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抱えしP/DAYBREAK'S BELL ◆7pf62HiyTE





 はやての猛攻を避ける為、なのはは距離を取ろうと森の中を駆ける。



『距離が開き過ぎています、逃げたと判断されればMs.かがみの方に矛先が向けられますよ』
「今のはやてちゃんなら私を逃がしたりはしないよ!」



 そう言いながらビットによる猛攻を避けつつ移動を続けた。ビットによる猛攻も目に見えて減少し周辺に静寂が訪れる。それはさながら嵐の前の静けさの様な――
 なのはは息を整えつつ自身の持つ道具を改めて確認する事にした。



 まずは自身の相棒ともいうべきレイジングハート、搭載されているカートリッジは未だ未使用だがあくまでもこれははやてに一撃を入れる為の切り札、使い所を誤るわけにはいかない。



『ですが、使わないで仕留められては意味がありません。そうなればMs.はやては私のカートリッジを使うことでしょう』
「それをさせるつもりはないよ」



 次にブーストデバイスであるケリュケイオン、自身にブーストをかければ一時的に対応はしやすくはなる。



『しかし……』
「その分魔力の消費は激しくなる……か」



 そして先程拾ったリボルバーナックル。だが、重量も重くなのはの戦い方には合わない為使用には適さない。おまけにカートリッジは既に抜き取られている。



「これは後で何とかスバルに渡すしかないね」
『この場を切り抜けてという前提になりますが』



 真面目な話、これだけでどうやって対処しろというのだろうか? バリアジャケットの下の和服の持ち主の様な奇策を考えそれを実行する事などなのは1人では困難だ。



「ティアナやスバルもこんな気持ちだったのかなぁ……」
『あの時の模擬戦ですね』



 それはホテルアグスタの一件の後に行われた模擬戦での事だった。アグスタでの誤射の失敗を挽回せんとティアナ・ランスターはスバルを巻き込み無茶な特訓を重ね、模擬戦でも無茶な戦法でなのはに挑んだ。
 なのははその無茶を諫める等の理由でティアナを一蹴した後、更にもう一撃加えたわけだがその事はこの場ではあまり問題にはしない。
 重要なのは、あの2人が絶対的に格上の相手に勝つ為に色々思案や努力を繰り返していた事だ。
 2人が模擬戦までに、どれだけの作戦を考え試行錯誤していたのだろうか? 生半可な作戦は通じないと何度絶望したのだろうか?
 完全に同一とはいかないまでも、似た様な境遇に立つ事で今更ながらにティアナの心境を真の意味で理解出来たような気がした。



「……でも、今は感傷に浸っている場合じゃないね」



 そう言いながらリボルバーナックルをデイパックに戻し、更に中を探りあるものを見つけた。



「これは……」






『にゃのは……アイツを止めてくれ……』





 不意にヴィータの声が聞こえた気がした。



「ヴィータちゃん?」
『何も聞こえませんでしたよ』



 レイジングハートが知覚できないという事は恐らく只の幻聴だろう。だが、なのはにはそうは思えなかった。



「そうだね、ヴィータちゃんも今のはやてちゃんを止めて欲しいんだね……」



 きっとヴィータもはやての暴挙を悲しみなのはに止めて欲しいと願っているのだろう。



「なんかちゃんと名前呼べていなかった様な気がするけど……」
『だから何も聞こえませんでしたよ』



 恐らくそれはヴィータだけではない。シグナム、シャマル、ザフィーラ、それにリインやアギトも止めて欲しいと願っている。
 彼等の家族にして主のはやてが家族の為とは言えその手を血で汚す事など望むわけがないのだから――
 更に、リインフォースも呪われし存在だった自身に名前を与えて救ってくれた者が他者を傷付ける事など願っていないだろう――



「それにフェイトちゃんだって願っている――」



 それだけではない。はやてを止めるだけではなく、この哀しいデスゲームを打破する事を皆は願っている筈なのだ。
 フェイト・T・ハラオウンやクロノ・ハラオウン等多くの者達は願い半ばにして散っていった。
 だが、彼等の願いは決して消えやしない。彼等の願いは今もなのは達生き残った者達の中に生き続けている。
 いや、散っていった者達だけではない――



