Last update 2007年11月23日
HELP! 著者:BEAT
無論、そんなことはどうでもよかった。新しい家族?25歳にもなって血のつながっていない父親のことなんて考えたくもない。
頬づえついてテーブルを指でコツコツやっていると、父親になるその男が、ゆっくりと口を開いた。
「オーウ、タカフミサーン、ハジメマシテ。ワタシ、ジョン・レモン、イイマース。コレデモCDダシテイルンデースヨー。タイトルハ、ヒマジンイイマース」
ジョン・レモン?ヒマジン?こいつはリバプールに行ったら絶対ぶっ飛ばされるな、そう思っていたら、ジョンは恥かしそうに、2枚の名刺を俺の前に差し出した。
「ビートルズニ、アコガレテ、ジョンナンテ、ナノッテマースガ、ホントウノナマエハ、アングロサクソン・ペドラロドリゲス、イイマース。ウタヲ、ウタウノガスキナンデースガ、ソレデハ、オナカ、イッパイニナリマセーン。デスカラ、アル、バラエティーバングミノ、ザブトンカンリノシゴトシテマース」
あるバラエティー番組……間違いなく笑点だろう。ビートルズに憧れる男が、ずうとるびの下働きか、世間てやつは、実に皮肉に廻ってるもんだ。
そんなことを考えていると、お袋から着信が有った。
「すいません、母からなんで……」
俺はジョンに一礼し、ファミリーレストランの入り口へと向かう。
「何?俺もう帰りたいんだけど……」
「あら、サクちゃん、何か粗相でもした?」
「サクちゃん?やめとけよ、セカチューみたいじゃんか。それより、ジョン・レモンって何だよ!ヒマジンって何だよ!俺、敬愛するほどビートルズに思い入れがある訳じゃないが、そんな俺でもムカッと来たぞ」
「いいじゃない、それくらい。長州力の文字りやってる人がお茶の間の人気者の時代よ。あんたもヒマジン、買ってあげなさい」
「うーん、小力とレモンは同等かな?それはいいけどさ、あの人の何処に惹かれた訳?」
「南米から日本にやって来て、CDデビューまで果たした。そのサクセスにキュンと来ない?」
「はあ?全然分かんねーよ、だったら死んだ親父はどういう馴れ初めで結ばれたんだよ?」
「故人のことはいいじゃない、サクちゃん待たせたら失礼だからもう切るわね、じゃあ」
はぁ……なんて軽率な理由、肩を落としてジョンが居る席に戻ろうとすると、がらの悪い関西弁を使いながらしゃべり倒すジョンの姿が在った。
「せやから、買いやっちゅーたやろ!なにぼけぼけぬかしとんねん!はようさばいとけや!今?タレの息子とおうとる。大事な時なんや、ほな、切るで」
「ジョンさん、失礼しました。母からでした」
「オーウ、サワコサンカラデースカー。コンドハ4ニンデ、オショクジシマショウ」
「4人?もう1人は誰なんです?」
「ワタシノムスコノ、ショーンデスヨ。コトシデ23サイニナリマース」
「はあ、そうなんですか。それよりジョンさん、先程電話で雄弁に関西弁をしゃべられていらっしゃったみたいですが」
「オウプ!キカレテシマイマシタカ。アレハ、エイギョウトークデース。ナニワキンユウドウミテ、オボエマシタ。オショクジモ、スミマシタシ、マタゴジツ、オアイシマショウ。オカネハ、ワタシガハラッテオキマスカラ、ユックリ、コーヒーデモノンデ、カエッテクダサイネ」
「はい、ありがとうございます」
やっと、終わった……。胸をなでおろしたのはつかの間だった。
「く、食い逃げだぁー!」
ジョンの野郎、まさか!絶対あんなやつ、父親に認めないからな。