失物語(前編) ◆WslPJpzlnU
●
ナイブズは、勝利を確信していた。
押し込まれた病院一階での戦い、その相手となった女は左脚と武器を失った満身創痍の状態。しかも倒れ込む勢いを利用して攻撃をぶつけるため、こちらに対して背を晒している。
……終わったな……
女が自分によって殺される事を、ナイブズは予想した。それなりの実力者だった、とも思う。負傷と制限を重ねているとはいえ、自分を相手に跳んで転んで撃って殴っての大太刀代わりだ。
そう思えば、惜しいな、という感情も浮かぶ。しかし“ナイフ”を集める時間はもう終わった。
終わっている、のだ。
今は。
殺す。
時間。
「死――」
ね。
だからこそ、そう言おうとした。
左腕から生やす刃、エンジェル・アームで切り伏せようとした。
女の姿を、見ようとした。
しかし、視界は茶の一色で覆われる。
「!?」
遠近感があり、それが急接近する物体なのだ、と理解した時にはもう遅い。頭部を横断して余りある、鞭の様な何かがナイブズの目元に叩き付けられた。
……何だ……?
プラント自律種という種族であっても、目に対する攻撃は有効だ。痛みと驚き、二つの生理的な反応でナイブズは瞼を強く閉じる。痛みをやり過ごそうと全身が硬直し、エンジェル・アームの変形が止まった。
……何が叩いた……!?
疑問符が無数に沸き上がった。敵対者である女はこちらに対して背を向けて倒れつつある状態、武器は無く、左脚は失い、こちらの右手側へと倒れていくだけだった筈だ。それがどうやって攻撃したというのか。
……何が……!
その思いでナイブズは目元を擦る。エンジェル・アームを収めた左腕で瞼を擦り、今も視界を閉ざす瞼を強引に開けさせる。再び剥き出した眼球、晒された瞳が捉えるのは、体勢を変えた女の姿だ。
今の女は斜めでありながらもこちらと向き直った状態、つまり自分が目を閉じた間に一回転したという事だ。それを証明するものが、女の首もとに浮いていた。
「……髪!」
「良いでしょう? ――ルルーシュが褒めてくれた髪だよ」
髪を振り回して目潰しをしたのか。
と。
理解と共にナイブズの身体が揺らぐ。
それはナイブズが震えたからではない。予期せぬ力を身体に受けて、それを踏みとどまろうとする力がぶつかり合ったための揺らぎだ。しかしどこかを触れられた感覚はない。あるのは右肩の牽引だけだ。
だとすれば、原因は一つ。
「何のつもりだ?」
見下ろした先、女がこちらの右腕を抱え込んでいた。腐り爛れた腕に五指を突き立て、腕にしがみつく事で女は倒れるのを止めている。悪臭がするのか、目元は眉間に皺を刻み、目尻に涙を浮かべていた。
と、
「……感謝してよね」
女は言う。
「私が腕を抱くの、貴方がはじめてなんだから」
「それは光栄だな」
……錯乱したか……?
