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抱えしP/makemagic ◆7pf62HiyTE




 誰もが自分は正しいと信じて行動している。
 だが、果たしてその行動は本当に正しかったのか?
 その行動の結果はもしかしたら誤りだったのかも知れない。
 また、誤りだと判断した選択がもしかしたら正しい選択だったのかも知れない。



『世界は何時だってこんなハズじゃないことばっかりだよ!』



 ある事件である執務官が語った言葉ではあったがそれはまさしく真理だ。
 自分が信じた行動をとった所で突き付けられる結果は裏腹な現実だ。

 最善と信じた行動の結果が、最悪な結果をもたらす事もある――
 また、最悪だと考えられた方法が後に最善の選択だったのかもしれないと言われる事もある――





 世界は矛盾に満ちている――
















 デスゲームが開始してから27時間以上が経過――
 60人いた参加者は6分の1の10人にまで減少、
 C-9にあるジェイル・スカリエッティのアジトに集結しようとしていた参加者は散り散りになりそれぞれの戦いを繰り広げている。

 仮面ライダーカブト天道総司はD-9にてアンジール・ヒューレーとキングと激闘を繰り広げ、金居は彼等を出し抜く為に機を伺っていた。
 スバル・ナカジマはC-9にて泉こなたの仇討ちをせんとする柊かがみを止めんと対峙していた。
 ユーノ・スクライアはヴィヴィオを背負い、再び仲間達が合流出来ると信じE-7の駅へと向かっていた。

 そして、残る2人は――

















「はぁ……はぁ……」



 森の中を少女が駆ける――彼女の名は高町なのは、機動六課スターズ分隊長の彼女は左手にレイジングハートを構えひたすらに対峙した相手と適度に距離を取りつつ森を駆ける――



「……!」



 振り向きざまに魔力弾を瞬時に生成し打ち出し背後に迫っていたビット型のニードルガンを撃ち落とす。しかしすぐ後ろに別のビットが迫る。



「甘いよ」



 だが、僅かに視線を向けそのまま魔力弾を発射し迫っていたビットを撃ち落とした。



「レイジングハート、周囲の様子はどう?」
『ビットがまだ数個周辺を飛び回っています』
「向こうとの距離は?」
『距離を取りすぎた為、詳しい状況は不明。ですが、この様子では未だ戦闘を繰り広げているでしょう』
「周囲に他に誰かいる?」
『No...今現在一番近くにいるのは『彼女』だけです』
「そっか……まだ天道さんとアギトの行方は掴めないか……」



 攻撃をかわしながら移動する最中、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの死体を見つけた。本来ならば弔いたかった所ではあったが状況が状況、手を出す事が出来ず移動を余儀なくされたのだ。



『状況から考えて彼を殺したのは……』
「言われなくてもわかっているよ……」



 そう言いながら連続で魔力弾を発射し次々とビットを撃ち落としていくが、



『左横、来ます』
「くっ」



 左腕を狙い一筋の聖杭が迫る。しかし、レイジングハートの察知が一手早かったためそれは命中する事無く回避出来た。



「ありがとう、レイジングハート」
『お気になさらず。ですが、このままでは……』
















「やっぱりそう簡単にはいかんか」



 森の中で少女がそう零す――彼女の名は八神はやて、右手に巫器(アバター)の第六相<誘惑の恋人>憑神刀を、左手に夜天の書を持ち目標を仕留めんと鋭い目を向ける。
 憑神刀の持つスキルである薔薇型のニードルガンを生成する愛の紅雷を複数放ちその対処に追われた隙を突き鋼の軛で利き腕である左腕を破壊する。
 それを目論んで仕掛けた攻撃ではあったが今の所失敗に終わっている。