「スバルに天道さんだって戦っている――」



 今も仲間達を信じ自分の戦いを続けている者達も願う事は同じ――



「ヴィヴィオだって私の事を待っている――」



 ようやく会えた娘も望む事は同じ――



 そして――



「何より、ユーノ君が私を信じてくれている――」



 全ての切欠となった少年が求める事は同じ――



「だから――レイジングハート、付き合ってくれるね」
『Yes. master』



 彼等の願いに応える為にも力の限り戦い、はやてを止め、デスゲームを破壊するのだ――

















「どこや……」



 無数のニードルガンを展開しつつはやてはなのはの探索を続けていた。



「なのはちゃんの性格上、ここで逃げるなんて事はあり得へん……こうなったら空から探すか?」



 そう考えた矢先、遠方のニードルガンが撃ち落とされる音が聞こえた。



「そこか?」



 はやては振り向きニードルガンを差し向ける。しかし今度は全くの逆方向に展開していた筈のニードルガンが撃ち落とされる音が聞こえた。



「なんやと?」



 更に木の枝が次々と落下する音が聞こえる。どうやら魔力弾で枝を撃ち落としているのだろう。



「ちょっと待てや、今までと違い速すぎる、どういう事なんや?」



 十中八九、撃ち落としているのはなのはだ。しかし気になるのはそのスピードだ。先程までと比較して格段にその動きは速くなっている。



「こんなやり方まるでフェイトちゃんやん……」



 その姿に一瞬だけフェイトの存在を連想した。まさかフェイトまでも自分の前に立ち塞がると言うのか?
 いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。広範囲に展開したニードルガンを戻してなのはの攻撃に備えなければならない。
 だが、引っかかる謎がある。今まで高速戦をしかけて来なかったのは力を温存していたからという解釈でよい。
 しかし本当にそれだけなのか? 何か重要なカラクリがあるのではないか?



「何処や? 何処からくるんや?」



 この場合一番避けなければならないのは意図せぬ方向からの奇襲、いかに強者であっても不意打ちであれば簡単に倒されるのが現実だ。
 故にはやてはサーチを駆使しなのはの姿を探す。反応こそすぐに見つけられたが夜の森という環境故に肉眼で姿を確認する事は出来ないでいた。
 何とかはやてはニードルガンを自分の死角に展開しなのはの襲撃に備える。仮に死角から仕掛けようとも先にニードルガンが立ち塞がる事になり、攻撃が一手遅れるからだ。
 程なくその目論見通り後方に展開していたニードルガンが落とされる音が聞こえすぐさま振り向く。すると、



「いた、なのはちゃんや!」



 ほんの一瞬だったが左手でレイジングハートを構えたなのはの姿を確認出来た。だが、なのはは高速で枝を落としつつ木の陰に隠れていくためすぐさま見失う事となった。




「……成る程、そういう事か」



 だが、その一瞬だけで高速移動のカラクリを見破る事が出来た。
 そう、なのはの両手にケリュケイオンが装着されていたのだ。
 合流していた段階で身に着けていたような気もするが、かがみに気を取られていた為、はやてはその存在を失念していた。
 更に言えば戦闘開始時点ではケリュケイオンは待機状態であったが為、やはり存在を見落としていた。
 ともかく、なのははケリュケイオンを駆使し自己ブーストを施す事で高速戦を実現させたという事だ。



「けど、なのはちゃん。そんな状態で戦えば消耗は激しくなる事理解しているんか?」



 自己ブーストを行えば確かに能力強化を行う事が出来る。だが反面、その状態での魔法の発動による消費は格段に増大し同時に負荷も大きくかかる事になる。
 さらに過剰なブーストをかけた場合、圧力に耐えきれずデバイスの破損や魔力の暴発を引き起こす危険性もある。

 以上の事から、はやては落ち着きを取り戻す。
 消耗などのデメリットを覚悟しての自己ブーストという事はなのはにとって勝負所という事だ。逆を言えばこの局面を切り抜けた時点ではやての勝利が確定する事を意味する。



「カラクリがわかってしまえば何て事はない。予想外の方向からの奇襲にさえ気を付ければ幾らでも対処が出来る」



 なのはがはやてを仕留める方法は2つ、完全な不意打ちで仕留めるか、圧倒的な力で押し切るかの2つだ。
 だが、なのはの姿を確認出来た時点で不意打ちへの対処は概ね可能。後は力押しによる方法という事になるが基本的には難しいとはやては判断した。
 一応接近戦も可能ではあるがなのはとレイジングハートの得意分野は中遠距離戦だ。接近戦においては基本的に憑神刀を持つはやての方が圧倒的に有利だ。
 後は砲撃を仕掛ける事になるわけだが、距離が離れすぎた場合は十分に防御や回避など対処は可能だ。
 では至近距離からの砲撃という事になるがそれならそれで対処は可能だ。
 幾ら至近距離といえどはやてを確実に仕留める程の火力で攻撃を仕掛けるまでにはワンテンポのタイムラグが発生する。
 その一瞬があればはやてにとっては十分、先に攻撃を仕掛ける自信がある。