女の行動に、ナイブズは眉をひそめた。唐突に指針を変えたのは如何なる意図か、と。今更媚を売って助かる、と思う様な性格でもないだろうし、思ってもするような風にも見えない。
では何だ、と思う。
何だろうな、と。
と、ナイブズは女の異変に気付いた。両目を潤ませ、頬はやけに熱くなっている。呼吸は荒く、肩は震えつつ上下していた。病か、とも推測するが出会った時はそんな兆候はなかった。それは砲撃で吹っ飛ばされた時もだ。
ならばこの変化は、女が病院に突入してからの変化という事になる。そう考えれば、異変に関して思い当たる節があった。
極めつけは異臭。生ゴミを燃やす様な臭いをナイブズは嗅ぎ取る。
臭いの元は。
自身の右腕。
「貴様、サイボーグか」
女を見据える視界を更に落とし、抱き込まれた右腕を確認した。青黒く腐敗した腕の肉、しかし今は黒く硬化し、茶味を帯びた薄い煙を立ち上らせている。それこそが異臭の原因だ。
右腕が焼かれている。神経が死んでいる為に、今の今まで気付かなかった。
「リミッターを外したのか。随分と発熱しているな」
「……戦闘機人、だよ」
唇を尖らせた女に、どちらでもいい、とナイブズは付け加える。
「ここでの高機動の代償か。……これ以上は身がとろけるぞ」
「そうだね」
「観念したとでも?」
「まさか」
言い返して、女はナイブズから視線を外した。見るのは足下、ナイブズが細切れにした大砲の断片群だ。もはや鉄塊に成り下がったそれらを見下ろして、ねえ、と目線を合わせずに呟く。
「この大砲、出力源は何処だと思う?」
唐突とさえ感じる話題に、ナイブズは首を傾げた。
「大砲そのものではないのか?」
「これはただの出力装置。出力の源はね?」
女は。
再び。
こちらを。
見上げる。
その顔は。
「私自身だよ」
笑み。
その表情に。
想像を得た。
「まさか……!」
こちらの想像を理解したのか、女が首肯する。
「限界超過の加熱も統合したから……いくら貴方でも、効くんじゃない?」
じ、という音が生じた。
それは右腕が泡立つ音。
女の流血が沸騰する音。
エンジェル・アームを。
女の首に向けて伸ばす。
だがそれよりも早くに。
女が、
「……出力の暴発。一緒に消えてもらうから」
爆発した。
押し込まれた病院一階での戦い、その相手となった女は左脚と武器を失った満身創痍の状態。しかも倒れ込む勢いを利用して攻撃をぶつけるため、こちらに対して背を晒している。
……終わったな……
女が自分によって殺される事を、ナイブズは予想した。それなりの実力者だった、とも思う。負傷と制限を重ねているとはいえ、自分を相手に跳んで転んで撃って殴っての大太刀代わりだ。
そう思えば、惜しいな、という感情も浮かぶ。しかし“ナイフ”を集める時間はもう終わった。
終わっている、のだ。
今は。
殺す。
時間。
「死――」
ね。
だからこそ、そう言おうとした。
左腕から生やす刃、エンジェル・アームで切り伏せようとした。
女の姿を、見ようとした。
しかし、視界は茶の一色で覆われる。
「!?」
遠近感があり、それが急接近する物体なのだ、と理解した時にはもう遅い。頭部を横断して余りある、鞭の様な何かがナイブズの目元に叩き付けられた。
……何だ……?
プラント自律種という種族であっても、目に対する攻撃は有効だ。痛みと驚き、二つの生理的な反応でナイブズは瞼を強く閉じる。痛みをやり過ごそうと全身が硬直し、エンジェル・アームの変形が止まった。
……何が叩いた……!?
疑問符が無数に沸き上がった。敵対者である女はこちらに対して背を向けて倒れつつある状態、武器は無く、左脚は失い、こちらの右手側へと倒れていくだけだった筈だ。それがどうやって攻撃したというのか。
……何が……!
その思いでナイブズは目元を擦る。エンジェル・アームを収めた左腕で瞼を擦り、今も視界を閉ざす瞼を強引に開けさせる。再び剥き出した眼球、晒された瞳が捉えるのは、体勢を変えた女の姿だ。
今の女は斜めでありながらもこちらと向き直った状態、つまり自分が目を閉じた間に一回転したという事だ。それを証明するものが、女の首もとに浮いていた。
「……髪!」
「良いでしょう? ――ルルーシュが褒めてくれた髪だよ」
髪を振り回して目潰しをしたのか。
と。
理解と共にナイブズの身体が揺らぐ。
それはナイブズが震えたからではない。予期せぬ力を身体に受けて、それを踏みとどまろうとする力がぶつかり合ったための揺らぎだ。しかしどこかを触れられた感覚はない。あるのは右肩の牽引だけだ。
だとすれば、原因は一つ。
「何のつもりだ?」
見下ろした先、女がこちらの右腕を抱え込んでいた。腐り爛れた腕に五指を突き立て、腕にしがみつく事で女は倒れるのを止めている。悪臭がするのか、目元は眉間に皺を刻み、目尻に涙を浮かべていた。
と、
「……感謝してよね」
女は言う。
「私が腕を抱くの、貴方がはじめてなんだから」
「それは光栄だな」
……錯乱したか……?
