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Masquerade ◆gFOqjEuBs6




 アンジールとカブト、そしてキング。
 いくつもの修羅場を駆け抜けて来た男達の激闘。
 その戦力はどれも拮抗しており、三者三様に決定打は与えられない。

 皆が皆、それぞれの剣をその手に握り、一進一退の攻防を続けていた。
 その様子はまるで、仮面を付けた男達による激しい剣の舞の様で。
 言うなれば、二人の仮面と一人の剣士による、仮面舞踏会。

 だけれど、どんな歌もどんな踊りも、永遠に続く事はあり得ない。
 いつかはその一節が終わり、次のリズムが流れ始める。
 それはこの仮面舞踏会(マスカレード)でも同じ事。

 誰も予想し得なかった状況で、第一楽章は終わりを告げた。



「ガッ……は……っ!?」

 アンジールが、その口元から真っ赤な血反吐を吐き出した。
 一片の汚れも見えない、綺麗な綺麗な深紅の血反吐。
 本当に身体の内からしか出血する事はあり得ない、鮮血。
 踊り続けた剣士の鮮血は、カブトの赤よりもずっと鮮やかだった。

 何故だ、なんて今更な疑問は抱かない。
 こうなる事は十分に想像出来た筈だったのに。
 それでも家族の為に踊り続けた結果が、この現状だ。
 そう。二人の仮面と踊り続けた剣士の姿は、まるで道化。
 道化の様に踊らされ続けて、挙句の果てには訳の分からぬ大打撃。
 脇腹の筋肉を抉った黒金は躊躇い無く剣士の身体の芯まで到達していた。
 身体の軸となる腹部まで、その身を見事に引き裂いて――。




 完全の名を冠する大剣と。
 反逆の名を冠する大剣と。
 超越の名を冠する大剣と。

 人は誰もが、心の中で自分だけの音楽を奏でている。
 そんな三人が打ち鳴らす剣のリズムは、至って不快な不協和音。
 当然だ。三人が三人、誰一人として同じ音楽など奏でてはいない。
 皆皆、全く別の未来を目指して、自己を推し貫く為に剣を振るうのだ。
 そんな三人のリズムが一致する事など、天地が引っくり返ってもあり得ない。

 きぃんっ! と。 
 また二つの剣が激突した。
 カブトの赤い装甲を目前にかち合ったのは、反逆と超越。
 キングの剣と、アンジールの剣が、カブト目前にして激突したのだ。
 二つの件はどちらもカブトを狙って居た筈。これは目標が同じであるが故のミス。
 連携も取れない二人が同じ標的を狙って剣を振るえば、お互いに脚を引っ張ってしまうのは自明の理。
 今の激突で、一体何度目になるだろう。最早キングには、アンジールへの仲間意識など見られない。
 それは先程キングがアンジール毎カブトを焼き尽くそうとエネルギー弾を放った事からも明白。
 ただキングは、カブトが気に入らないから、その剣でもって王の裁きを下そうとするだけ。
 アンジールはアンジールで、ただ妹を蘇らせたいから、その剣で修羅の道を歩もうとするだけ。
 それだけが今の彼らの行動理念。そこに複雑な謀などは存在しない。至って単純明快な戦いであった。

「ああもう、またかよ! 邪魔すんなよアンジール!」
「お前こそ俺の邪魔をするな、キング!」
「……やれやれ」

 仮面の下で嘆息一つ。
 今度は完全の名を冠する黄金の剣を振るった。
 だけれど、それは反撃の一振りによって振り払われてしまう。
 如何に相手側の連携が壊滅的だと言っても、それが勝因にはなり得ない事の証明。
 確かにこの二人の連携攻撃は最悪だが、それぞれ個々の戦闘能力は圧倒的に高いのだ。
 何とかチャンスを見計らって攻撃に転じるつもりだが――今のままでは勝ち目がない。
 だからと言って、ここまで力を取り戻した天道総司の辞書に「敗北」の二文字はあり得ない。
 今はどんなに厳しい戦いであっても、絶対に希望だけは捨てはしない。




