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Beautiful Amulet(前編) ◆gFOqjEuBs6




 己が欲望の為に悪魔に魂を売った女は既に殺され――
 彼女から全てを奪った奴らは、一目散に逃げ出した。
 この“時の庭園”に残された者は、最早誰一人居ない。
 ……と、少なくとも、奴らはそう思っていたのだろう。

 だが、実際は違う。
 まだ、残っているのだ。
 プレシアにとっての、最後の戦力が。
 見捨てられたと思っていた、生き残りの戦力が。
 奴らの決定的な失敗は、完全にシステムを掌握しただろうという過信。
 首謀者であるプレシアを殺した時点で、邪魔者など居ない……そんな慢心。
 それが勝った気でいる奴らにとっての最大の綻びになるなどと、誰が想像出来ただろう。




 目覚めた少女は、碧銀の髪を揺らし、立ち上がる。
 蒼と紺の虹彩―所謂オッドアイだ―で、仄暗い一室を見渡す。
 自分の他は、数人の女が壁際に設置されたコンソールを叩いているだけだ。
 それが誰なのか、何て事を少女は知らないし、自分が何故ここに居るのかすらも解らない。
 少女にはそれ以前の記憶が殆ど残されてはいなかった。
 だけど、だからと言って思い悩んだりする必要もない。
 成すべき事は、只一つ。愚かな裏切り者の始末、だ。
 与えられた任務は、ジェイル・スカリエッティを叩き潰す事。
 それだけが確固たる目的として、脳裏に刻み付けられていた。

「武装形態」

 ぽつりと呟いた。
 数瞬ののち、少女の衣服が弾け飛んだかと思えば、その身体が変質してゆく。
 まだ幼さを残した身体が、成熟した大人の身体へと。
 手足が伸びて、先程までは幼かった筈の胸が、大きく揺れる。
 大人の身体へと変化したその身体を、白と緑の騎士甲冑が包み込み――
 最後に、少女のオッドアイの瞳を、黒のバイザーが覆い隠した。
 かくして少女は“変身”を遂げた。
 戦う為の、任務を果たす為の姿へと。
 倒すべき敵を求めて、少女は周囲を取り巻く女へと向き直り、

「私の敵は、何処ですか」

 淡々とした口調で問うた。

「母さんが遺した“緊急転送システム”で、君を敵の元まで送り届ける」
「君はそこで、“命令”された通りに敵を叩き潰せばいい」
「私達は君を送り届ける為に、今の今までずっと身を隠して来たんだ」
「それが、母さんが望んだ事だから」

 よく済んだ女性の声が、口々に答えた。
 何人か居るようだが、皆が皆同じ声をしている為に、聞分ける事は難しい。
 ともすれば、一人しかいないのに、複数人を装っているのでは、とも思える程だ。
 されど、そこには確かに数人の……それこそ十人にも満たない程の女が居た。
 長い金髪に、すらりと伸びたスタイルの良い手足。
 赤い虹彩の瞳はまるで生気を感じさせず、気味が悪かった。
 同じ顔。同じ声。同じ特徴を持ったそれらは、母の愛の為だけに動く人形。

 先の戦いで殆どが死に絶えた彼女らも、全滅した訳ではなかった。
 最後に残された数体には、プレシアから特別な任務を預かっていたのだ。
 それは“最後の罠”を起動させる為の駒として、その瞬間が来るまで身を隠せ、という事。
 ナンバーズやリニスすらも知り得ない、間取り図からも抹消された最後の部屋に。
 ……最も、プレシアはその時が来るとは思っていなかったのだろうが。

『――まあ、あの子を投入する事は来ないでしょうね』

 ミラーワールドでの騒動が終わった時、プレシアはこう言った。
 ここで言う“あの子”とは、最悪の場合に備えたカウンターの事。
 そう。あの時はまだ、それを使うつもりは無かったのだ。
 というよりも、使う時が来て欲しくは無かった。
 ここに閉じ込めたフェイト達も、このまま二度と解放する気は無かった。
 アリシアだけを蘇らせて、残された戦力など全て放棄するつもりだったのだから。
 されど、事はプレシアの望んだ通りには進まず……。
 状況は彼女が想定していた内、最悪の方向へと傾いた。
 事実として、彼女らに与えられた指名を、彼女ら自身が果たす時が来てしまったのだ。
 だから彼女らは……フェイトらは、最後の任務を成し遂げる為に。
 碧銀の髪の少女を敵の本拠地へと転送する為に、コンソールを叩く。

「叩くなら今しかない。奴らが油断し切っている、今しか」
「急いで。もうあまり時間が無い……奴らが逃げてしまう」
「こっちは準備完了。いつでも“脱走妨害システム”は起動出来るよ」

 フェイト達は必死だった。
 今は亡き母の命令を、母への愛を、貫き通す為に。
 そして何よりも。母を殺した奴らへ、一矢報いる為に。
 これが残された最後の任務。そして、これが残された最後の感情。
 愛する母からの命令と、憎き仇敵への愛憎が、彼女らを突き動かしていた。