女の行動に、ナイブズは眉をひそめた。唐突に指針を変えたのは如何なる意図か、と。今更媚を売って助かる、と思う様な性格でもないだろうし、思ってもするような風にも見えない。
では何だ、と思う。
何だろうな、と。
と、ナイブズは女の異変に気付いた。両目を潤ませ、頬はやけに熱くなっている。呼吸は荒く、肩は震えつつ上下していた。病か、とも推測するが出会った時はそんな兆候はなかった。それは砲撃で吹っ飛ばされた時もだ。
ならばこの変化は、女が病院に突入してからの変化という事になる。そう考えれば、異変に関して思い当たる節があった。
極めつけは異臭。生ゴミを燃やす様な臭いをナイブズは嗅ぎ取る。
臭いの元は。
自身の右腕。
「貴様、サイボーグか」
女を見据える視界を更に落とし、抱き込まれた右腕を確認した。青黒く腐敗した腕の肉、しかし今は黒く硬化し、茶味を帯びた薄い煙を立ち上らせている。それこそが異臭の原因だ。
右腕が焼かれている。神経が死んでいる為に、今の今まで気付かなかった。
「リミッターを外したのか。随分と発熱しているな」
「……戦闘機人、だよ」
唇を尖らせた女に、どちらでもいい、とナイブズは付け加える。
「ここでの高機動の代償か。……これ以上は身がとろけるぞ」
「そうだね」
「観念したとでも?」
「まさか」
言い返して、女はナイブズから視線を外した。見るのは足下、ナイブズが細切れにした大砲の断片群だ。もはや鉄塊に成り下がったそれらを見下ろして、ねえ、と目線を合わせずに呟く。
「この大砲、出力源は何処だと思う?」
唐突とさえ感じる話題に、ナイブズは首を傾げた。
「大砲そのものではないのか?」
「これはただの出力装置。出力の源はね?」
女は。
再び。
こちらを。
見上げる。
その顔は。
「私自身だよ」
笑み。
その表情に。
想像を得た。
「まさか……!」
こちらの想像を理解したのか、女が首肯する。
「限界超過の加熱も統合したから……いくら貴方でも、効くんじゃない?」
じ、という音が生じた。
それは右腕が泡立つ音。
女の流血が沸騰する音。
エンジェル・アームを。
女の首に向けて伸ばす。
だがそれよりも早くに。
女が、
「……出力の暴発。一緒に消えてもらうから」
爆発した。
●
一番最初に生じたのは、風だった。
全てを叩き伏せる暴風は熱量を帯びたもの。一瞬だが台風に匹敵する風圧が病院一階に吹き荒び、転がるソファの群を吹き飛ばす。鉄の四本脚は、風が含む熱量で半分溶解していた。しかし風が跳ばすのはそれだけではない。
床。
黒い正方形のタイルで形成される足場も圧力から逃れられない。引き剥がされ、舞い上がり、破片となった。大小無数の断片を飲み込み、暴風は砂嵐に昇華する。
そうやって全ての設置物を咀嚼して。
それから、ようやく、爆発が生じる。
爆発は火炎ではなく、純粋な破壊力の破裂だった。ディエチが溜め込んでいた攻撃用のエネルギーは、酸素を消費しない。ただ、酸素を破壊対象として爆砕するだけだ。それにより、爆発は破壊力が加算される。
白い閃光はデェイチの腹を内側から破り、密着するナイブズと共に飲み込んだ。陰影さえも吹き飛ばし、景色は白に包まれる。
が、二人以外にも破壊力に砕かれるものがあった。それは病院一階の、柱という柱に備え付けられた物品。
ルルーシュが設置した火炎瓶だ。
破壊力に晒された火炎瓶は誘爆し、備え付けられていた柱を粉砕する。
風の爆砕と、火炎瓶の誘爆。
それらを飲み込み、爆発は遂に天井を砕いて二階にまで新出する。しかし砕いたのは天井だけではない。一階の外壁も砕かれているのだ。加えて病院を支える柱の殆どは火炎瓶によって消失している。
その上で更に揺すれば、病院が辿る未来は一つしかない。
倒壊、だ。
病院一階が、膝を折る様に内側から潰れる。
そうなってしまえば、後は芋づる式だ。
二階が地面に墜落し、衝撃と自重で砕ける。
三階も。
四階も。
屋上も。
最後は。
赤十字も。
砕け散り。
病院は、瓦礫の山へと変貌した。
全てを叩き伏せる暴風は熱量を帯びたもの。一瞬だが台風に匹敵する風圧が病院一階に吹き荒び、転がるソファの群を吹き飛ばす。鉄の四本脚は、風が含む熱量で半分溶解していた。しかし風が跳ばすのはそれだけではない。