 戦いの飛び火が移る事の無い、傍観者だけの空間。
 この素晴らしい立場に居る限り、金居の身体が傷つく事は無い。
 絶対的な安全領域を揺るがす事は無く、戦いの結末だけに視線を向ける。
 だけど、あれは仮にも幾つもの修羅場を潜って来た男たちの戦い。
 そうそう簡単に両者の間で決着が着いてくれる筈も無かった。

「さて、どうしたものか」

 丸一日金居を縛り続けた首輪の残骸を、矯めつ眇めつする。
 こいつがある限り、参加者は常に命を握られた状態であった。
 もっと言えばこの首輪を破壊した所で、プレシアを倒さなければ現状に変わりはない。
 だから金居は、何としてでもこの首輪を破壊して、プレシアを倒すつもりだった。
 だけれど、この全くもって不可解な現状は一体何だ。
 金居の頭の中を、いくつもの「?」が覆い尽くす。

(何故だっ……何故あれだけ戦えと言っておいて今更爆弾を解除したっ……!
 これではまるで……殺し合いの崩壊っ! 圧倒的っ……崩壊っ……!)

 ざわ……ざわ……と。
 金居の周囲のあらゆる音が遠のいて聞こえる。
 木々のさざめきも、剣と剣の衝突も、キングの笑い声も。
 何もかもが、ただのざわめきとなって金居の耳を抜けて行く。
 何かの罠か? いや、わざわざそんな罠を張るメリットがない。
 残った参加者の中にプレシアにそんな行動をさせる要因となる者が居ないのだ。
 故に、不可解。どう考えてもこれはプレシアが不利になる要因しかない。
 ならば何故だ。何故あの魔女は首輪を解除した。

(もう殺し合いをする必要がないから……? いや、それとも)

 プレシアは何者かによって殺され、この殺し合いが頓挫したから。
 考えられない話では無い。あれだけ用意周到に参加者を集めたとは言え、プレシアもまた人間。
 絶対にミスをしないとも限らないし……寧ろ今のプレシアには敵の方が多いのだ。
 もしかしたら、第三勢力がプレシアを殺害したという可能性もあり得る。

(なら何故だっ……何故俺達は未だに殺し合わされているっ……!)

 殺し合いに反発する者が殺し合いを潰したのだとしたら、それもまた不可解。
 折角プレシアを殺したのに、こんな殺し合いを続けていたのでは意味がない。
 プレシアを殺してくれたのなら、いっその事自分達も解放してくれればいいものを。

(解放する事が出来なかったからか……? だが何故……)

 仮説はいくらでも成り立つ。
 例えば、プレシアと刺し違えた、とか。
 例えば、殺し合いには興味が無かった、とか。
 パズルのピースは殆ど欠けたまま。真実からは遠過ぎる。
 だけど恐らく、プレシアがもうこの世に居ない事は間違いないだろう。
 となれば、下手をすればこの世界はもう捨てられていたとしても可笑しくは無い。
 どうせ放棄する世界に居残った住人など、どうだっていい。だから爆弾を解除した。
 そういう考え方だって出来る。

「ならば――」

 今の自分に出来る事は何か。
 このまま結末の見えないゲームに参加し続けるか。
 ようやく戦場へと出て来たキングを見逃して……?
 そんな事、出来る訳がない。

「どうせこのままここに居ても埒が明かない。かといって今のまま元の世界に戻るのも拙い」

 そう。元の世界に戻れば、キングは全ての制限から解放される。
 そうなってしまえばキングを倒すチャンスは消え、仮面ライダーに頼らねばならなくなる。
 別に仮面ライダーを利用する事自体に躊躇いは無いが……自分の手で仕留められるなら、それに越した事は無い。
 この会場内に居る限り、あのジョーカーでさえ封印出来たのだ。今の自分にキングを倒せない道理は無い。
 そうだ。仮にも自分はダイアのキングなのだ。スペードのキングなぞに舐められたままでいいのか?
 答えは、否だ。このままで言い訳がない。

「ここで決着を付けようか……キング」




 王様にとって、これはお遊び。
 気まぐれで始めた、正義の味方気どりの相手とのゲーム。
 別に生きる事に執着を持っている訳でもないし、したい事がある訳でもない。
 だけど、折角現代に解放され、現代の知識を得て生活する事が出来るなら……。
 折角こんな面白いゲームに巻き込まれ、濃密な時間を過ごす事が出来るのなら……。
 とことんまでに遊び尽くしたい。楽しい事を求めて、飽きるまで遊び尽くしたい。