「レイジングハートとなのはちゃんのコンビはそう簡単には崩せんか……」



 その最中少し離れた場所で戦いの音が聞こえてくる。



「少し離れすぎたか……チッ」



 舌打ちの音が響く。なのはの作戦に乗せられていると感じたのだ。
















 2人の置かれている状況を今一度整理してみよう。
 そもそもの話、2人が戦っている原因はシグナムを殺し他の参加者も殺そうとしていた柊かがみの処遇を巡っての対立だった。
 誤解の無い様に書いておくが、かがみが殺し合いに乗っていたのは過去の話で、合流の段階では殺し合いに乗った事を反省しはやて達に謝罪しようとしていた。
 だが、はやてはかがみを許すことなく断罪しようとし銃口を向けた。だが、なのはがそれを許すことなく彼女に立ち塞がったのだ。
 その後、ヴァッシュが持っていた千年リングに宿るバクラの陰謀でリインフォースⅡが惨殺され、それに逆上したはやてが広域攻撃で周囲を吹き飛ばしたのだ。
 そして、ヴァッシュを殺害した後はやてはかがみを見つけ愛の紅雷を放ったがこなたが庇う形でその攻撃を受け死亡。
 なおもかがみに迫ろうとした所で駆けつけたなのはが立ち塞がっているというわけだ。
 なのはははやての牙がかがみに向けられるのを防ぐ為、戦いながら少しずつ場所を移していた。
 攻撃を仕掛けては防がれ、攻撃を仕掛けられてはかわし続け繰り返す事何十回、時間にして数十分、何時しか2人の戦場はC-9を離れC-8まで移動していた。
 前述の通りかがみ達はC-9にいる為、かがみから距離を取るという意味ではなのはの作戦は上手く行っていたのだ。

















「本音やったら今すぐにでもあの餓鬼んトコに向かいたいんやけど……けど、その前になのはちゃんに撃たれるわなぁ……」



 今ここでなのはを放置しかがみの所へ向かおうとしたら長距離からの砲撃魔法の餌食になるのはほぼ確実。故に、現状でなのはを放置するわけにはいかなかったのだ。



「出来るだけ早く決着を着けたいけど……」



 そう言いながら手元にあるカートリッジを使い消耗した魔力を補充した。
 憑神刀と夜天の書という2つのデバイスを使い次々と攻撃を繰り出す事による消耗は決して小さくない。特に憑神刀は絶大な力を与える反面通常のデバイスとは比較にならない程の負担を強いる。
 それ故に、はやては合間をみてはこうしてカートリッジの魔力を回復に使っていたのだ。そして、今使ったカートリッジが最後のカートリッジである。



「魔力の補充手段はもう無い……けどまだ私の方が優勢や……」



 なのはと違い、その声に答える者はいない。
















 一見すると2人の戦いは互角に見える。
 実際の所両者の能力だけを見た場合は殆ど互角と言って良い。魔力の総量ははやての方が上だか、戦闘経験という分野ではなのはの方が秀でている。
 それらを考えれば両者が互角に見えるのはある種当然とも言える。
 また、戦闘開始時点では万全なはやてに対しなのははそこそこに消耗していた。しかし前述の通りはやての魔力消耗はなのはとは段違いに大きい。
 故に総合的な部分を見ても互角、もしくははやてがやや有利程度と見る事が出来るだろう。

 だが果たして本当にそうだろうか?
 本当に互角に近い状況と言えるのだろうか?



 2者の戦いは森林の中で繰り広げられている。両者共に空戦スキルを有しているにも拘わらず、殆ど空中に出ての戦闘は行っていない。
 その理由は2つ。1つは飛行魔法を使用しての消耗を抑える為、もう1つは空中に出る事により攻撃の的になる可能性が高い為だ。
 一方、地上では森林という地形という事もあり木々が適度に視界を遮ってくれる。同時に今はまだ視界の悪い夜中、その点を踏まえても下手に空中戦を仕掛けるよりは地上で戦った方が都合がよい。
 その判断により互いの策敵が遅れ戦闘の早期決着を阻み膠着したともいえるが、それは逆に双方に度々思考する時間を与えてくれているのだ。

















「レイジングハート、はやてちゃんまでの距離は?」
『北西20から30位の所です』



 周辺及びはやての次の行動を警戒しつつなのはは木の影で息を整える。数十メートル離れた先でははやてがビットを展開しつつ周囲を探っているのがわかる。



『妙ですね……あれだけの魔法を繰り出していながらマスター程疲れている様には見えません』
「うん、私もそう思った」



 思えば、最初に仲間達を散り散りにした広範囲攻撃の時点ではやては著しく消耗している筈だ。
 しかし、対峙した段階では何故か消耗は見受けられなかった。
 むしろ、合流した時点よりも元気になっているとすら思える。
 更に、長々と戦いを繰り広げている割に消耗の度合いも少ない。あれだけ魔法を繰り出せばなのはと同じとまではいかなくてもある程度は疲労していなければおかしい。



「回復道具があった……でも、あったんだったら先に合流していた筈のユーノ君が知らないのも妙だし……」
『Mr.ユーノ達に隠していたか……もしくは……』



 それはなのは自身認めがたい推測だ。だが、状況を考えれば有り得ない話ではない。



「もし、それが本当だったら許せないよ……」



 同時に脳裏にある人物が口にしていた話を思い出す。その話は信じがたい内容であったし、口にした人物自体も信用に値しない人物であった為、なのは自身その話を殆ど信用していなかった。
 だが、火のない所に煙は立たないとはよく言ったものだ。今のはやての様子を見る限り、彼が此方を攪乱する目的で口にしたとしてもその話を持ち出した事に無理は感じない。
















