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Last update 2007年11月10日

狐と狸 著者:フトン


彼女は本当にほほえみたいときでなければほほえまなかった。

僕はいつもそんな彼女から目が離せなかった。

周りに何と言われようとその意思を曲げることなく、真っ直ぐ人を見据えるその視線は常に人に合わせて生きている僕を捕らえて離さなかった。





「優君。」

背後から甘い声がしたかと思うと僕は突然ホールドされ・・・・

ずるずると引きずられる様に教室から連れ出された。

「優君今日もかわいいね~。」

鼻歌交じりで僕の顔を覗き込んだのは、僕のクラスメイトの麻衣香・・・

小さい体に、小さい顔、大きい目、薄い唇にすじの通った鼻、栗色の柔らかい癖毛に白い肌・・・・

これが僕の(情けない)容姿・・・

それを何故か気に入って、毎日のように何かにつけて僕を振り回す麻衣香に、僕は成す術も無く廊下を、ずるずると引きずられて行った。

「麻衣香~~?何処行くの?」

僕が麻衣香の顔を見上げると、今時のばっちりギャルメイクされたその顔が嬉しそうに(ちょっと僕には怖い)全開の笑顔になった。

「今度ね。うちの部でさ~。お茶会を開く事になったんだけど・・・」

麻衣香の家は、この辺では有名な茶道の名家で実はそこの一人娘だったりするんだけど、こんなバッチリギャルが将来本当に家元になるのかと考えると、日本の将来も何だか逆に安泰に感じてしまうのは僕だけだろうか・・・?

「お茶会のマスコットがね♡欲しいな~~て❤」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・

何だか嫌な予感がした。

正直僕は自分の容姿が嫌いだ!!女の子みたいで、情けなくって・・・その上そんな自分をかわいい、かわいいとかまい倒す女子達にいやと言う事も出来ない、自分の性格はもっと嫌いで・・・・

そんな事は全く知らない麻衣香は嬉しそうな鼻歌を口ずさみながら、茶道部の部室まで僕を引きずっていった。





部室に入ると静まり返った和室の空気が一気に僕と麻衣香に向けられた。

瞬間、僕の視線は一点に集中した。

和室の真ん中で一人だけ凛と姿勢を正しこちらに視線を向ける事も無く、只、一心にお手前を続ける彼女を見つけたから・・・

どんな時も自分を曲げる事の無い彼女は、全く僕とは正反対の強い意志を持っていた。

初めて彼女を見つけたのは桜が咲乱れる季節だった。

舞い散る花びらの中を真っ直ぐと前を見据えて歩く彼女に僕は、強く惹かれた。

あれから僕は彼女にいつも視線を奪われていた。

その彼女がここに居る。僕の目の前に・・・・

「ぶっちょ~~。連れてきたよ~~」

僕の緊張とは裏腹の間の抜けた麻衣香の声が耳に入る。

浴衣姿の女の子達の中の一際小さい女の子が立ち上がり、僕達の方へと近付いてきた。

まるで子犬のようなかわいらしい笑顔を僕に向けると、

「こんにちは。部長の花梨です。よろしくね。」

僕に右手を差し出した。

僕はその手を軽く握り、最高の(僕の中で)営業スマイルを浮かべ握手を交わす。

「小池 優です。」

「ね!ね!かわいいでしょう!!どう?部長?」

麻衣香が僕の肩を抱きながら、僕よりかわいい部長にそう言った。

部長は微笑を絶やすことなく麻衣香に頷き返した。

「ホントネ。これならいいね~」

二人の会話の意図は一向に検討も付かないけれど僕は嫌な予感を拭えずにいた。それでも営業スマイルを絶やさない僕・・・

「小池君。貴方にうちのお茶会の受付をして貰いたいんだけど、いいかな?」

部長はあの子犬のような笑顔で僕にそう言った。

僕は一瞬拍子抜けしたような気持ちのなった。

(なんだ・・・)