床。
黒い正方形のタイルで形成される足場も圧力から逃れられない。引き剥がされ、舞い上がり、破片となった。大小無数の断片を飲み込み、暴風は砂嵐に昇華する。
そうやって全ての設置物を咀嚼して。
それから、ようやく、爆発が生じる。
爆発は火炎ではなく、純粋な破壊力の破裂だった。ディエチが溜め込んでいた攻撃用のエネルギーは、酸素を消費しない。ただ、酸素を破壊対象として爆砕するだけだ。それにより、爆発は破壊力が加算される。
白い閃光はデェイチの腹を内側から破り、密着するナイブズと共に飲み込んだ。陰影さえも吹き飛ばし、景色は白に包まれる。
が、二人以外にも破壊力に砕かれるものがあった。それは病院一階の、柱という柱に備え付けられた物品。
ルルーシュが設置した火炎瓶だ。
破壊力に晒された火炎瓶は誘爆し、備え付けられていた柱を粉砕する。
風の爆砕と、火炎瓶の誘爆。
それらを飲み込み、爆発は遂に天井を砕いて二階にまで新出する。しかし砕いたのは天井だけではない。一階の外壁も砕かれているのだ。加えて病院を支える柱の殆どは火炎瓶によって消失している。
その上で更に揺すれば、病院が辿る未来は一つしかない。
倒壊、だ。
病院一階が、膝を折る様に内側から潰れる。
そうなってしまえば、後は芋づる式だ。
二階が地面に墜落し、衝撃と自重で砕ける。
三階も。
四階も。
屋上も。
最後は。
赤十字も。
砕け散り。
病院は、瓦礫の山へと変貌した。
●
倒壊から、幾らかの時間が経った。
かつては治療の場として誇らしげでさえあった病院は、もはや瓦礫の蓄積でしかない。積もった瓦礫、所々から水道管やベットの片鱗が伸びている。勿論、再利用出来る筈もない程に破損した状態で。
隙間から粉塵を昇らせる様は、あたかも活火山を連想させるものだった。
そして、噴火する。
折り重なった瓦礫の中央部、最も厚みのある頂点が吹き飛ぶ。柱とも形容出来るほどの規模を持つ光、それが空へ向かってまっすぐに立ち昇っていく。瓦礫が巻き上げられないのは、その前に消滅するからだ。
やがて光は消失し、瓦礫の中心には縦穴が残された。
その縁に五指をかけ、ナイブズは瓦礫から這い出す。
ナイブズの身体は、女の自爆を至近距離で受けても掻き消える事はなかった。しかし衣服は破れ、露出した肌は火傷と煤で、そして金髪は、脱出の為に放ったエンジェル・アームで黒色を増大させている。
「お」
疲労と痛みに肩を震わせ、ナイブズは身をかがませた。
「おお」
ふと、ナイブズは右腕に手を伸ばす。掌は痙攣しつつ持ち上げられていき。
しかし。
空を掻く。
「おお……ッ!!」
ナイブズの右腕が、欠損していた。
如何にプラント自律種が強靭な生命体であっても、腐敗と損壊で崩れた状態では、あの爆発に耐えられたのだ。否、逆に右腕を犠牲にしたからこそ残る身体や衣服はこの程度の損害で済んだのかもしれない。
毒と炭化を受けた腕は、もう再生しない。
ナイブズの右腕は、完全に殺されていた。
剥き出された歯は感情の現れ、身を仰け反らせてナイブズは吠える。
「――やってくれたな、女!!」
怨嗟は、ビルの合間で僅かの間跳ねていた。
かつては治療の場として誇らしげでさえあった病院は、もはや瓦礫の蓄積でしかない。積もった瓦礫、所々から水道管やベットの片鱗が伸びている。勿論、再利用出来る筈もない程に破損した状態で。
隙間から粉塵を昇らせる様は、あたかも活火山を連想させるものだった。
そして、噴火する。
折り重なった瓦礫の中央部、最も厚みのある頂点が吹き飛ぶ。柱とも形容出来るほどの規模を持つ光、それが空へ向かってまっすぐに立ち昇っていく。瓦礫が巻き上げられないのは、その前に消滅するからだ。
やがて光は消失し、瓦礫の中心には縦穴が残された。
その縁に五指をかけ、ナイブズは瓦礫から這い出す。
ナイブズの身体は、女の自爆を至近距離で受けても掻き消える事はなかった。しかし衣服は破れ、露出した肌は火傷と煤で、そして金髪は、脱出の為に放ったエンジェル・アームで黒色を増大させている。
「お」
疲労と痛みに肩を震わせ、ナイブズは身をかがませた。
「おお」
ふと、ナイブズは右腕に手を伸ばす。掌は痙攣しつつ持ち上げられていき。
