Mystery Circle 作品置き場

真紅

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nightstalker

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Last update 2008年01月13日

"Game" ~April fool~  著者:真紅


『終わりと始まりはいつも一緒にやってくる。』

そう思わせてくれ。せめて今だけは。
アキラは、この終わりが見えない無限の絶望に嘆きかける。
此処がどこかなんて覚えちゃいない。
『右手と左手のようになれないかなぁ。』
いつか詠んだ童話の中の無垢な少年が、空を仰ぎながら呟いていた。
左手と右手のように、この世に存在する密接に関係し合い、相対する物。
その中で、今の自分には「生と死」が一番相応しいのだろう。
誰だって色々と考える。これが死という変えられない事実を知った、正常な人間の思考なのだから。
もう何も考えない。考えたくも無いのに。
ふと頭をよぎる、今まで経験してきた様々な出来事。走馬灯。
受け止めよう。この状況を。もうそれしかないだろう。
色褪せた、正方形の部屋の中央に置かれた机。
手に握った、鈍く光る刃物と交互に見る。
そして、その上に置かれた紙に書かれている言葉をもう一度眺めた。
"Gameだ。脱出しろ。死にたくなければ。 April fool"

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まだやりたい事はたくさんあった。
親友だってできた。
好きなヤツだって少なからずともいた。
あれだけサボった高校だって卒業できた。
言ってみれば、平凡に成功していたはずだ。
なのに。
突然、そんな俺の人生をぶち壊す出来事。
四月一日。
変わりなく自分の、使い慣れたベッドの上で目覚めるはずだった。
しかし、目覚めたのは全く知らない薄暗い部屋の床の上であった。
時計は無く、窓さえ無い。あるのは鍵穴が一つあるドアと机とその上に置かれた紙。

もちろんドアはしっかりと鍵が閉まっていて、鉄製のドアだけにブチ破れそうも無い。
そして・・・いつ握ったかも知らないドラマで良く使っているようなナイフだけであった。
「・・・?どこだよここ・・・?」
俺はそう言いながら、寝起きで動かない体を動かした。
ぐるりと部屋を見渡す。此処がどこかという手がかりを探してみる。
しかし、それも虚しく、自分が孤独というのを余計に強調したに過ぎなかった。
その工程で目に入った机に俺は近寄り、紙を手に取りじっと眺めた。
恐らくパソコンで打たれたと思われる文だ。
"Gameだ。脱出しろ。死にたくなければ。 April fool"
「何が"エイプリルフール"だ。Gameだと・・・ふざけやがって・・・。」
俺は、こんな下らない冗談を思い付いた奴が許せなくなった。
「おい!!誰かいるんだろ!!ここから出せよ!!!」
虚しく響く怒号。
「出せ!!!!!こんなくだらねぇ冗談、笑えねぇんだよ!!」
アキラは、鉄製のドアを何度も何度も叩きながら叫び続ける。
だが、返って来るのは無言という返答のみ。
 ・・・一体どれだけの時間、そうして叫び続けただろうか。
やがてアキラは疲れ果てて、ゆっくりとその場に座り込んだ。
それと同時に、これがイタズラではないと知り、恐怖で蒼ざめた。
「・・・狂ってる・・・何なんだよ・・・何で俺なんだよ・・・。」
俺は地面を弱弱しく叩きながら、ただひたすら絶望にかられた。
「出せよ・・・頼むよ・・・ここからさ・・・頼むよ・・・。」
もう"Game"は始まっているのだ。

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あれからどれぐらい経ったのだろうか。
渇く喉、減るばかりの腹を我慢しながら、無い頭を最大限回転させる。
しかし、浮かんで来るのは画期的なアイディアなんかではない。
本当に脱出できるのかという不安と、死を連想させるキーワードだけ。
「"Game"か・・・攻略本でもあればな・・・ハハハ・・・。」
アキラはそう呟きながら、特に何をするという訳でもなくナイフをいじっていた。
その時だ。
カチッ。
ナイフから何かが外れた。
柄の部分が外れたのだ。そして中から鍵らしき物が出てきたのだった。
「これは・・・ドアの・・・鍵???」
俺は信じられないという目でその鍵を見る。
確かに鍵だ。
どうやらこれがドアの鍵というのは間違い無い。
アキラは震えていた。
ここから出れる。
"Game"に勝った。
どうだ。
ざまあみろ。
俺の勝ちだ。
そう思うと笑いがこみ上げてくる。
「ハハ・・・ハハハハハ・・・ハハハハハハハハハハッ!!!!!」
鍵を掲げ、アキラは腹の底から笑った。
それと同時に、無くしていた怒りが沸く。
「"April fool"とかいうヤロー・・・ゼッテェ殺してやる・・・フフフ・・・。」
その顔はこの世の物ではなかった。
鬼。
悪魔。
修羅。
怨念。
憎しみと怒りに支配された人ではない、欲望の塊。
とても醜い。
今のアキラを見た人は皆そう言うだろう。
壊れてる。
だが、それさえもこの密室に居れば当然とも思える。

小説などに出てくる人物は皆そうだ。
異世界に閉じ込められた者はだいたいが発狂する。
「不思議の国のアリス」のような例は存在しないのだ。
アキラはもう以前のアキラではない。

俺は扉の前に立った。
このくだらない"Game"に終止符を打つ鍵を握り締めて。
「勝った・・・勝った・・・勝ったんだ・・・俺は・・・。」
同じ事を延々と呟きながら、鍵穴に鍵を差し込む。
 ・・・カチッ。
鍵を回すと同時、ドアノブも回す。
「・・・開いた!!!アハハハハハハ!!!!」
そして勢い良くドアを押し開けた。

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そこはアキラが願った世界では無かった。
また全く同じ部屋。
床も。
ドアも。
薄暗さも。
机でさえも。
唯一違うのは、また机に置かれたメッセージ。
俺はそのメッセージを手に取り、働かない頭で理解しようとした。
"Stage three 出れるとでも思ったのか?だとしたら心外だ"
俺は崩れ落ちる。
"ちゃんとApril fool 【嘘】 って記しただろ?君がどう思ったかは知らないが"
俺は呟く。
「やめてくれ。」
"さぁ、次の"Game"を始めよう。私をもっと楽しませてくれ。"
「うわあああ・・・・ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

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薄暗い部屋。
何も考えれない。
受け止めよう。
だから。
終わりにしよう。
この不思議な物語を。
俺はナイフを首に当てた。
「・・・ハハ・・・。」
僅かに笑みを漏らす。
そして、ナイフを押さえ付けつつ横に掻っ切った。
首から噴出す鮮血。
床やドアにも飛び散り、もちろん机の上の紙にも降り注ぐ。
血の勢いが止んだかと思うと、痙攣していたアキラの体が止まり、倒れた。
アキラの血がかかった紙。
文字が浮き出した。
"正解。君は天才だ。出口は机の下だ。"
 ・・・だが、もはや意味を成さないメッセージ。

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少年は本を読み終わった余韻に浸りつつ、不思議な世界にこう感想を付けた。
『不思議の国は、ずうっと、ここにあるんだね。』




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