Mystery Circle 作品置き場

なずな

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Last update 2008年04月12日

アスファルトに星屑踏んで(アタシが猫だった頃) 著者:なずな


ただただ ぐるぐるぐるぐる・・・・
アタシは そうありたくてここに来たのに、

たとえば アスファルトの光を見ただけで
中途半端に感傷に浸れる余裕を、贅沢を、
何でまだ持ってんの?

  *  *

始まりは あの猫屋敷の庭。
高2の春から夏にかけて 
アタシは学校のある時間、いつもそこにいた。

家にも学校にも 
自分の居場所をほんの数ミリだって感じることができず、
ふらふらと当てもなく歩いている時に、
ぐるぐるぐるぐる喉鳴らし、足に纏わりつく猫がいた。

「何 媚売ってんだよ。エサなんかやんないよ。」

かつて猫に好かれたこともなかった。
甘えられる理由も思い当たらない。
擦り寄ってくるこんな小さな生き物にさえ 
その頃のアタシは優しくなれなかった。

「ただの、暇つぶしなんだからね。」
振り返りながら先を行く猫の後を付いて行くと その庭があった。

一面の雑草。 
曲がりくねった木はてんでばらばら、好き勝手に生えてる感じ。
そんな木々に つる草が何重にも巻きついている。
ガーデニング好きのアタシの母親なら
広いのにもったいないと悲鳴を上げそうな、そんな庭だった。

そのあちらこちらの陽だまりに10匹を軽く超える猫たちがいて
うつらうつらしたまま、またはペロペロと毛づくろいをしながら
新参者のアタシを 当たり前のように受け容れたのだった。



 *  *

そこから少しの間 遠ざかった期間がある。 

秋草が庭いっぱいに広がる頃 アタシは勘違いな恋をしていた。
その人がアタシの、「やっと見つけた唯一の居場所」だと思った。
嬉しかった。幸せだと思っていた。

居心地のいい大事な場所になっていたはずの猫屋敷の庭のことを
数の内に入れるのを忘れてしまってたのは 
認めたくないけど アタシがやっぱり 
「人のいるところ」を切に望んでいたからだろう・・と思う。


勘違いな恋は、ありがちな終末を迎えた。

キミはまだ子どもだから と言われ、
自分をもっと大切にしなさい と言われ
あれこれご立派な理由をつけ、
その男は妻と子のもとに戻ったのだった。

 * *

何もかも嫌いになって 誰も彼も嫌いになって
たどりついたのは 相変わらずの その場所。
猫屋敷の庭だった。

のそのそやって来てピタリ寄り添うように座り
ぐるぐるぐるぐる・・・
アタシの傍に例の猫が来て喉を鳴らす。

ぐるぐるぐるぐる・・
不思議な振動が伸ばした指先に伝わってくる。
快感?安心?それとも信頼?・・まさか愛情?
そう思った自分が バカみたいに思えて
そいつの鼻先をピンとはじいてみた。

猫は驚いて少し離れたけれど 別に気にするでもなく
背筋をひゅーんと伸ばして大あくびし
座り直し、丸くなり 気がついたら 眠っていた。
そんな風に自分勝手にくつろげる猫が
憎たらしくて 羨ましくて
「猫になりたい。でなきゃ、死んじゃいたい。」

地面にうつぶせになって手足ひっこめて 猫のように地面を掻いた。
秋草の枯れた地面の土は冷たかった。

  *

「じゃ、猫になってくれる?」

突然話しかけられて驚いた。

「2のBのキシカワさんだよね?」
ひょろりと背が高い男子、うちの学校の制服。
同年齢にしては幼い笑顔が アタシの名前を口にした。
さっと起き上がり 身構える。
敵とは思えないけど、ずけずけ踏み込んでくるヤツは嫌いだ。

