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魔法少女、これからも。(前編) ◆Vj6e1anjAc




 仄暗い洞窟の足元で、ぼんやりと光る金の照明。
 岩肌が露出した壁とタイル張りの床の、異質にして不釣り合いなコラボレーション。
『――なるほど。そのために私を呼びつけたというわけか』
 そんな空間の只中で、にぃ、と口元を歪ませながら、一人の男がそう言っていた。
 紫の髪を肩まで伸ばし。
 金の瞳を爛々と光らせ。
 化学者の白衣を翻し、不敵に笑う男だった。
「貴方に拒否権を与えるつもりはないわ、ジェイル・スカリエッティ。
 長生きしたいのならその技術を、私のために役立てなさい」
『とんでもない。むしろ大歓迎だよ』
 モニター越しに向けた脅迫にも、物おじすることなく、返す。
 画面を隔てて男と向き合うのは、黒髪と黒いドレスの妙齢の女。
 どこか人を小馬鹿にしたような、薄っすらと喜色の滲んだ金眼とは違う。
 他者を威嚇し威圧する、凄みのこもった紫の瞳だ。
 男の立つラボから遠く離れた、遥か異界の地からの遠距離通信でありながらも、
 そこから放たれるプレッシャーは、決して衰えることはないだろう。
 大の大人であろうとも、一目で竦ませるであろうほどの気迫。
『君の提示したプランは、私にとっても魅力的な内容だった。
 人間・人外を問わずランダムに集めた、60の生命の殺し合い……
 そうした極限状態において、全く見ず知らずの人間達が、いかな交流を見せてくれるかというのは、
 生命科学の見地からしても、非常に興味深いサンプルになり得る』
「それは心理学の領域ではなくて?」
『一つの視野から世界を読み解くというスタンスは、既に時代遅れだということさ』
 機械工学と生命科学のミックスが、戦闘機人を生み出したように。
 女の凄みをその身で受けながら、しかし白衣の男は恐れない。
 微塵も表情を変えることなく、薄い笑みすらも浮かべながら、つらつらと饒舌に言葉を重ねる。
「……まぁいいわ」
 不快感を覚える気にも、怒りに震える気にもなれず。
 ふぅ、と呆れのこもった溜息をつきながら、女はぽつりとそう答えた。
「必要なものの詳細は追って伝える。そう長くかかることもないだろうから、それまで待っていなさい」
 そしてその言葉を最後にして、長距離通信のスイッチを切る。
 相変わらず、相手にしていると疲れる男だ。
 そんなことを思いながら、女は椅子の背もたれに身を預けた。
 ドクター・ジェイル・スカリエッティ――お互いが指名手配犯になる前に、何度か顔を合わせたことのある男。
 アルハザードの生命技術の寵児にして、彼女にアルハザードの存在を信じさせた男。
 あれはあれで純粋な奴だ。
 生まれながらに与えられた探究心に、愚直なまでに忠実でいられるその姿勢には、
 同じ技術者として一種の尊敬すら覚える。
 見返りさえ与えれば言うとおりに動く――まさに今回の実験には、うってつけの人材であると言えるだろう。
(でも、万一ということもある)
 内心でそう呟きながら、女は端末のキーボードへ向かった。
 確かに彼の技術力と探究心は、今回の実験において多いに役立つ。
 しかしだからといって、それが全幅の信頼を寄せていいということには繋がらない。
 でなければ、法の束縛を嫌って管理局に反旗を翻し、法を乗っ取ろうとしたことの説明がつかない。
 あれの純粋さは時として危険だ。
 どこかで方向性が食い違ったり、別の目標を見つけでもしたら、即座に手を切られるだろう。
(そうなった時のために、手を打っておくに越したことはない……か)
 裏切られたまま終わるのは癪だ。
 黙ってとんずらされるのは御免だ。
 モニターを見つめるプレシア・テスタロッサは、組み立て途中だったプログラムを呼び出し、指先でキーボードを叩いた。