 キングはただ面白ければ、それで良かった。
 他者を破滅させて、楽しいゲームをプレイ出来るなら、それで良かった。
 その為のキングの目的が、目の前にいる赤の仮面ライダーの撃破にある。
 プレイするからには負けたく無いし、攻略を目指すのはキングにとって当然の事。
 だからようやく手に入れた駒を利用し、カブトを潰しに掛ったのだが。

 きぃん!

 鳴り響く金属音。 
 キングが突き出した剣をカブトが回避した。
 同時に、アンジールが振り下ろした剣をも回避。
 結果、二人の剣はカブトに届く事無くお互いに激突したのだ。
 またか、とキングは思う。

 異変が起きたのは先程自分がエネルギー弾を放ってからだ。
 アンジール毎巻き込んで攻撃しようとしたあの瞬間から、歯車が狂い始めた。
 元々この男は、自分に対して並々ならぬ反感を抱いていた。
 そんな男を無理に従わせる事に快感を得ていたのだが……。
 どうやら先程の一撃で、元々壊滅的だった仲間意識が完全に崩壊したらしい。
 アンジールも最早キングを邪魔者としか思って居ないし、だからこそのこの現状だ。
 お互いがお互いを疎ましく思っているからこそ、この衝突が起こってしまう。
 いい加減、カブト以前にこの足手まといの方が邪魔だとさえ思えてしまう。
 あと一撃でもこんな衝突を繰り返そうものなら、その場で切り捨てよう。
 使えない手駒など居るだけ邪魔だ。何より腹立たしいし、活かしておく義理も無い。

 だから出来る限り積極的に、そのきっかけが訪れる様に剣を振るう。
 アンジールだって同じ様な心境だろうし、ここで見限る事に躊躇いは感じない。
 当然、狙ってやったのなら、再びその瞬間が訪れるまでにそれ程の時間は必要とせず――
 無能な駒への“みきわめ”の瞬間が訪れたのは、それからすぐ直後の事だった。




 アンジールの最終的な目的は、失った家族を取り戻す事である。
 その為に、このゲームに参加している参加者を皆殺しにし、最後の一人になる。
 そうする事で、プレシアは死んでしまった参加者すらも蘇生させてくれると言った。
 そう、事実上プレシアに踊らされるままにアンジールは戦ったのだが。

 ――私と手を組むと言うのであれば、貴様の妹達を特別に生き返らせてやる事も出来るが――

 あの魔王の言葉が、疑念となってアンジールの頭を駆け廻る。
 キングの目的は他の参加者を狩る事。そうする事でもう一度家族に会える。
 少しでも可能性があるなら、例えそれが苦渋の選択であろうと構いはしない。
 他の参加者を一人でも多く狩って、優勝に近付く。その時点でキングが邪魔なら倒せばいい。
 そう考えて、アンジールはキングにさえも従って、このデスゲームを踊り続けて来た。
 だけど恐らくこのキングという男に、アンジールへの仲間意識は無い。
 いざとなればこちらが切り捨てられる可能性だってある。

 だけど、もうアンジールには未来が見えなかった。
 家族の為に我武者羅になって戦おうと、キングに踊らされようと。
 その先に待ち受ける幸せな未来など見えないし、今の自分の行動が正しいとも思えない。
 目の前で家族を失ってしまったアンジールは、半ば自棄になっていた。
 それでも、キングに対する反感だけは大きくなっていく。

 だから、アンジールは遮二無二剣を振るう。
 たとえ、キングを巻き添えにしようが知った事は無い。
 それが、カブトを倒して家族を取り戻す事になると無理矢理にでも信じて。
 そして、その結果が招くのは、最早連携とも言えぬ三つ巴の戦い。
 やがて、その果てに待って居たのは、キングによる最悪の結末。
 そんな、簡単な事実に気付く事も出来ずに。
 だけど、それが彼の招いた物語の終焉。

