だけれど、それは何よりも強く、逞しく聞こえた。
 彼女が今泣いていたとしても、それは甘えの涙ではないのだろう。
 絶対に譲れないものがある。その信念を貫く為に、必要な涙。
 嗚呼、そうだ。彼女は今、泣いても良い。いくらだって、泣いていいんだ。
 涙に濡れたその運命を、あたしがこの手で救って見せるから……!

「ええ、そうよ……! そんなんじゃ、今の私は止められない……! この私は倒せない!」
「そう……ですか。まだ、やる気なんですね……!」

 なればこそ、彼女を救い出すの為にも、この戦いは避けられない。
 彼女に譲れない意思がある様に、自分にも譲れないものはある。
 そればっかりは譲れないし、一歩も退く事は出来ない。
 救える命を救って、安全な場所まで一直線に連れて行く――
 たった一つのその夢を叶える為にも、こんなところで負けて居られないのだ。
 だから……目の前で「助けて」と泣く少女が居るのなら、あたしは全力で守り抜く! 

「当然でしょう……!? 何かさ……私はもう、負けらんないのよね……!
 クズだの何だの罵られようと……あんたをブッ倒してでも、アイツだけはこの手で殺さなきゃあ!」
「なら、あたしももう容赦は出来ない!
 貴女が部隊長を殺すというのなら、その前にあたしが貴女を倒して見せる!」

 こうして、何度もぶつけあった想いを再びぶつけあった。
 結局二人とも同じなんだ。負ける事も、退く事も許されはしない。
 その決意は絶対に揺るがない。目の前に壁が立ち塞がるなら、叩き潰すだけだ。
 それは何が起ころうと変わらない。変わりはしないのだ。

 ここに居るのは二人の戦士。
 何もかもを投げ捨てて戦う決意を固めた戦士と。
 夢の為に、守る為に、全てをぶつけて戦う戦士と。
 一対一の、想いを賭けた戦い。お互いのプライドを賭けた一騎打ち。
 全ての決着を付ける為――二人の戦士は、再び駆け出した。


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