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日々の未来(1) ◆gFOqjEuBs6




 満月が美しく煌めく夜の市街地で、轟々と音を立てて燃え盛る建造物があった。
 先の戦闘でアンジールが放ったファイガによって炎上、その後の戦闘で壊滅的な被害を被ったスーパーだ。
 最早スーパーとしての機能を維持する事は難しい。燃え落ちるのも、時間の問題であった。
 そんなスーパーを目前にして、向かい合う四人の男女。ここまで生き残った参加者達だ。
 まさに一発触発といった空気。誰が行動を起こしても可笑しくはない。

「貴方が、銀色の鬼……?」

 そんな中、警戒心を露わにしながらも質問を投げかけたのは、高町なのはであった。
 対する相手は、銀色と赤の――とても人間とは思えない外見をした参加者。
 その正体は、ウルトラマンメビウスことヒビノ・ミライ……なのだが、当然の如くなのははそれを知らない。
 ウルトラマンが正義のヒーローである事も、いくつかの世界においては英雄的な存在である事も当然知らない。
 故に、これまでに得た情報を元に、なのははミライを銀色の鬼だと判断したのだ。

「僕はヒビノ・ミライです! 君は、なのはちゃん……だよね?」
「そうだけど……貴方はこの殺し合いに乗って居るの?」
「僕はこんなゲームには乗って居ません! 貴方達の戦いを止める為に来たんです!」

 メビウスの銀色の視線が、その場に居た二人に向けられる。
 一人は、赤の装甲の仮面ライダー……カブトこと天道総司。
 一人は、大剣を携えた、白き片翼を持つ戦士……アンジール。
 彼らの戦いは、熾烈を極めていた。それは背後のスーパーを見れば一目瞭然だ。
 そんな戦いを繰り広げる二人を止める為に、ミライはこの場所へと駆け付けたのだと言う。

「待って下さい、ミライさん。私達も殺し合いには乗って居ません! これには訳があって――」
「その通り……私たちがこんな殺し合いに乗る理由は全くもって皆無。無駄以外の何者でもありませんわ」

 言いかけたなのはを遮ったのは、聞き覚えのある、透き通った声だった。
 この声に、この喋り方。最早間違いない。考える前に答えは浮かんだ。
 そしてそれはなのはだけではなく、その“少女”を家族と言い張る男も同様。

「その声は――」
「「クアットロ!!!」」

 奇しくも、アンジールとなのはの絶叫が一致した。




「折角盛り上がったのにさ、つまんないよね。そういうのって」

 全部解っている。全部聞こえている。
 状況は全て理解した。その結果、「つまらない」と判断した。
 だから当初の目的通り……全部ぶっ壊して、破滅させる。
 王の楽しみを奪う者を赦す訳には行かないからだ。
 一万年ぶりの敗北と、期待していた参加者がこぞって死んだ事。
 それらの鬱憤を晴らすべく、ガチャリと音を立てて、災厄を齎す引き金を引いた。




 一先ず周辺の雑居ビルに入って、一同は情報交換を開始。
 出来るだけ目立たないビルを選んで、二階の窓際の部屋を陣取る。
 電気は点けずに、窓から外の様子を窺い、誰かが来たときにすぐに対応出来るようにだ。
 つい先ほどまでは険悪なムードであった一同なのだが、クアットロが現れた事で、状況が一変したのだ。
 アンジールのそもそもの目的は、残ったたった一人の妹――クアットロを救う事。
 されど、当人であるクアットロが、一同の前でハッキリと殺し合いには乗らないと明言した。
 これはアンジールの行動方針を揺るがすには十分過ぎる出来事なのであった。

 これはIFの話だが……もしもここにクアットロが現われなかったら、どうなっていただろう。
 きっとこんなに上手く話し合いには持ちこめなかっただろうし、場合によっては最悪の状況にだってなっただろう。
 というのも、クアットロは何の保険もかけないまま、無防備な姿を晒して一同の前に現れたのだ。
 無事合流出来たから良かったものの、もしもその瞬間、何者かに不意を突かれでもしたら――
 もしも、もしもだが……そのままアンジールの目の前で殺されていたりなんかしたら――
 きっとその時は、考えるだけでも恐ろしい事態になっていたに違いない。
 こうして殺し合いに反発する一同が巡り合い、話し合いの機会を設ける事が出来たのは、本当に奇跡に近いのだ。