 ――キィン! と金属音を伴って、再び“反逆”と“超越”が激突した。

「             !!!」

 それが声になっているのかすらも分からなかった。
 感じるのは、ただただ不可解な気味の悪さと、激しい熱。
 最早痛みさえ伴いはしない。ただ、訳の分からない感覚がアンジールを襲う。
 だけれど、それに対してアクションを起こす事など出来はしない。
 何故なら、アンジールが振るおうとした剣と腕は既に、地べたに落ちていたから。
 腕を失った右の肩口が、夥しい量の血液を噴出させて、気が遠くなるのを感じる。
 だけど、一体何故? だなんて今更な疑問を口にする事は無かった。
 これは十分に想像し得た結果の筈だから。

「お前……最初から」

 消え入りそうな声を発したのは、アンジール。
 回想するべきは、キングとアンジールの剣が激突した直後の出来事。
 キングは剣が激突したと思えば、すぐにその身を翻し、剣を振り下ろした。
 ゴウッ! と、身近で空気が切り裂かれる音が聞こえて――腕が無くなった。
 まさかこの境遇でキングが自分を切り捨てるとは考えて居なかった。
 それはまさに、アンジールにとっての最大の不覚であった。




 朦朧とする視界。混濁する意識。
 腕を切り落とされてからの事はあまり覚えてはいなかった。
 キングは最早問いに応える事すらせずに、アンジールの身体を剣で引き裂いた。
 中心から見事に切り裂かれた身体から溢れ出すのは血液という名の大量の生命力。 
 さしものソルジャーと言えど、生命を動かす為の大前提である血液を失って、只で居られる訳が無かった。
 肩口から噴き出した大量の赤。あらゆる臓器を引き裂いて撒き散らされたアンジールの生命力。
 それらを失っては最早立って居る事すら叶わず、アンジールはその場に崩れ落ちていた。

「アンジール」

 だけど、この命はまだ尽き果ててはいない。
 意識は朦朧とするけれど、自分の名を呼ぶその声はハッキリと聞こえた。
 重たい瞼をゆっくりと上げて、その瞳に映るのは一人の男。
 黒の天然パーマに、整った顔立ち。何処か悲しい瞳をしたその男を、アンジールは知っている。
 先程まで自分がこの手で殺そうとしていた、どうしても決着を付けなければならぬ相手。
 セフィロスの居ない今、彼だけがアンジールの宿敵として存在し得る、まさに最後の敵。
 だけど、自分を見下ろす彼の瞳には、一切の敵意は感じられなかった。
 どうしてそんな瞳をするのだろう、と。感じるのは疑問だ。

「馬鹿だったよ、俺は」
「ああ、そうだな」

 自分は何をしていたのだろう。
 家族を守りたいと言って、結局何も出来なかった。
 八神はやてを殺して、セフィロスを修羅の道に堕として。
 大切な者を奪われたセフィロスの気持ちは、痛い程に分かる。
 だからアンジールは、尚更引き返す事など出来なかった。
 その気持ちが分かるからこそ、止まる訳には行かなかった。
 大切な友の、大切な人間を奪った自分に、そんな資格はないのだ。
 それなのに……それなのに。

「結局俺は、只の道化か……最悪だな」

 そうして戦い続けた結果が、こんな惨めな終わりだったとは。
 全く予想していなかったのかと問われても、今はもう分からない。
 あの時別の選択を選んでいたら、こうはならなかったんじゃないか。
 そんな後悔がいくつ過るけれど、それはもう実現し得ない事。
 どんなに悔やんでも、現実は何も変わらないのだから。

「例え世界を敵に回しても、守るべきものがある――俺のおばあちゃんの言葉だ」
「そうだ……俺は、守るべき者の為に今まで――」
「ああ。お前は確かにどうしようもない馬鹿野郎だ。だが、お前の想いに間違いは無かった」

 ただ、そのやり方を間違えてしまったのだ。
 家族を守りたいという意思を優先させ過ぎて。
 本当なら、戦えない全ての人々を、全ての命を、守りたかった。
 守って、守って、守り抜いて……人々の未来を守り抜きたかった。
 だけどその想いは、家族への愛が故に歪んで行き――こんな所まで来てしまった。
 今更やり直しようが無いし、失った時間も家族も、絶対に戻っては来ない。
 結局自分は家族の為と言いながら、何一つ成す事が出来なかったのだ。
 死に瀕した今、意識は混濁していても、思考はクリアだった。
 落ち着いて、冷静に物事を考える機会が訪れたから。