 そう考えていると、
















『なのはちゃん、もうやめにしないか?』



 はやてからの念話が頭に響く。近付かれたか近付きすぎたかどうかは不明瞭だが念話可能な距離まで来ていたらしい。すぐさまなのはは距離をある程度取ろうとする。とはいえ、一抹の可能性を信じなのはは何とかそれに答えようとする。



『やめにするって事は、考え直してくれたって事?』
『何を言っているんや、なして私の方が折れなあかんの? 折れるのはなのはちゃんの方や』



 はやてはなのはに降伏し自分の言う通りにしろと言ってきたのだ。



『それでかがみを殺すのを見逃せっていうの?』
『せや、そもそも私等が戦っている場合じゃ無いっていったのはなのはちゃんやで、あの餓鬼がおらんかったら全て上手くいくんや』
『同じ事を繰り返すけどかがみは殺させないよ』



 何時念話が途切れ戦闘が再開するかはわからない。故になのはは警戒を一切解かず森の中を走り回る。同じ様になのはとの一定の距離を保つ為にはやてもまた森の中を動く。



『もう殺し合いに乗っていない……けど、実際はどうや? デルタに変身してスバルと戦っているやん。すぐにでもスバルに加勢してかがみを仕留めた方が賢い選択やで?』
『私はスバルを信じているよ。スバルだったらそう簡単に負けたりなんかしないし、かがみだってもうスバルを殺したりなんかしないよ』



 そうは口にするもののスバルに加勢した方が良いというのはなのは自身も考えている。
 なのはの手元には先程ヴァッシュの遺体を見つけた際に拾ったスバルのリボルバーナックルがある。それを考えるなら早々にスバルと合流してそれを渡したい所だ。
 だが、はやてにかがみを殺させるのを阻止する為にはここで引くわけにはいかない。



『はやてちゃんがかがみを殺さないって言うんだったら何時でも引いてあげるよ。でも殺すって言うなら……』
『言う事聞かないならぶっ飛ばしてでも言う事聞かせる……相変わらずなのはちゃんらしいやり方やな』
『褒め言葉? それとも皮肉?』
『只の感想や、けどそれはぶっ飛ばせるって前提が無いと成り立たないやろ?』




 はやてがなのはに降伏を呼びかけた理由、それは――



『私じゃはやてちゃんに勝てないって事?』
『そういう事や』
『はやてちゃんの実力は知っているけど、私とそこまで差があるとは思っていないよ』
『それは私も理解している。けど、実力の問題やない。ちゃんとした理由がある』



 なのはでははやてに勝てない。その確信があるからこそはやては降伏を呼びかけたのだ。
 そもそも2人が争う必然性は少ない。むしろ状況を考えるならば力を合わせて残る敵の打倒に回る方が建設的だ。
 だからこそこれ以上無駄な消耗を避けるために降伏を呼びかけたのだ。



『ちなみにその理由って何?』
『その前に1つ確認させてもらうで……聞くまでもない話やけど、誰も殺すつもりは無いんやろ』
『本当に聞くまでもない話だね……勿論、出来るだけ殺すつもりはないよ』



 キング辺りは流石に殺す事も辞さないが、それ以外は極力話し合いで何とかするつもりである事に変わりはない。それ故の返答だ。



『つまり、私を黙らせるつもりであっても私を殺すつもりはないっちゅう事やな』
『当然だよ、でもそれがどうかしたの?』
『それがなのはちゃんが勝てない最大の理由や、私は障害となる奴はみんな殺すつもりや』



 本心を伏せるべきという考えもあったが、今更隠す事に意味はないと判断しあえて本心を口にする。勿論、なのは自身はやての返答自体はある程度予測出来ていた。故になのはは冷静に応える。



『それがどうして勝てない理由に繋がるの?』
『わからんか? 例えなのはちゃんが私を運良く無力化出来ても生きている限り幾らでも復帰出来るっちゅうわけや』



 はやての言いたい事はこういう事だ。
 3度目の放送以降、参加者を殺害した参加者はボーナス支給品を1つ得られる。
 これにより例え疲弊した状態であっても運次第ではあるが状況の立て直しが可能となる。
 勿論、殺害した相手が持っていた支給品をそのまま自身の次の装備にする事も出来る。

