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Last update 2007年10月09日

ハンドドッグ・マウンテン、時々水晶時計 著者:七夜実


「朝、声をかけてみたら返事がなくって、お布団の中で眠ってるうちに、だったみたい」


 ということは本人、死んだつもりが全くないだろうな。
 成仏できるのだろうか?

 本日の主役よりも幽鬼じみた母親の話を聴きながら、木の箱の中に横たわる、見たこともない口紅をした友人の顔を見ていた。


                * * * * *

 又、失敗してしまった。

 次は上手くやらないと。

                * * * * *

「ほんとに急だよね。こんなことなら、もっと遊びに誘えば良かったな」

 とは言うものの、きっと話すことなんか、何にもなかったに違いない。

 弔問客に出された、冷えて無駄に大きい弁当を箸でつつきながら話をする友達の話を耳に挟みながら、黒枠の中でハニかんでいる友人の顔を見ていた。

                * * * * *

 もう方法がない。

 やりたくないけど、死ぬには仕方ない。

                * * * * *

「これ、まだ大事にとってたんだね。それとも、捨てる時間が無かったのかな」

 誰に向かって話しているのか、自問するのも野暮だと感じるほど、この部屋は友人の薄い気配で満ちている。

 机の上、出したままの本の中に埋もれていた手帳の中で、私の作り笑いと一緒に写真に収まっている、愛想笑いを浮かべた友人の顔を見ていた。

                * * * * *

 久しぶりに街を歩く。

 群衆を見ずに、上を見ながら歩いていく。

                * * * * *

「・・・ん?早かったね。今日は友達と飲んでいくのかなと思ってたんだけど・・・どうかしたの?」

 鉄の箱に入ってるくせに、その狭い隙間からしか見えないくせに、外のことにはよく気づくんだな、と失笑してみたりする。

 似合ってしまう黒い服を着た私。ふと覗き込んだ窓に映る身体のない私の顔に、見飽きてしまった友人の顔を見ていた。

                * * * * *

 あの高さならば大丈夫だろう。

 そのビルに入りながら、空を落ちる自分を夢想する。

                * * * * *

「きっとあのおじさんも、そのロッカーを薦めたのはいいけれども、やっぱり、一人では死ねなかったんだよ、きっと」

 話の間だけは、箱に徹してくれるつもりなのか、さっきから一言も返さないのが、なんだか面はゆかったりする。

 箱に背を預けて、その冷たさを味わいながら、私がどうしても近寄れず、独りで死ぬことも出来ず、自分で死を与えることすらもできなかった友人の顔を忘れるために話を続ける。

                * * * * *

 屋上から下を覗き込み、見ることの出来ない世界を幻視する。



 私
 はびしょび
 しょのコンクリート
 に投げ出され
 た、とてつもな
 く大き
 な魚の死骸だ
 っ
 た。






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