Mystery Circle 作品置き場

暇子

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nightstalker

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Last update 2007年10月13日

オルゴール 著者:暇子


人生はどこかで帳尻が合うものだと思わずにはいられない。

やっとあたしの努力が実ったんだ。
報われない報われないと思っていたけど、とうとう来た留学の話。
こんなに努力しても無理なものは無理なんだろうかって諦めかけてた。


小さい頃から絵を描くのが好きだった。
小さい頃はそれで良かったんだよね。
でも大きくなるにつれ進路だなんだって話になると、親は渋い顔をするようになってた。

「好き」な事と「才能」は別のモノなんだって。
もっと将来に繋がる事をしなさい、と。
絵を描いて食べていける人なんてホンの一握りも居ないんだぞ、って…。

正直あたしを大学に行かせるお金も微妙だったみたい。
あたしは自分でバイトしながら学費を稼ぐと無理を言って、なんとか大学へ行く許可をもらった。
でも身にならないようならすぐに諦める事が条件だった。


あたしは努力した。
才能が無いなんて言わせない。
百歩譲って、あたしに才能が無かったとしても努力でカバーしてやるんだから。
納得して欲しかったというよりは、親を、皆を、見返してやりたかった。

もう4年。
後は無く、あたしもあたしの周りももうダメだと思い始めてた。
就職先を探すも、こんな時代だし…。
そこへ転がり込んできたこの話。

夢にまで見た、
憧れの、パリに留学。
ここは両手を挙げて喜ぶトコロよね!


嬉しい!!


嬉しい♪


嬉しい☆


嬉しい…


 ……


嬉しくない…?


なにかが引っかかる。
あぁ、「彼」だ。




「話って、なに?」

お互い忙しくて久しぶりに会えたからか、彼は息をきらして急いで来てくれた。
相変わらず彼は真っ直ぐな笑顔であたしを見る。

その笑顔が、今日は痛かった。

「あのね・・・」


出会いがあれば別れがあるのは当然だから…。
大丈夫、ツライのは今だけ。
すぐに忘れてイイ思い出になるわ。
あたしは彼に会う前から絵を描いてたじゃない。
これが、あたしの進む道なの。

ただ、
その通過点に彼が居た、それだけじゃない。

あたしは思い切って打ち明けた。
彼は怒る事も問い詰める事もなかった。
しばらく、沈黙が続いた・・・。



あたし達は最後にイヴの夜に会う約束をした。
それが最後。泣いても笑っても。




街はあたし達の気も知らず、色とりどりに浮かれていた。
この電飾も明日まで。
クリスマスが終わった途端に街は冷たくなる気がする。
年末大売出しだ初売りだって賑わってはいるけれど、なんだか冷たい。
それは人の心がいよいよ年越しで忙しくなるからそう見えるのかな?


あたし達は、
普通の恋人達のように食事をし、
普通の恋人達のようにイルミネーションを見て、
普通の恋人達のように・・・
キスをした。

 ・・・最後のキスだ。


別れ際、彼が小さな包みをくれた。
クリスマスプレゼント。

部屋に帰ってから開けて欲しい、と彼は言い、とうとう最後の最後の別れの時が来た。
優しい彼はあたしが駅の改札の中に見えなくなるまでこっちを向いていた。
彼は最後まで笑顔だった。




部屋に戻って、ひとりきりプレゼントの包みを開けてみる。
小箱の形のオルゴールだった。
オルゴールの中には指輪と手紙が入っていた。


『この指輪はキミを縛るためのモノじゃない。
 ごめんね、こんなことになると知らずに買っちゃってました!
 邪魔になったらいつでも捨てればいいよ。

 元気でね。
 夢を、叶えてください。』


たったそれだけの短い文章だった。
普段手紙なんて書くと思えない彼らしい内容な気がする。
あたしは指輪をはめてみた。
 ・・・ピッタリ!

指輪をはめた途端に涙が溢れてきた。
彼の最後の笑顔が頭に焼き付いてる。
あたしと彼はこれから別々の道を歩いていくんだ・・・。


カーテンの隙間からは今にも雪が降り出しそうな空が見える。
クリスマスの賛美歌のオルゴールが部屋中に響いた。





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