Last update 2007年11月10日
first encounter -battle style Lv.1- 著者:七夜実
曲がって、曲がって、曲がって、曲がる。
目標をはずす光弾など、ただのひとつもない。
そのすべてを、両手から伸ばしきったワイヤーで、
叩き、割り、逸らし、落とし尽くす。
周囲を飛び交うのは熱を帯びた疾風、周囲に飛び散るのは光となった鉄鋼。
そのどちらもが互いに尽きぬ故に、状況は順調且つ停滞。
既に視界では把握しきれなくなった光弾を、糸同士の共鳴のズレから位置を割り出しては追撃しながら、
どうして、こんなことになったのか、思考の一部を記憶に割り当てた。
* * * * * * * *
音もなく走る影が二つ。
どちらも小さいが、前を走る影の方が、後ろのソレよりも若干大きいだろうか。
いずれにせよ、二つとも子供の影にしか見えない。
これだけならば、まぁ、可愛らしい鬼ごっことも思えなくもない。
が、駆け抜けていく廊下の、明るく照らし出された白い壁や床に、二つの影が堕ちるとき、そこに影の主が全く見あたらないのは、どう考えても兇気でしかなく。
その影の進みゆく其処へ、誰か人が通ろうとすれば、すぐさま影さえも姿を消し、其処が再び静寂へと解放されるまで、その切れ端すら捕らえられないのも、やはり驚喜でしかなかった。
場所も場所だろう。
影を通り過ごしていった人々は、明らかに臨戦態勢の兵士であった。
そして、この建物もまた、何重にも設置された障壁群の真っ直中にある。
内部にも、壁と言わず床と言わず、目につくすべてに何らかの仕掛けが施され、そこで動く全てを捉え、管理しようとする意志の瞳を自任していた。
ならばこそ、ここにいる影は、それらの隙間をかいくぐり続け、今もかいくぐろうとする影は、明らかに異物であることを示していた。
そしてその目的が、其処の全てにとって害悪であり、その進行方向が、其処の全てをかけてでも守らねばならない場所であった。
しかし、影を止める者はおろか、見つける者すら、まだいなかった。
そう。
まだ、だ。
まだ、だ。
双方にとっての異変は、すべてが終わることになった直後に発生した。
ただの照明がすべて赤に染まり、けたたましい警報が静寂を殺しきった。
気がつけば帰りがけの廊下のど真ん中、ものの見事に目標として捕捉される立場へと陥っていた。
* * * * * * * *
ここまで思い出して、その後と現在の変わり様のなさに、思考を再び現状解決へと戻した。
やはり、原因が分からない。
センサーにしろ、カメラにしろ、見張りの兵士達にしろ、何かの動作を放つ前に、一瞬の反応があるはずなのだが、記憶を振り返る限り、それに伴う空気の変化などは全く感じ取れていなかった。
罠か?それにしては、周りを取り囲むときの兵士達の、純粋な驚きの顔が気に掛かる。
・・・いや、そうでもないか、と、其処まで考えてすぐさま停止させる。
アレを言われると一番、主が「仕事」から「趣味」へと行動規律を切り替えてしまうので、後々私の仕事のウェイトが不当に増えるから、出来る限り聞こえないように、聞かせないようにしているのだが、
・・・いや、そうでもないか、と、其処まで考えてすぐさま停止させる。
アレを言われると一番、主が「仕事」から「趣味」へと行動規律を切り替えてしまうので、後々私の仕事のウェイトが不当に増えるから、出来る限り聞こえないように、聞かせないようにしているのだが、
「ちぃっ!たかがこんな」
何処だ、右斜め後ろ、前から四人目、至急!
アレを言われそうになったので、すぐさま弾を其処へはじき飛ばす。
喉元に中った、倒れる、ご愁傷様、やったのは私だが。
どうでもよくなりつつあるが、思考を戻す。
罠だとして、嵌めたのは誰だ?
依頼者、違う、今回の目標との関係は把握済みだ、依頼に虚偽はない、相手に伝えるメリットもないし、正しく伝えたのならば、わざわざこんな罠を張るとも思えない。最初から守りを強化すればいいのだ。
では目標、違う、依頼者の行動を予め知ることができる方法を持っていたとしても、主のことに行き当たっているのならば、やはり、こんな罠を張っているというのは不自然だ。そもそも、疑わしきは罰する傾向の持ち主なのだ。それ故の依頼者なのだから、主の事を知って慢心するようなタイプだとは思えない。
主の事を知らなかった、違う、主が侵入者だということを知らなかった、そこに正解がある。
極端な情報の偏り、それしか知ることが出来なかったとは思えない、作為性、淘汰された、検閲、誰かが知らせた!
極端な情報の偏り、それしか知ることが出来なかったとは思えない、作為性、淘汰された、検閲、誰かが知らせた!
