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Last update 2007年10月20日

こんな女は嫌われるスペシャル 著者:松永 夏馬


「『ただただぐるぐるぐるぐる』あたしはそうありたくてここに来たのに、たとえばアスファルトの光を見ただけで中途半端に感傷に浸れる余裕を、贅沢を、何でまだ持ってんの?」

「……いや、『ぐるぐる』でなくて『グーグル』ですけど」
 法河九郎は困ったような笑顔を張り付かせつつ、年嵩の生徒を見下ろして心の中でため息をついた。インターネットがもはや日常と切り離せなくなったといって過言ではない世の中ではあるが、パソコンのパの字も知らない人間がまだまだ存在するものなのだ。
 そういう人間は大抵完璧主義者である場合が多い。頭が固く独占欲・支配欲が強い為、わからないものをわからない状態で使うことに強い拒否反応を示すのだ。
 パソコンなぞ中身がどうなっていようと使いかたがある程度わかればなんら問題はない、要は慣れだ。しかし、こういう種類の人種はそうはいかない。全て理解しようとして、理解できなければ拒絶する。
 この妹尾リエという女もそうだ、と九郎は思った。九郎が大学の頃、二人は付き合っていたのである。5つ程年上ですでに社会に出ていたリエは、当時の九郎から見れば経済力もあるうえに、美しく聡明な大人の女性だった。

「そんなはずじゃなかったのに。そんなんじゃここに来た意味がないわ」

 社会人となった九郎が講師を務めるこのパソコン教室に彼女が現れた時のセリフだ。九郎はげんなりとした顔を隠すことすらしなかった。あの時からまったくもって変わっていない。
「そう、そうなの。再び九郎とやりなおす為に来たわけじゃないの。ただ、ただパソコンをね」
 ああ、こっちもそんな気はさらさらないよ、と言いたげに九郎は肩をすくめたのを覚えている。彼女は常に自分を中心とした世界に住んでいるのだ。付き合っていた時もそうだった。すべてが自分の思い通りにならないと気が済まないくせに、そのために自分が何かをするというのが嫌なのだ。変にプライドが高く、そういった『段取り』を誰かに知られることを極端に嫌う。まるで運命に導かれたように、という展開が理想なのだ。偶然を装い出会ったのではなく、あくまでも偶然であるのだと。
 そんな極度に支配的でそれでいて乙女チックな彼女。社会に出た九郎が別れを切り出すことに時間はかからなかった。

 プライドの高い彼女だったから、あからさまに電話をかけてくるような真似はしなかった。しかしそうして一年過ぎた結果コレだ。仕事場に偶然を装い現れる。九郎からしてみたら「客」扱いをしなければならないとは困り者である。当然狙っているのであろうが、彼女の中では『偶然』なのだ。

 何度目かの授業が終わった帰り道、待ち伏せ……ではなく、偶然に九郎はリエと出会った。教室に忘れ物をしたと言うのだ、それも今取りに戻らなければ困ると。仕方なく職場へと戻り無人の教室の鍵を開けた。

「……ああ、よかった。こんな所に落ちてたいたわ、私のハンカチ」
 九郎はげんなりとした。ハンカチなぞわざわざ……、そう思いながら諦めて首を振る。あと数回の講義で彼女ともおさらばできるはず。

「もういいですか? 妹尾さん」
「リエでいいわよ? 二人っきりなんだし」
 楽しそうに顔を向けた彼女はやはり美しかった。一瞬たりとも見とれた自分に、九郎は後悔することになる。

 リエは九郎に微笑んでこう言った。
「九郎……あんたはあたしにしかなつかないと思ってた」




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