 バトルロワイアル2日目、午前6時。
 プレシア・テスタロッサの実験場は、日の出を迎えると同時に崩壊した。
 ジュエルシードのエネルギーを用い、闇の書が術式を実行することで構成されていた結界は、
 それらの制御を失うことによって自然消滅。
 行き場を失った莫大な魔力が引き起こすのは、次元震にも匹敵する大爆発。
 森が、街が、海が、死体が。
 9キロメートル四方のフィールド内の、ありとあらゆる物質が、極光と轟音の中へと消えていく。
 まさに阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
 天地創造のビックバンと呼んでも、過言ではないほどの光景だった。
 それほどの劇的な破綻と共に、30時間に及んだ殺人遊戯は、遂にその幕を下ろしたのであった。

 忘れられた地、アルハザード。
 あらゆる生命体が死滅し、遺跡と残骸のみを残した無人世界は、今や灰色の土煙に覆われていた。
 未だ遠く響く地鳴りと、焦土を逆巻かせる風の音。
 世界に満ちていた戦いの音も、世界に生きていた命の声もなく。
 60人の戦いも、大魔導師の暗躍も、一切全てをぬぐい去って、再び静寂を取り戻した。
 管理者が消え、参加者が皆死に絶えた今、アルハザードは元の無人世界へと戻ったのである。

 だが、しかし。

「――急速浮上!」

 瞬間、爆音が大地を揺るがした。
 灰色の沈黙を破り裂き、生者の怒号が木霊する。
 炸裂の地鳴りをも塗り潰し、エンジンの激音が世界を満たす。
 死の灰を引き裂き振り払い、現れたのは一隻の戦艦。
 絢爛の黄金と高貴の紫――ツートンに塗られた鋼の箱舟が、大地と大気を切り裂いて、轟然と天空へ舞い上がった。
 その名を、聖王のゆりかご。
 遥か遠きベルカの時代、史上最強の生体兵器・聖王を乗せて世界を制した、超弩級魔導戦艦である。
 そして王者の舟のブリッジに、腰を預ける者が1人。
 現代に遺された聖遺物より生まれ、レリックの力と共に蘇った、最後の聖王の写し身・ヴィヴィオ。
 母と慕った栗毛の女と。
 女の慕った金髪の男と共に。
 聖王の名の後継者は、バトルフィールドの大破壊から、見事生還してみせたのだった。

