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Last update 2007年11月10日

遊螺の奇妙な事件簿 著者:Clown


「それは理屈の問題でもないし、道徳の問題でもないのよ。感受性の問題だわ。第六感の」
「ふむ。それで?」
「だから、今回の件についても、感受性の問題として処理すべきだと思います」
「なるほど。君の意見は良く分かった」
「分かっていただけたでしょうか」
「うむ。するとアレだね。感受性豊かで第六感の冴え渡りまくってる君にとって、学校中の全窓ガラスをちょっとエッチなステンドグラス風デザインにすり替えることは理屈も道徳も通用しない不可避の出来事であったと」
「はい、その通りです」
「よしよし、良く分かった」



「後で職員室へ来なさい」
「はい、ごめんなさいでした○∠\_」






 キンコンカンコン、今日もチャイムが元気に響く。
 先生倒せととどろき叫ぶ。

「てりゃーーーーーーッッ!!」
「ゴフォッッッッ!?」

 少女の見事な左ストレートをまともに受けて、教師が時速XXキロで吹っ飛んだ。
 そのままコンクリートの壁に衝突。
 非常口マークを作って、校舎の外へと飛んでいく。

「あら、そんなに勢いつけてないのに壁に大穴空いちゃうなんて、もしかして耐震強度の偽装かしら?」

 耐震強度の偽装で壁に穴が空くとは、一級建築士もびっくりだ。
 つか、やりすぎ。

「え? やりすぎ? 大丈夫大丈夫! あの先生、見かけよりずっと丈夫なんだもん。体なんて、銃撃戦のまっただ中に放り込んでも穴一つ空かないくらい頑丈なんだから。
 髪の毛は薄いけど」

 うん、最後のステータスは要らない。最後のは。

「あ、そうそう、自己紹介がまだだったわね。私の名前は、多摩遊螺(たまゆら)。たま、が名字で、ゆら、が名前ね」

 どんなヴィジュアル系だ。

「総資産10兆円の超資産家の娘で、今はぴっかぴかの高校1年生。市井の勉強をするためにって、パパが普通の高校に入学させてくれたんだけど、なんだか普通の高校ってかっこ悪い」

 高校の外見に文句言う人って珍しいよね、どうでもいいけど。

「だから、この学校を世界一素晴らしい学校にするために、私が夜な夜な色々なところを改装してるんだー」

 それでエッチなステンドグラスですか。
 略すとエログラス。

「勝手に略さないでよー」

 失礼。
 で、その所行を教師方に見つかって、ガッツリと怒られていたと。

「ちょっと派手にやりすぎたみたいね。先生に怒られるから少ししおらしくしてみたんだけど、よく考えたらこんなの毎回のことだから、お説教はちょっとくらい短縮しても良いよね」

 いや、良くはないだろう。
 金○先生も「腐ったみk」で止められちゃカッコつかないだろうし。

「と言うわけで、今日はちょっぴり早めに自主解散♪」

 いやいや、話聞けよ。

「さーて、先生のお説教からも開放されたし、今日はどこを改装しようかなー」

 聞いてねーし反省もしてねーし。
 て言うか、エログラス(略称)で卒倒してる奴が居るよ。どこの純情高等学校ですかここは。

「待てぇぇぇえぃいッッッッ!!」

 あ、まさかの教師復活。
 壁をよじ登って上がってくるなんて、先生タフですね。
 ここ、4階なんですけども。

「まーだー話は終わってないぞー、この小娘がーッッ!!」

 生徒に向かって小娘呼ばわりする教師はどうかと思うが、それはさておき。ギンギラギンにさりげなさなど一欠片もない目を真っ赤に充血させて、校舎の穴からモンスターが現れた。
 コマンド?