 さらに、はやてには未だ使っていない切り札がある。それさえ決まれば確実に勝てる。





 斜め後ろから魔力弾が飛んでくる。その反応を察知しはやては振り向き障壁を展開しそれを防ぐ。
 その直後すぐ背後から別の魔力弾が飛ぶ、今度はニードルガンを差し向けそれを相殺する。
 攻撃のペースが上がっている事からすぐそこまで迫っているのだろう。







「……そこや! 行け、愛の紅雷!」







 その言葉と共に振り向き薔薇型のニードルガンを一気に展開する。その方向の先に――







 なのははいた――







「やはりな! さぁ、どないするつもりや?」







 なのはは迫り来る愛の紅雷を次々と撃ち落としつつはやてに迫る。







「来るなら来い、憑神刀の錆にしてやるわ!」








 そしてはやてまで後数メートルまで迫った所で大きく飛び上がった――







「血迷ったん……!?」







 真っ正面から仕掛ける馬鹿正直さに呆れつつはやてがなのはを見上げる――そして言葉を失った。







「ちぇりおぉー!!」







 なのはの右手には巨大なハンマーが握られていたのだ。
 そう、グラーフアイゼンのギガントフォルムだ。







『ギルモンを殺して……はやての名を語って……
 お前だけは……お前だけは……絶対に許さねぇッ!!!』







 はやての脳内にヴィータの声が響き渡る。
 偽物のヴィータが死しても尚自分に立ち塞がるというのか?
 確かあのヴィータは闇の書事件の最中から連れて来られている。故になのはの味方をするなど無いはずだ。
 それなのに自分を倒すためになのはに力を貸すというのか?

 何にせよこれは完全にはやてにとって想定外だった。自己ブーストで強化された状態でギガントフォルムの攻撃を受けきれるかどうかは不明瞭。
 何より完全に予想外の行動であったが為に防御が間に合わない。これがなのはの奇策だというのか?







 だが――







「(今更、偽物がノコノコしゃしゃり出てくんなや……)」







 今更偽物に出しゃばられた所ではやては足を止めるわけにはいかない。本物の家族を取り戻す為には何としてでもその怨念を消し去らねばならない。







「誘惑スル……薔薇ノ雫……」








 ミッド式ともベルカ式とも違う魔法陣が展開され憑神刀から一筋の弾丸が飛ぶ――







 弾丸は吸い込まれる様にグラーフアイゼンへと着弾。その瞬間、グラーフアイゼンは急速に元のミニチュアのハンマーに戻り地へと落ちていった。







「流石はデータドレイン……くっ……力が……」







 データドレイン……それは憑神刀を代表する巫器が共通して保有している最強のスキルだ。
 それそのものには攻撃力はない。だが魔力結合の術式に干渉・改竄する事が出来、人間に命中すればリンカーコアにまで干渉を及ぼす事が可能だ。
 当然、魔力によって起動していたデバイスに着弾すればデバイスの力は失われる。
 故に対魔術師においては最強最悪のスキルと言えよう。
 だが、反面消費する魔力もまた膨大、実用レベルで考えれば1回の戦闘で1発しか撃てない代物だ。故にはやての身体から一気に力が抜けていったのだ。

 それがはやての言う最大の切り札だったのだ。これが決まればなのはも――







「ちょっと待てや、なのはちゃんは何処に?」







 そう、グラーフアイゼンが落ちた時には既になのはの姿はなかった。まさかと思い周囲を見渡すと――







 レイジングハートを構えはやてを狙い撃とうとするなのはの姿を見つけた。







「(やられた……アイゼンは囮やったというわけか……)」







 データドレイン着弾直前、なのははアイゼンを捨てすぐさま後方か横へ離脱したのだろう。
 そしてレイジングハートに持ち替え、データドレイン発動で疲弊したはやてに狙いを定めていたのだろう。