安堵感と一緒に僕は大きく頷いた。

「そんな事なら、いいですよ。」

「ほんと?ありがとう!!助かるわ!じゃ!詳しい事は、椿に教えてもらってね。」

そう言うと、部長は、彼女を呼んだ。

彼女は作法の手を休めると、僕の方に軽くお辞儀をした。

目が合った瞬間、僕の鼓動は速いリズムを刻んだ。

(・・・・椿っていうんだ・・・)

彼女との接点が出来た事に舞い上がっている僕の耳には、二人の悪魔が僕の背後で、

「上手くいきましたね。」

「ホントネ。ふふふ・・」

こんな怪しい会話をしている事も、聞き逃していた。





放課後の学校って僕は意外と好きだったりする。

ただ、この重苦しい雰囲気だけを除けば・・・・

(何で何も話さないんだよ~~)

もう、十分近く僕と椿さんは向き合ったまま、一言も会話を交わしていなかった。

ただその隣で一人テンション高く麻衣香がぺらぺらしゃべってはいたけど・・・・

(麻衣香って、本当に空気読めないな・・)

椿さんはそんな麻衣香に眉一つ動かすことなく、目の前に置かれたプリントに目を通していた。

その姿は、本当に凛々しくて僕はそんな姿に心を奪われていった。

「で!優君はどう思う?」

突然麻衣香に質問を振られて、全然聞いてなかった僕は焦った。でも、長年培われてきた八方美人の力は、話をあわせる術を知っていた。

「僕も、そう思うよ。」

とびきりの営業スマイルを返すと、麻衣香は満足したのか、そうでしょ、そうでしょ。と繰り返し頷いている。

僕が理解してるかどうかなんて麻衣香には関係ないのかもしれない。

それでも合わせてしまう僕も最低なものだ。

そんな空気を制したのは椿さんの一言だった。

「そろそろ、麻衣香さん帰ってもらえる?」

澄んだ綺麗な声で、はっきりと麻衣香に言い放った。

「・・・!!」

さすがの麻衣香もその言葉に絶句している。

でも、椿の反応に慣れているのか、すぐにいつもの麻衣香に戻ると、

「は~~い。椿ってほんと怖いよね~。優君いじめないでね~。」

そう言い残して教室を出て行った。

きっと、この後麻衣香は誰か友達を捕まえて、椿の悪口を永遠と話し続けるのだろう・・・・

かわいそうにその友達・・・

僕は見えない麻衣香の友達に同情をしつつ、やっと二人きりになれたことに、胸躍らせていた。

「小池君。貴方、疲れないの?」

突然の質問に僕はきょとんとしてしまう。

「え??」

「作り笑いばかりで疲れないのかと思って・・」

椿の言葉に何かが胸に刺さった。

「つ、作り笑いなんて・・・」

「してるでしょ?別に小池君がいいなら、私には関係ないことなんだけど。」

それだけ言うと、椿は僕にお茶会の話をし始めた。

僕はその説明が一切耳に入ってこなかった。

何故?椿は僕が作り笑いしている事に気付いたのだろうか?まだ、会って、間もないのに・・

僕は椿を、笑顔を作る事も忘れて、ただ見つめていた。

椿は一通り説明するとプリントを綺麗に揃え僕に手渡した。

「後は、このプリントに書いてあるから。」

その言葉に、少し我に帰る。

「うん。ありがとう。」

いつもの笑顔を作ると、それを見た椿が僕の頬を両手で引っ張った。

「はにふるんだよ~。」

僕はビックリして目を真ん丸くする。

「どうなってるのか、気になったの。」

 ・・・・・・・・・

あまりの答えに僕は何だか可笑しくなって吹きだした。

「何だ。普通に笑えるのね。」

椿はそう言うと極上の微笑を浮かべた。

瞬間僕の心に花火が舞った。

名前のようなその綺麗な微笑みは、僕を捕らえて離さなかった。

「いつも、人に合わせていたら疲れるでしょ?自分に正直になったらいいのに?」

彼女の言葉は時に僕の心を貫く。

「たまにひどい顔になっているから・・」

僕は驚き、椿を見つめた。

「僕の事、良くみてるね・・」

そう言った僕に椿が優しい微笑で返す。

「小池君は変るべき時なのよ、きっと・・」

意味深な言葉は、僕の心に強く響いた。





お茶会の日はすぐにやって来た。

朝六時なんていう途方もない時間に呼び出され、麻衣香の自宅にやって来た僕を、部長と麻衣香は嬉しそうに出迎えた。

「優君待ってたのよ~」

待っていたって・・・・一体こいつらは何時からここに居たんだろう?