「何とか、生き残れたみたいだね……」
 ぱらぱらと土くれの舞う窓外を見ながら、高町なのはが呟いた。
「……よし、これなら航行には問題なさそうだ。さすがは古代ベルカ最強の戦艦といったところかな」
 ふぅ、と安堵の息をつきながら、ユーノ・スクライアが相槌を打つ。
 かつてのJS事件において、その最終決戦の舞台となった、聖王のゆりかごの玉座の間。
 エースオブエースと謳われたなのはと、聖王の血を覚醒させたヴィヴィオが、悲しくも激しい決戦を繰り広げた場所だ。
 しかし今のこの場所に、戦いの火花と涙はない。
 刃を交えた母と娘は、今は互いに手を取り合って、この巨大戦艦を浮上させ、殺戮劇から生還した。
 役者はほとんど同じでありながら、全く違う想いを乗せて、聖王のゆりかごは飛翔していた。
「ルーテシア……」
 それでも、誤魔化しきれない怨嗟の痕は、消えることなく残り続ける。
 なのはの視線の先にあったのは、無造作に転がった少女の首。
 ルーテシア・アルピーノ――幼い蟲使いの召喚師の亡骸だ。
 そして視線をその脇へ向ければ、もはや原型が分からぬほどに損壊された、ぐちゃぐちゃの肉塊が放置されている。
「……片方はキャロの。奥には、もう1人のフェイトママの死体もある」
 沈痛な面持ちで呟いたのは、玉座に腰を預けるヴィヴィオだった。
 この艦内に転がる死体の中に、彼女が殺めたものは1つもない。
 それでも、その全てが自分のすぐ傍で喪われた命で、キャロに至っては、死後自分が蹂躙した死体だ。
 無力な自分が救えなかった命。
 あの悲劇の舞台で喪われた命。
「本当なら、死んでしまうこともなかった命なのに……」
 素直に脱出を喜ぶ気にはなれなかった。
 結局生き残ることができたのは、ヴィヴィオを含めても3人だけ。
 アリサ・バニングスを含んだ、58人もの命が、救われることなく消えてしまったのだ。
 これだけ生き残れたのではない。
 これだけしか救えなかったのだ――弱い自分は。
「……確かにこの戦いでは、あまりに多くの命が喪われてしまった」
 少女の悼みに割って入ったのはユーノだ。
「それでも……だからこそ、生き残った僕達は、生き延びて責任を果たさなくちゃいけない。
 時空管理局に帰って、この事件のことを報告して……何としても、犯人達を捕まえなくちゃならないんだ」
 デスゲームの中断――そんな事態になった以上、恐らくプレシア・テスタロッサは、既にこの世にはいないのだろう。
 それでも、まだ全てが終わったわけではない。
 恐らくは彼女に肩入れし、そして彼女を廃除して、まんまと逃げおおせたスカリエッティがいる。
 彼らを逮捕しない限り、この事件は終わらない。
「だから僕達には、くよくよしている暇なんて、ないんだよ」
 そう、強く締めくくった。
 それがこの悲しい事件の中で、散っていった数多の命への、せめてもの手向けになるのなら。
 絶望と悲嘆の重みでうつむいて、後悔に縛られるわけにはいかないのだ。
 生きることが戦いならば。
 この身が生き続ける限り、戦わなくてはならないのだ。
「……分かりました」
 まだ、完全に本調子になったわけではない。
 それでもヴィヴィオの返事には、いくらか覇気が戻っていた。
 そしてそれを見やる母親の顔には、柔和な笑みが浮かんでいた。
「さてと! それじゃあ早速、私達の世界へ戻らないとね」
 一声で気持ちを切り替えて、なのはが今後の方針に触れる。
「うん、そうしよう」
 現状のコンディションと装備では、脱出した主催者達を追いかけるのは不可能だ。
 故に現在優先すべきは、手近な管理世界への帰還。
 ジェイル・スカリエッティの居場所を突き止め逮捕するのも。
 並行世界を渡り、それぞれの世界へと帰る手段を探すのも、全てはそれからになるだろう。
「でも、ちゃんと帰れるのかな……? このゆりかごだって、エネルギーがもつかどうか……」
 弱気な疑問を口にしたのはヴィヴィオだ。
 確かに、彼女の不安にも一理ある。
 これまでありとあらゆる観測を逃れてきた、次元世界の最果て・アルハザード。
 それほどの深淵から、オリジナルよりも小柄なこの艦が、果たして抜け出せるかどうか。
 ひょっとすれば、ミッドチルダまで燃料がもたず、途中で止まってしまうかもしれない。
「その時はその時だよ、ヴィヴィオ。
 悩んでも事態が解決するわけじゃないんだから……だったら、まずは行動してみないと」
「そうか……そうだよね。分かったよ、なのはママ」
 なのはの言葉に同意し、頷く。
 確かにここで悩んでいたところで、状況が好転するはずもない。
 それに運がよければ、動力を分けてもらえるような世界までなら、辿りつくこともできるかもしれない。
 どれだけ時間がかかろうとも、最悪辿りつけなくとも、
 それでも、まずは試すこと。この場で一番大事なのは、それだった。
「……それじゃあ、次元航行に入ります! 転移先をミッドチルダに指定……」
 各種計器を操作し、ゆりかごを潜航態勢へと移行させる。
 実際に自分で操るのは初めてだったが、それでも操作はスムーズに進む。
 やはり、この艦は聖王のためのものだということか。自らに流れる血に感謝した。
 ともあれ、これで準備は完了だ。
 これでようやく、このアルハザードから脱出できる。
 ミッドチルダへと帰還し、未来へと希望を繋げることができる。
「聖王のゆりかご、出港!」
 ブリッジに立つ若き聖王が、高らかに宣言した瞬間。
「待って! 航行システムに異常が……これは――――――ッ!?」