「もうデータドレインは撃てへん……けど、私の全力はまだ終わってへん!」







 そう言って憑神刀を構え、







「憑神刀よ……なのはちゃんを……立ち塞がる者全てを薙ぎ払え……妖艶なる紅旋風!!」







 残る魔力をこの一撃に懸ける――







 主の叫びに呼応するが如く憑神刀を中心に烈風と薔薇の破片が森林を破壊していく――







 世界は紅に染まり、木々は倒され大地は荒れ果てていく――







 それはまさしくはやての願い通りに――







「まだや……まだ終わりやない……愛の……紅雷……」







 と、僅かに残った魔力を振り絞り愛の紅雷を放った――







 恐らくなのはは妖艶なる紅旋風を受けても再び立ち塞がってくる。だが二度と刃向かわせない為に愛の紅雷で確実にトドメを刺すのだ――







 そして、愛の紅雷は程なく紅に染まった空へと消えて行った――





















「はぁ……はぁ……」





 紅の蹂躙が終わり、C-8の森林は完全に消失し荒れ地だけが広がっていた。そしてその中心にはやて1人だけが立っていた。







『■■■――』







「流石はなのはちゃんって所か……もう殆ど魔力なんて残ってへん……」



 度重なる攻撃に誘惑スル薔薇ノ雫、妖艶なる紅旋風、そして愛の紅雷を立て続けに連発した事ではやての残り魔力は僅かとなっていた。
 真面目な話、騎士甲冑を展開するのもやっとの位だ。







『■■■――』








「けど、私の想いまでは撃ち落とせへんかった様やな……」



 だが、はやては未だ立っている。故にはやては勝利を信じて疑わなかった。



「ボーナスの転送がない……ちゅう事は何とか耐えきられたか……けど、妖艶なる紅旋風の直撃は確かに決まった筈や。もう私に刃向かう事も無いやろ……」







『■■■■■――』







「とはいえ、こっちも消耗が激しいからな……かがみ殺す前に先になのはちゃんにトドメを刺してボーナスを……」







 故に気付けなかった――







「手に入れ……」







 既に眼前まで桃色の魔力光が迫っていた事に――







 そして、気付いた時にははやての身体は桃色の光に包まれていた――





















「はぁ……はぁ……」



 恐らく今の自分の姿は他の誰にも見せられないだろう。
 とある世界の奇策師の着物の損傷は激しく素肌と下着をひたすらに露出してる。
 年頃の男性が見ようによっては劣情を催す可能性だって否定出来ない。
 もっとも、それ以前に全身に渡り切り傷が刻まれているわけではあるが。



『目標への直撃を確認しました。しかしどうなったかは不明です』
「うん……引き続き警戒を続けて……」



 そしてすぐさまバリアジャケットを再展開する。残り魔力は少なかったがまだ戦いが終わったわけではない。ここで防御を解く事など愚の骨頂でしかないのだ。
 それ以前に、下着や素肌を露出した状態で人前に出たくないという年頃の少女の心理というのもある。



「ごめんね、アイゼン……」



 足元にはグラーフアイゼンだったものの欠片が転がっている。恐らく先の攻撃で上手くなのは達の所まで飛んで来たのだろう。
 だが、攻撃に耐える事が出来ず遂に砕けたという事だ。



「でも、アイゼンがいたからここまでやれたんだ……本当にありがとう」



 そう、なのはの立てた作戦はグラーフアイゼン無くして成り立たなかった。
 まずケリュケイオンの力を駆使し自己ブーストを施し高速で立ち塞がるビットを撃ち落としつつ接近しながらはやてを翻弄する。
 そしてタイミングを見計らって急接近し――グラーフアイゼンを起動しそのまま叩き付けようとしたのだ。
 はやてはグラーフアイゼンの存在を知らない。故に接近戦を仕掛ける所までは予測出来てもグラーフアイゼンが来る所までは読み切れない筈だと読んだのだ。

 グラーフアイゼンで仕留めるつもりだったのか? 答えはNoだ。そもそもなのはは最初からグラーフアイゼンで仕留めるつもりはなかった。
 それははやてに妖艶なる紅旋風を使わせる為の布石だったのだ。防げない攻撃が来るとなれば全てをなぎ払う攻撃が来ると読んだのだ。
 だが、予想外にもはやては今まで見せた事のない攻撃を仕掛けた。長年の経験からそれが危険なものという事まではわかったが正直対処仕切れる自信はなかった。
 が、ここで幸か不幸か偶然にもグラーフアイゼンがなのはの手を抜けていったのだ。
 何故グラーフアイゼンが手を抜けていったのか? それは使い慣れない武器故に掴む力が甘かったのだろう。
 いや、もしかするとグラーフアイゼン自身がなのはを助ける為に自ら抜けて出て行ったのかもしれない。
 だが、真実はどうあれグラーフアイゼンがなのはの手を離れた事でデータドレインの直撃を回避出来た事には変わりはない。
 さて、予想外の攻撃ではあったがなのはは怯む事無くすかさずレイジングハートに持ち替え至近距離から砲撃を仕掛ける『様に見せた』。