「よし……緊急転送システム、何時でも起動出来るよ」
「良かった、これで間に合う。後は君に、全て任せるよ」
「うん。君の転送が完了すれば、もうこの庭園からは誰も出られなくなる」
「だから、後は君が私達の想いを成し遂げて欲しいんだ」

 最後の切り札たる少女に、今にも消えそうな笑顔を向ける。
 儚げで、心は泣いている……そんな風にも見える、悲しい笑顔だった。
 されど碧銀の少女は、それを向けられたからと言って、何を感じる訳でも無く。
 逆に、ふと気になった疑問を尋ねる。

「貴女達は、どうするんですか」
「この庭園はもうすぐ崩壊する。だから、最期の瞬間まで、私達はここに居るんだ」
「理解出来ません。そんな自殺行為に、一体何の意味があるんですか」
「君が理解する必要はないよ。この意味は、君にはきっと解らないから」
「そうですか」

 それ以上の詮索はしなかった。
 最後の切り札たる彼女には、殆どの記憶が無い。
 プレシアによって記憶と感情を制御された彼女は、ただの兵器。
 裏切り者を抹殺する為に残された、最後の鬼札(ジョーカー)なのだ。
 それ故に、自分の目的と何ら関係の無いフェイトが理解不能な行動を取った所で、さほど興味は沸かない。

「転送、開始」

 一人のフェイトが、パネルを叩いた。
 同時に、騎士甲冑を纏った少女の姿が消えてゆく。
 次元間転送だった。それは、たった一つの目的を果たす為に。
 奴らがアジトとしている場所を叩く為に、碧銀の少女を送り出したのだ。
 やがてその姿が完全に見えなくなった頃には、もう一人のフェイトが別のパネルを叩いていた。

「脱走妨害プログラム、起動」

 最後の兵器は、最後の戦場へと送り出された。
 これでもう、ここに思い残す事など一つもない。
 後顧の憂い無く、もう一つのシステムを起動出来る。
 何人たりとも庭園から逃がしはしない、最後のシステムだ。
 それら二つを合わせて、プレシアは最後の罠としていたのだ。
 今頃プレシアを裏切った奴らは、システムの網に引っ掛かっている頃だろう。
 その結果を暗示する報告が、今頃プレシアの部屋のモニターに映し出されている筈だ。
 されど、そんな報告をした所でもう意味は無い。
 母の言い付けを守った娘らを褒めてくれる人は、もう何処にも居ないのだから。
 何はともあれ、これでフェイト達はもう、二度と外の世界を見る事は無くなった。
 だけど、不思議と―彼女達にとっては不思議ではないのだろうが―後悔はない。
 何より、それが怖い事だとも思わなかった。

「きっと、母さん一人だけじゃ寂しいと思うから」
「だけど、安心して。私達は、これからもずっと母さんと一緒だから」

 届かぬ愛を胸に抱き、フェイト達は笑う。
 愛する母の言い付けを、始めて成し遂げる事が出来たから。
 母が残したこの庭園で、これからもずっと母と一緒に居られるから。
 結局、何が本当に正しい事で、何が本当の愛なのかも解らないまま。
 激しい地鳴りを伴って、時の庭園の崩壊が始まった。
 母と子らを乗せた庭園の最期だった。






 リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル 第200話
 「Beautiful Amulet」







 都市型テロ「JS事件」の解決から数カ月後。
 不可解な連続失踪事件が相次いで発生していた。
 被害に遭ったのは、空のエース・高町なのはに始まる機動六課の面々。
 彼女らが、まるで神隠しにでも会ったかのように、次々と何の痕跡も残さず失踪したのだ。
 目撃者は皆無。周囲の人物に事情を訊くも、皆一様にして彼女らが失踪する前後の記憶は曖昧。
 まるで超常的な力が働いたかの様に――それは本当の意味で、「消えた」という表現が正しかった。

 そこへ追い打ちを掛ける様に発生したのが、JS事件の首謀者であるスカリエッティによる脱獄事件。
 投獄されていたスカリエッティ及び配下のナンバーズ達が、何者かの手引きによって脱獄したと言うのだ。
 それも、無期懲役処分を受けていたナンバーズのみならず、更生組である筈のナンバーズまで。
 当然、管理局はこの二つの事件に何らかの関連性を見出そうとするが、一向に解決の兆しは見られなかった。
 事件は何の進展も見せず、数カ月が経過して――このまま迷宮入りするかと思われたその矢先。

 今から4年近く前の出来事だ。
 ある日、ミッドチルダの辺境に、不自然な次元干渉が確認された。
 誰も近寄らない様な山奥の地に、かなりの長距離を越えて何かが転送されて来たのだ。
 正規の手続きを取って居ない以上、それが不正な形での次元間跳躍である事は一目瞭然。
 しかしながら、それに輪を掛けて不自然なのは、何の隠蔽工作も無しに堂々と跳躍して来た事。
 まるでわざと管理局に見付かる為に事に及んだのではないかと、そう思ってしまう程に。
 ともすれば、管理局に敵対心を持った何者かによる罠とも考えられる。
 だが、例えそれが罠であったとしても、看過する訳には行かない。
 管理局は、直ちに武装局員を派遣した。
 それが最後の戦いの場である事も知らずに。




