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Last update 2008年01月13日

沸血のトリップ  著者:AR1


 終わりと始まりはいつも一緒にやって来る。終わりとはつまり集中力の断絶であり、始まりは息抜きへの分岐点。
 椅子に座って考えに耽り、現実との乖離は逃避のうねりへと繋がり、それが連鎖となって成すべきことへの放棄へと繋がる。意識の退化、やる気デストラクション、頭上を飛び交う誘惑と言う妄想の数々。
 ああ、ダメだ。こんな自分はダメだ。今踏ん張らなきゃいつ踏ん張ると言うんだ? いや、踏ん張り時なんていくらでもあるのだが……それでも、今は気合を入れて目の前の敵を片付けなければいけない時なのだ。なぜなら、明日までに完遂させておかなければならない課題――と言えば聞こえはいいが、赤裸々に語ると『宿題』である――があるのだから!
 だが、しかし……三時間。
 この単位は即ち、日曜日と言う貴重な休日を返上してまで勉強に取り組んでいる時間である。そろそろ昼の一二時。朝食は抜きでこの成果、上々である。であるものの、悲しいかな、目標は午後一時までなのである。つまり、あと一時間をデスクとシャープペンとと
もにしなければならないのである。
 だが、やはり誘惑から逃れるのは難しい。だが、勉強は果たさなくてはならない。そこで、僕は妥協案を自分に提議してみることにした。

「椅子の背もたれに背中を思いっ切り預けて、勢いよく伸びをしてみよう」

 僕はこの感触が好きだ。背筋を伸ばすことの快感、硬くなったしこりがほぐれる感覚――単純な爽快感というのも気持ちいいものだが、それ以上にお気に入りの現象がある。ある種のトリップ、だろうか?
 後頭部が椅子の下に回らんばかりに力強く、視界が逆さまにならんばかりにのけぞる。血液が頭に溜まる、巡る、停滞する。思考が吹っ飛ぶ快感と、思考がボケる不快感との共存。矛盾が同期し、平衡する量感が頭蓋の芯に留まる。反転した異世界が花開く。
 体を起こし、元の位置へ。血液も重力に従って胴体の方へ。思考も元の方向へ。世界"感"も平常へ。
 ……目と目の間を指でこすり、眉間に皺を刻む。平易で軽度な苦痛は、晴れた瞬間に逆行する。これだからやめられない、多少の気持ち悪さなど克服するまでもない。それがもたらすものは、苦痛を何倍も凌駕する。
 もう一度、背筋を反らしてみる。背もたれの頂点をてこの支点のようにして。
 再び血液が収束する、上へ、上へ、血管へ、脳へ。沸騰するかのごとく熱さが中心を蝕む。
 神経が集中する――頭蓋と言う入れ物に。その密度に視界がクリアーではなくなる。
 神経が後退する――首から下の入れ物が。痺れはない。ただ、存在そのものが希薄になる。もうこの手は、以前の右手と左手のようになれないかなぁ、などという俗説が悪寒として駆け巡る。
 実際にそのような事態にはならない。自己が浮遊しているだけで、自己が欠損して行く訳ではないから。
 再び体を前に起こす。デスクに頭を打ち付けそうなくらいの反動で。眉間を指でこすりつける。これも予定調和、全ては事前に取り決められている決まりごと。
 さて、伸びを二回ほどしてみると、心持ち体調が回復した気がする。単なる一時しのぎのごまかしに過ぎないが……最初に述べたとおり、今は数多あるうちの踏ん張りどころの一つなのである。
 デスクにしっかりと就き、シャープペンの芯の出方を調整する。なあに、あと一時間の辛抱だ。もし辛くなって来たとしても、すぐに行ける場所がある。
 不思議の国は、ずっとここにある。




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