 そしてなのはの目論見とは少々遅れて妖艶なる紅旋風が発動された。それこそがなのはの狙いだったのだ。
 なのはは防御魔法を最大限に駆使し更にはリアクターパージを使いそれを耐えきった。それでも完全に防ぎきる事が出来ず全身にダメージを負ってはしまったが。
 だが、C-7まで吹き飛ばされながらも体勢を整えつつ砲撃体勢に入った。
 そして、最大級の攻撃魔法を連発し疲弊し同時に勝ち誇った所をなのはとレイジングハートにとっての最大の攻撃魔法であるスターライトブレイカーを叩き込んだのだ。
 はやてを無力化するために手加減は出来ない。故にレイジングハートに搭載されているカートリッジは全てこの一撃で使い切った。

 つまり、自己ブーストによる突撃も、グラーフアイゼンによる奇襲も、至近距離からの砲撃も全てはやてに妖艶なる紅旋風を使わせ魔力を消耗させる為の布石だったのだ。
 最初からなのはは遠距離からの砲撃で仕留めるつもりだったというわけだ。


 なのはにとってこの一撃は自分1人だけのものではない。ヴィータやフェイト達、数多くの仲間達の想いを込めた一撃だったのだ。
 彼等の想いは決して外させない。皆の持てる全てを賭けてなのははその一撃を撃ち込んだという事だ。




「レイジングハート……周辺の様子は……それにはやてちゃんは?」
『今の所反応はありません、Ms.はやての姿も確認出来ません』



 だが、前述の通り戦いが終わったわけではない。
 確かにはやてに一撃撃ち込んだとはいえ、命までは奪っていない筈だ。はやてを拘束しない限り彼女を本当の意味で止める事は出来ないだろう。
 また、かがみを抑えているスバルの方も心配だ。信じていないわけではないが、一歩間違えればどちらかが死亡の危機に瀕する可能性もある。出来るだけ早く合流したい所だ。
 更に、未だ行方の掴めない天道の事も気になる。もしかしたら金居、アンジール、キングと遭遇し交戦している可能性もあるだろう。
 無論、その3者がいつ牙を剥くかもわからない。警戒を解くわけにはいかないというわけだ。
 そして何より、駅で待っているであろうユーノとヴィヴィオも気がかりだ。出来るだけ早く彼等と合流したいのが本音だ。
 何にせよ、選択肢は数多いが誤ったものを選ぶわけにはいかない。迅速に慎重に次の行動を決めなければならな――



『待ってくださいマスター』
「どうしたの? レイジングハート……?」
『首輪が無くなっています』
「え? ……本当だ」



 レイジングハートの言う通り、首に着けられた筈の首輪が無くなっていた。その代わりに首に何かのかすり傷が付けられている。命に関わる程のものではないのが不幸中の幸いだ。



『恐らく先程の攻撃が上手く首輪に命中したのだと思いますが……』
「爆発しなかった……もしかして……」



 真相はわからない。だがデスゲームの根底を支えていた首輪が外れた以上確実な事がある。



 デスゲーム終焉を告げる夜明けの鐘が鳴り響く瞬間が刻一刻と近付いているという事だ――



【2日目 早朝】
【現在地 C-7】
【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】全身にダメージ(中)、疲労(大)、魔力消費(大)、首筋に擦り傷、はやてへの強い怒り、バリアジャケット展開中
【装備】とがめの着物(上着無し、ボロボロ)@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、レイジングハート・エクセリオン(0/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、ホテル従業員の制服、リボルバーナックル(右手用、0/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。
 1.どうして首輪が……?
 2.はやてを拘束する? スバルとかがみの所に向かう? 天道を探す? それとも……
 3.駅でユーノ達と合流する。
 4.出来れば片翼の男(アンジール)と話をしたいが……。
【備考】
※キングは最悪の相手だと判断しています。また金居に関しても危険人物である可能性を考えています。
※はやて(StS)の暴走を許すつもりはありません。
※放送の異変から主催側に何かが起こりプレシアが退場した可能性を考えています。
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。

