「俺は結局……兄としても最低だったな」
「いや。お前は確かに最低の兄だったが……同時に最高の兄でもあった」

 刹那、アンジールの目頭が熱くなった。
 こんなどうしようもない自分に――最低な自分に。
 まだ“最高の兄”だなんて言ってくれる奴が居たなんて。
 嬉しくて、悲しくて、どうしようもない感情が込み上げて来て。
 気付いた時には、一滴の涙が、アンジールの瞳から零れ落ちていた。

「おばあちゃんはこうも言ってた。人は人を愛すると弱くなる――
 けど、恥ずかしがる事は無い。それは本当の弱さじゃないから。
 弱さを知ってる人間だけが、本当に強くなれるんだ。
 お前は誰よりも強く、立派な兄だったよ……アンジール」

 その言葉だけで十分だった。
 例え歪んで居ようと、アンジールを突き動かしたのは、妹達への愛だ。
 道化に堕ちようと、自分の中の弱さに翻弄されようと、元を辿れば、誰よりも強い愛情だ。
 誰にも負けないし、誰にも譲れないこの感情が、アンジールをここまで突き動かしたのだ。
 そして、今のアンジールになら分かる。そんな自分自身の弱さを認める事が、本当の強さなのだと。

 戦って、戦って……家族の笑顔を信じて。
 戦って、戦って、戦い続けたその結果がこれなら。
 とんだ茶番だと言いたくもなるけれど、その想いに羞恥は無い。
 誰が何と言おうが、自分は最後の最期まで、家族の為に戦ったのだ。
 アンジールが背負っていた重荷が無くなって、心が軽くなって行くのを感じた。
 家族に謝罪するのは、あの世に逝ってからでも遅くは無い。
 もう一度あの世で合えたなら、今度は兄として守ってやろう。
 そんな誓いを立てて……最期に、もう一度男に視線を向けた。
 霞む視線で、最早男の表情だって見えはしない。
 だけど、別に構う事は無い。

「最期に一つだけ……聞いてくれるか」
「ああ、何だって聞くさ」
「……お前には……夢は、あるか……?」
「ああ……あるぞ。とびきりでかい夢がな」
「そうか……それは良かった」

 その答えに、自然と笑みが零れた。
 もうこの命はそう長くは無い。自分の事だから、自分が一番分かる。
 だから最期に一つだけ……これだけは、これだけはどうしても伝えたい。
 この戦いで最も信頼出来るであろう人物に、この男に、自分の信念を。
 そして、ここまで戦い続けて来た、自分の生きた証を、刻みたい。

「夢を持て――そして誇りも」

 誰よりも大きな夢を持っているであろうこの男に。
 かつての自分と同じ、守るべき立場にあるこの男に。
 消え入る意識の中で、どうしても伝えたい言葉を、紡ぎ出す。
 一言言葉を発する度に、その意識が薄れて行くけれど。
 そんな事は、構いはしなかった。

「どんな時でも……夢と誇りを、手放すな」

 自分にはついぞ出来なかった事を、託す。
 最期の最期で何もかもを手放してしまった自分の代わりに。
 いや、本当は見失ってなんて居なかったのかも知れない。
 ただ、家族の為にと自分に嘘を吐き続けていただけなのかも知れない。
 今となってはもう、それを考える力はアンジールには残っていない。
 だけど、そんなことはもうどっちだって構いはしない。

「……その言葉、胸に刻んでおこう」

 返された言葉と共に押し寄せる、圧倒的な安心感と急激な眠気。
 だけど怖くは無い。思えば過去にも、同じ様な事があった気がする。
 修羅として死に行く前に、この男に出会えて良かったと、今ならば思える。
 例え自分がこの世から居なくなっても、自分の想いを継いでくれる男達が居るから。
 今し方夢を託したこの男と……遠い昔に離れ離れになってしまった愛弟子と。
 この世にはアンジールが想いを託した立派な戦士が、まだ二人も居るのだから。
 彼らがこの夢と誇りを忘れないで居てくれる限り、思い残す事はもう何もなかった。