しかし。
空を掻く。
「おお……ッ!!」
ナイブズの右腕が、欠損していた。
如何にプラント自律種が強靭な生命体であっても、腐敗と損壊で崩れた状態では、あの爆発に耐えられたのだ。否、逆に右腕を犠牲にしたからこそ残る身体や衣服はこの程度の損害で済んだのかもしれない。
毒と炭化を受けた腕は、もう再生しない。
ナイブズの右腕は、完全に殺されていた。
剥き出された歯は感情の現れ、身を仰け反らせてナイブズは吠える。
「――やってくれたな、女!!」
怨嗟は、ビルの合間で僅かの間跳ねていた。
【1日目 早朝】
【現在位置 H-6 病院跡地】
【現在位置 H-6 病院跡地】
【ミリオンズ・ナイブズ@リリカルTRIGUNA's】
【状態】疲労(大)、黒髪化4割、全身打撲(小)、右腕損失、右肩・右脇火傷(小)
【装備】無し
【道具】支給品一式、デュランダル@魔法少女リリカルなのはA's、首輪(高町なのは)
【思考】
基本 出会った参加者は殺す。誰が相手でも油断はしない
1.あの女、やってくれたな……!
2.中心部に向かい、人を探す
3.ヴォルケンリッター、ヴァッシュは殺さない
4.制限を解きたい
【備考】
※エンジェル・アームの制限に気付きました
※高出力のエンジェル・アームを使うと黒髪化が進行し、多大な疲労に襲われます
※黒髪化に気付いていません。また、黒髪化による疲労も制限によるものだと考えています
※はやてとヴォルケンリッターが別世界から来ている事に気付いていません
※この場においてナイフを探す事は諦めました
※ディエチは完全に消滅したものだと思っています
【状態】疲労(大)、黒髪化4割、全身打撲(小)、右腕損失、右肩・右脇火傷(小)
【装備】無し
【道具】支給品一式、デュランダル@魔法少女リリカルなのはA's、首輪(高町なのは)
【思考】
基本 出会った参加者は殺す。誰が相手でも油断はしない
1.あの女、やってくれたな……!
2.中心部に向かい、人を探す
3.ヴォルケンリッター、ヴァッシュは殺さない
4.制限を解きたい
【備考】
※エンジェル・アームの制限に気付きました
※高出力のエンジェル・アームを使うと黒髪化が進行し、多大な疲労に襲われます
※黒髪化に気付いていません。また、黒髪化による疲労も制限によるものだと考えています
※はやてとヴォルケンリッターが別世界から来ている事に気付いていません
※この場においてナイフを探す事は諦めました
※ディエチは完全に消滅したものだと思っています
【共通の備考】
※病院跡地に以下の物が放置されています
・454カスール カスタムオートマチック(0/6)@NANOSING
・ルルーシュの右腕
※病院跡地に以下の物が放置されています
・454カスール カスタムオートマチック(0/6)@NANOSING
・ルルーシュの右腕
●
少し前まで病院があった場所で、ナイブズの叫びが響く。
噴煙と声が立ち上る病院跡地、その向かいには川を挟んでビルが並んでいる。同形の建造物は密着して羅列し、まるでそれらが一枚の外壁にも思えた。しかしその中の一棟だけ、他にはないものがある。
大穴だ。
窓硝子の並ぶ外壁、その一部に人間大の穴が空いているのだ。
穴から覗けるビルの中は、灰色を基色としたオフィスだ。黒みのある床には安物の机と椅子が配置され、天井には蛍光灯、壁際には鉄製の棚が配置されている。
本来は整列していたのだろうそれらは、しかし今、不規則に散乱していた。あたかも、ビルの外壁を砕いて入り込んだ物体が、机と椅子を蹴散らして室内に飛び込んだかの様に。
事実は、その通りだ。
オフィスの中央、机と椅子が左右に押し退けられて開いた道の中央に、一つの物体が落ちている。
ディエチだった。
目を伏せた。
煤だらけの。
茶髪の少女。
ディエチが倒れている。
しかし彼女の身体には、人として決定的な欠落があった。
下半身、否。
胸から下の肉体だ。
女性体として膨らんだ胸のやや下、丁度みぞおちの辺りから先の身体が、存在していない。断面は炭化と溶解によって塞がれており、流血は止まっている。しかし、何処からどう見ても、完全な致命傷だった。
それが。