「はぁ……はぁ……スターライトブレイカーとは……ぬかったわぁ……」



 殆ど魔力を失った状態でのスターライトブレイカーの直撃を受けてもなおはやては立ち上がろうとする。
 その一撃で完全に魔力は枯渇、騎士甲冑すら解除された状態だ。
 すぐ近くにはヘルメスドライブの核鉄の残骸と夜天の書が転がっている。どうやら今の一撃で吹き飛ばされた際に破損状態だったヘルメスドライブは完全に砕けたのだろう。
 なお、一方の夜天の書には別段異常はない。



「けど、まだ私を倒すには足りなかった様やな……せや、勝つのは私や……」



 そう言いながら立ち上がろうとするが――







「ん……あれ?」







 何かがおかしい、立ち上がろうと憑神刀を杖代わりにしようとしてもどうにも上手く行かない。その上、何だが頭が重く眩暈がする。







「どういう事……なん……?」







 と、右手の方を見ようとしたが――







「な……なんでなん……?」







 憑神刀毎はやての右手が消え失せており、右手首からは大量の血液が流れ出していた。剥き出しになった手首の先からは肉や骨が痛々しく見える。







「ま……まさか……さっきの砲撃は……」








 この瞬間、はやてはなのはの真の狙いが憑神刀である事に気が付いたのだ。
 考えてもみれば当然だろう。あれだけ憑神刀の力を存分に放ち続けたのだ、警戒されてもおかしくはない。
 だが、憑神刀ははやてにとって家族を象徴する何よりもかけがえのないものだ。そんなものが砕ける事など信じがたい話だ。

 確かに憑神刀等巫器は超古代文明が作り上げたロストロギアの1つでありその能力は計り知れないものがある。
 更に吸血鬼の真祖の放った数百キロクラスの攻撃を受けても白夜の龍の一閃を受けても砕かれる事はなかった。
 だがそれは巫器が決して砕かれる事の無いという証明にはなり得ない。
 事実としてこの場に支給されたもう1つの巫器はある出来事により消失した。それを見ても巫器を粉砕する事は可能だという事だ。

 前述の通り、憑神刀は度重なる激闘をくぐり抜けてきた。最初に起動させた者はそれを振るって戦う事など殆ど無かったが次に手にした片翼の剣士が起動して以降は激闘の連続であった。
 時間にして約20時間に渡り憑神刀は持ち主の心の空虚に応えるが如くあらゆる敵との激闘をくぐり抜けた。
 だが、激闘を繰り返す度に疲弊していくのは当然の理、前述の通り吸血鬼の攻撃を受けてもひび一つ入る事は無かったが受けた負担は非常に大きく内部にダメージを受けた可能性は否定出来ない。
 その後も白夜龍の一閃を防いだ際に更にダメージが蓄積されていくのは容易に理解出来るだろう。
 そして何度と無く繰り出される妖艶なる紅旋風……その殆どはSランククラスの魔力を持つ最大級の攻撃だ。幾ら頑強な憑神刀とはいえ負担がかからないわけがない。
 とはいえ、そうそう簡単に砕ける事はない。普通に戦う分には殆ど問題は無いと考えて良いだろう。
 だが、最初から憑神刀を砕くつもりで仕掛けていたのならばどうだろうか?
 通常、武器を砕くつもりで攻撃する事はあまりない。武器で防がれない様に隙を突いて本体に仕掛けるのが普通だ。
 しかし、なのはは最初から憑神刀を砕くつもりで全力全開のスターライトブレイカーを撃ち込んだ。
 はやての力の源が憑神刀ならばそれを砕く事でほぼ無力化出来ると考えたのだ。

 何? 確かに理屈としてはわからなくはないが、そんな都合良く砕けるだろうか? そう言いたい気持ちはわかる。
 だが実は憑神刀が砕けたのにはもう1つ理由が存在する。

 今一度先程の戦闘を思い出して欲しい。
 はやては妖艶なる紅旋風を放った後、確実になのはにトドメを刺すために愛の紅雷を放った。
 勿論、魔力が殆ど残っていない状態で放った攻撃でなおかつ破壊の暴風の中を進ませる以上威力は格段に落ちる。
 だが格段に威力が落ちても高確率で死に至らしめられる部位が存在する、それが首輪だ。
 デスゲームのルール上、首輪を強引に破壊しようとすれば爆破される。はやては知らないが実際にその方法で死に至った参加者もいるため有効な方法だ。
 はやてはそれを目論見首輪狙いの攻撃を仕掛けたのだ。
 だが、なのはが全力で防御に回っていた、破壊の暴風で狙いが逸れた等の理由で狙いが若干それたが為、首輪の表面をなぞる様な形で攻撃は命中した。それ故になのはの首そのものにはさほどダメージを与える事は出来なかった。
 それでも首輪そのものを破壊する程のダメージは与えた。はやての目論見通りならばこれで爆発する筈『だった』。