 時の庭園、プレシアの部屋。
 主の遺体は片付けられ、乗っ取った者達も撤退し。
 殺し合いを支配すべきゲームマスターを失い、がらんどうになった司令室。
 薄暗いその部屋の中で、コンピューターのモニターだけが、淡い光を放っていた。
 使用する意味も意義も失い、電源を落とされたはずの端末が、微かな機械音と共に起動している。
 表示されたデスクトップに、展開されていたのは2つのウィンドウ。

 1つのウィンドウに映されたのは、「緊急転送システム」なるものの、実行完了を伝えたメッセージ。
 そしてもう1つに映されたのは、「脱走妨害システム」なるものの、実行開始を伝えるメッセージ。

 なのは達を襲った異変は、それらのうち後者によるものだった。
 参加者達に逃げられるという、最悪の状況を考慮したプレシアは、
 実験場の周囲一帯を、巨大な転送妨害フィールドで覆っていたのである。
 外からの侵入をも防止できるほどのものではない。リインフォースの侵入を許したのはそのためだ。
 しかし内側からの脱出に対しては、たとえそれが誰であろうとも、例外なく牙を剥くように設定してある。
 ここから出ようとした者は、その制御を狂わされ、周辺の辺境世界へと投げ出されるという寸法だ。
 あとは野となれ山となれ、のたれ死ぬのが関の山。
 それが脱走妨害システムの全容だった。