 最期の瞬間、アンジールがその胸に抱いたのは――
 決して消える事の無い、夢と誇りだった。




【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使 死亡確認】




 キングと金居。
 コーカサスオオカブトとギラファノコギリクワガタ。
 世界最大の甲虫の祖たる二人の王が、日の出の光に照らされ相対する。
 時間は早朝。未だぼんやりと空に浮かぶ月と、その光を覆い隠さんと昇る太陽。
 餌を求めて、真夜中から早朝にかけて活動するのはカブトとクワガタの性とも言える。
 ただ、二人はただの蟲ではい。全ての祖となった不死生物の二人であること。
 金の仮面に覆われた二人の視線が激突して、目には見えない火花が散った。

「どういう事、ギラファ? 僕達は仲間じゃ無かったの?」
「元の世界ではそうだったかも知れないが……今のお前は、ただの敵だ」
「らしくないなぁ。もしかしてこのゲームに乗っちゃったの?」
「さあ、どうだろうな? お前がその答えを知る必要は無い」

 それ以上の問答は不要だった。
 クワガタの祖たる黄金が、大地を蹴って駆け出す。
 一歩を踏み出す度に腐葉土で出来た地べたに足跡が刻まれる。
 それぞれのスートの王たる存在。その実力は拮抗していると言っていい。
 振り下ろしたクワガタのヘルターを、カブトのオールオーバーが受け止める。
 されど攻撃はそれで止みはしない。クワガタの武器は、一組の双剣なのだから。
 間髪いれずに叩き込んだスケルターは、しかしソリッドシールドによって阻まれた。
 昆虫の王者たるカブトの祖先ともなれば、生半可な防御力では無いという事か。
 闇夜に眩い火花を舞い散らせて、二人の王の戦いが始まった。


【2日目 早朝】
【現在地 D-9 雑木林】


【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康、コーカサスビートルアンデッドに変身中
【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、おにぎり×10、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ラウズカード(ハートの1、3~10)、ボーナス支給品×2(未確認)、ギルモンとアグモンと天道とクロノとアンジールのデイパック(道具①②③④⑤)
【道具①】支給品一式、RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル
【道具②】支給品一式、菓子セット@L change the world after story
【道具③】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【道具④】支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【道具⑤】支給品一式、
【思考】
 基本:この戦いを全て無茶苦茶にする。
 1.ギラファと戦う……? それとも……?
 2.先程の紅い旋風が何か調べる。
 3.『魔人ゼロ』はもういいかな。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※十分だけ放送の時間が遅れた事に気付き、疑問を抱いています。
※首輪が外れたので、制限からある程度解放されました。


【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】健康、ギラファアンデッドに変身中
【装備】バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s ~おかえり~
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×5、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、首輪(アグモン、アーカード)、正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、デザートイーグル(4/7)@オリジナル、Lとザフィーラとエネルのデイパック(道具①②③)
【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)@オリジナル、ガムテープ@オリジナル、ラウズカード(ハートのJ、Q、K、クラブのK)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1~3)、マッハキャリバー@魔法少女リリカルなのはStrikerS、かいふくのマテリア@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具③】支給品一式、顔写真一覧表@オリジナル、ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、クレイモア地雷×3@リリカル・パニック
【思考】
 基本:ゲームからの脱出。
 1.キングを封印する。
 2.キングを封印して、何としてでも元の世界に帰る。
 3.出来れば二度とこんな戦いに巻き込まれない様に、主催側も潰しておきたい。
【備考】
※放送の遅れから主催側で内乱、最悪プレシアが退場した可能性を考えています。
※首輪が爆発しなかったことから、主催側が自分達を切り捨てようとしている可能性を考えています。
※最早プレシアのいいなりに戦う事は無意味だと判断しました。
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。