 ここではやての知らない事実が重要になる。
 先の放送で主催者であったプレシア・テスタロッサが退場しスカリエッティが実質的な仕切を行う事となった。
 その際にスカリエッティは首輪の爆破装置を解除したのだ。
 なお、はやてもプレシアの退場の可能性自体は予想していたものの、まさか爆破装置が解除される所までは考えていなかったし、そもそも不確定な情報をアテにしていなかったためそれに気が付かなかったのもある意味仕方がない。
 何にせよ、はやての攻撃によりなのはの首輪が破壊され更に妖艶なる紅旋風によって首輪が外されてしまったという事だ。

 そして、首輪を外した事によりある影響が現れる。それは制限からの解放だ。
 制限を与えているのはフィールドそのものなので首輪を外した所で完全に解放されるという事はない。
 しかし全く無関係というわけでもない。事実として先に首輪が外れた参加者がその影響で本来の力をある程度取り戻したという現実がある。

 ここまで言えばどういう事か理解出来るだろう。なのはの放ったスターライトブレイカーは制限がある程度解放された事でその威力をある程度増していた。勿論、なのは本人の知らぬ所でだ。
 一方の憑神刀はロストロギアとはいえ持ち主のはやての制限下に置かれている事に変わりはない。
 故に、カートリッジを全て注ぎ込んだスターライトブレイカーの力に耐えきる事が出来ず遂に粉砕されたという事だ。

 では何故、はやての右手までが潰されてしまったのだろうか?
 これは至極単純な理由だ、憑神刀の破壊に巻き込まれてしまったという事だ。
 憑神刀が破壊される際のエネルギーに巻き込まれ右手が消し飛んだ可能性もあろう。
 憑神刀が破壊され吹っ飛ばされる際にはやて自身も吹っ飛びそのまま右手が地面や木々の残骸にぶつかり千切れ飛んだ可能性もあろう。
 少しとはいえ制限が解放されたスターライトブレイカーを受けたのだ。例え非殺傷設定にしていてもはやて本人が受ける衝撃は相当なもの、吹っ飛ばされてそのまま右手を潰してしまったという事も有り得なくはない。
 真相はわからない。だが、何にせよはやての右手が消し飛んだという事実だけは確かである。
 余談ではあるが、元々破損状態だったヘルメスドライブが完全に破壊されたのもほぼ同様の理由である。

 ちなみに言えば、直撃を受ける際に憑神刀を手放していれば右手を失う事を避ける事が出来た。
 だがはやてにはそれが出来なかった。憑神刀は家族を失ったという空虚によって起動した。いうなれば家族の代替であったのだ。
 それを手放すという事は家族を手放す事、はやてにそれが出来るわけなどないだろう。
 しかし、その傲慢さが憑神刀と共に右手を失わせる結果になり、夥しく流れる血液により死へと近付かせる結果となったのだ。





「な……なしてこんな事になったんや……?」



 意識はどれぐらい飛んでいたのだろうか? 一体どれだけの血液を失ったのだろうか? どうやら貧血も起こしている様だ。
 ダメージとショックから最早はやてに強気な心は消え失せていた。
 なのはが自分を殺すわけがないとタカをくくっていたし、先の砲撃も命を奪うつもりがなかったのは理解している。
 だが、実際は家族の象徴を破壊され更には命までも奪われようとしている。



「どうしてなんや……私何か悪い事したんか……家族を取り戻したいっていうのがそんなにいけない事なんか……?」



 自問自答を繰り返す。自分の判断が間違っているとは思えない。だが迎えた結果は最悪な結果だ。どうしてこんな事になったのだろうか?