 そんな奇跡にも似た偶然に感謝しながら、一同は情報交換を続ける。
 様々な境遇が交差した上に成り立つ彼らの出会いは、考えてみれば酷く凸凹したものである。
 例えば、クアットロの想いも知らずに、全ての参加者を殺して回ろうとしたアンジール。
 例えば、ミライの思惑を知らず、銀色の鬼と警戒していた高町なのは。
 まずはそれらの誤解を解いて、冷静に話し合う所から始めなければならなかった。

「アンジール様……もう一度言いますが、私はこんな殺し合いは望んでおりませんわ」
「だが……俺が勝ち残れば、他の皆を生き返らせることも――」
「無理でしょうね。大方プレシアの目的はアリシアを生き返らせたいとか、そんなところでしょう。
 プレシアはこれ見よがしにアリサさんの蘇生を私達に見せつけた。これが何を意味するか、わかります?」

 暫し流れる沈黙。
 アンジールのみならず、なのはも天道もミライも、クアットロに視線を集中させる。
 クアットロの演説に興味深々といった感じで、クアットロとしても気分が良かった。
 相手に考えさせる余裕を与える。それから話に引き込んで、口車に乗せる。彼女が得意とする分野だ。
 その上、聡明ななのはや天道は既にクアットロの言わんとする事を理解しているように思える。
 上手く立ち回って、この二人にもクアットロの説を裏付ける証人になって貰えばいいのだ。
 未だ悩んでいる様子のアンジールに、馬鹿そうなミライ。二人を説得するのは、至って簡単であった。

「そもそもプレシアの最終的な目的は、亡くなられたご息女ことアリシアさんの蘇生。
 蘇生技術があるのなら、最初からアリシアさんを蘇生させて、二人きりで暮らしていればいいのに。
 それなのに、態々こんなリスクを犯してまで、様々な世界から集めた参加者に殺し合いを強要する――」
「ちょっと待て、様々な世界と言うのは、どういう事だ?」
「ああ、アンジール様にはそこから説明しないと駄目なんですね」

 クアットロは、すぐに表面的な笑顔を作り、語り出した。
 この会場に集められた参加者はほぼ全てが平行世界や、別の時間軸から連れて来られて居る事。
 当初アンジールと出会った際に、クアットロは「主催者に記憶を操作されている」と言った。
 だが、それは間違いだ。誤解を生じさせるために、という理由は合っているのだろうが、記憶操作などはされて居ない。
 そもそも、限りなく似て非なる世界からそれぞれの参加者を集めれば、それだけで誤解による不和は生じるのだ。
 今回プレシアがそれを狙って様々な世界から参加者を集めたのであろう事は明白。
 別の世界のアンジールとは確かに家族だが、今ここにいるアンジールは恐らくそうではない。
 クアットロとアンジールとの間に当初あった微妙な距離感は、それが原因だと語った。

「そんな馬鹿な……平行世界? そんな事が……」
「残念だが、事実だ。ここに居る高町は、俺の世界の高町とは別人だからな」
「僕の知るなのはちゃんも、ここにいるなのはちゃんとは別人でした」
「……そして、私は天道さんの事もミライ君の事も知りません」
「ま、そういう事ですわ」

 案の定、この場に居る全員がクアットロの説を裏付けてくれた。
 流石に丸一日このゲームに参加しているのだ。その程度の情報は得ていて当然だろう。
 頼りにしていたアンジールがその程度の情報すら知らなかったのは、はっきり言って拍子抜けだが。

「それだけのリスクを犯して殺し合いを強要するからには、恐らくそれがアリシアさんの蘇生に繋がるんでしょうね
 あぁちなみに言っておきますけど、プレシアが私達に“わざとらしく”見せつけたアリサさんの蘇生……
 あれは単に別の世界のアリサさんを連れてこればいいだけですから、至って簡単な話ですわ」
「なら、チンクやディエチは……」
「残念ですけど、犠牲になってしまった何処かの世界の二人についてはもう、諦めるしかありませんわ」
「くっ……!」
「ですけど、私達にはまだ出来る事があります。それは、こんな殺し合いを二度と開催させないようにプレシアを倒した上で、
 この馬鹿げたゲームから脱出する事。不本意ですけど、今は管理局の皆さんとも敵対してる場合じゃありませんわ。
 だから私は、ゲームから脱出するまでは全面的に協力も惜しまないし、誰かを殺すつもりもありません」