「むぅ、服はぼろぼろだけど、体には傷一つついてないなんて、流石は中東帰りの傭兵よね。髪薄いけど」

 だから最後のステータスは要らないと。
 て言うか、中東帰り?
 アフガニスタン?
 なんで教職に就くのにそんな無駄に屈強な肉体と精神力が必要なのか。

「ね。なんで教師なんてやってるのかしら?」

 俺が聞きたい。
 そうこう言っているうちに、筋肉の鎧と鋼の拳を装備したモンスターは穴から全身を現すと、身の毛もよだちかねない咆吼を上げた。
 よだちかねないだけで、実際によだつわけではない。
 (薄い)髪の毛を逆立てた眼鏡のモンスターは、割と危険な破れ方をした服をそっと正してから、改めて遊螺の方に向き直った。

「もう良いじゃないの、先生ー。ほら、ステンドグラスも男子高生に人気だし」

 一人卒倒したけどな。
 あ、また一人倒れた。

「人気とかの問題ではないッッ!! こんなものを教育の場に持ち込むなんて教師の立場として許されるわけがうひょーこりゃたまらんッッ!!」
「先生、途中から甲羅背負った仙人様とすり替わってるわよ」

 それに、今時「こりゃたまらん」とか言わんよな。

「五月蠅いッッ!! 兎に角今日という今日は一歩も譲らんぞッッ!!」
「うさぎにつの?」
「目ざとく訓読みするなッッ!!」

 ここら辺は活字媒体の強みだな。

「あら、私何か拙いこと言っちゃったかしら?」

 地味に。
 のらりくらりと会話の緊張感をそぎ落とす遊螺の態度に、モンスターの血圧が限界まで上がりきった。
 血管が浮き出て今にも切れそうだ。
 ここで切れたらそれはそれで面白いのだが、流石にそこまで面白くする気は毛頭無いらしい。なんてサービス精神のない奴だ、モンスターのくせに。

「モンスターのくせに」
「誰がモンスターかッッッッ!?」

 お前だ、お前。
 しかし、見た目は正直なもので、膨隆した筋肉と鋭い眼光はまさに「怪物」をイメージさせた。傭兵出身という肩書きは嘘ではないと主張するように、その体の至る所に無数の傷がついている。
 中には明らかにひっかき傷みたいなものも混ざってるんだが、これについてはあんまり言及しない方が良い?
 何故か室内なのに暗雲垂れ込めるその空気は、間違いなく目の前の怪物がラスボスであることを示唆している。
 ……一人目だが。

「その目……先生、本気で私を殺すつもりね?」
「殺すかッ! いきなり人を殺人者予備軍扱いしないで貰おうッ!」

 周囲に立ち上ってるのは、殺気以外の何物でもないけどな。
 何気にベルトの下にホルスターとか見えてるし。日本の法律は無視か。

「教師の言葉に逆らう者には、それ相応の仕置きを行わなければならないッ! 遊螺君、覚悟はいいかねッ!?」

 仕置きっていうよりセクハラっぽいよな、絵面的に。
 教師(モンスター)の手が振り上げられる。
 遊螺はじっとその手を見つめ、自らも相手に攻撃を仕掛けるべく構えた。しかし、それも束の間、今度は構えを解いて棒立ちになる。

「ふははははッッ!! どうした、観念したのか!?」

 勝ち誇った顔で言う教師。ラオウかお前は。
 だが次の瞬間、教師から余裕の顔が消えた。目の前から立ち上るどす黒い物……それに気づいたからだ。
 まるで一切の光を拒絶するかのような、その闇の霧は、まるで衣のように遊螺の周りへ集まった。

「な、何だその禍々しい闘気は……! 貴様、一体……!」
「……残念ね、時間切れよ」

 そう言って一歩を踏み出す遊螺には、何物をも飲み込む気迫があった。教師は思わず後ずさり、その筋肉の鎧から一斉に汗が噴き出す。
 その時、教師は見た。
 闇の霧が蠢き、はっきりと「天」の文字を描いたのを。

「こ、これは一体ッ!?」
「言ったはずよ、時間切れ。来るべき時が来てしまったのよ……」
「来るべき時?」

 ごくり、と喉が鳴る。
 最早、モンスターと化した教師でさえ赤子のようにしか見えぬ遊螺の姿。
 例えるなら、修羅の如く。

「物語には、必ず4つのステップがあるの……『開始』『展開』『転換』『終結』の4つのステップが」
「……それは言い換えると『起承転結』では……」
「お黙りなさい」

 そんな、口調まで変わって……
 ところで今何やってるんだろうね、ナオミ・キャンベル。
 そんな賞味期限のすっかり切れたネタをやっているうちに、遊螺の周囲に漂っていた霧は暗黒の雲へと姿を変え、遊螺の体を宙へと押し上げた。