 だが、参加者を殺害する意志を持たない者はそのボーナスを得る事は殆ど無い。
 戦いを繰り返して激しく消耗しても回復する手段は基本的にはない。

 つまり、殺害する意志を有す参加者と殺害する意志を有しない参加者が戦った場合、
 殺害する参加者は何度敗北しようが生きている限りボーナス支給品を得る事で何度でも戦線に復帰出来るが、
 殺害しない参加者は1度の敗北がそのまま退場に繋がる。

 前述の通り両者の戦力差そのものは致命的なまでに開いてはいない。
 それ故に両者の戦いが膠着すればする程戦闘が終わった時の互いの疲弊は激しくなる。
 だが、ここで前述の問題が大きな意味を成す。
 殺害する意志を持たない者は回復する術を持たず今後も戦いも強いられる、
 その一方、殺害する意志を持つ者は誰でも良いから誰か殺せばボーナス支給品を得る事で立て直しを行える。
 立て直しが済めばすぐに先程戦った相手と戦い仕留める事が可能。同時に更なるボーナスも得る事が出来る。

 故に、殺害の意志を持たざるなのはは殺害の意志を持つなのはに勝てないという事だ。
 敵を殺せない以上、何時かは限界が来る。その問題があるからこその指摘なのだ。

 以上の意味合いの説明を行い更にはやては言葉を続ける。



『更に言えば残り参加者は私ら入れて10人、あの場にいた7人を除いた残り参加者の中にまだ敵はおる。そいつ等と戦う事を踏まえればここで私等が戦う事にメリットは何処にもない』



 はやての言葉はある意味正しい、なのは視点で見ても参加者の中でキングとアンジール・ヒューレーは倒さなければならない敵だ。
 金居に関しても判断しかねるが敵の可能性は否定しきれない。
 後々この3人との戦いが控えている事を考えるならば無駄な疲弊は確かに避けたい所だ。



『10人……やっぱりあの人を殺したのははやてちゃんだったんだ』
『ああ、リインを殺した奴を許すわけにはいかんからな』



 真の元凶はバクラ……そう言おうとも思ったがそれについては言わない事にした。今更それを言った所でリインもヴァッシュも戻ってこないからだ。




『それで、私に比べて妙に元気なのはあの人を殺して得たボーナスのお陰なんだね』
『大した収穫は無かったけどな』
『……その夜天の書や武器も誰かを殺して手に入れたの?』
『そう思いたかったらそれでも構わん。けど夜天の書はそもそも私の物や、私の物を取り返して何が悪い? 大体、なのはちゃんかてレイジングハートどうやって取り戻したん?』
『天道さんが上手くやってくれたからだよ。私は何も出来なかったよ』



 何時しかなのはの声のトーンが落ち込んでいた。それに構う事無く森の中を駆け回りながらの両者の念話は続く。



『ずっと聞きたかった事があるんだけど……はやてちゃん、殺し合いに乗ったって聞いたんだけどそれって本当?』
『誰から聞いたんや? いや、敢えて聞く必要もないな』



 はやての知る限り、それを話しそうな人物はキングとクアットロ、それにかがみぐらいだ。予想出来ていたが故に衝撃は少ない。



『そんな事は問題じゃないよ、でも聞いた限りじゃ赤い恐竜みたいなのを殺したって話だよ』
『その件はキングが私とヴィータを仲違いさせる為に仕掛けたん罠や、ヴィータが赤い恐竜に襲われているって話でな』



 キングの悪行はなのは自身も理解している。故にはやての言動は恐らく真実だろう。だが、あの写真のはやての表情もまた恐らく真実だろう。



『で、キングの思惑通りヴィータちゃんと仲違いしたんだね』
『まぁそういう事やな』



 素直に自分の話を信用してくれた事に一応は安堵するはやてであったが、



『……はやてちゃんらしくないね』



 次になのはが口にしたのは否定である。



『どういう意味や?』
『キングに何を言われたのかはわからないけど、私の知るはやてちゃんだったらどんな理由があっても殺害を肯定なんてしないよ。
 そんなはやてちゃん見てヴィータちゃんが拒絶するのも当然の話だよ』
『私はヴィータを助ける為にやったんや、否定される謂われは何処にもない』



 冷静に応えている様に感じるが内心では少しずつ苛立ちを感じている。



『今のはやてちゃんの姿、ヴィータちゃんやシグナムさん、それにザフィーラさんにシャマルさんが見たらどう思うのかな?』
『何や……』
『はやてちゃん……闇の書事件でヴィータちゃん達がはやてちゃん達を助ける為とはいえ、どうして殺人を犯さなかったかわからないの?
 はやてちゃんを助ける事を優先するんだったらその方が確実だよ?』
『黙れ……』