 そしてもう1つの、緊急転送システムは――それはまた、別の機会に語られることになるだろう。


 どこまでも続く、水平線と地平線。
 それを遮る人工物は、二元の世界には存在せず。
 ただ荒涼としたサバンナと、底抜けに青い空だけが、延々と続いていく世界。
 その中にいくつかの木があって、少し遠くには川が見えて。
 本当にただそれだけの、未開の土地とでも言うべき世界。
 そんな風景の只中に、1つだけ場違いな物体が存在した。
 もうもうと煙を上げながら、その鈍色の巨体を横たえるもの。
 ひしゃげた鋼鉄の翼から、ぱちぱちと電流火花を舞わせるもの。
 それはかのナンバーズ達を乗せた、時の庭園の脱出艇。
「参ったわね。スラスター全基損傷……このままじゃ転移し直すこともできないわ」
 そしてその操縦席で、金髪の戦闘機人・ドゥーエが、がっくりとした声音を発していた。
 窓に映る天井の太陽を、疎ましげな眼光と共に、睨む。
 まったくもって暑苦しい光だ。苦労しているこちらの気も知らないで、と。
「……こっちも駄目。何が起こったのかは知らないけれど、ドクターからの応答がない」
 通信機に向かっていたのは、ナンバーズ12姉妹の長姉・ウーノだ。
 苦々しげに呟きながら、通信モニターのスイッチを切る。
 一流企業の社長秘書を思わせる、鉄壁のクールビューティーも、この状況には弱り切っていたらしい。
「姉様方、一体何が起こったのですか」
 ぷしゅっ、という軽い音と共に、後方の自動ドアが開いた。
 操縦室に入って来たのは、桃髪の戦闘機人・セッテ。
 そしてその後ろには、オットーとディードの双子も続いている。
「プレシア・テスタロッサにしてやられたのよ。私達は妨害プログラムに弾かれて、未開の世界へ不時着したの」
 創造主を連想させる金眼を細めながら、妹の問いに答えるウーノ。
「妨害プログラムに……? 何故僕達の脱出艇が?」
「プレシアによる承認がなければ、勝手に出られないようになっていた、ってことね。
 あの女……私達が勝手にとんずらする可能性を、予め読んでいたのよ」
 ボーイッシュなオットーの疑問に、ドゥーエが続けた。
 彼女らナンバーズの脱出艇もまた、プレシアの残した脱走妨害プログラムによって、辺境世界に飛ばされていたのだ。
 ある意味で敵と呼んでもいい、参加者達の脱走を阻害するためのプログラム――それに引っ掛かったということは、
 戦闘機人の姉妹達もまた、味方として見なされてはいなかったということか。
「いずれにせよ、このままでは帰還するのは不可能よ。整備部品は足りないし、あとはドクターに救援を求めるしか……」
「それも繋がらないんじゃねぇ」
 あくまで平静を装おうとするウーノに、おどけた様子で肩を竦めるドゥーエ。
 次女の態度とは裏腹に、彼女らの置かれていた状況は切迫していた。
 不時着の際の衝撃で、ナンバーズを乗せていた脱出艇は、航行能力を失ってしまったのだ。
 積み荷や乗組員に被害が出なかったのは幸いだったが、これでは元の世界に帰れない。
 こんな原っぱのド真ん中に、脱出艇を修理するためのパーツがあるはずもない。
 おまけに迎えを頼もうにも、スカリエッティとの通信は繋がらないときている。
 まさに八方塞がりだ。このままでは野垂れ死にを待つだけだった。
「そんな……」
 感情の希薄なオットーにも、さすがに危機感はあるらしい。
 無表情な顔立ちに、微かな焦りが浮かんでいた。
「――姉様方、あれを」
 その時だ。
 ナンバーズの末妹・ディードが、窓外の景色を指差したのは。
 人差し指の向こうには、遥か遠い地平線。
 しかしその空の色は、一瞬前とは大きく異なっていた。
 青一色だったはずの空の中に、漆黒の穴が開いていたのだ。
「あれは、次元航行艦の転送ゲート……?」
 我知らず、ウーノが呟いていた。
 あれは次元航行に入っていた艦船が、次元世界にワープアウトする際に開かれるワームホールのはずだ。
 ということは、何かしらの舟が、この世界へと降りてくるということである。
 スカリエッティのよこした迎えだろうか? 否、それでは通信が繋がらないことに説明がつかない。
 第一、向こうから舟がやって来たにしては、到着時間が早すぎる。
 ならば一体どこの舟が、何の目的でこんなところに――?
「!」
 次の瞬間。
 金色と紫でペイントされた戦艦が、勢いよく草原に放り出された。
「ウーノ、あれは……!」
 現れた舟を指差して、狼狽気味にドゥーエが言う。
 地鳴りと土煙を引き連れて、豪快に大地を滑る金の煌めき。
 皆まで言わずとも理解している。あんなフォルムとカラーリングの戦艦など、他に見覚えがあるはずもない。
「会場に設置されていた、レプリカのゆりかご……ということは、参加者の生き残りが?」
 考えられる可能性が、それだった。
 今まさに目の前に不時着したのは、デスゲームの会場に用意された聖王のゆりかごだ。
 模造品であるとはいえ、極限まで本物に似せて造った代物である。
 会場で起こると予想された大崩壊に耐えたとしても、十分に頷けるだろう。
 自分達と同じように不時着してきたということは、やはり生き残った参加者が、あれで脱出を図ったのだろうか。
「チャンスです、姉様。あのゆりかごを奪えば、ドクターの下へ帰還することができます」
 冷静に言い放ったのはセッテだった。
 なるほど確かに、その通りだ。
 今まさに静止した聖王のゆりかごは、特に目立ったダメージもなく、その威容を周囲に振りまいている。
 恐るべくはその堅牢性――だが今はそれが僥倖となった。
 あの程度の損傷ならば、ゆりかごは再度の次元航行にも、問題なく対応しうるだろう。
「そうね。中に乗っている連中も、とっくにボロボロになっているはず……」
 にぃ、と冷酷な笑みを浮かべて、ドゥーエが舌舐めずりするように言った。
 次元航行艦を乗りこなしているということは、
 恐らく生き残ったのはあの3人――ヴィヴィオ、高町なのは、ユーノ・スクライアと見て間違いないだろう。
 だとすれば、倒すのは容易だ。
 彼女らは度重なる戦闘によって、著しく体力を消耗している。
 この場に揃った3人の最後発型ナンバーズと、残存するガジェットドローン達で対処可能。
 であれば、この場では強硬策こそが最善策だ。
「……分かったわ。全ガジェットを動員する。セッテ、オットー、ディード――貴方達も行きなさい」

