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Last update 2007年10月09日

それは…好き? 著者:松永 夏馬


『ああ、いやになるほどあんたのことがわかる』

 そんなセリフを吐く男を工藤亜季は冷ややかな眼で見つめていた。パソコンのチャット画面にリアルタイムで表示され続ける男の言葉に、亜季は小さく舌打ちをしてから『ありがとう』とだけキーボードに叩きこんだ。


『病気のせいで周りから特別視されるのってイヤだよね。オレもそういう経験あるよ』

『うん……。自分はとてもつらいのに、みんな変な目で見てくるし』

『大変だよね。わかるよその気持ち』

『そう言ってもらえると、ちょっと気持ちもラクになるかな』

『そりゃ良かった。うん、応援してるよ。頑張って!』

(うるさいヤツだ)
 亜季は小さくため息をついてキーボードから指を離した。
「この人も……同じ“だっちゃ”」
 なにもわかっちゃいないのはあんたのほうだ。所詮自分の思惑など他人にはほんの毛程も理解されるわけがないんだ。ネットの世界だけでしか出会うことのない貴方に何がわかるというの?
 そんな想いを抱えつつも、言い返さない自分が亜季は嫌いだった。ネットの中でもそうなのだ、自分の意思をはっきりと言えず、その場の雰囲気にムリヤリ馴染むことで友達を作る。

「こんなにつらいのに……きっと誰にもわかってもらえない“だっちゃ”」

 社会人として就職まではしたものの、持病のせいで社会人生活はほぼ断念。一応休職扱いではあるが亜季はもはやりっぱなヒキコモリである。ネットの世界へとリアルの世界からの逃避を試みたものの、結局同じじゃないか。言いたいことは何も言えず、ただ頷くだけの仮面人形。形ばかりの友達、いや、むしろネットの中こそ形ばかりじゃないか。褒めあい、慰めあい、傷を舐め逢うだけの、いや、そんなふりをするだけの友達。
 誰も他人の本当のつらさなんてわからない。ある種の精神障害に苛まれているとだけネット世界で公開している亜季の下へと届けられる応援の言葉。「大変だね」「頑張れ」という言葉は通り過ぎ様に吐かれる唾のようにしか亜季には感じられない。今までもそうだった。これからもそうだろう。自分より堕ちた人間に共通意識を持ったふうを装い近づいてくる「友達」など、所詮、自分より下を探しているだけなのだ。

 誰も私のつらさなど理解できない。そして、そう毒づきながらもそんな相手にすら礼を述べる自分が嫌いだ。

「……なんでこんな病気になった“だっちゃ”……」

 彼女の病名は、特殊心因性キャラクター言語障害。
 診断された際初めて聞く病名に彼女は呆然とした。担当医師でさえ初めてのことだと驚いていたからだ。
 詳しいことはまだわかっていない現代病のひとつで、刷り込みのように特定の、主にアニメ等のキャラクターのセリフを聞き入れた結果として現れる、言語障害だと言われている。

 治療法は……未だ不明。



 ********************

 尾出武史は再び『ありがとう』と打ち込まれたレスに、安堵の笑みを浮かべて何度も頷いた。

「……もしかしたら」

 武士はつぶやく。

「もしかしたら、僕のつらさをわかってもらえるかもしれな“いーのだー”」



 ……偶然より運命ははるかに強い。





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