そんな疑問を頭に過ぎらせながら、僕は連れて行かれるまま麻衣香の自宅(お屋敷)に入っていった。

かなり格式のある長い廊下を、進んで行き奥の部屋に通された。

障子を開け、中に入ると・・・・・

女物のかなり豪華な(高そうな)着物が飾られていて・・・

一瞬で僕は麻衣香と部長に羽交い絞めにされた。

「何するんですか!!」

わめき散らす僕を完全に無視してすばやい手つきで僕にその着物を着付けていく。

抵抗も空しく三十分後には綺麗に女装された僕が、姿見の前で佇んでいた。

どうやら僕ははめられたらしい・・・・

「やっぱりかわいい❤」

麻衣香が何処から持ってきたのかカメラでパシャパシャと、僕を撮りまくっている。

「麻衣香・・・こんな格好嫌だよ!!」

そう言った僕の言葉などまったく無視して、二人は茶会会場になる、麻衣香の自宅のお茶室の前まで連れて行き、しっかり受付場所に座らされた・・・

(なさけないよ~)

情けないというより、この格好の僕を椿に見られたくなかった。あんな話をした後なのに完全に呆れられてしまうのが目に見えるようだ・・・

そんな落ち込んでいる僕を横目に、時間は確実に過ぎていった。

あれよと言う間にその時間はやって来た。

きちんと着付けられた着物を身をまとい、しゃんと背筋を伸ばしゆっくりとこちらに歩いてくる椿を見つけたときは、思わずどこかに穴がないかと探し・・・

机の下に隠れた!!

「小池君何やっているの?」

隠れたのもつかの間、すぐに椿に見付かり僕は渋々と机の下から這い出た。

「いや・・あの別に・・」

「かわいい格好してるわね?」

嫌味なのか本気なのか分からないその言葉に、小さい体がより小さくなる気分だった。

「今日はよろしくね。私も受付だから。」

椿の一言は僕を奈落の底へと誘っていった。





お茶会は滞りなく行われていった。椿の受付の対応はお手の物で惚れ惚れするほど手際が良かった。僕はというと、完璧なマスコット状態で、同じ学校の子だけでなく他校の生徒にまで写真撮影を申し込まれるほど、終始誰かのカメラに笑い続けていた。