 嘘は言っていない。
 それに、これならばなのは達だって信じるだろう。
 というか寧ろこういう“クアットロらしい事”を言っていた方が100%信頼される。
 何故かって、そもそも現状で管理局といがみ合った所で、何の利益も生じないのだから。
 聡明なクアットロが考えた結果、出た答えがこれだと言うのなら、誰も疑わないだろう。

「ですから、アンジール様には是非とも私と……いえ、私たちに協力して貰いたいのです。
 私の目的は、あくまでこのゲームからの脱出……意味の無い殺人なんかには、これっぽっちも興味がありませんわ」
「だがっ……」
「お願いします、アンジール様……私の想いを、無駄にしないで下さい。
 私のこの、たった一つの願い……どうか聞き入れて下さいませんか……?」

 目に薄い涙を浮かべて、クアットロが言った。
 これは最後の手段だ。この単純なアンジール、ここまでされて動かない訳がない。
 例え平行世界といえど、アンジールは大切な妹の願いを無下にするような男では無い。
 それが解って居たからこその、クアットロの計画的犯行であった。

「……わかった。お前に免じて、俺も協力しよう」
「ありがとうございます、アンジール様! それではアンジール様、早速ですけど、
 まずはなのはさんに“アレ”を渡して下さいますか?」
「アレ……だと?」
「持っているでしょう? 我々の……いえ、なのはさんにとっての切り札を」
「私の切り札……? クアットロ、何の話をしているの?」

 訝るなのはと、アンジール。
 そんな二人の視線を受け流すように、クアットロが立ち上がった。
 おもむろにアンジールのデイバッグを手に取り、チャックを開ける。
 中にあった赤の宝玉を引っ掴んで、それをなのはに差し出した。
 こいつを差し出せば、なのはからの信用も得た上で、戦力増強にも繋がる。
 言わばなのはだけでなく、クアットロにとっても切り札となり得る存在。

「これ……! レイジングハート!?」
「そうですわ。元々これは私に支給されておりましたの。訳あって今はアンジール様が所持していましたけど」
「タダでいいの……? クアットロ……何だか未だに信じられないんだけど」
「まぁ……私の今までの行動を考えればそう仰るのも当然ですけれど、今はそんな事を言っている場合じゃありませんから」
「それはそうだけど……にゃはは、やっぱりいきなりいい人になっちゃうと違和感感じちゃうっていうか……」
「勘違いしないで下さいまし。このゲームから脱出したら、その時はまた敵同士ですから」

 はにかんだような笑みを見せるなのはを、クアットロが冷たく突き放した。
 これくらい言っておいた方が信憑性は増す。なのはも言っている通り、綺麗なクアットロなど違和感でしかないのだ。
 何の見返りもなくレイジングハートを手渡し、聖女の様な笑顔でなのはを受け入れるクアットロなど、あり得ないのだ。
 そんなあり得ない程の違和感を無理に押し通して、八神はやての時の様なミスを犯すのは愚行でしかない。
 故にクアットロは、「利害の一致による停戦協定」という“あり得る”状況を演出した。というか寧ろただの事実だ。

「これで僕達はもう仲間ですね! 一刻も早く、このゲームから脱出しましょう!」
「待てミライ。俺達はまだお前からの話は聞いて居ない」
「え……?」

 意気揚々と声を上げたミライを制したのは、天道総司であった。
 天道もまた、なのはから銀色の鬼の話は聞かされている。
 黄色の恐竜を連れ去り、その恐竜を自らの手で斬殺した銀色の鬼――その可能性。
 最早ミライがそんな事をする奴ではないと言う事は誰もが確信を持って言えるが、一応念の為に。
 なのはが、「銀色の鬼の憶測」をミライに言って聞かせた。
 そして、それを聞いたミライの反応は――

「そんな! アグモンは、僕がここで初めて出会った仲間です! そのアグモンを僕が殺すなんて――!!」
「落ち着けミライ。俺達だって馬鹿じゃない。お前が人殺しをする様などうしようもない奴じゃないって事くらいは解るさ」
「うん……だから、話してくれないかな? アグモンとミライ君の間に、何があったのかを……」
「……解りました。ここに来てから起こった事、全てをお話します」