 高町ヴィヴィオ。
 ミッドチルダ在住のSt.ヒルデ魔法学院、初等科4年生。
 少しだけ人とは違う生まれ方をして、少しだけ人とは違う運命を辿った少女。
 ヴィヴィオがヴィヴィオとして生きる事を許してくれた人達が居て。
 命を賭けて、ヴィヴィオに色んな事を教えてくれた人達が居て。
 今は仲良しの友達も居て、母親代わりになってくれる人も居る。
 現在はごくごく普通の子供らしい人生を歩んで居た。


 その日は、少しだけ特別な日だった。
 今日からヴィヴィオは、晴れて初等科4年生となる。
 新しい学校生活を、新しい気持ちで迎えたのだ。
 嬉しい気持ちを一杯に胸に秘めて、ヴィヴィオは走る。
 新しいクラス分けとか、今日あった出来事とか、沢山話したい事があるし。
 それに何よりも、今日は早く帰って来れば、少しだけ嬉しい事がある、らしい。
 帰宅したヴィヴィオは、期待に胸躍らせ、玄関のドアを開け放った。

「ただいま、フェイトママ!」
「おかえりーヴィヴィオ」

 優しい笑顔で出迎えてくれたのは、ヴィヴィオのもう一人の母……フェイトママだ。
 高町なのはが居ない今、母親になるのは後見人であるフェイトしか居ない。
 ヴィヴィオが帰還したと聞いて、フェイトは嫌な顔一つせずにヴィヴィオを引き取ってくれた。
 しかし、今でこそヴィヴィオの前では何時でも笑顔で居てくれるが、少し前はそうではなかった。
 数ヶ月前、ヴィヴィオが帰還したばかりの頃は、フェイトも相当落ち込んで居たのだ。
 それも当然と言える。十年間共に過ごして来た友が……沢山の人の命が散ってしまったのだから。
 人前では笑顔で居ても、一人になった時はいつも泣いていた事を、ヴィヴィオは知っている。
 そんなフェイトを、強い人だと思う。
 本当は誰よりも悲しい筈なのに。
 誰よりも泣きたい筈なのに、そんな素振りを出しはしない。
 それどころかヴィヴィオの事を、本当の娘の様に可愛がってくれる。
 ヴィヴィオは、なのはが命を賭けて救ったたった一人の娘。
 なのはがその魂を託した、言わばなのはの唯一の忘れ形見なのだ。
 となれば、フェイトも黙って居る訳には行かないと、そう思ったのだろう。
 まずフェイトは、ヴィヴィオを立派に育てようと、魔法学院に入学させてくれた。
 それから、毎朝早起きしてはお弁当を作って、笑顔でヴィヴィオを送り出してくれる。
 夜にはヴィヴィオを安心させる為、遅くなる前に仕事を切り上げて帰宅してくれる。
 と言っても、どうしても帰れない夜もあるにはあるのだが。
 本局執務官ともなれば、本当は仕事だって忙しい筈だ。
 それくらいは、ヴィヴィオにだってわかっている。
 無理はして欲しくない、とフェイト本人にも言ったのだが、フェイト曰く「これくらいは平気」との事。
 そう言われてしまえばこれ以上何も言い返す事も出来なくて。
 ヴィヴィオは、そんな優しいフェイトママの事が大好きなのであった。

「今日はお仕事大丈夫なの?」
「フェイトママ、船の整備で明日の午後までお休みなんだ。だからヴィヴィオのお祝いしようかなって」

 柔らかな笑顔を浮かべ、テーブルの上にお菓子を並べて行く。
 今日はヴィヴィオの始業式。沢山のお菓子は、4年生に進級するヴィヴィオへのお祝いだった。
 お菓子の甘い香りが鼻孔をくすぐり、今すぐに食べてしまいたい衝動に駆られる。
 だけど、まだだ。まだ、その前にすべき事がある。

「お茶いれるから、先に着替えて来るといいよ」
「うん! ありがと、フェイトママ!」

 そう。まずは着替えだ。
 家の中でまで学校の制服を着たままでは堅苦しい。
 それから手を洗って、うがいをする事も忘れてはいけない。
 お楽しみは、きちんとやる事をやってから。
 それはかつてなのはママに教えられた事でもあるのだ。
 取り急ぎ着替えを取りに行こうと駆け出した……その刹那。

 ――ピンポーン、と。
 鳴り響いたのはチャイム音。
 来客が来た事を知らせるベルの音に、二人は顔を見合わせる。
 ヴィヴィオと目が合った瞬間のフェイトは、何処か嬉しそうな表情をしていて。
 如何にヴィヴィオが子供と言えど、それくらいの表情変化はすぐに見抜く事が出来た。

「来たみたいだね。ヴィヴィオ、出てくれる?」
「……? うん、わかったー」

 釈然としないものの、どうやら待ち望んでいた来客らしい。
 心中に若干の期待を抱きながら、ヴィヴィオは玄関に向かった。
 ドアノブをがちゃりと捻って、造りの良い玄関のドアを開く。
 同時。ドアの前に居た誰かが勢いよく跳び上がり――