「へへ、ほんとに猫みたいだね、キシカワさんってさ。
 オレ 隣のクラスのマツオカ。」
この笑顔を 知ってる気がした。
でも思い出せなかった。

「睨まないでよ・・・ここ オレんちの裏庭。」
マツオカ君はしゃがんで
擦り寄ってきた2匹を いっぺんにぐしゃぐしゃ撫でながら言った。

  *  

マツオカ君には お姉さんがいるという。
ユリハさんというその人は 結婚してこの猫屋敷から出て
そう遠くないところで暮らしているらしい。
色々な事情で 精神的に参っている上に、
可愛がっていた猫まで どこかに行って戻ってこない。
「いわゆるペットロスっての?もう壊れかけ、うちのねーちゃん。」

だから 通い猫のように ふらりと気が向いた時でいいから 
アネキの様子を見てきて欲しい・・バイト代払うからさ、頼む。
マツオカ君は言った。

「アタシ、猫です、とか言ったら、きっと信じて喜ぶから。」
「まさか。」
「なんせ、壊れてかけてっから・・・。
 それに キシカワさんって そーとー猫っぽいし。
 家に上がって ぐるぐるぐるとか言ってさ、 ねーちゃんの心を癒してくれたら
 あとは 昼寝でもなんでもテキトーにして、飽きたらフラッと帰ったらいいよ。」


「でも・・・何で?」

「ひとりでほっとくと死んじゃうかもしれない。だから。」


傍から見たらトンデモナイ話に心捉われ、壊れていく大切な友人を
必死で引き留めるため、その人の所に通う・・・
そんな話を どこかで知ってる気がした。
映画だったかドラマだったか・・小説だったかもしれない。

アタシは色んなことを 色んな大事なことを
何にも思い出せないでいた。


  *

バイト代といって マツオカ君がポケット裏返して出したのは
ほんのぽっちり、バス代とアメ3個、
コロリとビー玉がひとつ、転がり出した。
「何で こんなの持ってんの?」
アタシが言うと、マツオカ君は結構真面目な顔で
「ビー玉 覗いたことって、ない?」

断るアタシに まあいいから、って ビー玉まで押し付けた。


「どーでもいいんだけどさ。
 どーせアタシは他に行くところも することもないし。
 でも、責任は取らないよ。アンタの姉さんがどうにかなっちゃったって。」
わざと投げやりに言ってから 
アタシはその人のところに行ってみることにした。

誰の気持ちにも、もう振り回されたりしない。
何がおきたって アタシはもう悲しんだりするもんか
 ・・ポケットのビー玉のつるりと冷たい感触を確認しながら そう思っていた。


 *  *  *  *

マンションの庭付き一階・・・猫としてはチャイムより庭からだろう・・
フェンスを乗り越えて潜入した。
フェンスから スチャっと飛び降りるとき 猫の気持ちになった。

開け放たれた庭に面した窓、そっと覗くと
スラリとした髪の長い女の人の後姿が見えた。
パソコンに向かっているけれど キーボードを叩く様子はない。
その日は そのままずっと庭にいて様子を見、 
帰ってからマツオカ君に 
ユリハさんの様子をごくごく事務的に報告した。


次の日 同じように庭にいると ユリハさんは
窓を開け、隠れようとしたアタシを じーっと見た。
まるで 猫好きの人が 
猫の意思を尊重しながら 徐々に仲良くなろうとするように
ユリハさんは身体をかがめ、少し目を細めてアタシを見、
小さな声で「ニャー」と言った。

あまりの展開にアタシはうろたえ、隣の庭との隙間に逃げ込んだ。
何だかほんとに猫になった気分だった。

帰りのバスで料金箱にお金を入れ、シートに座っても誰も気にしない様子を見て
改めて、やっぱアタシは「にんげん」らしい・・そう思った。
だから嬉しいとは 思わなかったけど。


 *  *  *  *

親の諍いやらアニキと親の揉め事やら 家はますます険悪だったし
そんな親が世間体のためだけに 学校に行ってくれと言ってるのが 
見え見えで、たまらなくウザかった。
「親友」だったマキも 上手くどこかのグループに入れたみたいだし
今更のこのこ 出て行きたくもない。


