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Last update 2007年10月13日

僕と彼女の関係 著者:フトン


その姿には、見ている者をぞっとさせる、鬼気迫るものがあった。

歩道に座り込み、心配そうに寄ってくる人々を睨み付け、激しい言葉を投げては全てのものを遠ざけ様としているその姿に、なぜか僕は惹かれた。

僕は彼女から視線を外す事も、その場から離れる事も出来ずに、ただ彼女の姿を見つめていた。

全ての物が何もかも自分の敵のように、激しく高揚している彼女を見つめ続けた。

何時間も・・・・何時間も・・・・

            ✖✖✖✖✖✖✖✖✖ 

彼女を自分のアパートに連れてきた頃には、もう真夜中で、僕は彼女に付けられた傷でボロボロだった。

疲れ果てた僕は倒れこむように、ベットに飛び込んだ。

「好きにしていいよ。僕は眠るよ・・」

そう言った僕に彼女は、何も言わず、ただきつく睨み付け、ベットから離れた壁際に座り込んだ。

小さく蹲った彼女は儚くて・・・・頼りなくて、膝を抱える姿は自分を抱きしめているようにも見える。

何時間も立ち尽くしていた疲れと激しい格闘でボロボロの僕はそんな彼女を横目に、深い眠りについていった・・・・

             ✖✖✖✖✖✖✖✖✖

朝、目が覚めると彼女が僕の顔を覗き込んでいた。

大きな瞳が僕を見下ろしている。でもその瞳の奥は何かを、闇を含んでいた。

僕が彼女に触れようと手を伸ばした。

瞬間、彼女はすばやく身を翻した。そして、僕に背を向けると又、僕から一番離れた壁に蹲る様に座り込んだ。

「お腹空いてない?」

僕の問いかけに返事を返す事も無く、僕から視線を外したまま、頑なに全てを拒み続ける。僕は小さくため息をついた。

僕は何故、彼女を家にまで連れてきたのだろうか・・・

自分に問いかけたところで答えは解っている。

ほおって置けなかったんだ。

全てのものを睨み付け、何かに反発するように叫び続ける彼女を・・・・

寒空の下、小さい体を必死に大きく見せようとして、虚勢を張る彼女を・・・

ほうっておけなかった。ただそれだけの事・・・

僕は彼女のご飯を用意すると、僕の方を見向きもしない彼女に視線を移した。

「ご飯ここに置くよ。お腹空いてたら食べなよ。」

僕が近づこうとすると、あの大きな瞳で僕を睨み付けた。

僕は軽く肩をすぼめると、アルバイトに行く準備を始めた。

彼女との距離はそう簡単には縮みそうも無い。

          ✖✖✖✖✖✖✖✖✖

アルバイトから帰ってきた僕は、安堵した。

しっかり空になったお皿を見つけたからだ。

安堵した僕は、彼女に微笑みながら近づいた。

ガリ!!

差し出した手から血が滲み出る

彼女に引っかかれたのだ。

痛みに顔を歪めたけど、彼女を恨む気にも、怒鳴る気にもならなかった。

何かが彼女をこうさせたのだろう。僕の知らない過去が、彼女を苦しめている・・・

“私に触らないで!!”

無言の抵抗がそこにあった。

僕は黙って、彼女から離れる。

そしてかばんの中から、彼女へのプレゼントを取り出した。

抱きしめるにはちょうどいいくらいの犬のぬいぐるみ・・・

それを、彼女の側に置く。

「これがあれば、昼間僕がいなくても、少しは寂しくないだろ?」

彼女は僕の顔と、犬のぬいぐるみを何度も見比べた。

一瞬だった!!

彼女はぬいぐるみをしっかりと抱えると、壁の方へと走っていった。

しっかりと抱きかかえ、蹲るように座り込む。

僕はその姿を何だか、嬉しく幸せな気持ちで見つめた。

そんな僕の気持ちを、知ってか知らずか彼女は満足したように、ぬいぐるみを抱えたまま静かに眼を閉じていった。

僕は彼女に呟いた。

「今、ご飯作るね・・」

           ✖✖✖✖✖✖✖✖✖

世の中はクリスマス真っ盛りで、あちこちイルミネーションだらけだった。

何時もなら僕は、そんな世の中に置いてきぼりの気分で一杯だったけど、今年は違っていた。

彼女が家に来てから2週間。相変わらず僕に、慣れる気配も、全てを憎むあの姿も治っていなかったが、僕の心はとっても幸せでいっぱいだった。

僕は、クリスマスで賑わう町並みを足早に歩いていた。

早く彼女に会いたくて・・

僕は彼女の顔を思い出しながら、ポケットに手を突っ込んだ。

暖かい気持ちを抱きしめながら・・・・

          ✖✖✖✖✖✖✖✖✖

家に帰ると彼女は何時もの定位置に座り込んでいた。

相変わらず全てを憎み、敵に回しているその瞳は変わってはいなかった。

僕はただいまと呟き、コートを脱ぐと、テレビのスイッチを入れた。

最近よく出ているお笑い芸人が、サンタクロースの格好をしてジングルベルを歌っていた。

僕は冷蔵庫から、ビールを取り出すとそれを片手に彼女のご飯を作った。

彼女はそんな僕を、じっと黙って見つめていた。

ご飯が出来上がると、それを持って彼女に近づいた。

この二週間で、それは当たり前の行為になった。

僕はテーブルにビールを置き、彼女に遅い夕飯を渡した。

彼女はそれをゆっくりと食べていった。

不意に僕は何かを思い出したように立ち上がると、冷蔵庫からから揚げを取り出し、レンジにかける。

「なあ、僕とクリスマスするかい?」

そう言った僕を不思議そうに彼女が見上げた。

僕はにやりと笑うと、から揚げをレンジから取り出し、テーブルの上に置く。

そして、彼女の方を向いて、クリスマスソングを歌いながら近づいた。

彼女は少し警戒しながらも、僕の事を見つめた。

「さあ~♪私か~らメリークリスマス ♪」

僕の楽しげな雰囲気に推されたのか、何時もの抵抗は無く僕は彼女に近づけた。

僕はゆっくりとポケットから彼女へのプレゼントを取り出した。

それを彼女の首へと付けてあげる。

彼女は嫌がりもせず、それを受け入れた・・・

それを見た僕は満足し、またテーブルに向かって座った。

テレビからは相変わらずへたくそなクリスマスソングが流れている。

不意に彼女が僕のひざの上に登ってきた。身を縮め、僕の顔を覗き込む。

彼女の首には真っ赤な首輪が光っていた。

その首輪には彼女の新しい名前が刻まれていた。

”ひかり“

僕はそれを満足げに見つめた。

そして、優しく彼女の頭をなでる。

ふわふわの茶色の毛並みが僕を落ち着かせた。彼女も僕の空いている手を優しく舐めてくれた。

「僕の家族になるか?」

彼女が

“ワン!!”

と答えた。

どうやら彼女も僕も底なし沼のような頽廃に身を浸し切れるほどしたたかではなさそうだ。





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