「――んっ!?」

 次の瞬間には、ヴィヴィオの視界は闇に覆われていた。
 動きを完全に封じられ、次いで息苦しさを感じる。
 何者かの罠か、と考えるも、すぐにその線は薄いと判断。
 何故なら……肌に感じる“それ”は、柔らかかったからだ。
 顔面に触れる感触が、どういう訳か、僅かに柔らかいのだ。
 それがどういう事なのか大体理解した次の瞬間には、

「こら、いきなり飛び付く奴があるか」
「あいたっ!」

 ヴィヴィオの視界に光が戻っていた。
 目の前で頭を押さえ蹲るのは、一人の女だった。
 特徴的な水色の髪の毛に、修道騎士見習いのシスター服。
 人懐っこい表情でヴィヴィオを見る彼女の名は、セイン。
 かつて機動六課と死闘を繰り広げた、ナンバーズの一人だ。
 そして、セインの背後に控えていた二人の事も、ヴィヴィオは良く知っている。

「セイン! それにノーヴェとウェンディも!」
「おうよ。元気でやってっか、ヴィヴィオ?」
「今日からヴィヴィオが4年生だって聞いて飛んで来たんスよ!」

 セインの背後に控えていたのは、赤い髪の毛の女二人。
 ともすれば男前とも取れる様な爽やかな笑みを向けるのはノーヴェ。
 子供みたいに無邪気な笑みを浮かべるのは、ウェンディだ。

「三人とも、いらっしゃい! わざわざヴィヴィオの為にありがとー!」

 最初は誰かと思ったが、相手が彼女らならば話は別だ。
 ヴィヴィオとノーヴェは、同じストライクアーツを極めんとする者同士。
 格闘技の練習にはいつだって付き合ってくれるし、この三カ月で色んな事を教わった。
 今やノーヴェとヴィヴィオの練習試合は、周囲の注目を集める程のレベルへと昇華しているのだ。
 ウェンディはウェンディで、ノーヴェと会うついでに、ヴィヴィオと一緒に過ごす時間も少なくない。
 ナンバーズとヴィヴィオの間には、確かに色々あったが……だからこそ、彼女らもヴィヴィオの事は可愛がってくれる。
 ウェンディもセインもノーヴェも、まるで本当の妹を可愛がるようにヴィヴィオと遊んでくれるのだ。
 そんな彼女らを好きにならない訳が無かったし、会いに来てくれたとなれば尚の事嬉しくもなる。
 そんな中で、すっくと立ち上がったセインは、苦笑いを浮かべ、言った。

「いやー、悪かったよヴィヴィオ、久々だから思わず」
「もう、セインはいつ会っても子供みたいなんだから」

 そこがセインの良い所だが、と心中で付け足す。
 そんなヴィヴィオの心境を知ってか知らずか、セインは声を荒げて言った。

「自慢じゃねーが、あたしはこいつら程精神的に大人じゃないんだからな!」
「うわぁ、それは本当に自慢じゃないっスね」
「全く……こんなのがあたしらよりも年上かと思うと涙が出て来るわ」

 ウェンディとノーヴェが、口々に告げる。
 二人とも心底あきれ果てた様な表情で……だけど、何処か楽しげだった。
 それを見ているヴィヴィオも、何だか解らないけど、楽しくて。
 次の瞬間には、三人が三人とも、子供みたいに笑っていた。

 色々あったけど、今ならば――否、今だからこそ、思う。
 こうやって、他愛も無い雑談で笑い合ったり出来る事は、幸せなんだと。
 今みたいに下らない話題で盛り上がったり、格闘技の練習に励んだり。
 帰還してからの毎日は、ヴィヴィオにとって何もかもが輝いて見える日々だった。
 それもこれも、命あっての物種。
 生きているからこそ、実感出来る幸せなのだ。

 ……しかし、その代わりに払った“代償”は大きくて。
 その事を、一日たりとも忘れた事は無いというのも、また事実なのであった。




 暗い暗い洞窟の闇の中を、一人の少女が歩む。
 碧銀の髪を揺らして歩く姿に、一切の脅えは無い。
 その姿にこそ、威風堂々という言葉は相応しかった。
 今、この空間に於いて彼女は侵入者だ。
 この先に控える裏切り者を叩き潰す事だけを行動方針に動く兵器。
 当然、彼女の侵入に対して、裏切り者のスカリエッティが何の手を打たない訳がなかった。

「         !!」

 息一つ乱さずに、跳躍した。
 その下方、先程まで少女が居た場所を、眩い閃光が駆け抜ける。
 前方に視線を戻せば、無数の閃光が自分目掛けて飛んでくるのが見えた。
 侵入者を排除しようと放たれた、刺客による砲撃だろう。
 だが、何て事はない。
 魂の籠らぬ一撃など、この身体に当たりはしない。
 無駄一つない動きで、舞って見せる。
 ぎゅおおん! と轟音を轟かせ、何発のもレーザーが少女の脇を奔り抜けた。
 数瞬ののち、遥か後方で巻き起こる魔力爆発。
 狭い洞窟内を駆け抜ける爆風は、颶風となって少女の髪を嬲る。
 燃え上る炎に照らされ靡く碧銀の髪は、絹糸の様な美しさを秘めていて。
 美しい少女の容姿には、傷一つ見受けられない。
 それを確認するや、洞窟の奥から一人の少女が飛び出した。
 ボードに乗った少女は、凄まじい速度で狭い洞窟内を駆け巡る。
 少女もそれを視界に捉えて、頭の中で計算を立てる。
 今から数秒の後には、奴が自分と接触する頃だろう。
 ならば、ランデブーの瞬間に、真正面から迎え撃つまで。
 腰を軽く落とし、構えを取った――その刹那。 