誰?と聞かれて「猫です」と自己紹介をすることを想像しては ひるんでいたが
ユリハさんは 数日通っても、アタシに何も話しかけなかった。
本当に私は猫に見えてるんじゃないかと思うほど 
ユリハさんのアタシに対する態度は相変わらずだった。

ユリハさんは庭の網戸を少し開けたままにして 
目線だけでアタシを自然に室内に招きいれた。
部屋の中はほっこり暖かくて、
清潔で 静かで 居心地が良かった。


帰りに猫屋敷の庭に寄る。
マツオカ君はとびきりの笑顔で アタシの面白くもない報告を聞き
例の猫は「お帰り」とでもいうように アタシの足に擦り寄ってくる。

「べたべたすんな。どうせ誰にでもそうやって媚売って生きてんだろ?」
甘えた猫は嫌いだ・・・
アタシは いつもわざとその猫に冷たくした。

  *

それから毎日 アタシは部屋の一番暖かい場所で 
ごろごろうとうとしながら ユリハさんの様子を見守った。
アタシがそこに居ることが 
ユリハさんにとってどんな意味があるのか 全然解からなかったけど、
人の気配のする静かな空間は アタシにとって心地良い場所だった。
ユリハさんは 時々独り言を言いながらうろうろしたり
たまに座って、ぽそぽそとパソコンのキーを叩いていた。
ぼんやり画面を眺めている時間も 相当長かったが
落ち込んだり ふさぎ込んだり 泣いたりしてはいなかった。



「落ち着いてるみたいだよ。」
ユリハさんのことをマツオカ君に報告すると
マツオカ君は 満足げにうなずいて 
「良かった、良かったぁ。
 ありがとう、キシカワさんがいてくれて、ホントに良かった。」
いつもマツオカ君が猫にやるのと同じように 頭をぐしゃぐしゃ撫でられた。
何だか照れくさかった。 頭の上が温かかった。

帰り道、ポケットに手を入れると コロンとした物に触れた。
取り出して、空に向けて持って覗いてみる。
水の中にいるような 宇宙にいるような 不思議な気持ちになった。
こんな風に ビー玉を飽きずに覗いていた時があったっけ・・
アタシは すっかり忘れていた小さい頃のことなんか ふと思い出したのだった。

  *

何もかもどーでも良くて 無感動なっていたはずだった。 
なのに 猫の目線になって、窓から外なんか眺めているうちに
小さな自然の変化だとかそういったものに 目がいくようになっていた。

ユリハさんが 窓の外を見てさりげなく呟く言葉は 
アタシに小鳥のさえずりや 季節外れの花つぼみや
ぺたりと地面に貼りついて春を待つ草の存在を 気づかせてくれた。


ただただ ぐるぐるぐるぐる・・・・
アタシはそうありたくてここに来たのに、

たとえばアスファルトの光を見ただけで
中途半端に感傷に浸れる余裕を、贅沢を、
何でまだ持ってるんだろう・・

いつもよりユリハさんの部屋に長居した日の帰り道
雨に濡れたアスファルトが 外灯の光でキラキラするのを眺めながら 
そんなことを 思ったりもしたのだった。



 *  *  *  *


そんなはずじゃなかったのに。
そんなんじゃここに来た意味がないのだ。

  *

夜にユリハさんを訪ねるのは初めてだった。
家にいるのが嫌だったのも確かにあるけど、ユリハさんのこと、気になっていた。
ユリハさんのご主人は 事情があって家に帰らない、と聞いていた。
夜はまた シンとして寂しいのだろう・・そう 勝手に思っていたのだ。

けれど カーテンの隙間から見えるユリハさんの部屋は明るくて
いつもはついてないTVの音がして 賑やかな笑い声がした。

 ─ 嘘だろ・・?

まるで 別の家を見るみたいだった。
いつもの部屋に丸い座卓が置かれ、鍋を囲んで談笑するユリハさんがいた。
一緒に鍋をつついてるのは、マツオカ君ともう一人
 ・・ユリハさんの夫・・?