 ミライが語り出したのは、このゲームに参加させられてからの境遇についてだった。
 目の前で、見知らぬ女の子をみせしめに斬殺されたミライは、自分の無力さを嘆きながらも、この会場に送り出された。
 そこで最初に目撃したのが、大男が小さな恐竜――アグモンを襲っている最中だったのだ。
 もうこれ以上、誰にも悲しんで欲しくは無い。故にミライは、ウルトラマンに変身した。
 大男を蹴り飛ばして、アグモンを救った。だけど、その後に待ち受けていたのは、悲しい別れ。
 アグモンと一緒に学校に向かったミライは、そこでクロノとヴィータの二人に出会った。
 開口一番に喧嘩を始めてしまったクロノとヴィータを尻目に、斬殺されるアグモン。
 一瞬の隙に、あっと言う間に一つの命を奪った、赤いコートの男。始まってしまった、本当の殺し合い。
 そんな中、自らの身を呈して、ミライとヴィータが逃げるだけの時間を作ったのはクロノだった。

「クロノ君は……クロノ君は、僕達の為に……!」
「そっか……クロノ君は、最期の最期まで、誰かを守る為に戦ったんだね」

 重い空気が流れる。
 話をするミライの瞳には涙が浮かんでいたし、話を聞くなのはも、辛そうな表情をしていた。
 だけど、それでも泣かないのは、なのはの心の強さ故なのだろう。
 何にせよ、これで黄色の恐竜についての誤解は解けただろう。
 次の話題に入ろうとした、その時であった。




「あ……そうだ、なのはちゃんに、これを渡さなきゃ」
「え……これって……」

 ミライが差し出したのは、紫の宝石。
 今は亡きギンガ・ナカジマの持つインテリジェントデバイス、ブリッツキャリバーだ。
 なのはにとって見覚えのあるデバイスをその手にとって、ミライを訝る。
 どうしてこれを持って居るんだ、とでも言いたげな表情であった。

「僕はまた、一人の男の人を守れなかった。これはその人が持って居たものなんだ
 最期になのはちゃんの名前を呼んで居たから、これはなのはちゃんが持っておくべきだと思って」

 ミライが話すのは、黒の魔人――ゼロの話。
 黒のマントに黒の仮面をつけた、ゼロと名乗る男が、一人の男を殺した事。
 まるでゲーム感覚で人の命を弄び殺した、あの黄金のカブトムシの化け物の事。
 ウルトラマンヒカリの力を借りる事で何とか倒す事は出来たが――正直、危なかった。
 もしもヒカリが居なかったら、きっとミライはあの場でゼロに殺されていただろう。
 と、そんな話をした所……想像以上に食いついたのは、天道総司と高町なのはであった。

「ゼロ……カブトムシの怪人……!? それって……!」
「……最早間違いないな。そいつがキングだ」
「ちょ、ちょっと待って下さい! キングって言うと、赤服に茶髪の……あのキングですか?」
「クアットロ、知ってるのか?」

 ハッとした様に言うなのはに、天道が結論を告げた。
 そんな二人の会話に横槍を入れるクアットロに、アンジール。
 この場にいる殆どが、キングという少年を知っていたのだ。
 一同がキングについての話題へと移行しようとした、その刹那。
 異変は起こった。

 ――ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!――

 五人の耳を劈く轟音。
 安っぽい硝子の窓を粉々に粉砕して、室内で炸裂する爆薬。
 コンクリートの足場が揺さぶられ、次いで熱風が吹き付ける。
 狭い室内を爆煙が充満し、燃え盛る炎が五人を襲う。何者かからの砲撃だった。
 咄嗟の判断で、なのはとミライの二人が反射的にシールドを展開。
 しかし、所詮はその場凌ぎ。シールドで防ごうと、砲撃は止まない。
 全てを凌ぎきっても、視界を遮る爆煙の中からどんな追撃が来るか解らない。

「皆さん! ここは僕が凌ぎます! だから、先に逃げて下さい!」
「でも……ミライ君!?」
「僕はこんな所で死にません! だから、早く!」

 シールドを解除する事を躊躇うなのはに、語気を強めてミライが言う。
 なのはとミライ、二人のシールドならばこの程度の砲撃など恐るるに足らず。
 されど、ここでなのはの力が欠ければ――或いは、ミライの力だけでは防ぎきれないかもしれない。