「今だ!」

 第三者の声が、背後から少女の耳朶を打つ。
 振り向こうとしたその時には既に、この身体から自由が奪われていた。
 自分を羽交い締めにする水色の髪の女と、バイザー越しに目が合った。
 それは、勝利を確信した者の目付きで。
 何処かから飛び出して来たこの女が動きを封じ、その隙に戦いを終わらせる。
 そういう戦術を仕掛けて来るつもりなのだろうが……下らない。
 これで勝てると思っていたのなら、実に下らないと思う。
 彼女がそう思った、次の瞬間には既に、身体が動いていた。
 非力な女の腕を振り払い、

「なっ!?」

 上部へ向かって放り投げた。
 予想だにしない行動だっただろう。
 だが悲しいかな、その程度の腕力で覇王の進行を妨げるのは不可能だった。
 仰天した様子で空を舞う女は、そのまま真っ直ぐに落下。
 こうしている間にも、前方からは赤髪の女が拘束で迫り来る。
 赤髪と接触するまで、推定残り時間は5秒といった所か。
 ならば5秒で十分だ。それは彼女にとって、あまりにも簡単過ぎる問題だった。
 そう判断するや否や、その場で右脚を振り上げ――跳躍した。

「いいっ!?」

 素っ頓狂な声を上げたのは水色の髪の女。
 何がどうなったのかすら解らなかっただろう。
 次の瞬間には、真っ直ぐに振り上げた足が、女の腹を蹴り上げていた。
 凄まじい衝撃が、自分の脚からビリビリと伝わって来る。
 その感触が、相手を破壊したのだという感覚を確信へと変えてゆく。
 女の身体がくの字に折れ曲がって、蹴った箇所からは嫌な音が聞こえた。
 機械が軋み、壊れる様な――ともすれば、骨が折れた音にも聞こえるかも知れない。
 嫌な破壊音に次いで、声にならない嗚咽が聞こえた。
 女はそのまま天井に激突し、真っ逆さまに落下。
 その様を碌に確認もせずに、少女は一歩後方へと跳び退った。

「ちょっ……セイン!?」

 同時、突貫してきた赤髪が急停止した。
 真上から落下してきた女の身体が、ボードの動きを掣肘したからだ。
 どさりと音を立てて落下したこの女、名はセインというらしい。
 最も、敗者の名前に興味など持つ筈もなく、すぐに頭の隅へと追いやられたが。
 不自然に折れ曲がったセインの身体を見たボードの女が、一瞬身体を強張らせる。
 眼前に広がる狩る者と狩られる者の構図。
 本能的な恐怖が背筋を駆け抜けたのだろう。
 次はお前だと言わんばかりに、

「       ッ!!!」

 碧銀の少女は息を一つ吐き出して、大地を蹴った。
 赤髪の眼前まで飛び上がり、長い脚を振り上げる。
 反射的にボードでガードの姿勢を作るが、そんな物は問題にもならない。
 その程度の玩具でこの蹴りが防げると思ったら大間違いだ。
 振り抜いた脚は周囲の大気を寸断して、傲然たる勢いでボードを叩き折った。
 火花と共に強烈な破壊音が鳴り響き。
 次の瞬間には、

「――グフ、ァ……!?」

 赤髪の顔面を、少女の脚が蹴り飛ばしていた。
 真っ赤な血液を吐き出して、呻きと共に後方へと吹っ飛び。
 そのまま洞窟の壁に激突、地べたに転がるボードの破片の元へと崩れ落ちた。
 ……が、どうやらまだ完全には意識を刈り取れてはいない様子だった。
 咄嗟に掲げたボードによるガードが、存外ダメージを和らげてくれたらしい。
 だが、意識を失わなかったからと言って、助かった事には決してならない。
 寧ろ、今の一撃で気を失えなかった事は不運でしかないのだった。
 バイザー越しに赤髪を見下ろし、トドメを刺そうと一歩を踏み出した、その時だった。

「らぁぁぁああぁぁああぁぁああああああああッ!!!」

 耳を劈く様な怒号。
 反響するタービンの回転音。
 彼方から走り抜けて来たもう一人の女が、拳を振り上げ跳び上がる。
 型は良い。気迫も十分。格闘家としては、十分過ぎる程の逸材と見た。
 ならば、確かめてみたい。こいつがどれ程の力を持っているのかを。
 自分の拳とこいつの拳、どちらの方が上なのかを。

 何も思い出せない筈の心は、しかし目の前の女との決戦を望んで居た。
 ともすれば、それは心と言うよりも、彼女自身の本能なのかも知れない。
 嗚呼、結局、本当の所は自分にも解らないのだ。
 だけど、ただ一つだけ、本能が覚えている事があるとすれば。
 それは、戦えば戦う程に、この身体が強さを求めるという事。
 自分は、この身体は、一体何処まで行けるのか。
 眼前の相手よりも――誰よりも強く在れるのか、と。

