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Last update 2007年10月09日

虫 著者:ろくでなしブルース


『偶然より運命ははるかに強い。』その言葉の意味がよく分からなかった。



僕達の家は隣同士だった。
そんな事もあり。
小さい頃からよく遊んだ。
いわゆる幼馴染。
彼女を異性として意識したのはいつだっただろうか?
それはよく分からない。
それに気づかされた時、もうこの国は配色が濃厚だった。
周りの人達・・・いや、この国全体がやけになっていた。
中学の連中の心も荒んでいた。
彼女の父親は軍の高官という事もあり、度々軽いいじめにあった。
無力な僕は何もする事ができなかった。
できる事といえば、愚痴を聞く程度だった。
幸いな事に、いじめをするのは女子だけだったので服を汚されたり、ノートに落書を書かれる程度だった。
彼女が美人という事もあり、男子はいじめる気にはならなかったみたいだ。

珍しく朝早く学校に行く、教室のドアを開けると泣声が聞こえた。
あわてて泣声の聞こえる方に目をやる。
なんと女子が女子の上に馬乗りになっていた。
殴られているのはなんと彼女だった。
僕の中には殺意にも似た怒りがこみ上げた。
僕は上に乗っている女を蹴り飛ばした。
『大丈夫か?』
『・・・。』
彼女は傷を負ってはいなかったが、複雑な表情をしていた。
泣いていたのはむしろ、馬乗りになっていた娘の方だった。
その娘の父親が、遠く離れた戦地で死んだらしい。
その事について問い詰めたようである。
凄くばつが悪い。
そして嫌な予感がした。

悪い予感は的中した。
机は落書で埋め尽くされた。
トイレに行く度に、誰かしらに声をかけられ殴られた。
家には帰る頃には顔中、あざだらけになっていった。
帰り道を歩いていると、『ごめん。』と彼女の声が後ろから聞こえたと思うと、僕を追い越して走って去っていった。
僕はその日以来度々いじめを受けるようになった。
しばらくして、耐え切れなくなったので学校に行かない事を決めた。

母も特にはとがめない。
今まで冷静を保ってきたが、やけくその仲間入り。
外にはほとんど出ない、部屋に引きこもって本を読んでいた。
時々、外に出ると歌を歌いながらバッタを火であぶって遊んでいた。
もちろん、バッタは敵国の兵士でもなく、ましてや彼女ではなく、僕を苛めた連中。
そんな毎日を過ごす。
しばらくすると家にニワトリの首を置いていく暇なヤツが現れるようになった。
どうやら、夏休み始まったようだ。
愚行に苛立ちを感じた。
このままでは理性が崩壊するという、危機感がつのった。
僕は山の上の納屋にこもる事にした。
小さな納屋だけど、僕の自由な世界だ。
夏なので風通しも良いしちょうど良い。
3食の食事を運んできてくれる母には本当に感謝の気持ちで一杯だ。
何よりもココからは眺めは最高だ。
人がゴミ用に見える。
敵国の兵士もこんな気持ちで爆弾を落としてるんじゃないかと妄想する。
ある日、納屋に彼女が来た。
彼女は僕を見るなり、僕に抱きつく。
柔らかい感触と、彼女の匂いが僕を襲う。
『もう苛めに耐え切れない。一緒に逃げよう。』
『え?』
『9月15日(10日後)に遠くまで行く列車が通るの、午前十時に駅でまってるわ。』
そう言うなり彼女は走り去っていった。
なんだか気持ちがすっきりした。
僕は今更ながら彼女を恋をしていた事に気づいた。
しばらく、彼女の感触は残っていた。
返事を言わずに当時来てびっくりさせてやろうと考えた。
僕は家に帰って支度をした。
僕はわくわくしながら毎日を過ごした。
時々、返事を待ちくたびれて彼女が来るんじゃないかと思いながら。
そしてその当日彼女は結局来なかった。
僕は3時間ほど待ったが、来なかった。
待ちくたびれたので、彼女の家に行ってみた。
家には家政婦のおばあさんが一人居るだけだった。
どうやら彼女の父親は戦犯として裁かれたらしい。
彼女は遠くに行ってしまっていた。
そして終戦してまもなく、この国は2つに分かれてしまった。
彼女は向こう側に行ってしまった、もう会う事はないだろう。
彼女に関する記憶だけは薄れる事は無かった、思い出は日に日に綺麗になっていく。
ある日夢に彼女が出てきた、夏祭りの浴衣姿、夜の暗さとオレンジ色の光、祭りの音頭。
その日以来度々彼女の幻影が夢に出てくる。
忘れたはずの記憶までもが蘇る。
あれから二度ほど女性と付き合う事になったが、うまくは行かなかった。
別れる度に、なぜか虫の焦げた匂いを思い出す。

あれから十年が経った。
今ならあの言葉の意味が分かる。
昔小説で読んだあの言葉・・・。
あの時会えなかったが偶然、今こうして生きて会えたのはきっと運命なだろう。
僕は今運命的に彼女と再会した。
色々な感情を抑えながら、僕は何気ない会話を交わした。
そして最後に僕は言った。
『俺はずっと前から愛していた女が居る。今もずっと。』
彼女はちょっと意地悪な笑みを浮かべた。
『あんたに愛された女は幸せだわ。』





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