人間だった。
ならば。
びくり、と。
投げ出されていたディエチの五指が震えた。続いて肘が緩み、指が床を掻く様にして力む。動作する両腕は、未だディエチが生きている事を露骨に示す。
「ぅ」
そして遂に、ディエチの瞼が開いた。
開眼して最初に見るものは、早朝の光が差し込んだオフィスの天井。ぼやけていた視界は靄がかかるかのようだったが、しばらくすると焦点が合って鮮明になる。
「ここ、は」
まだ僅かに痺れを残す頭を振り、ディエチは辺りを見回す。
そして、
「……?」
身じろぎをした。
身じろぎをした。
身じろぎをした。
「?」
ディエチは目を丸くする。どうして、という思いで。
どうして、
……脚が動かないのだろう……
という思いで。
そしてディエチは損失した下半身を見る。
下半身が見えない、という現実を、見る。
「……ぁ」
両腕が後ろに回され、ディエチは上半身だけで起き上がった。そうなれば、普段ならば尻と太腿が地面に触れて、つっかえた様な感触が得られる筈だ。しかし今は、それが、
「――無い」
感覚を失った身体の断面が、床に押し付けられる。硬質ですらあるそれは、かさぶた越しの感覚に似ていた。
胸から上だけの身体。
しかしそれでも、
「生きてる、ん、だ」
万全、というにはほど遠い。
脚がないのだから歩く事は出来ず、股がないから排泄は出来ず、腹がないから飲食は出来ず、まともな声を出す事も出来ない。
しかし、生きている。
……下腹部に出力炉があったから、かな。循環器系が上半身に集中してたから……
生命維持に必要な臓器と機器が下半身に無く、そして傷口が完全に塞がれている事もあって、生命が維持されているのだろう。我ながら常軌を逸した生命力だ、と思い、それこそが機械か、と思い直す。
勿論、
「死ぬほど痛いけど……ッ!!」
呟いた瞬間、両腕が脱力した。肩甲骨と後頭部が強打される感覚、しかしそれを無視出来る程の痛みが腹部にある。
「あ、が、ぁ……っ!」
意識が鮮明になると共に、下半身を失った痛みが理解された。神経と筋肉、そして脊髄が断裂した感覚に、残された身体が悲鳴を上げる。瞼が涙と共に眼球が零れるかと思う程に見開かれた。
食いしばった歯は欠け、隙間から唾液が漏れる。上半身だけの少女が身悶えする、珍奇な情景がそこにあった。
「ぅ」
と、嗚咽が零れた。
「ぅ、ぅ、……う」
強ばる喉は、吐血するかの如く漏れ出す。それは痛みによるものが大部分を占める。しかしそれだけではない。溢れ出す苦悶には、絶叫という本能だけではなく、悲哀という感情の色があった。
……私の身体、半分になっちゃった……
ディエチが思うのは、その事だ。
「もう、歩けないよね」
潤んだ瞳が、失われた下半身を幻視する。
「もう、誰も守れないんだなぁ……」
呼気。
「もう、何も得られないのかなぁ……っ」
涙。
それらが決壊した。
「こんな身体じゃ、誰も好きになってくれないよね?」 ……役に立たないし、気持ち悪し」
チンクは、泣くだろうか。
クアットロは、笑うだろうか。
ルルーシュは、どうするのだろうか。
解らない。
それが恐い。
「まだやりたい事とか、あったんだけどなぁっ。ルルーシュと一緒に歩いたり、約束を果たしたり、それで守ったり……」
腹の断面を撫でて、
「……子供、産んでみるとか」
失われたもの。
腹と。
股間と。
両脚。
そこに、曲がりなりにも子宮が残されていた。
そこに、曲がりなりにも、命が宿っていた。
……Dr.が入れたクローン、消えちゃったよね……
人によっては、不純な命と言うかもしれない。しかしそれでも自分は、確かに命を抱えていたのだ。ルルーシュのそれだけではなく、体内で未熟なまま固定されていた、胎児を。
そして、思ってしまう。自分は機械を積んだ身で、しかし子供を宿す事が出来たのなら、
「ひょっとしたら、さ」
言わずには。
「ひょっとしたらさぁ……っ!」
いられない。
「Dr.のだけじゃなくて、別の人の子も得られたのかなぁ……?」
どうなんだろう、と。
どうなんだろう、と。
問わずにはいられない。
賢いあの人なら、解っただろうか。
……ねぇ、どうなのかなぁ? 貴方なら解るかなぁ……? どうなのかなぁ……!?