「行きましょう、なのはさん。彼の思いを無駄にしてはいけません……このままでは全滅してしまいますわ!」
「クアットロ……でも、仲間を見捨てるなんて――」
「仲間だからこそですわ。仲間だからこそ、時には身を呈して守らねばなりません。
 ここで全滅してしまえば、ミライ様の仲間を思う気持ちを無下にする事になります。ここはミライ様を信じましょう」
「……わかった」

 クアットロの言う事は正しい。
 なのははまだ釈然としない様子であったが、それが正論である事に気付いたのだろう。
 ミライの思いを代弁したクアットロに従い、なのはがシールドを解除した。

「絶対に死なないでね……ミライ君」
「GIG!」

 ミライに背を向けて走り出したなのはに向かって、ミライが叫んだ。
 GIG……それは、ミライが所属した防衛隊・CREW GUYSにおける、「了解」の合図。
 どんな困難が立ちはだかろうと、絶対に諦めはしない、GUYSの魂。
 全員がこの部屋から脱出したのを確認し、ミライは行動に出た。
 目の前に張ったシールドに全ての爆煙を集めて、それを振り払う。
 黒い爆煙は眩い光へと変わり、光はメビウスの左腕に再び熱き炎を宿らせる。
 漆黒の闇が支配するビルの内部で、眩き黄金の光が瞬いた。




「ハハハハハハッ! びっくりしただろ! 誰か死んだ!? 死んじゃった!?」

 狂ったような笑い声を上げながら、王が嘲る。
 常人を遥かに凌駕する聴力を活かして、目の前で爆煙を上げるビルへと意識を集中させる。
 聞こえる。足音が、四人――慌てて階段を下りて、こちらに向かっている。
 四人という事は、一人死んだか……? 否――

「つまんねぇの。またメビウスかよ」

 僕の邪魔をしたのは、またあいつか。
 不服そうに呟いて、漆黒のマントを翻した。
 そのまま踵を返して、王は何処かへと歩いて行った。




 側面に大きな穴が開けられたビルの正面に、四人は佇んでいた。
 パラパラと音を立てて、砕けたビルのコンクリートがアスファルトへと落下して行く。
 既に砲撃は止み、ビルの外に出た四人の周囲は、再び静寂へと姿を変えていた。

「一体誰が、こんな事を……」
「油断をするな。まだ潜んでいる可能性が高い」

 周囲を見渡すなのはに、天道が注意をかける。
 言われなくても解って居る。ただの冷やかしであんな砲撃は使わないだろう。
 きっと……というより、間違いなくこの場に先程の砲撃手が潜んでいる。
 なのはがエリアサーチをかけようと、首から提げたレイジングハートに触れた。

「あのぉ、思うんですけど、さっきのタイミング……キングの話題になった瞬間の砲撃……
 もしかしたら、この場にキングが居て――」

 感が鋭すぎるクアットロが、その名を告げた。
 だけど、それ以上の言葉を発する事は許されなかった。
 ドヒュッ、と……言葉では表現し難い擬音が響いて、次の瞬間にはクアットロの姿が消えていた。
 レイジングハートから目を逸らし、何事かと振り返ったなのはが、それを見付けるのにそれ程の時間は掛らなかった。

「クアットロォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 なのはの耳を劈く、アンジールの絶叫。
 視界に飛び込んできたのは、先程出て来たビルの壁に串刺しにされたクアットロ。
 ゾクリと、背筋に悪寒が走る。先程まで生きていた人間の死。その現実が、なのはの頭を麻痺させる。
 10年間戦場で生きて来たなのはも、こんな理不尽な死の瞬間を見た事は無かったからだ。

「……ぁ……?」

 何が起こったのかすら理解出来ていないような……そんな表情。
 クアットロの頭が、漆黒の剣によってビルに縫い付けられていた。その高さ、地上から凡そ2メートル程。
 頭部のど真ん中、深々と突き刺さった黒金の大剣。クアットロの身体を持ち上げて、コンクリを貫通する程の衝撃。
 力を失った下半身をぶらりと宙に投げ出して、頭から下を真っ赤な鮮血で染め上げるそれは、最早クアットロとは言えない。
 当然、頭蓋を叩き割られ、脳を真っ二つにされた人間が無事で居られる筈がないからだ。
 顔面を貫いた衝撃からか、両の眼球は飛び出して眼球を繋ぐ筋肉一本でぶら下がっている状態。
 最早喋る事はおろか、考える事すらも出来なくなったそれに、アンジールが駆け寄る。