「ぐ……っ!」

 女の拳を腕の甲で受け止める。
 ここへ来て初めて漏らした呻き声。
 ぎしっ、と。音を立てて、骨が軋む。
 だが、これで終わりはしない。
 拳を受け止めた腕を振り払い、同時に右脚を振り上げた。
 がきん! と金属音が鳴り響いて、蹴り脚は女の脚と激突。
 相手もまた、この蹴り脚を受け止める為に左足を掲げたのだ。
 所謂、カットという奴だ。格闘戦に於ける、初歩的な防御方。
 お互いがお互いの身体を弾いて、共に数メートルの距離を開いて対峙する。

「テメエ、よくもあたしの姉妹を!」

 金色の瞳からは確かな憎しみが感じられた。
 女は拳を引いて、次の一撃に備える。
 ならばとばかりに、こちらも再び構えを取った。
 この身体に眠る“彼”の記憶を再現するように。
 ベルカの天地に覇を成すとまで云われた構えを、この身体で再現する。
 刹那、少女の脳裏に疑念が過った。

 自分は今、何をしているのだろう、と。
 これは何のための戦いで、誰を守る為の戦いだったか、と。
 自分が今しようとしている事は、本当に“彼”が望む事なのか。
 彼と私が望んだ■■流は。
 ■■の悲願は、本当にこれで成し遂げられるのか。
 そんな疑念を振り払ってくれるのは、対峙する女の絶叫だった。

「オォッォォォオオオオオォォォオオォオォォォオオォッ!!!」

 脚のタービンを唸らせて、拳を振り上げ大地を蹴り上げる。
 一足跳びに少女の眼前まで肉薄した女は、全力で拳を振り抜いた。
 だけど、その攻撃は何故か……曇っているように思えた。
 自分の拳と同じで、何処か迷いがあるような。
 だが、今は一先ず考える事をやめよう。
 今は只、目の前の戦いに集中すべきだ。
 腰を落として、ステップを踏み込み。
 ひゅん、と風が切れる音が聞こえた。
 凄まじいまでの速度で振り抜かれた拳は、しかし命中せず。
 風の音と共に、少女の周囲の風を断ち切った。
 技量としては見事の一言に尽きる。
 だが――届かない。
 これでは、こんな拳では、届かないのだ。
 赤髪の女の胴体まで上体を下げた少女は、相手の顔をちらと見遣る。
 背後で燃え盛る爆炎の所為か、燃える様な赤の髪は、余計に赤く染まって見えた。

「              ッ!!」

 足腰を踏ん張り、この身体に眠る力を練り上げる。
 白亜の騎士甲冑に身を包んだ少女が、拳を握り締めた。
 一合で決める。こいつに使ってやる時間は、勿体ないからだ。
 相手が上体を捻り、その一撃に対処をしようとするが――もう遅い。

「ぐっ――ぅ……!」

 どすん! と、心地の悪い、それでいて豪快な音が響き渡った。
 目にも止まらぬ速度で、少女の拳が相手の胴体を抉ったのだ。
 紺色のスーツ越しに、拳は相手の腹筋へと捻り込まれ、そのまま内臓を破壊せん勢いで減り込む。
 全ては一瞬だった。
 次の瞬間には、相手の身体は洞窟の壁に叩き付けられ、そのまま崩れ落ちる。
 口元から血液だとか胃液だとかを吐きだしながら、意識を失った少女の瞳からは光も失われる。
 白目を剥いて倒れる姿は、ナンバーズきっての攻撃手・ノーヴェにしては、あまりにもあっけない敗北であった。

「貴方がもし自我を保っていれば、もっと強かったのでしょうか」

 碧銀の髪を揺らし、少女は物言わぬノーヴェに吐き捨てる様に言った。
 ノーヴェの拳は、素人がそうおいそれと繰り出せる代物ではなかった。
 そのテクニック、速度、切れ味、どれをとっても格闘家としては一級品。
 なのに、何故こうも簡単に敗れたのか。
 それは、単に拳に「魂」が乗って居ないからだ。
 それが一体何故なのか、なんて事には全く興味を抱かない。
 向かってくるならば倒す。
 自我がないなら、楽に潰せる。
 その分、事がスムーズに進められる。
 少女にとっては、その程度の認識でしかなかった。

 不意に振り向けば、そこに横たわるは、三人の身体。
 水色の女はセイン。胴体を“壊した”のだ。修理を受けない限り、動く事は不可能。
 今し方倒した格闘家はノーヴェ。問題無く、完全なるKOだ。此方も同じ理由で動けまい。
 最後に残った女は、ウェンディ。意識こそ保ってはいるが、この程度の相手ならば問題無い。
 向かってくるなら他と同じ様に撃破するのみ。自分にとって取るに足らない弱者だった。
 故に踵を返し、洞窟の更に奥へと進もうとした――その時。