 なのはが言おうとしている事を察するにつれはやての苛立ちはより募ってくる。



『はやてちゃんがそれを望まなかったからじゃないの?
 自分の幸せよりも他人の幸せを優先していたはやてちゃんの想いに応える為にみんな誰も殺そうとしなかったんじゃないの?』
『黙れと言っているやろ……』



 はやての苛立ちに構うことなくなのはの言葉は続く。



『今のはやてちゃんはどうなの?
 幾らヴィータちゃんを守るためとはいえ誰かを殺すなんて考えられない話だよ。
 それにシグナムさんの仇討ちの為にかがみを殺すのだってそう、シグナムさんがはやてちゃんが誰かに手をかける事なんて望まないよ?
 それってヴィータちゃん達に対する裏切りなんじゃ……』
『家族の為にやっているんや! 何も知らないなのはちゃんが口を挟むなや!!』





 はやての怒号が響く。それでも構わずなのはは言葉を続ける。



『家族の為……本当にみんながそれを望むと思う? リインだって幾ら仇討ちでもはやてちゃんがあの人を殺す事を望んだりしないよ』
『もうおらんみんながどう思っているかなんて勝手に決めつけるなや!』
『でも、まだアギトがいるよ。アギトが今のはやてちゃん見て……』



 なのはの知る限りJS事件後アギトはシグナムの融合騎となり同時に八神家の一員となった。残された家族であるアギトがはやての凶行を良く思うわけもない



『……アギトももうおらんわ』



 本当ならば言うつもりはなかった。だが、恐らく苛立ちが頂点にまで達していたのだろう。
 故に売り言葉に買い言葉の如くつい答えてしまったのだ。
 なのはは一瞬だけ驚いたがすぐに落ち着きを取り戻し、


『どういう事?』
『あまりにも胸糞悪い事言うから蒐集させてもらったわ。言っておくけど、ここにいるアギトはJS事件終わる前から連れて来られたらしいんや。つまりまだ私達の敵やったって事や』



 今更なのはに対し取り繕う必要など無かった。故に、真実を殆どそのまま伝えた。



『つまり、アギトも障害になるから殺……蒐集したんだ』
『そうや、今後を考えればその方が好都合やろ』
















 沈黙が続く……その間も両者の距離の取り合いは続き、はやての繰り出すビットをなのはが撃ち落とすという小競り合いが続く。





 そしてその沈黙を破り、














『もう一度だけ聞かせて、どうしてかがみを殺そうとするの?』
『何度も言わせるなや、シグナムを殺したあの餓鬼は私らの目的の障害になる、だから殺そうとした。それを妨害し……』
『はやてちゃんがそれを言うの?』
『は?』
『確かにかがみが殺し合いの乗っていたのは事実だし、何人も殺して来たことは間違いないよ。
 でもそれを言うなら私達だって何かしらの罪は犯して来たよ。フェイトちゃんやヴィータちゃん達もPT事件や闇の書事件で何かしらの罪は犯してきたよ。
 私だって自分のミスで色々な人に迷惑をかけてきたし、ユーノ君だってジュエルシードを見つけた事について責任を感じていた…… でも、みんなその罪を背負ってこれからの為に生きて来たんだよ。それがわからないはやてちゃんじゃないでしょ?』



 勿論、この場での罪とこの場に連れて来られてからの罪を同一視する事はある意味筋違いではある。
 だが、犯した罪を反省しその罪と向き合い今後を生きていくという意味では間違ってはいない。



『矛盾していると思わない? どうして自分達は良くてかがみはダメなの?』
『けど現実にあの餓鬼は私等をまた裏切ったやろ! それがわかっていたからや! 大体、あの餓鬼を殺すんはシグナムを殺したからやって何度も言っているやろ……その罪を有耶無耶にするいう……』
『有耶無耶にしているのははやてちゃんの方だよ』
『なん……やと……』