「ク、クアットロ……クアットロォォォォッ!!」

 涙を流しながら、クアットロだったものに触れようとするアンジールであったが――
 アンジールの手がクアットロに触れるよりも先に、火球にも似たエネルギー弾が、クアットロに命中。
 巻き起こる爆発。目の前で、その胴を粉々に粉砕され、四肢を四方へと爆散させる。
 真っ赤な血だまりとなった箇所に、ぼとりとクアットロを形成していた“部品”が落下した。






【クアットロ@魔法少女リリカルなのはStrikerS   死亡確認】






「うおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 背中に背負ったバスターソードを握り締めたアンジールの身体が、消え去った。
 否――消えたのではない。背中の片翼による爆発的なまでの加速力で、アスファルトを蹴り、飛び出したのだ。
 標的は、少し離れた場所に居る、漆黒のマントに、漆黒の仮面の男――ゼロ。
 加速は一瞬。即座に距離を縮め、その怒りをぶつける様に……力任せにバスターソードを叩きつける。
 きぃん、と音が響いて、バスターソードによる一撃は黄金の盾に阻まれた。
 ゼロの手中に、クアットロを殺した黒金の大剣が現れた事に気付いた。
 ソルジャーの反射神経をもって、刹那の内にバスターソードを構え直した。

「フンッ!」
「くっ……うぉぉおおおおっ!?」

 果たして、アンジールの判断は正しかった。
 ゼロが振るった大剣の一撃は、アンジールの胴を切断せん勢いで迫ったのだ。
 ゼロの刃がアンジールに触れる直前、寸での所でガードに成功。
 されど、勢いまでは殺す事叶わず、衝撃でアンジールの身体が吹っ飛ばされる。
 コンクリートの壁に激突し、背中をしたたかに打ちつけたアンジールに、追撃のエネルギー弾が飛ぶ。
 されど、それが命中する直前――今度は、遥か上空から弾丸の如き速度で飛来した黄金の光に、エネルギー弾は掻き消された。

「ははっ……本当に面白くないよね、お前」
「ゼロっ……!」

 黄金の光は∞の光を形成しながら、その姿を赤と銀の光の戦士へと変えた。
 無限に続く日々の未来を守るため戦う正義の光――ウルトラマンメビウスだ。
 両手を軽く開き、ファイティングポーズで構えを取るメビウス。
 その背後に、天道総司と高町なのはが立って居た。

「これで一人脱落……ま、別にそんな雑魚わざわざ殺してやることも無かったんだけどさ」
「お前はまた……あの人と同じように、人の命を弄んで……!!」
「いやぁ、ごめんごめん、ちょっとイラついちゃっててさ。悪気は無かったんだ、許してよ」

 漆黒の仮面を外し、へらへらと笑うキング。
 全員にバレている以上、最早ゼロを演じる事に意味は無いと判断したのだろう。
 悪びれる様子なく心にも無い謝罪を告げるキング。その表情が心底楽しそうなのが、この上なく腹立たしい。
 キングは楽しんでいるのだ。仲間を殺されて、激怒する自分達を見て、悦に浸っているのだ。

「まぁ、なんか無防備そうにつっ立ってたあいつも悪いって事でさ。
 僕だけが悪いみたいに言わないでよ。まぁアレだよね……おあいこ? みたいな?」
「「「ふざけるなッ!!!」」」

 背中の片翼を羽ばたかせ、アンジールが宙へ舞い上がる。
 メビウスがその両腕を広げ、∞の光とスペシウムの光をブレスから放出させる。
 装着したライダーベルトに、怒りをぶつけるようにカブトゼクターを叩き込む天道。
 一瞬のうちに、管理局の制服をバリアジャケットへと変換し、空へと浮かびあがるなのは。
 戦闘態勢へと入る四人の姿に、キングは心底鬱陶しそうに嘆息した。