 いや、はやて自身は基本的にその時点において最善の行動を取っていた。だが、それが必ずしも望む結果を与えるとは限らないという事だ。
 そもそも、はやてはずっと同じ事を繰り返してきた。
 ヴィータを助けようとギルモンを殺した結果、彼女と敵対する羽目となり、
 セフィロスの攻撃から身を守る為シャマルを盾にした結果、彼に自身を否定されクアットロからも斬り捨てられる事となり、
 不穏分子だからとかがみを殺そうとした結果、その隙を突かれリインを殺される体たらく、
 更にかがみを殺そうと庇ったこなたを殺した結果、かがみに再び殺意を抱かせた。
 そしてそれらを最善の行動と断じた結果、なのはと決定的な対立を引き起こし今に至った。
 そう、結局は繰り返しだったのだ。彼女は知らず知らず最悪な結果を引き起こす選択を選び続けてきたのだ。
 もしかすると、最初にゴジラを封印する時に家族を犠牲にした事自体が最悪の結果を引き起こす選択だったのかも知れない――





 だが、はやての願いまでは潰えてはいない。右手で家族を掴む事は出来なくなったがその意志は消えない。
 しかし、状況は最悪だ。魔力は完全に枯渇し、右腕からは現在進行形で血が流れて貧血状態に陥り生命の危機は迫っている。だが、散々あれだけの事をしておいて今更仲間をアテにする事など出来やしない。
 そして、今にも自分を殺そうとかがみが迫ろうとしているのだ。なのはの話が真実にしろそうでないにしろ自分を襲う事だけは確実だ。
 全て彼女自身最善と判断した選択が招いた最悪な結果だ。





「いやや……ぜったいに……ぜったいにとりもどすんや……」





 周囲を見回し使える物を探す。しかし自分の攻撃で吹き飛ばしたせいか使える物は見当たらない。
 アジトまで戻れば何かあるかも知れないがそれまで身体が保つとは思えないし、かがみと鉢合わせすればそれで終わりだ。





 いや、1つ……正確には2つだけあった。この状況をひっくり返せる可能性を秘めた物が。





「そうや……夜天の書にジュエルシード……まだ使えれば……」





 それはまさしく悪魔の選択、ジュエルシードの力で夜天の書をかつての闇の書の様に改変を行う。
 そうする事でまだ逆転の可能性はある。あの餓鬼が少しでも改変していたのであれば今からでもまだ間に合う筈だ。
 だが、ジュエルシードの残り魔力が無いのは確認済み。最早不可能なのか――







 それでもはやては涙を零しながら最後の可能性を信じジュエルシードと夜天の書に懇願する――



「魔力が足りないなら私の命をやる……命でも足りないんやったらこの世界をやる……
 だから……だから……もう1度だけ……もう1度だけ家族を取り戻すチャンスをくれや……
 闇の書は主に絶大な力を与えてくれるんやろ?
 ジュエルシードは願いを叶える石なんやろ?
 だったらその力で私の願いを叶えてや……
 その為やったら私の命も、この世界もなんもいらん……
 ヴィータを……シグナムを……シャマルを……ザフィーラを……そしてリインを取り戻したいんや……!
 応えてや……頼む……!」



【現在地 C-8】
【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】全身にダメージ(小)、疲労(極大)、魔力消費(極大)、右手欠損(出血中)、貧血
【装備】夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ジュエルシード(魔力残量0)@魔法少女リリカルなのは
【道具】なし
【思考】
 基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
 1.ジュエルシードで夜天の書を改変し力を取り戻す。
 2.自分を含めた全てを捨ててでも家族を取り戻す。
【備考】
※この会場内の守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※出血が激しい為、すぐにでも手当てをしなければ命に関わります。
















 ジュエルシードで改変の可能性が無い事は今は亡きプレシア自身が断定していた。
 それを踏まえるならばはやての願いは決して叶う事はない。
 もっとも、願いが叶わなければこのまま死を迎える可能性が非情に高いだけでしかないが。

 しかしはやての願いが叶い、夜天の書がかつての闇の書の様になった場合、以前説明した通り世界崩壊を引き起こす引き金となりうる。
 ジュエルシードもまたロストロギア、可能性が絶対に無いとは言い切れない。

 仮に最悪の事態を起こしてしまった場合の話だが、それを引き起こしたのはある意味なのはの行動が原因と言えよう。
 無論、なのは本人は最善の行動をとったつもりだ。だが、その結果最悪の事態が起ころうとしていたのだ。
 よしんば起こらなかったとしてもはやての右手を失った事自体がなのはの望む結果ではない。

 ああ、明らかに矛盾している――



 はやての願いがどのような結末にを導くかはわからない。
 だが、終焉の鐘が鳴り響くまで――
 夜明けまではまだ時間がある――



 矛盾を抱えた物語はまだ――終わらない――





【全体の備考】
※グラーフアイゼン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、ヘルメスドライブ@なのは×錬金が破壊されました。
※C-8が妖艶なる紅旋風により荒れ地となりました。




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