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Last update 2007年10月07日

タイトルなし  著者:GURA


「たぶん」と彼女は微笑んだ。

 いや、「微笑んでいるのだ」と思いたかった。
 窓の外は芽吹きだす命で溢れている。
 ひとつき先の春の訪れを待つ、歌うような営みにまどろみ、この体に流れる血もま
た、朗々と咲き乱れるはずだったから。

 その微笑に、ひとかけらの慰めでもいいから与えて欲しいと願った。
「たぶん」
 それは、この行く手に夢の希望という灯火をかざすものであると、
 自分に、
 言い聞かせたかった…。

 私から奪われる、夢への代償。
 与えられると同時に、失われる人。

 彼女は俯き、長い髪でその顔を隠すように身支度を整えはじめた。 
 その幻の微笑みを懸命に希望の型に押し込め、微動だにできず立ちすくむ私には、
冷たくなった指先の感覚が戻らない。 

「それはいつ?」
 唇をかすめかけた言葉は、彼女がドアの隙間から消え去るまで、とうとう音には
なってくれなかった。

 そして夢が象徴的な種類のものでないことを祈った。





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