「転とは、すなわち『天』。かの仏陀もこう言ったわ。『天上天下唯我独尊』と」
「今は暴走族の旗にも書かれなくなって久しいがな……」

 誤解の無いように言っておくと、唯我独尊とは「自分が一番」という意味ではない。
 誰もが違って、誰もが一つしかない。だから尊いという意味である。
 現代風に言うと、ナンバーワンよりオンリーワン。

「でもね、そんな仏陀も、最後には食中毒で死んだの。この意味が、分かるかしら?」
「……一体どういう事だ……」

 どんな尊い人間でも、ほんの些細な出来事で死に至ると言うことだろうか?
 だとしたら、まさか窓ガラスという些細なことに囚われた自分の死を暗示していると言うのか!?
 教師は戦慄した。
 震えが止まらない。
 まるで悪夢に苛まれるかの如く、全身から冷や汗が吹き出す。
 心なしか、自分の腹が熱く悶えるのを感じる。
 はらわたを食い荒らされるようなプレッシャー。
 これは、まさか……

「勝負は既に決まっていたの……あなたが昨日お昼ご飯を食べた瞬間にね」
「俺の焼きそばパンに何をしたーッッッッ!?」

 昼食が焼きそばパンって、なんか侘びしくないかね。
 怒鳴りながらも、足の震えが収まらない教師に、遊螺は勝ち誇った顔で指を突きつけた。

「闇のルートから入手した、コレラ菌をひとつまみ程」
「法定伝染病だーッッッッ!!」

 解説しよう!
 法定伝染病とは、家畜伝染病予防法によって定められた伝染病であり、予防法や発生時の対策、検査法などが細かく規定された危険な伝染病のことである!
 ちなみに、コレラ菌はコレラエンテロトキシンと言う毒素を産生し、1~3日の潜伏期の後に激烈な下痢や嘔吐と言う症状を起こす細菌だ。治療しなければ80%の死亡率を誇る強力な細菌だぞ。
 勉強になったネ。

「ぐ……ぐおおおぉぉぉぉッッ!! う、上と下で繋がる管同士が悶え悶えて地獄のランデヴーをッッ!!」

 いや、そんなポルノ小説にも採用されなさそうな婉曲表現は要らない。

「早く行くべきところに行かないと、体中の水分が抜けて干涸らびるわよ」
「く……お、覚えてろッッ!!」

 教師とは思えない捨て台詞を残して、すっかり締まりの無くなったモンスターは壁に空いた穴から逃げ出した。
 ここが4階だと言うことも忘れて。
 数秒遅れて凄い音とかしたけど、そこら辺は見ない方向で。

「……戦いは、空しいわね……」

 すっかり闇の気配を無かったことにした遊螺が、遠い目をして呟いた。
 戦いって言うか、一方的な虐待って言うか。

「さぁ、これで物語は終わり。でも、私の物語はまだまだこれからだわ」

 打ち切り作品における「第一部・完」みたいなものか。

「夢がないわねー。第一部・完ってした方が、この先を読者が想像しやすくて良いでしょ? ほら、同人誌とか作りやすいし」

 わーい、それは夢でいっぱいで涙が出そうだね。
 さて、それはさておき、既に『結』まで来てるんだが、この物語には厳格なルールがある。
 それは、必ず最後をある言葉で締めくくらなければならないという掟だ。
 その為には、物語の主人公の強力が不可欠となる。
 協力してくれるかね?

「うん、分かった。で、なんて言えばいいの?」

 それはこちらのカンペを参照でお願いします。
 ポーズとかはお任せで。

「ふむふむ、オッケー。それじゃ、行くわね」

 遊螺はそう言うと、壁に空いた穴から外へ身を乗り出し、そして空を見上げた。
 雲一つ無い高い空は、まるで彼女を空へと吸い込むかのように透き通り、彼女は嬉しくなって空に手を伸ばした。

「校舎の改築なんて、序章に過ぎないわ。そう、これはただのお遊び」

 目を閉じ、思い浮かべる。
 これから自分が目指すべき、道を。

「私は、たったひとつしたいことがあった」







第一部・完
Clownの次回作にご期待下さい。




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