ユリハさんはごくごく自然に、喋ったり笑ったり食べたりしている。
何が何だか解からなかった。
ほかほか湯気のたつホームドラマのような光景。
そこにアタシの入る場所は なかった。

ガタン・・
後ずさりしてフェンスに背中をぶつけ、大きな音をたててしまった。
マツオカ君が気づいた。
ユリハさんが気づいた。
窓が開いた。

アタシは 猛ダッシュで逃げ出した。
何で逃げてるのかさえ 解からなかった。

 * 

ここはマツオカ君の家に庭で ユリハさんの実家の庭で
アタシの場所じゃない。
解かっていたのにまた ここに逃げ込んできた。
いつもの猫がすぐに気づいて 迎えてくれる。

アタシは悲しくて悲しくて
どういうことなのか考えるより ただ悲しくて
庭にしゃがみこんで 擦り寄って来た猫を抱いて 泣いた。

泣いてるうちに一つ思い出したことがある。
まだ学校に時々行ってた頃、
図書室で本を読んで 不覚にも泣いたことがあった。
その時 図書室にいたのが マツオカ君だった。
名前も 学年も知らなかったけれど 
顔を上げた時目が合ってしまったのを憶えている。

そして、その時の本が あの思い出せなかった物語だったのだ。
主人公はもっと純粋な女の子で、
「壊れてしまいそうな大切な人」や 傷ついて引きこもった親友のために 
もっともっと一生懸命だった・・。




「やっぱ、ここだった。」
振り向いたら マツオカ君とユリハさんが立っていた。
ユリハさんは 猫とアタシをいっぺんに抱きしめた。

「ごめんね。どう説明したらいいかしら・・。」

  * 

「ずっと あなたが気になってたの。
 だから 弟に頼まれたあなたが うちに来るのを楽しみにしていたのよ。」
ユリハさんは言い、マツオカ君が続ける
「アネキが仕事してる時って傍から見てて、相当ヤバいんだ。
 壊れかけの人に見えるかどうかは解からなかったけど
 とにかく キシカワさんをアネキのところに行かせてみたかったんだ。」

マツオカ君は何度も何度も謝りながら、
ユリハさんが文章を書く仕事をしていること
学生時代、学校に馴染めなかった時期があったこと、
そんなこともあって アタシときっと話が合うだろう と思ったことを
一生懸命説明してくれた。

「久しぶりにキシカワさんがうちの庭にいる・・と思ったらさ、
 『猫になるか、死にたい・・』なんて ヤバいこと言ってるしさ、
  ほっとけないじゃん、 何とかしなきゃって思ったんだ。」

「久しぶりに・・って、アタシがあそこに来てたこと ずっと知ってたんだ。」

「あれ、猫と自分だけだと思ってた?あの庭が好きなのって。」

だって 雑草だらけで・・猫がやたらくつろいでて・・
アタシは続けようとしたけど もう一つの事の方が もっと気になった。

「何とかしなきゃ・・って アレはその場の思いつきだったの?」
 ・・・怒る気には ならなかった。
ぐるぐる喉を鳴らして猫が顔中舐めまくるせいかもしれない。


「泣いてたでしょ?本読んでさ。あの後オレも読んだんだ、その本。」
良かった・・だったか 切ないだったか・・何の涙だったかも忘れた。
アタシは図書室なのも忘れて ぼろぼろ泣いたのだった。

ユリハさんは ゆっくりとした動きでアタシの傍にしゃがんだ。
「仕事の都合でね、半別居生活なのよ。これがダンナと私の’事情’ね。
 そして、ペットロスで壊れかけ・・はちょっと違うんだけど・。」
ユリハさんはそういって 猫の背中をポンポンと撫ぜた

「このコ・・珍しく弟に懐かない猫でね、
 結婚したとき 私があのマンションに連れてったんだ。」
猫はユリハさんの顔をチラと見たけれど すぐにアタシの膝の上で座り直し
アタシの指をペロペロ舐めた。