 一体自分が何時罪を有耶無耶にしたというのだ? はやてにはそれがわからない。



『納得したわけじゃないけど、かがみを殺そうとするのもあの人を殺したのも仇討ちなんだと思う』
『そうや、有耶無耶になんてしてへんやん』
『でも、はやてちゃんに仇討ちする資格なんてないよ』
『何でや! 私以外の誰が無念を晴らせるんや!?』
『こなたを殺したのは誰の仇討ち? アギトを蒐集したのは誰の為? 夜天の書を持っていた人ははやてちゃんの家族を殺したの?』
『それは……』
『それにあの赤い恐竜を殺したのは? ヴィータちゃんを襲っていたからだとしてもあの時点ではまだヴィータちゃん殺されていなかったよね?』
『なんやねん、私が何か間違った事した言うんか? みんなを助ける為に障害を取り除いた、それの何処に問題がある?』
『言いたい事はわかるし、やった事を今更言っても仕方ないよ。でも、はやてちゃんその事について少しでも悪いと思った?』
『思うわけなんてあるかい』



 一々、良心を痛めていては目的を達成する事は出来ない。実際、今更自分が悪いとは思っていない為はやてはそう答えた。



『自分で何言っているかわかっている? それかがみがはやてちゃんに言ったのと同じだよ』
『違う、私が殺したのは本当に障害になった奴等だけや。何もやってへん奴を殺してなんかいない』



 少なくても夜天の書を持った餓鬼は夜天の書やリインフォースを冒涜していたし、アギトやセフィロスは自分の家族に対する想いを侮辱していた。
 ヴァッシュに関しては何度も触れている通り今更語るまでもない。
 こなたに関してもかがみに自分の怒りを思い知らせるという意味で良心の呵責は全く感じていない。
 赤い恐竜はそもそもゴジラみたいな怪物だ、そんな奴に配慮する心なんてない。



『何がはやてちゃんにそこまでさせたのかはわからないし、全部見てきたわけじゃないからもしかしたら本当にはやてちゃんの言う通りだったのかも知れないと思う……
 だけど、やっぱりアギトとこなたを殺した事に関してはどうしても理解出来ないよ』
『なしてわからないんや!』
『だって、アギトははやてちゃんの行動を諫めようとしただけだよ、確かにあの時は敵だったのかもしれないけどアギトは騎士ゼストに恥じる生き方なんて絶対しない!
 それをはやてちゃんは……』
『五月蠅い……』
『こなたにしたってそう。かがみの友達ってだけで殺したんだったらそんなの絶対に許せないよ。そんな自分勝手な理屈で人を殺すはやてちゃんに仇討ちをどうこういう資格なんて無い!』
『五月蠅いって言っているやろ!』



 苛立ちは既に怒りに変わっていた。何故ここまで自分の行動を否定されなければならないのだろうか?




『かがみがデルタに変身した本当の理由……はやてちゃんにはわからないの?』
『だから何度も言わせるなや、あの餓鬼は私らを騙……』
『かがみ……言っていたんだ、自分が殺されるのは仕方がないけどこなたは助けてって……』
『何……?』



 あの後意識を取り戻したかがみは真っ先にこなたの身を案じた。そしてなのは達に自分の事よりもこなたを助けて欲しいと頼んだのだ。
 恐らくかがみははやてが復讐のために自身の目の前でこなたを殺害する可能性を考えていたのだろう。
 自分よりも友達の事を心配する、それがかがみの本来の姿なのだろう。



『はっ、そんなんなのはちゃん達を騙す為の方便に決まっているやろ』
『そう思いたいんだったらそれでも良いよ……でも現実にかがみが恐れていた事は起こったんだ……』
『それで?』
『かがみはこなたを殺したはやてちゃんを殺す為に変身したんだと思う。シグナムが殺された仇討ちをしようとしたはやてちゃんと同じなんだよ……』
『あんな餓鬼と私の想いを一緒にするなや!』



 かがみのこなたに対する想いと自分の家族に対する想いが一緒? 考えただけで腑が煮えくりかえる、故にはやてはそれを否定する。
 だが、その言葉こそがなのは自身引けなかった最後の引き金を引かせた。







『はやてちゃんにかがみを侮辱する資格なんてない! ううん、誰の想いや願いを否定する権利も資格もない……





 はやてちゃんは機動六課の部隊長でも……





 八神家の主でも……





 私やフェイトちゃんの友達でもない……





 只の……只の人殺しだよ……』







 なのはとて10年来の友情を否定したくはない。だが、自分の考えに凝り固まり、他者の言動を否定するだけの彼女の姿に遂になのは自身怒りが頂点に達したのだ。



 だが、それははやてにとっても同じ事、自分の考えについて一向に理解を示さないなのはにはほとほと愛想が尽きかけている。
 正直、命までは取るつもりはなかったがもはやそんな考えは捨てた。なのはも最早障害以外の何物でもない。
 消耗を抑える為、何とか説得で場を収めようとしたが最早そんなつもりはない。絶対にここで排除するつもりだ。