「あぁもう一々キレんなよ鬱陶しいからさぁ……」

 言いながら、キングの身体が変質して行く。
 黄金の外骨格に覆われた、どんな攻撃をも寄せ付けない無敵のボディ。
 ただの投擲でクアットロを吹き飛ばし、その上でコンクリを貫き串刺しにする程の怪力。
 そして、どんな物でも両断する最強の破壊剣、オールオーバー。
 それと双極を成す、あらゆる攻撃を防ぎきる最硬の盾、ソリッドシールド。
 最強のアンデッドを自称する、スペードの王――コーカサスアンデッドだ。

 ――CAST OFF――
 ――CLOCK UP――

 鳴り響く電子音。同時に、メビウスが掲げた両腕を十字にクロスさせた。
 無数の弾丸となったマスクドアーマーがコーカサスアンデッドに迫る。並のサリスワームならば一撃で破壊する威力だ。
 されど、コーカサスアンデッドにその程度の物理攻撃は通用しない。
 高速で迫る銀の装甲に命中する前に、コーカサスアンデッドの正面に具現化される黄金の盾。

「ははっ、効かない効かない」

 全ての装甲を弾き切ると同時に、正面のソリッドシールドに光の光線が命中した。
 光の国のウルトラマンの必殺攻撃。大量のスペシウムを光線に乗せる事で発射する技だ。
 眩い光を照射し続けるメビウスであったが、最初の一瞬を防いでしまえば何て事はない。
 腕を十字にクロスさせたままのメビウスに向かって、掌を翳した。
 上級アンデッドとしてのエネルギーが球体を無し、メビウスに向かって駆ける。
 が、発射されたエネルギー弾は、光速で駆ける一陣の赤き風によって相殺され――

 ――CLOCK OVER――

「「ハッ!」」

 次の瞬間には、コーカサスの目の前に二人の戦士が飛び込んで居た。
 弾丸の如き加速で飛び出したアンジールと、クロックアップ空間から戻って来たカブトだ。
 アンジールは目視出来た。カブトはメビウスを守る為に自分の居場所を晒した。ならば後は簡単だ。
 正面の盾でメビュームシュートを受け止めながら、両腕で二人の戦士の攻撃を受け止めた。
 左腕の甲でバスターソードを。右腕の甲でカブトクナイガンを。
 そして二人が驚愕するよりも早く、振り抜かれるオールオーバー。
 だが、その一太刀が二人に命中するよりも早く、コーカサスの腕を桜色の魔力光が拘束した。

「あぁ、そういや君も居たんだね」

 上空に視線を向ければ、そこに居たのは純白のドレスに身を包んだ魔道師。
 管理局のエース・オブ・エース。不屈の魂をその胸に秘めた、現存参加者の中でも最強の魔道師だ。
 腕に力を込め、その怪力のみでバインドを引き千切るも、その隙にカブトとアンジールは離脱。
 攻撃の機会を失ったキングは、だらしなく右腕を垂らし、無防備な姿を晒す。

「ま、何人掛かりで来ても無駄だと思うけど……って、話す隙もないのかよ!」

 今度は、光輝く大剣が上空から振り下ろされていた。
 メビュームナイトブレード。先程の戦いで、自分を敗北に追いやった剣だ。
 先程の敗北は、自分の慢心による所が大きい。最初から防げない攻撃だと解って居れば、対処のしようもある。
 メビュームナイトブレードが当たる前に、その身を翻し、アスファルトを一回転。
 そのまま上体を起こした瞬間――コーカサスを襲う、バスターソード。
 その一撃をオールオーバーで弾き返し、追撃で振るわれたメビュームナイトブレードを再び前転で回避。
 メビュームナイトブレードは、その剣の巨大さ故に、モーションが全て大ぶりなのだ。
 その攻撃が全て自分を狙っていると分かって居れば、回避するのも容易い。
 今度は背後からカブト、正面からアンジール。二人とも各々の剣を持っての攻撃だ。

「ハァッ!」
「フンッ!」

 されど、バスターソードはソリッドシールドによって阻まれた。
 カブトクナイガンは、オールオーバーで受け止め――振り向き様に、一閃。
 カブトの胸部装甲を大胆に切り裂いて、その身を吹っ飛ばす。
 今度はバインドされようが攻撃を続けられる様に、全力で振り抜いたのだ。
 如何にヒヒイロノカネで作られた装甲であろうと、ただでは済まない。
 カブトの赤き装甲に黒く裂けた一筋の傷跡を与え、尚も追撃は止まない。
 吹っ飛んだカブトの身体に、更に一撃エネルギー弾を叩き込んだ。