「ルルーシュ……!!」
燻る様な泣き声が、散らかったオフィスに滲んでいく。
噴煙と声が立ち上る病院跡地、その向かいには川を挟んでビルが並んでいる。同形の建造物は密着して羅列し、まるでそれらが一枚の外壁にも思えた。しかしその中の一棟だけ、他にはないものがある。
大穴だ。
窓硝子の並ぶ外壁、その一部に人間大の穴が空いているのだ。
穴から覗けるビルの中は、灰色を基色としたオフィスだ。黒みのある床には安物の机と椅子が配置され、天井には蛍光灯、壁際には鉄製の棚が配置されている。
本来は整列していたのだろうそれらは、しかし今、不規則に散乱していた。あたかも、ビルの外壁を砕いて入り込んだ物体が、机と椅子を蹴散らして室内に飛び込んだかの様に。
事実は、その通りだ。
オフィスの中央、机と椅子が左右に押し退けられて開いた道の中央に、一つの物体が落ちている。
ディエチだった。
目を伏せた。
煤だらけの。
茶髪の少女。
ディエチが倒れている。
しかし彼女の身体には、人として決定的な欠落があった。
下半身、否。
胸から下の肉体だ。
女性体として膨らんだ胸のやや下、丁度みぞおちの辺りから先の身体が、存在していない。断面は炭化と溶解によって塞がれており、流血は止まっている。しかし、何処からどう見ても、完全な致命傷だった。
それが。
人間だった。
ならば。
びくり、と。
投げ出されていたディエチの五指が震えた。続いて肘が緩み、指が床を掻く様にして力む。動作する両腕は、未だディエチが生きている事を露骨に示す。
「ぅ」
そして遂に、ディエチの瞼が開いた。
開眼して最初に見るものは、早朝の光が差し込んだオフィスの天井。ぼやけていた視界は靄がかかるかのようだったが、しばらくすると焦点が合って鮮明になる。
「ここ、は」
まだ僅かに痺れを残す頭を振り、ディエチは辺りを見回す。
そして、
「……?」
身じろぎをした。
身じろぎをした。
身じろぎをした。
「?」
ディエチは目を丸くする。どうして、という思いで。
どうして、
……脚が動かないのだろう……
という思いで。
そしてディエチは損失した下半身を見る。
下半身が見えない、という現実を、見る。
「……ぁ」
両腕が後ろに回され、ディエチは上半身だけで起き上がった。そうなれば、普段ならば尻と太腿が地面に触れて、つっかえた様な感触が得られる筈だ。しかし今は、それが、
「――無い」
感覚を失った身体の断面が、床に押し付けられる。硬質ですらあるそれは、かさぶた越しの感覚に似ていた。
胸から上だけの身体。
しかしそれでも、
「生きてる、ん、だ」
万全、というにはほど遠い。
脚がないのだから歩く事は出来ず、股がないから排泄は出来ず、腹がないから飲食は出来ず、まともな声を出す事も出来ない。
しかし、生きている。
……下腹部に出力炉があったから、かな。循環器系が上半身に集中してたから……
生命維持に必要な臓器と機器が下半身に無く、そして傷口が完全に塞がれている事もあって、生命が維持されているのだろう。我ながら常軌を逸した生命力だ、と思い、それこそが機械か、と思い直す。
勿論、
「死ぬほど痛いけど……ッ!!」
呟いた瞬間、両腕が脱力した。肩甲骨と後頭部が強打される感覚、しかしそれを無視出来る程の痛みが腹部にある。
「あ、が、ぁ……っ!」
意識が鮮明になると共に、下半身を失った痛みが理解された。神経と筋肉、そして脊髄が断裂した感覚に、残された身体が悲鳴を上げる。瞼が涙と共に眼球が零れるかと思う程に見開かれた。
食いしばった歯は欠け、隙間から唾液が漏れる。上半身だけの少女が身悶えする、珍奇な情景がそこにあった。
「ぅ」
と、嗚咽が零れた。
「ぅ、ぅ、……う」