「悔しいなぁ・・やっぱり あなたの方が好きみたい。
 このコを連れていくために わざわざペット可のマンション、探したのよ。
 なのに、このコはあなたを案内してこの庭に戻って、
 あなたが来ない間もここで待ってて、 
 私の所には 帰って来なくなったんだ。」

「アネキんところから姿を消したって聞いてたのに 
 ここでキシカワさんに甘えてるの見た時は オレもマジ驚いたんだ。
 図書室の件もあったし オレ、ずっと気にしてた。キシカワさんのこと。」

「ごめんね、結果的には騙したことになっちゃったよね。
 でも 弟は許してやってね。
 とんでもないバカだけど、けっこうイイとこもあるんだ、コイツ。」
いい きょうだいなんだな・・。アタシは二人を見て思った。

そして バカなアタシはやっと気づいたのだった。
マツオカ君が言ってた『ひとりほっとくと死んじゃうかも』しれないのは
壊れそうだから誰かの助けが必要だったのは・・
ユリハさんじゃなく アタシのことだったのだ。

誰かから心配されてたり 何とかしてあげたいなんて思われてたのが
テレくさいけど ものすごく素直に 嬉しかった。

「アネキがいつまでもキシカワさんに「猫」させてたのは きっとさ・・
 アネキのヤキモチなんだと思うな。」
マツオカ君はそう言いながら アタシの膝の上の猫を指差して
耳元で こう言った。
「コイツってさ、アネキは 自分にしか懐かない猫だと思ってたんだ。
 ま、ほんとに警戒心の強い、愛想のない猫なんだけど。」



 *  *
帰り道 ユリハさんとマツオカ君と一緒に歩いた。
気づかない内に降っていた小雨が止んで 濡れたアスファルトがきらきらしていた。
「星屑踏んで歩いてるみたいだねっ」
マツオカ君が はしゃいだ声で言った。
猫がアタシの両足の間をしゅるりしゅるり歩く。
さっきマツオカ君が耳元で言った言葉を思い出していた。
「アンタのこと 誤解してたよ。」
猫に 謝った。

もうひとつ 思い出した。
─ 隣のクラスに 猫のことと雑草の名前だけやたら詳しい男子がいるんだ。
親友の・・マキがアタシに言った。 
─ その子さ、成績はサイアクだけど むっちゃいいヤツなんだって。



「あ、私帰らなきゃ!」
ユリハさんが 素っ頓狂な声を出した。
「ダンナのこと忘れてたわ。オトウト、ちゃんと彼女送って行くんだよ。」 
ユリハさんに何か言いたくて でも何て言っていいか解からなくて 横にいるマツオカ君の 顔を見上げた。
ユリハさんはそんなアタシの上から下まで とびきり優しい目で見ると
初めて会ったときみたいに 少しかがんで目を細め、アタシに向かって「にゃー」と言った。
それからマツオカ君のほっぺをツンと突っつき、猫を愛しそうに目を細めて眺め、アタシの頭をぐしゃぐしゃ撫でて 言ったのだ。
「じゃ、弟のことよろしくね。猫と同じく、私にしか懐かないなんて、密かな思い込み砕けちゃったけど」
 ・・それもまた、嬉しい勘違いかもね、そう言って ユリハさんは手を振りながら元来た方に歩き出した。
アスファルトの星屑の道がユリハさんの足元から ずっとこちらに延びてくる。
アタシはマツオカくんと猫と並んで ユリハさんの後姿が小さくなるまで見送った。

自分の口元が緩んでいることに気がついた。
トクン、トクン、身体の中全体に新しい温かい血液が流れ出して
新しい やわらかなアタシが出来上がっていくような感じがした。
 ─ あの庭に花が咲き始めたらマツオカ君に草花の名前を教えてもらおう。
アタシは 春の庭のことを考える。
ポケットのビー玉の丸さが 指先に気持ちよかった。



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