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Last update 2007年10月09日

抱きしめたくて 著者:フトン


目指す道も抱く想いも変わってしまった・・・

人は年齢を重ねるたびに協調性を身に付けていく、私もその一人だしそうしなければ浮いてしまうのだから仕方ないと思う。

だから失ってしまった、個性という名の自由を・・・・・

                ☆

「沙菜って好きな人とかいるの?」

親友の遥香が私の前の席に座るとそう言った。

「居ないけど・・・」

私の答えに不満そうに遥香は口を尖らせる。

「高3にもなって好きな人も居ないわけ?」

女の子という物はどうしてこうも恋愛が好きなんだろう・・・

いつも私の中のもう一人がそう言う。

『何が楽しい』のって…

でもそれを口に出すことはない。

「淋しいよね・・」

「うん。そうだ!今度合コンでもする?」

楽しそうに話す遥香に少々うんざりしてるのに、私は笑顔で頷いた。いかにも嬉しそうに・・・

「行く!やっぱ彼氏は欲しいもんね!」

言った後でまた自己嫌悪・・・

何でいつもこうなんだろう。人に合わせて生きてしまう、本当の気持ちなんて誰にも話す事もなく。

事なかれ主義は何時から私に身についたのだろう・・気がつけばいつも人に合わせていた。親友の遥香にさえ本音なんて言えない・・・

小さい頃に「アイドル」になりたいと願っていたことがあるけど・・いつの間にか現実を知った。そういう仕事はごく一握りの選ばれた人が成るのだと、その中に私は含まれてはいないのだと・・・・これが現実。私の現実・・・

突然、教室の扉が乱暴に開かれた。クラスの視線は皆そこに集中して、そしてすぐに皆が皆視線を逸らした。

青木 良人だった。

彼はいつでも一人だった。入学してすぐに上級生と喧嘩して自宅謹慎になってから、誰もが彼を腫れ物の様に扱っていた。

彼は私の幼馴染でもあったけど、そのことは誰も知らない・・・知られることは多分ない。

私の中にある、この複雑な想いも・・・誰も知らない・・・

良人は周りを憎らしげに一瞥すると、自分の席にドカリと座った。

そんな彼を密かに見ている私に、遥香が声をかけた。思いもよらない言葉で・・・

「私さ、実は良人の事好きなんだよね。」

何かが私の中で音を立てて砕け散った。

「え・・・・?」

遥香を凝視すると、遥香は照れたように頬を赤らめてこう言った。

「前からかっこいいとは思ってたんだけど、ちょっと恐いでしょ?でもこの間、町で変なのにナンパされてたら助けてくれたんだよね。」

「そ・・そう。以外ね・・」

「でしょ!で!告白したいんだけど・・沙菜付き合ってくれない?やっぱ一人じゃ恐くて言えないし。」

遥香の誘いに私は断れなかった。胸がチクチクと痛むのに・・・

                ☆

放課後、校門を出ると近くの公園に私と遥香は向かった。

そこには良人が一人で私達の来るのを待っていた。良人が一瞬私の方を見たけどその視線に私は答えなかった。

遥香は良人の前に駆け寄ると、はにかんだ様に顔を赤らめて「来てくれたんだ」と言った。

「呼んだのはお前らだろ。」

ぶっきらぼうにそう言った良人に遥香は一瞬怯んだけど、すぐにめいいっぱいの笑顔を浮かべると愛の告白を始めた。

「私、青木君の事好きなの。付き合ってくれる?」

私は直視できずに視線をはずした。良人がどう答えるのか聞きたくなかった。胸がズキズキとナイフで切り裂かれたように痛い・・・殺してしまったはずの気持ちが傷口から溢れ出しそうで私は胸を押さえた。