強ばる喉は、吐血するかの如く漏れ出す。それは痛みによるものが大部分を占める。しかしそれだけではない。溢れ出す苦悶には、絶叫という本能だけではなく、悲哀という感情の色があった。
……私の身体、半分になっちゃった……
ディエチが思うのは、その事だ。
「もう、歩けないよね」
潤んだ瞳が、失われた下半身を幻視する。
「もう、誰も守れないんだなぁ……」
呼気。
「もう、何も得られないのかなぁ……っ」
涙。
それらが決壊した。
「こんな身体じゃ、誰も好きになってくれないよね?」 ……役に立たないし、気持ち悪し」
チンクは、泣くだろうか。
クアットロは、笑うだろうか。
ルルーシュは、どうするのだろうか。
解らない。
それが恐い。
「まだやりたい事とか、あったんだけどなぁっ。ルルーシュと一緒に歩いたり、約束を果たしたり、それで守ったり……」
腹の断面を撫でて、
「……子供、産んでみるとか」
失われたもの。
腹と。
股間と。
両脚。
そこに、曲がりなりにも子宮が残されていた。
そこに、曲がりなりにも、命が宿っていた。
……Dr.が入れたクローン、消えちゃったよね……
人によっては、不純な命と言うかもしれない。しかしそれでも自分は、確かに命を抱えていたのだ。ルルーシュのそれだけではなく、体内で未熟なまま固定されていた、胎児を。
そして、思ってしまう。自分は機械を積んだ身で、しかし子供を宿す事が出来たのなら、
「ひょっとしたら、さ」
言わずには。
「ひょっとしたらさぁ……っ!」
いられない。
「Dr.のだけじゃなくて、別の人の子も得られたのかなぁ……?」
どうなんだろう、と。
どうなんだろう、と。
問わずにはいられない。
賢いあの人なら、解っただろうか。
……ねぇ、どうなのかなぁ? 貴方なら解るかなぁ……? どうなのかなぁ……!?
「ルルーシュ……!!」
燻る様な泣き声が、散らかったオフィスに滲んでいく。
【1日目 早朝】
【現在位置 H-6 病院の向かいにあるビル】
【現在位置 H-6 病院の向かいにあるビル】
【ディエチ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】腹部・下半身消失、疲弊(大)
【装備】ブリタニア軍特派のインカム@コードギアス 反目のスバル
【道具】無し
【思考】
基本 ナンバーズやルルーシュと合流する
1.体……壊れちゃった……
2.こんな体じゃ誰も守れない……誰も好きになってくれない……
【備考】
※ゆりかご攻防戦直後からの参戦です。未だ公正プログラムの話は持ちかけられていません
※クアットロとチンクがJS事件の最中から来ていることに気付いていません
※デイバック、支給品一式×2、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、百円ライターは、は、H-6病院付近のどこかに落ちています。
【状態】腹部・下半身消失、疲弊(大)
【装備】ブリタニア軍特派のインカム@コードギアス 反目のスバル
【道具】無し
【思考】
基本 ナンバーズやルルーシュと合流する
1.体……壊れちゃった……
2.こんな体じゃ誰も守れない……誰も好きになってくれない……
【備考】
※ゆりかご攻防戦直後からの参戦です。未だ公正プログラムの話は持ちかけられていません
※クアットロとチンクがJS事件の最中から来ていることに気付いていません
※デイバック、支給品一式×2、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、百円ライターは、は、H-6病院付近のどこかに落ちています。
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