「いたた……」
 壁で打った頭を押さえ、ユーノはうつ伏せの身体を起こす。
 一体何があったのだろう。
 アラートが発生したかと思えば、突然とてつもない衝撃が襲ってきて、今になってようやく治まったのだ。
 外の風景もプラズマの光で、一瞬前まではとても見れたものではなかった。
 ひとまず艦内の端末を呼び出して、被害状況を確認する。
 どうやら装甲へのダメージはほとんどなかったらしい。つくづく怖ろしいほどの耐久性だ。
「ユーノ君、ここは一体……」
 どうやらなのは達も気がついたらしい。
 倒れていた身を起こし、モニターで外の様子を確認している。
 彼もそれにならって、外部カメラの映像を呼び出した。
 画面一面に広がるのは、見渡す限りの大平原――とてもじゃないが、ミッドチルダとは思えない。
「どうやらさっきので制御が狂って、別の世界に投げ出されたらしい。
 ……多分、アルハザードからそう離れていないとは思うけど」
 一応起こったことがことなので、次元航行を司るシステムをチェック。
 特に問題は見受けられなかった。であれば、原因は内部の故障ではなく、外部からの干渉だったのだろう。
 となるとあのプレシアが、脱走者が出たことを想定して、元の世界へ帰らせないようにと仕掛けた罠だったのだろうか。
 いずれにせよ、再度のワープが可能なのは幸いだった。
 少々駆動系にダメージが及んでいたが、操縦者を乗せたゆりかごは、自己修復機能を発揮できる。
 少しばかり時間をかければ、再び飛び立つことは容易かった。
 ならば当面は、修復完了までしばらく待機ということに――
「! なのはママ、ユーノさん、あれっ!」
 その、瞬間。
 不意にヴィヴィオの放った声が、頭上から鼓膜へと突き刺さった。
 刹那、玉座の間に巨大なモニターが投影される。
 どうやらヴィヴィオが呼び出したものらしい。彼女の尋常ならざる気配につられ、反射的に目を向けた。
 そこに映し出されていたのは、先ほど自分が見たのと同じ外の光景。
 決定的に違っていたのは、そこに無数の機影があったことだ。
「あれは、ガジェットドローン……!」
 大量の機動兵器を前に、なのはが驚愕も露わに呟く。
 確かその名は、スカリエッティの操っていた、無人兵器の総称だったはずだ。
 であればあれを操っているのは、あのデスゲームの主催者達ということか。
「……後方に、チンクと同じ衣装の人間が3人。さらにその後ろには輸送艇が見える。
 あの損傷では次元航行は無理だ……恐らくこのゆりかごを、足にするために奪おうとしているんだろう」
 望遠映像を呼び出しながら、ユーノが言う。
 主催者であるはずの彼女らが、何故自分達と同じように、この世界へと漂着していたのかは分からない。
 ひょっとしたらプレシアとの間に、自分達の知らない何かがあったのかもしれない。
 だが、そんなことを考えている暇はなかった。
 このままでは、自分達はゆりかごから引きずり降ろされ、命を奪われてしまうだろう。
 ならば、大人しくやられるわけにはいかない。
 ここまで生き残った自分達には、生きて帰って、なすべきことをなす義務があるのだ。
「戦おう、ユーノ君!」
 声に出して言い放ったのは、白いバリアジャケットのエースオブエース。
 漆黒のレイジングハート――ルシフェリオンを、油断なく構えながらなのはが言った。
 当然、異論などあるはずもない。無言でなのはに頷き返すと、ユーノもアスクレピオスを起動させる。
「ヴィヴィオはここに残って、自己修復機能を維持していてて。外の敵は、私達が迎え撃つから」
「分かった。生きて帰ってきてね……なのはママ、ユーノさん」
 ヴィヴィオの声に、頷き返す。
 現状最も体力が温存されているのはヴィヴィオだ。
 しかし彼女がこの場を離れれば、ゆりかごはその機能を停止させてしまう。
 どちらにせよこちらはボロボロなのだ。優先事項が元の世界への帰還であることに変わりはない。
 故にここはヴィヴィオを後方へ下げ2人で打って出ることにした。
「それじゃあ行こう、なのは!」
「うん!」
 共に互いの武器を構え、玉座の間から駆け出していく。
 これが最後の戦いだ。
 このバトルロワイアルの場においては、この一戦こそが締めくくりとなる。
 必ずゆりかごを守り抜かなければ。
 そう固く心に決め、アスクレピオスの手のひらを握りしめた。


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