「待つっス……! ドクターの元へ行かせる訳には……!」

 女はそれでも声を荒げた。
 だけど、耳を傾けてやる気は無い。
 こんな所でこんな奴を相手にするのは、時間の無駄だ。
 第一、これ以上こんな場所で道草を食うのは、彼女の使命感が許さなかった。
 この心に刻み付けられたのは、「裏切り者を叩き潰せ」という揺るぎない使命。
 この身体が動くのは、それを果たさんとする使命感故。
 だからこそ、これは最後の警告だった。

「貴女は私の標的ではありません。それでも邪魔をするというのなら、次は徹底的に破壊しますが」

 バイザー越しにちらと一瞥する。
 ウェンディは、動かなくなったノーヴェとセインを眇め見て――。
 最早それ以上は、何も言おうとはしなかった。
 ただ何も言わず、反抗的な視線で自分を睨み付けるばかり。
 恐怖心に脅かされた心が、ウェンディにそれ以上の言葉を塞がせたのだろう。
 無理もない。ウェンディとて既にそれなりのダメージを負っている状態なのだ。
 その上で、姉妹二人の完全なる敗北を見せ付けられたのだ。
 いくら頑丈な心だって、折れてしまうのも仕方のない事だった。

「それでは」

 だが、それでいい。
 これこの手を以上煩わせないで欲しかったから。
 最早誰に刻まれたのかも解らぬ使命を果たす為。
 白亜と深緑の少女は洞窟の最深部へと進む。




 その日の晩、ヴィヴィオの進級祝いは無事執り行われた。
 テーブルの上に無数に並ぶのは、綺麗に料理を平らげられた痕跡。
 料理のソースやケーキのホイップが僅かに付着した大量の皿。
 それらを眺め、満腹感に浸りながらヴィヴィオが告げる。

「今日は皆、私の為にありがとう」
「本当は他の皆ももっと呼びたかったんだけどね」

 苦笑いしながらそう返すのは、フェイトだ。
 結局他に進級を祝ってくれたのは、ナンバーズの三人だけだった。
 だけど、ヴィヴィオはこれでも十分だと思っている。
 セインが作ってくれた料理はどれも美味しかった。
 ノーヴェと共に、格闘技について語り合った時間は、心が熱くなった。
 場の空気を盛り上げてくれたウェンディのお陰で、常に笑顔を絶やす事も無かった。
 自分の事を本当に思ってくれている彼女らだけでも、ヴィヴィオにとってはこれ以上ない幸せだったのだ。

「まあ、なんだ」

 ジュースの容器に突き刺したストローから口を離し、ノーヴェが口を開く。

「あたしらとヴィヴィオの間には確かに色々あったけどよ
 今ではあたしも、お前の事は妹みたいに思ってるから、さ」

 ぽん、と。
 ノーヴェの手がヴィヴィオの頭の上に置かれた。
 その手から伝わって来るぬくもりは、どこか懐かしくて。
 遠い昔、大切な人に頭を撫でて貰った時の事を思い出して。
 この小さな胸が、少しだけ締め付けらる様な気がした。

「あたしらに頼りたい時は、いつでも頼ってくれよ、ヴィヴィオ」

 何処か照れ臭そうにノーヴェは笑う。
 目線を逸らしているのは、やはり直接こんな事を言うのは柄ではないからだろうか。
 確かにヴィヴィオは多くのものを喪った。
 だけど、代わりに得たものも多い。
 血こそ繋がっていないものの、本当の姉の様に接してくれる人が居る。
 ノーヴェだけじゃない。セインやウェンディ、フェイトだってそうだ。
 彼女らもまた、ヴィヴィオと同じように大切な人を喪ったから。
 だから殊更、彼女らもヴィヴィオを他人とは思えないのだろう。

「ありがと、ノーヴェ」

 だけど、だからこそ。
 その事を考えれば素直には喜べなかった。
 忘れる事など出来ない出来事が、影をちらつかせる。
 結果、図らずも何処か虚ろな笑顔を浮かべてしまっていたようで。
 只でさえ赤面していたノーヴェも、それ以上何も言わなくなってしまって。
 この場の空気が一転、少しだけしんみりとしてしまう。

「あ、ごめん……皆、折角盛り上がってたのに」
「いいっスよ、ヴィヴィオ。あたし達だって、気持ちは解るっス」
「一応あたしらも、ヴィヴィオとは似た様な境遇にあった訳だしなー」

 ウェンディに、セインが続ける。
 ナンバーズもまた、被害者と言えば被害者なのであった。
 ヴィヴィオも事のあらましは全て聞いた。
 ナンバーズの身に何が起こったのかも、知っている。
 更生組である筈の彼女らが何故再び悪事に手を染めてしまったのかも。
 悪の科学者の尖兵として戦った彼女を、武力で以て止めてくれた人物が居る事も。
 ……結局の所、どうしてそうなったのか、とか。そういう裏手の事情は解らず終いだが。
 かろうじて、彼女らの身に起こった出来事だけは知っていたのだった。

「その、4年前にノーヴェ達を止めてくれた人はどんな人だったの?」

 不意に、疑問を口にした。
 詰まってしまった会話の流れを再び繋ぐべく。
 それは同時に、気になって居た事でもある問い。
 どんな人間が、どんな想いを持って、ノーヴェ達ナンバーズを止めたのか。
 それは正直な所、ヴィヴィオ自身も気になる話なのであった。