『最後に1つだけ聞いておくわ……ゴジラって知っているか?』
『ゴジラ? 何それ?』
『そうか、知らへんのやったらそれでもええわ』



 元々ある程度予測していたがこの返答で確信した。ここのなのはは自分の世界のなのはではない。故にここで排除する事に何の問題もない。



『言っておくが、私の優勢に代わりはないで。
 そもそもの話、なのはちゃんの狙いに気付かないとでも思ったんか?
 自分に注意を引きつけたまま最小限の魔力で私の攻撃を防ぎ続ける戦法……私の魔力切れを狙っているのはバレバレや。
 それで魔力が切れた所を全力全開の砲撃魔法で撃ち落とす……悪い戦法やないけどわかっていれば幾らでも対処できるで』
『……』
『その見立てに間違いはない。けど、なのはちゃんの調子を見る限り、私の魔力が切れる頃にはなのはちゃんの魔力も殆ど残らないと違うん?
 それに、そんな戦法で来るとわかっていて素直にやらせるアホもいないやろ? 私の魔力が切れる前になのはちゃんの方を仕留めれば何の問題もない』
『……その割にはずっと防がれている気がするけど?』
『なのはちゃんが魔力を温存していた様に……私の方もある程度温存していたっちゅうわけや、何しろなのはちゃんの後にはかがみやキングを倒さなきゃならないからな』
『言っておくけど、今のはやてちゃんだったらユーノ君やスバルも邪魔するよ。それに天道さんだって……』



 ユーノとスバルが今のはやての暴挙を許すわけがない。きっと2人も自分と同じ様にはやてを止めようとするだろう。
 天の道を往き総てを司る彼が今のはやてを見たら何て言うだろうか? きっと天の道を外れたと言ってはやてを止めようとする。不思議とそんな気がした。



『私の邪魔をするなら倒すだけや。天道さんがどれぐらい戦えるかは知らんがユーノ君やスバル程度が今の私に勝てるとは思えないけどな』





『……スバルもユーノ君ははやてちゃんが考えているよりもずっと強いよ……でも天道さんもユーノ君もスバルもはやてちゃんとは戦わせない……


 はやてちゃんはここで私が止める! それが友達としての私の責任だから!』





 その言葉を最後に念話は途切れた。次の瞬間、なのはが全力で駆けだしはやてとの距離を開こうとしたからだ。





「友達……か、けど例え友達でも私の目的を邪魔させへん……」



 そう言って、薔薇のニードルガンを次から次へと射出する。その量はこれまでの数倍だ。
 後々の戦いを踏まえていた為ある程度温存していたが最早なりふり構ってはいられない。
 物量戦に持ち込みなのはを先に疲弊させ仕留めるという事だ。
 なのはがしびれを切らし砲撃魔法を撃って来たならばそれを防ぐ手段は幾らでもある。
 普通に防御魔法を使って防ぐ事も出来るし、憑神刀には今まで使わなかった最大の切り札もある。
 消耗の問題がある為出来るだけ避けたかったが、なのはを仕留めた際のボーナスを使うなり、なのはが持っている支給品を使えばある程度回復出来るだろう。
 よしんば回復しきれなかったとしてもその後で互いに戦い疲弊したスバルとかがみを仕留めれば更なるボーナスを得られるので何の問題もない。
 どうせどっちも障害にしかならないのだ、殺した所で何の問題もないだろう。



「そうや、私は何も間違った事はしていない。家族を……家族を取り戻すんや! その為やったら何を犠牲にしても構わん!」















 その攻撃は先程までの非ではない。1つ撃ち落とせば今度は2つ、2つ撃ち落とせば今度は3つという風に攻撃ペースは格段に上がっていた。
 なのはは自分を襲うビットを次から次へと撃ち落としていくが目に見えて疲労の色が濃くなっていく。



『マスター、プロテクションは何時でもいけますよ』
「まだ使わないで……言った筈だよ、出来るだけ消耗は抑えるって……」



 この戦いの際、なのはは殆ど防御魔法を使っていない。長年の鍛錬で培った経験だけで撃ち落としと回避を続けている。
 直線的なものではなく三次元の攻撃を可能にしその自由自在な軌道で攻撃対象になった者を苦しめるビットによる攻撃ではあるが、所詮は1人の手によって繰り出されているものだ。
 どれだけ繰り出す人物が優れていても、扱う者が1人である以上、結局の所腕の数を増やしての攻撃と殆ど違いはない。
 集中力を途切れさせなければ対応出来ないものではない。