「悪いけど。俺、女は信用してないんだ。そいつが良く知ってるはずだぜ?」

良人の返事に遥香が私の方を向いた。その顔は驚きと不信感に満ちていた。

「どう言う事?沙菜?」

私は何も言えずに俯いた。

「そいつ、俺の幼馴染なんだよ。学校じゃ知らない振りしてるけどな。」

「ごめん・・遥香」

逃げ出したかった。この場に居たくなかった。でも足がすくんで動けなかった。

「ひどい。あんたなんかもう親友じゃない!!」

そう言って遥香が駆け出した。

私に平手打ちをして・・・・

「最低だな。お前。」

冷たい視線で良人が私を見下ろすと、何もなかったようにその場を立ち去って行った。

取り残された私は、その場に崩れ落ちて行った。

              ☆

いきなり親友と好きな人を失った私は、暗くなった道を力なく歩いていた。家に帰るでもなく、ただ歩き続けた。

しばらくすると見慣れた空き地に着いた。

昔、まだ純粋だった頃良人と遊んでいた、あの空き地に・・・

引き寄せられるように空き地に入ると見覚えのある女性がそこに居た。

私は思わず声をかけた・・・

「おばさん?」

良人の母親だった。

6年前、彼女は幼い良人を残して家を出て行った。その彼女がここに居る。

「沙菜ちゃん。」

大きくなったわね。と彼女が言った。

「元気だった?良人とはまだ仲良くしてくれてるのかしら?」

少しやつれた顔をしている。この6年きっと、いろんな事があったのだろう・・・彼女を見るとそれが良くわかった。

「いえ。今はあまり・・・」

そう私が言うと彼女は残念そうに目を伏せた。

「そうよね。もう6年も経つんですものね。良人は元気かしら?」

そう言って遠い目をした彼女に、私は問いかけた。

「会ってないんですか?」

「離婚する時の約束でね。会えないの・・・。でもあの時はこうするしかなかったのよ。良人の為に諦めようとも思ったんだけど・・気持ちは変えられなかったの・・最後にどうしても会いたかったんだけどね・・」

そう言った彼女の瞳が悲しげに揺れた。

「最後って・・・」

そう聞こうとした時、誰かがこっちに走ってきた。私は口にしようとした言葉を飲み込んだ。

「何しに来たんだ!!」

良人だった。息を切らし鬼のような形相で彼女を睨んでいる。

「ごめんなさい。どうしても、貴方に会いたくて・・・」

「今更、何言ってんだ!俺のこと捨てたくせに・・・!!」

彼女は俯いて肩を振るわせた。

「もう、二度と会いに来るな!」

良人はそう言い残すとその場を立ち去った。最後に私を一瞥して・・

「良人!!」

私が追いかけようとした時、彼女が私を呼び止めた。

「沙菜ちゃん。待って!お願いがあるの・・」

              ☆

家の前まで来ると良人が玄関先に立っていた。

「何で、あいつと居たんだ?」

私を見つけると良人は真っ先にそう言った。

「何でって・・偶然会っただけだよ・・」

私の答えに良人は地面を蹴りつけた。その姿は小さな子供のようだった。

「おばさん。今でも良人の事心配してるよ?元気かって聞いてた。」

良人が私の肩を掴んだ!痛みに顔を歪める。

「お前も、あいつも勝手だよな!!人のこと捨てときながら!!」

視線がぶつかる。私も良人を捨てた・・・自分を守るためだけに・・・

殺してしまったはずの想いが、弾けるように溢れ出した。気づかないうちに涙が溢れていた。

「良人・・ごめんね。ごめんなさい。わたし・・・わたし・・」

関をきらした様に涙が溢れて止まらず、言葉が上手く出てこない・・・

良人の掴んでいた腕の力が抜けていった。

「もういい。」

そう言い残すと、くるりと踵を返して、良人は歩き出した。

「待って!良人!」

今、引き止めなかったら、二度と会えない気がした。

私は走り出すと良人の背中に抱きついた。

「ずっと、好きだった!今でも好きなの!もう、失いたくない!」

止められなかった。どうしようもなかった。何年も抑えられてきた想いは火山のように噴出してどうすることも出来なくなっていた。

「沙菜・・」

私の手を振り解き、良人が私の方に向き直った。

「俺と居ると、色々言われるぞ。良いのか?」

私は大きく頷いた。頷いて、もう一度良人を抱きしめた。さっきよりも強く、しっかりと・・・

良人も私を受け止めた・・・

やっと、本当の心が放たれた気がした・・・

頭の中でおばさんの言った言葉が浮かんでいた。おばさんの最後の願い・・・



『あの子を・・・抱きしめてください・・・・あの子にはそれが必要なの・・私にはもう、出来ないから・・』






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