そんな時だった、突然あの椿の声が、聞こえた。

椿にしては珍しく感情的なその声に、僕は人山を掻き分け受付場所まで近寄った。

そこには椿の腕を掴み、嫌がる椿を無理やり連れ去ろうとする男の後姿があった。

僕は何もかも考えず、二人の前に回りこんだ。

「お客様!何か御用でしょうか?」

震える声を抑えつつ、男を真正面で睨み付ける。

男は立ち止まり、嘲る様に僕を見下ろした。

いかにも今風のイケメンな男が僕を上から下まで見て、鼻で笑う。

「お前、男か?」

椿は俯いたまま男の手を振り払うでもなく、静かに体を震わせていた。何かに脅えるように・・・

「うちの生徒に何か御用でしょうか?まだお茶会の最中なので、御用があるのならお話していただきたいのですが?」

普段の僕ならとても言えない言葉なのに、椿を守りたくて僕は必死だった。

「婚約者を迎えに着ただけです。もう、いいでしょうか?」

 ・・・こんやくしゃ??・・・・

僕は椿の方を見つめた、椿は俯いたままで、震えていた。

「理解していただいたのなら、この辺で失礼します。」

男はそう言うと、僕の横をすり抜けていった。

ショックで何も出来ずに立ち竦む僕。

すれ違う瞬間、椿の視線が僕の視線とぶつかった。

 ・・・たすけて!!・・・

無言の叫びが聞こえたのに、僕は何も出来ず、ただやるせなさと怒りだけが心の中に降り積もっていった。





お茶会から一週間、椿が学校に来た様子はなかった。

気になりながらもどうすることも出来ない僕は、いつものように学生生活を続けていた。

「ねえ、優君って、椿の事好きなんじゃないの?」

突然、麻衣香が僕にそう問いかけた。

僕はあまりの事に椅子から転げ落ちる。

「な!!何で!!」

「見てれば分かるよ。椿、来月結婚するらしいよ?いいの?」

僕は机の下で拳を握り締める。

「良いも何も・・僕にはどうすることも出来ないし・・・」

「そうよね~。優君には危ない事して欲しくないし・・」

危ない事?

「椿のうちって、かなりの資産家らしくって、すっごく厳しいらしいのよ。それなのに何か好きな人が出来たって事を父親にバレテ、今回の事になったらしいの。しかも相手は、昔椿にかなりひどい事をした奴らしくて・・・椿は、かなり嫌がってたみたいよ。」

麻衣香の話を聞いていくうちに、あのときの椿の顔が浮かんできた。

 ・・・助けて!!・・・

僕の中で何かが弾けた!!

僕は教室を飛び出した。





椿家に着くと僕は何の挨拶もせずに中に入り込んだ。

何人も出てきた使用人に取り押さえられながら、何回も椿の名を叫んだ!!

どのくらい攻防していたのか、突然階段を降りる人の気配に僕は顔を上げた。

「椿!!!」

僕は思わず彼女の名を叫ぶ!

「小池君。」

驚いた表情の椿に僕は、力強く叫んだ!

「僕が!君を助けてあげる!だから、君は僕を助けてくれ!二人で、革命を起こすんだ!!」

そう言うと、僕は押さえつけていた使用人を振り払い、椿の元に駆け寄った。

椿の腕を掴み、外へと駆け出した。





どのくらい走ったのか分からないけど椿を連れてひたすら走った。

その間、僕は後ろを見ることもなく、ただ必死に走った。

突然椿が立ち止まり、僕はつんのめるような形でその場に座り込んだ。

「ごめん。こんなことして。」

椿はゆっくりと首を振る。

「ありがとう。」

そして優しくそう呟いた。

「君が言ってたから、自分を偽って疲れないのかって、だから君には自分を偽って欲しくなくて・・・」

僕の言葉に、椿は何度も頷いた。

「僕は・・・君が好きなんだ。入学式の時、桜の舞い散る中で君を見つけたときから・・・」

僕の告白も椿は、優しく頷いた。

まるで知っていたかのように・・・

「だから、君には本当の自分を失って欲しくなくて・・・」

椿がゆっくりと僕の肩を抱きしめた。

「大丈夫。貴方のお陰で、結婚はなくなったのよ。」

そしてそう囁いた。

「お父様と賭けをしたの。貴方が私の結婚を止めに来たら、この話はなかったことにすると・・そして貴方は来た。」

僕達は、ゆっくりと見詰め合う。そしてどちらからともなく笑った。

どうやら、上手くいったようだ。

「わたし、あの男に仕返しがしたいの。」

突然、椿の言葉に僕は首を傾げる。

「お茶会の日以来、あいつ小池君のことばかり聞くの。多分貴方の事が・・・だから協力してくれる?」

何やらおぞましいものを感じながらも、僕はすんなり頷いた。

「僕もあいつには、何かしてやりたいね。」

僕と椿は、不適な笑いを浮かべた。





「で、どうだった?」

僕の問いかけに椿は楽しそうに親指を立てた。

あの後椿の婚約者を呼び出し、しこたま金を使わせ、振り回すだけ振り回すと、そのときの写真をあいつの会社に送りつけてやった。インターネットと言うすばらしい活用法で・・

椿も満足したのか、かなり嬉しそうにしていた。

僕はそんな彼女がよりいとおしい者になったことに気付いていた。

僕は、ひっそりと彼女をこう呼んだ。

「僕のかわいい共犯者」




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