 高町なのはは管理局のエース・オブ・エースなど呼ばれている。それは彼女の持つ魔法の才能が開花したからだとよく言われている。
 確かにその見立てそのものはある程度は正しい。才能無くして彼女がエース・オブ・エースになる事はなかった。
 だが、魔法に出会う前の彼女はそれこそ普通の少女だった。彼女の家は武術家であったが、なのは自身は体育は苦手だったのだ。恐らく、スバル達がその話を聞けば驚くだろう。
 その彼女がここまで戦える様になったのはひとえに長年の訓練のたまものだ。特に8年程前に再起不能になる程の負傷してからはより一層基礎を重視する様になった。
 更に言えば彼女自身、指揮に回るよりも前線で戦ったり実戦による訓練を繰り返したりする事が多く戦闘経験は非常に豊富だ。
 長年培われた経験、それが彼女を管理局のエース・オブ・エースと呼ばれるまでに成長させたという事だ。

 その経験はこの場において最大限に発揮されている。
 そもそも闇の書事件の辺り、なのはは誘導弾で空き缶を落とさずに当て続けるという訓練を繰り返してきた。
 10年もの前からそういう訓練を積んできた彼女にとって、迫るビットを撃ち落とす事などそこまで難しい話ではない。

 だが、攻撃はビットだけではない。ビットの合間を縫うが如く鋼の軛による波状攻撃が飛んでくる。先程までの腕狙いの攻撃ではなく今度はその命を刈り取る為に牙を向けている。
 幸いなのは及びレイジングハートがギリギリの所で察知出来ているため未だに直撃は喰らっていないのが不幸中の幸いだ。
 また、消耗を抑える為ではあってもむやみにバリアジャケットを解除する事は出来ない。バリアジャケットを解除すれば恐らく旅の扉で直接リンカーコアを掴み取ろうとする可能性が高い。
 別に実際にリンカーコアを直接攻撃する必要はない。一時的に動きを封じる事が出来ればそのまま連続で攻撃を叩き込めばその時点で終わりだ。
 バリアジャケットを展開している限り旅の扉による直接攻撃の危険は少ないが、闇の所事件で一度その攻撃を受けている以上警戒を怠るつもりは全く無い。

 だが、状況は明らかに悪化している。確かにはやての攻撃は何れも回避出来ているがなのはの消耗も決して小さくはない。
 このまま戦い続け疲弊が続けば何れは限界を迎える事になる。
 プロテクションを使おうにもあれだけの攻撃を防ぐとなると無駄に消耗が激しくなる。完全にジリ貧状態に陥ってしまったと言えよう。





『マスターの作戦は完全に読まれています。今のままでは勝てる可能性は低いでしょう』



 なのはがはやてを無力化させる為の作戦は先程はやてが語った通りで大体正解だ。
 かがみに矛先が向かない様に自分に注意を向けたまま戦場を移し、必要最小限の魔力の消費ではやての魔力を使い切らせ疲弊した所を全力全開の砲撃で仕留めるという至極単純なものだ。
 確かに後先考えない全力全開ならば短時間で無力化出来る可能性もあろう。だが、キング等他の敵もおり、更にヴィヴィオ達を守るという事を考えるならばこの戦いで全てを使い切るわけにはいかない。
 それ以前に、可能性があるとはいえそこそこに疲弊した状態でほぼ万全のはやてを短時間で止めるのは難しい。故に時間をかけてでもはやてを消耗させるという作戦を選んだのだ。
 上手く時間を稼げればかがみを無力化したスバルや、はぐれていた天道が援護に来てくれる可能性もあった。
 本音を言えば自分1人で決着を着けたいという想いも無いではない。だが、前述の通りこれで終わりではない以上、それに拘りすぎて足元をすくわれる可能性もある為、そこに拘るつもりはなかった。

 だが、実際はなのはの思う通りにはいかなかった。
 はやての魔力総量を甘く見すぎていたのに加え彼女は魔力の回復手段を所持していたのだ。これでははやての魔力が尽きた所で、最後の一撃を加える程の魔力が残るかどうかは不明瞭。
 さらにあれだけあからさまな事をしていたが故、当然といえば当然だが作戦も読まれていた。こちらの作戦がわかっている以上はやてがその対策をとるのは考えるまでもない。
 おまけにスバルや天道の援護も期待出来ない状況だ。信じたくはないが、2人とも倒されている可能性も否定出来ない。

 なんにせよ、作戦の見直しが必要だろう。

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