「ぐっ……!?」
「ハッ、弱い奴が徒党を組んだところで変わんないのにさぁ」

 カブトの身体が大胆に爆ぜて、遥か後方のビルの壁に叩きつけられる。
 激突したコンクリの壁には大胆に罅が入って、その場に崩れ落ちるカブト。
 しかし、そんな勝利の余韻に浸っている隙は無い、すぐに繰り返される、アンジールによる攻撃。
 更には、メビュームナイトブレードの光を小さく凝縮したメビウスが、アンジールと共に駆けていた。

「チッ……僕、その攻撃嫌いなんだけどなぁ」

 咄嗟に精製したソリッドシールドが、光の粒子を撒き散らしながら真っ二つに裂けた。
 メビュームナイトブレードによる一閃。美しいまでの切れ味。
 勢いそのまま、もう一度振るわれたメビュームナイトブレード。
 同時に、背後から迫るバスターソード。見事なまでの連携攻撃。
 だが、まだ甘い。

「ふんっ!」

 メビュームナイトブレードを振るう腕に、下方から振り上げたオールオーバーをぶつける。
 カウンターの要領で入った一撃は、メビウスを怯ませるには十分。しかし、これで終わりでは無い。
 矢継ぎ早にその身を翻し、繰り出す攻撃は後ろ回し蹴り。仇敵・仮面ライダーカリスが得意とした戦法だ。
 それをアンジールの腹に叩き込んで、もう一度方向転換。今度は向かい合ったメビウスに向かって、剣を振り下ろす。

「はっ!」
「デュァッ――!?」

 メビウスの胸を、オールオーバーが綺麗に切り裂いた。
 カブトと同じように、メビウスの身体の表面に大きな切り傷が出来る。
 そこからまるで血液の様に光の粒子が漏れ出すが、構う事は無い。
 そのままオールオーバーを突き刺してやろうと、真っ直ぐに突き出す。

『GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』
「――っ!?」

 巨大な竜の翼が見えた。巨大な竜の雄叫びを聞いた。
 見間違いなどでは無い。それはまごう事無き巨大な飛竜、フリードリヒ。
 オールオーバーを突き出すよりも先に、巨大な竜の尻尾がコーカサスを横薙ぎに殴りつけた。
 メビウスに切り裂かれた直後のソリッドシールドなど使い物にもならず、そのままアスファルトを転がる。
 同時に、桜色の光の奔流が、コーカサスを飲み込む様に炸裂する。

「シュワッ!」
『GUOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 これはチャンスだ。最高のチャンスだ。
 メビウスもその左腕を突き出し、赤と青の光の奔流を発射。
 ヒカリの力を、メビウスの力。二人分の光とスペシウム。
 さらに、上空を飛翔するフリードが、その口から灼熱の火炎を放出した。
 なのはが放った魔力光が爆発する前に、メビウスの光線と、フリードの火炎が直撃した。

 ――ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!――

 同時に巻き起こる大爆発。
 暴力的なまでの、爆風と熱風。耳を劈く強烈な爆発音。
 周囲の瓦礫を吹き飛ばした衝撃波が、なのはやメビウス達を襲う。
 爆発が止んで、白と黒の爆煙と燃え盛る灼熱の炎が視界を奪う。
 この場に居る誰もが、爆心地に居たコーカサスの最期を想像した。
 されど、現実は非常であった。

「あっぶねぇ……今のは流石に死ぬかと思った。いや、僕死なないけど」
「そんな……! アレでも倒せないのか!?」

 白い爆煙を振り払い、立ち上がったのはキングであった。
 驚愕の声を上げるメビウスをよそに、キングが左腕に装着された白い機会を掲げる。
 緑のカードが一枚だけ装着された、無機質な白のディスク。
 見たところ、何枚かカードをセット出来る様に見える。
 それをこれ見よがしに見せびらかしながら、コーカサスが口を開いた。

「技が当たった直後に、こいつを使ったのさ。お陰で僕は全回復、さっき以上に健康体って訳。
 さぁ、第二ラウンドと行こうよ。僕はまだまだ元気だよ、ヒーローの皆」


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