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Last update 2007年11月10日

失恋カフェ 著者:暇子


「あなたの何を許すの?もう我慢できないの。サヨナラ!」
女は出て行った。
またこの店でひとつのカップルが別れた。

ここは失恋カフェ。
そして私はこの店のマスターだ。
いつからだろう?
ここはこんな哀しいカフェじゃなかったはずなんだがなぁ。

あの時、から・・・かな?

もう20年以上前だな。
私が妻と別れた時。
そう、この店で。


私は夢だったお洒落なカフェをオープンさせた。
やっと波に乗ってきたと思った頃、
妻の父親が倒れた。
妻の実家は昔ながらの古い喫茶店だった。

私には選択が迫られた。
自分の夢だったこの店を続けるか、
妻の実家に入り古い喫茶店を継ぐか。

私は当然自分の店を選んだ。
やっとここまで来た。自分の力で。
ここで手放すなんて出来ない。

妻と私は口論になった。
私がどうしても動かないと分かると、
妻は最低限の荷物をまとめ、家を出て行った。
もう会うことも無く、電話も無いまま数ヶ月後、
捺印済みの離婚届が送られてきた。


「もう、昔の話だ・・・」
カップを片付け、テーブルを拭いていたら新しい客が来た。
「いらっしゃいませ」
またカップルだ。
暗い顔。どうせまた別れ話だろう。

・・・あれ?
この二人は・・・
そっくりだ。あの日の私たちに。
そっくりというより、そのものじゃないか!

「あの店を少し休業して、お父さんが元気になるまで手伝ってくれるだけでもいいの」
「ダメだ、せっかく付いたお客さんに失礼だ」

この会話はまぎれもなく・・・。

「第一、あんな古臭い喫茶店なんかやってられるか!奥にはゲームのテーブルがあるんだろう?平日には近所の常連が暇つぶしに来るだけだし」
「あなた!」
「あんな店、早くつぶれてしまえばいい!」
「ひどい!」

女・・・若い日の妻は走って店を出て行った。
男・・・若い日の私は追いかけもせず、タバコを取り出した。

いつまで意地を張っているつもりだ。
本当は・・・あの時、私は・・・

私は男の近くで囁いた。
「もう二度と、逢えないかも知れないよ。いいのかい?」
「なんですか、他人のあなたには関係ないでしょう」
といいながら、男の目は窓の外・・・女が走っていった方を見ていた。
「意地なんて張るもんじゃない。さぁ、行くんだ。今日は御代はツケといてやる。いつか近所を通りかかった時にでも思い出したら払ってくれればいい。」

男は少しの間うつむいていたが、
何かを心に決めたようで、急に走って店を出た。

そうだ、それでいいんだ。
私は走り去る男の後姿をずっと見送った。
男は窓の外の景色の中に消えていった。
初夏の日差しが眩しすぎて目の前が真っ白になり、少し目が眩んだ。


「あなた、大丈夫?」
客にコーヒーを出してカウンターに帰ってきた妻の声に、ハッとする。
「少し疲れてるんじゃありませんか?」
「いや、大丈夫だ・・・」
「オヤジ、部屋で休んでろよ」息子が言う。

その言葉に甘えて、少し休む事にした。
一通り店の仕事を終えた息子が部屋に入ってきた。
恥ずかしそうに封筒を渡してきた。
「オヤジ達、もうすぐ銀婚式だろう?店は俺と妹に任せて、たまには夫婦で旅行でも行って来なよ」
目が、潤んでくるのが分かった。


ここは、古臭い昔ながらの喫茶店。
奥にはゲームのテーブルもある。
平日には近所の常連達の溜まり場になる。

そして、
ここには温もりがある。




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