 空を舞うのは、無数の白の羽根。
 繊細で、美しくて、幻想的な光景であった。
 天に輝く太陽と月の下、空を舞う白の羽根を見上げる天道の瞳はやはり、何処か悲しげであった。
 ただ何をするでもなく、その場に佇んで、空から舞い落ちる羽根をぼんやりと眺める。
 天道自身、ここでどれだけそうしていたのか、自分でも分かりはしない。
 ただ空から振り続ける天使の羽根に魅了された様に、その場を動けなかった。
 やがて思い立ったように、その羽根の一枚を手に取る。
 それはまるで天使の羽根の様に柔らかかった。

 一枚、また一枚と、地べたに堕ちて行く。
 やがて全ての羽根が土に汚れた地べたに舞い落ちて、幻想的な夜は終わりを告げた。
 残ったのは、地面に落ちて汚れてしまった羽根と、淡い輝きを放つ月と、太陽のみ。
 誰も居なくなった静寂の中で、天道はその手に握り締めた純白の羽根を見遣った。

「俺の夢は……妹が笑って暮らせる世界を創る事。その為に、俺はあの青空を守り続ける」

 残った一枚の美しい羽根。
 それに言い聞かせる様に、天道は呟いた。
 それはきっと、アンジールも同様に願って居た夢なのだろう。
 誰よりも妹思いで、誰よりも立派な兄であったアンジールの夢。
 自分はそれを受け継いだ。彼の夢と誇りを、その胸に刻みつけた。
 緑の光となって消えたアンジールに、改めて誓ったのだ。
 だから天道に、立ち止まる事は許されない。
 夢と誇りを守り抜く為にも――

「このふざけたゲームは、俺が潰すっ!!」

 アンジールの羽根を握り締め、その瞳に再び強い怒りを宿らせた。
 こんなふざけたゲームの為に、誰よりも優しい兄の人生は狂わされた。
 妹を奪われ、運命の歯車を狂わされ、死ななくてもいい命が、散ってしまった。
 沸き起こる激情は、命を粗末に扱う主催者への激しい怒り。
 アンジールの分まで、何としてでも戦い抜こう。
 それが自分に出来る、せめてもの弔いだった。

 そんな時だった。
 ――ドゴォン! と、鳴り響いたのは何かの轟音。
 最初は断続的に、そしてやがて連続的に、鳴り響く爆発音。
 何者かがミサイルでも発射しているかのような炸裂音であった。
 聞こえる場所は、ここからそう遠くは無い。

 どうしたものかと思考する。
 キングは突然現れた別のアンデッドと共に何処かへと消えた。
 というよりも、もう一体のアンデッドがキングの身体を掴んで、森林の中へと転がり込んだのだ。
 恐らくはキングと敵対する関係にある別のアンデッドなのだろう。
 カブトに変身出来ない自分が向かった所で、戦い様がない。
 ならばやはり、爆発音が聞こえた場所へ向かうべきか。

 天道は知らない。
 爆発音の正体は、同じ頃に乱れ撃ちされたジェットスライガーによるもの。
 死を目前にした柊かがみが、誰にもミサイルを悪用されない様に放ったもの。
 あの少女の、人間としての最期の足掻き。言うなればその爆発音は、少女の魂の叫び。
 それを知らない天道は、とにかくそこで誰かと合流しようと脚を向ける。
 どっち道、カブトになれない今、キングを追っても犬死にするだけだ。
 ならば、仲間が居る可能性を信じて、天道は爆心地へ向かう。
 そこに誰か、共に戦うべき仲間が居ると信じて。


【2日目 早朝】
【現在地 D-8 荒れ地】

【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】疲労(中)、全身にダメージ(中)、一時間変身不可(カブト)
【装備】ライダーベルト(カブト)&カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】アンジールの羽根@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【思考】
 基本:出来る限り全ての命を救い、帰還する。
 1.爆発音の場所へ向かい、誰かと合流、生き残った全員を纏める。
 2.首輪が爆発しなかった事による疑問。
【備考】
※放送の異変から主催側に何かが起こりプレシアが退場した可能性を考えています。
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。
※ハイパーフォームになれないので、通常形態でパーフェクトゼクターの必殺技を使うと反動が来ます。


【全体備考】
※D-9に斬り落とされたアンジールの右腕に握り締められたリベリオン@Devil never Strikersが放置されています。



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