「さあ、結局あいつも保護された後すぐ出て行っちまったらしいからな」
「でも、聞いた話じゃ彼女も洗脳されてたらしいっスね」
「短期間だけど、洗脳解けるまでは管理局でリハビリしてたらしいけどなー」
「え、ちょっと待って、洗脳って……?」

 三人の言葉に、疑問で答える。
 ノーヴェ達を救ってくれた英雄だと思っていたその人は、洗脳されていた。
 そんな事実は初耳だし、どういう状況なのか、訳も解らなかった。
 そして、ヴィヴィオの疑問に答えたのは、

「調書だと、プレシア母さんによる洗脳の可能性が高いんだって」

 フェイトだった。
 食器を片づける手を止めて、悄然として俯く。 
 プレシアの起こした事件は、フェイトにとっても消えない傷だった。
 例え事件が終わっても、フェイトの中でそれが解決する事は無いからだ。
 そもそも元を正せば、十年前、自分がプレシアを救えなかったが故に起こった事件とも言えるのだから。
 フェイトはそれを背負って行くしかないし、だからこそ今こうして前向きに生きているのだろう。
 子供なりにそれが解って居るからこそ、ヴィヴィオもこれ以上プレシアを憎もうとはしない。
 あの戦いで散った最愛の母だって、ヴィヴィオが彼女を憎み続ける事は望まないだろう。
 フェイトが背負った過去と戦い続けている様に、自分も背負った命の分まで生きなければならない。
 憎む方が圧倒的に簡単なのだから、自分はそうではない未来を歩んで行かねばならない。
 本当に難しいのは、憎しみや過去と向かい合ってどう生きて行くか、だった。
 だからヴィヴィオも、フェイトに必要以上の同情はせずに話を続ける。

「プレシアママがどうしてナンバーズを?」
「多分、スカリエッティがプレシア母さんを裏切ったから、だと思う」
「……ま、そのお陰であたし達は今こうしてここに居られるんだけどな」

 ノーヴェの言う通りだった。
 事実として、この事件の解決に最も尽力したのは、その少女だ。
 プレシアに洗脳されていたとはいえ、彼女が行動を起こしたからこその結果。
 出来るなら、今はもう何処にいるのかも解らないその少女に会ってみたい、と。
 彼女も武人であるのなら、一度ヴィヴィオもお手合わせを願いたい、と。
 そんな事を考え、物思いに耽ったヴィヴィオは、つい黙り込んでしまう。
 各々思う事があったのか、数瞬の沈黙が流れた後、

「ま、まぁまぁ、折角の進級祝いなんだから、難しい話は置いといて」

 それを破ったのは、やはりこの場での最年長たるフェイトであった。
 最後の食器を片づけ終えたフェイトが、本来のこの場に似つかわしい明るい声色で以て告げる。

「ヴィヴィオももう4年生だよね?」
「そーですが?」
「この4年間、色々あったみたいで……魔法の基礎も大分出来てきた。
 だからそろそろ、自分の愛機(デバイス)を持ってもいいんじゃないかと思って」
「ほ、ほんとっっ!?」

 それは思いもよらぬ僥倖。
 ヴィヴィオが所持しているのは、マッハキャリバーのみだ。
 だけれどそれは、元々スバルの為に組まれたデバイスであって、ヴィヴィオの物では無い。
 帰還するまでの4年間を、ずっとゆりかごで共に過ごして来たとは言え、その事実は変わらない。
 だから、マッハキャリバーに魔法の練習に付き合って貰う事はあっても、それが自分の愛機だとは言えなかったのだ。
 だが、そんなヴィヴィオにも、ようやく愛機と呼べるデバイスが与えられる。
 ともすれば、ヴィヴィオの瞳が輝かない訳が無かった。

「実は私が今日、マリーさんから受け取って来ました」

 そう言って、フェイトが近くの戸棚から小箱を取り出した。
 ヴィヴィオの手と比較すれば、少し大きいくらいのサイズの箱。
 待機状態のバルディッシュやマッハキャリバーを入れるなら、大きすぎるくらいの箱だった。
 中には一体どんなデバイスが入って居るのか。
 そんな期待を胸に、箱を開ける。
 しかし。

「……うさぎ?」

 中に入って居たのは、うさぎのぬいぐるみだった。
 かつてヴィヴィオが大切にしていたうさぎのぬいぐるみに、良く似ている。
 だけど、似ている様で違う。あのぬいぐるみとは決定的に違う、何か。
 そう。言うなれば、それはまるで「生きているようなぬいぐるみ」と表現するに相応しい。
 まるで的を射ていない表現だが、これがただの布と綿の塊でない事だけは、感覚的に解る。
 そんな不思議なぬいぐるみが、次の瞬間には――

「えっ!?」

 ふわりと浮かび上がり。
 ヴィヴィオの眼前で、びしっ! と手を上げた。
 それはまるでヴィヴィオに挨拶をしているかのようで。
 愛らしいうさぎのぬいぐるみは、明確な意思を持っていたのだ。
 これがヴィヴィオにとっての初めての愛機との出会いとなるのであった。



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