Mystery Circle 作品置き場

たいこ

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nightstalker

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Last update 2007年10月07日

タイトルなし  著者:たいこ


僕はあたりを見まわしてから思わずため息をついた。
ここはどこなんだろう。
なぜこんなところに、僕は立っているんだろう。
右手が何かを握っている。なんだろう。
「ああ、これは・・・」
そう。僕がずっと探していたもの。大事なもの。
小さく小さくなってしまった、「それ」は、けれども粉々になりながらも、キラキラと輝いている。
「これ・・・元に戻るのかな」
確かに、ここにある。壊れた「それ」今はどう見ても治せそうもない様子の、「それ」
僕は、あることに気づいて再びあたりを見まわす。
ここはいったいどこなんだろう。と。
よくよく見てみるとここは奇妙極まりない場所である。
空にはいくつもの飛行機が、飛行機雲を引きながらビュンビュン通り過ぎていく。
それこそ、無数の。
たまに衝突しては、ごくごくありふれた形の花火があがる。
縫いぐるみがあちこちで低空飛行してふらふらしている。
右手には、川。その川のほとりには、無数の壷が並んでいるのだ。壷は時折、カタカタと揺れたりしている。
「ここは・・・」
そう。僕はここに来た事がある。どころか、ここは僕が作った場所じゃないか。
僕がつくった世界。僕だけの世界。ここで、僕はさまざまな事を学ばなかったか。
ここで僕は、このキラキラした「それ」を育てていたのじゃなかったか。
「そうだ!川だ!」
戻るかもしれない。僕の、この、キラキラしたもの。直るかもしれない。こんどこそ、こんどこそ、僕のこれを共有してくれるかもしれないあの子のために。こんどこそ。
「次は、ないかもしれないから。」
僕は川へ走って行った。
無数の壷が、カタカタと僕の邪魔をする。
「あけてくれよ、痛いよ痛いよ助けてよ」
壷からは声が聞こえる。でも僕はもう思い出していた。あのふたを開けたらいけない。
小さな小さな小人が、あの中にいるんだ。壷の中は、地獄絵図。開けて小人を自由にしたら、あの中に入るのは、僕。永遠に壷の中で、閉じ込められて過ごすんだ。誰かが身代わりになってくれるまで。
壷の大合唱に耳をふさぎながら、僕は走る。川へ。そう。僕は走りながら、この世界のルールを思い出していた。
ここには、危険がいっぱいだ。そして危険を回避する方法は、僕にしかわからない。
そんな事を思い出しながら走っているうちに、いつの間にか右手の中の「それ」が徐々にひとつになり、徐々に大きさを取り戻している事に、僕はまだ気づかなかったんだ。

やっとの思いで、僕は川にたどり着く。
川の水は、不思議な色で満たされている。悲しい色・嬉しい色・満たされた色。
「そう。ここだ。ここで・・・」
僕は川の流れる先を見詰める。
川は小さな入江のような、あるいは半分埋められた運河のような海に注いでいた。






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