誰か此処に侵入する者がある、とタレコミがあった、コレだ。
そのタイミングや情報精度の差こそあれど、正しい形はコレに違いない。
そのタイミングや情報精度の差こそあれど、正しい形はコレに違いない。
この手筈の緩さは、きっと、私と主が此処に侵入した後の通達だったからこそだろう。別に見つけた訳じゃなく、慌てて緊急状態へと移行しただけで、その唐突さに慌てたが故に見つかってしまったのだ。
とすれば、警告音と共に馬脚を出してしまった姿は、かなり、滑稽に映っていたかもしれない。
とすれば、警告音と共に馬脚を出してしまった姿は、かなり、滑稽に映っていたかもしれない。
・・・いけない、主がそういった思考に思い至れば、やっぱり「趣味」に移行する、というよりも、もう、
『キコエル?』
・・・遅かった。凄く、酷いぐらいに楽しそうだ。
「はい」
『アッチノ準備ハシテタヨネ?』
「はい」
『耐エラレル?』
「逃走行為のみ万全で行える程度のダメージで」
『ジャア、イクヨ?』
どうやら、ここまでらしい。
出来ることなら、無駄に目立って非効率なことを起こしたくなかったのだが。
出来ることなら、無駄に目立って非効率なことを起こしたくなかったのだが。
主と繋がる回線を、双方向・一方向に関わらず全てシャットアウトし、私に罹る衝撃が主へと伝わらないようにする。
主の開始宣言から実行まで、過去の事例より約5秒のタイムラグ。
主の開始宣言から実行まで、過去の事例より約5秒のタイムラグ。
そして、現在出来うる限りの防御体勢へと移行するべく、
現在の状況を均衡させるため、つまりは主が建物から充分な距離逃げ切る時間を稼ぐために低レベルで展開していた糸を、瞬発的に準最大レベルで放つ。
現在の状況を均衡させるため、つまりは主が建物から充分な距離逃げ切る時間を稼ぐために低レベルで展開していた糸を、瞬発的に準最大レベルで放つ。
同時に止む光弾。動いているのは糸だけとなる。
廊下の向こうに控えている別の兵士達が再び攻撃してくるまで、約2秒。
廊下の向こうに控えている別の兵士達が再び攻撃してくるまで、約2秒。
その間に糸を手に仕舞い込んで、しゃがみ込んで、体表を重要・準重要部位を中心に硬化させていく。
私の姿を捕捉した兵士達が、攻撃とは程遠い私の姿勢に思考を割く、1秒追加。
私の姿を捕捉した兵士達が、攻撃とは程遠い私の姿勢に思考を割く、1秒追加。
衝撃による思考の混濁、及び停止状態からの復帰作業への影響を出来る限り押さえるために、思考を外側から順次、半強制終了させていく。
再び光弾が飛び交い、身体に着弾していくが、硬化した表面に影響はない、残り1秒。
再び光弾が飛び交い、身体に着弾していくが、硬化した表面に影響はない、残り1秒。
最後の主思考による最終状況点検、体表の40%が未硬化、許容範囲、該当箇所のメンテナンスを復帰後の最優先事項に追加。強制終了へと移行。
光弾を雨のように放ちながら、私へと近づいてくる兵士達、しかし、私に触れる前に時間となる。
光弾を雨のように放ちながら、私へと近づいてくる兵士達、しかし、私に触れる前に時間となる。
その瞬間、此処は再び白の閃光で塗りつぶされた。
そういえば、タレコミしたのは、一体誰なのだろう?
唐突に浮かんだ、その思考は、強制終了によって破損、破棄された。
唐突に浮かんだ、その思考は、強制終了によって破損、破棄された。
* * * * * * * *
「静かな田舎町で起こった、謎の爆発」
その部屋にいたのは、たぶん3人だった。
はっきりはしないが、その内の1人が、新聞の切り抜きの一片を読んでいるようである。
「爆発の中心部に露わとなった、謎の建物」
詳しいことは判らない、とあるが、少なからず残されていた残留物から、他国で活動するテロリスト集団の、関連施設ではないかという推測が書かれていた。
最も、それが推測ではなく事実であり、更に詳しく言うならば、極秘の細菌兵器工場であったことも知っていた。
「解せないのは、爆発によって焼き尽くされた該当圏内で、此処で作られていたはずの細菌類は一切見つかっていないのです」
いきなり、別の誰かが話し始める。読んでいる人間が、何処まで読んだのか、正確に把握しているようだ。
「あれは、只の、爆発、では、無いと、私は、思います」
最後の1人も口を開く。最も、身体の調子でも悪いのか、非常に聞き取りづらい声であり、呼吸もどこか荒い。
「詳しいことは彼の医療班による分析を待たねばならないでしょうが、この爆発は火力によるものと同時に、一種の放射能に近い性質を持つ何かを放ったものと解釈されます」
もっとも、そんなものが計測されていれば、こんな切り抜きでは済まされないだろう。
つまり、その何かは、私たちの側には、全くの未知だということだ。
つまり、その何かは、私たちの側には、全くの未知だということだ。
「もう一つ、気になる、ことが、あります」
目で促す。もう1人も気になるのか、そちらへと目を向ける。
「私は、任務通り、建物の、付近で、彼らの、行動を、監視、していました」
ゆっくりと、それでいてハッキリと話を続けていく。
「そして、命令通り、情報を、与えた後、騒がしくなった、建物から、彼らの内の、1人が、逃げ出して、きたのを、確認、しました」
1人?
そんな疑問視が2人の顔に浮かんでいる。
「もう、1人は、建物の、中から、出てこなかった、間違い、ありません」
その事実に驚愕する。
2人は彼らについて、噂の域を出ないまでも、かなり詳しいと呼べるほどの事は知っていた。
だからこそ、もう1人の発言によって、建物に残された彼らの内の片割れが、この爆発に巻き込まれているという、当然の帰結でありながら有り得ない論証に目を見開いたのだ。
だからこそ、もう1人の発言によって、建物に残された彼らの内の片割れが、この爆発に巻き込まれているという、当然の帰結でありながら有り得ない論証に目を見開いたのだ。
しかし、それも一瞬。
新聞を読んでいた誰かは、すぐさま思案顔になり、今度は悪戯を思いついた子供のような
顔をした。
顔をした。
「なるほど、そういうことか」
2人の視線を感じつつ、切り抜きを握り潰して、己の喜びを、こう表現した。
「それは、非常に、興味深いね」