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Last update 2008年01月13日

夏 著者:フトン


おわりとはじまりはいつもいっしょにやってくる。
それは例外なく私にもやってきて、全てをかき混ぜていった・・・・・
夏の夜の嵐のように・・・・・・・

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ゴン!!!
ものすごい音と共に目の前に昼間の星が現れた!!
何が起きたのかまったく分からないうちに、私の視界は天井を捕らえた。
 ・・・・・・いたい・・・・・・
頭に激痛が走って、くらくらする・・・・
「桃!!だいじょうぶ??」
大親友のいっちゃんが心配そうに私を見下ろしている。
何故か起き上がれない私に、とんでもない罵倒が飛んできた。
「都築 桃!!邪魔スンナ!!」
「桂木~~~~~!お前が突き飛ばしたんでしょ!!」
いっちゃんが怒鳴り声を上げて、声の主に食って掛かる。何となく・・・・思い出してきた・・・
確か、私はいっちゃんと共に廊下を歩いていて・・・・・・・
ものすごい力で壁に激突したんだ・・・・・
って?桂木君にぶつかって?
「はぁ?ぼ~~~と歩いてる。こいつが悪いんだろ?」
「お前には優しさって物はないのか??」
二人の言い争いを聞きながら、私はゆっくりと体を起こした。
おでこの辺りがものすごく痛い。
それを見つけたいっちゃんが、私の肩を優しく抱きかかえる。
「桃。大丈夫?保健室いこ。」
いっちゃんに抱きかかえられながら、立ち上がる。
「うん。何かぼ~~とする・・」
そういった私に、桂木君の冷たい突込みが入る。
「ぼ~~としてんのはいつものことだろ?」
桂木君はいつも私に冷たい。何でなのかはまったく分からないけど・・・・・
いちゃんが桂木君を睨み付けながら、私を抱えて歩き出した。
「桂木も着いて来いよ!!あんたがぶつかったんだから!!」
おそろしいほどどすの利いたいっちゃんの迫力に負け、桂木君が文句を言いながら付いてくる。
いっちゃんってホントすごいなw
なんて感心してしまう・・・。

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保健室に着くと、先生が様子を見るから休んでいきなさい。と言って私をベットに寝かせてくれた。
いっちゃんと桂木君は夫婦漫才のように(いっちゃんが一方的にド突き倒してるけど)ギャ~ギャ~言いながら保健室を出て行った。
二人が居なくなると、先生と二人だけの保健室は物凄く静かで・・・・ゆっくりとした空気が流れていった。
風がベットの周りのカーテンを揺らしては過ぎていくのが、何だか気持ちが良かった。そんな、時間に私は、いつの間にか眠りに誘われていった。
目が覚めると、先生の気配がなく夏の風だけが私の周りをふわふわと漂っていた。
人の気配がするまで私はその風をただ楽しんでいた。静かで優しい・・・・・・
「先生・・・いますか?」
静けさを消すように男の人の声が、保健室に流れた。
私はカーテンを開け声の主を探した。
扉のそばに立ち、その男子生徒は保健室の中を見渡していた。
「あ・・・あの。いないですよ。どこか行ってるみたいです。」
私は彼に声をかける。普段の私なら知らない人に声なんて掛けないのに・・・・彼には何故かそうしていた。夏の風のようなどこか強い意志を持った、優しい雰囲気に惹かれるように・・・・・
「そっか・・・・・。じゃ、来るまで。待つか。」
彼はそう言って、慣れた様子で部屋の隅に置かれていた椅子を引っ張り出してくると、私の近くに持ってきて座った。
「どこか具合が悪いの?」
優しい口調で尋ねてくる。
「・・頭をぶつけただけです・・・」
何だか恥ずかしくなって俯いた私の頭に彼の手が触れた・・・・・
驚いたのにその手を振り払う事も出来ずただ、彼に身を任せた。
「大丈夫?女の子なんだから、体は大事にしなきゃね。」
優しい笑顔でそう言われ、私は素直に頷いていた。
それから先生が来るまで、私と彼は話をしていた。
彼の名前は、結城 祥吾君といって同じ学年で保健室の常連さんだという事・・・・
クラスが離れているから、一度もあったことがないこと・・・
実はガーデニングが趣味で私と同じ園芸部員だったという事・・・・・
まるで共通点を探すように・・・・お互いの話をした・・・・
それは、私が始めて感じた感情だった。
甘く切なく・・・・・・・優しい感情・・・・・
夏の午後の事だった・・・・・・

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次の日、いっちゃんに保健室であったことを話すと、何故かいっちゃんが大喜びをして私の頭をくしゃくしゃに撫で回した。
「い?いっちゃん??」
「ん~~~!桃もついに女になったか!!めでたい!!」
言ってる事の意味がいまいち分からなくて、もう一度聞きなおす。
「だ・か・ら!桃、その・・・」
「結城君?」
「そうそう!結城の事が好きになったんだよ!!」
 ・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!!!!!!
16年間生きてきて、恋だの愛だのまったく縁のなかった私には衝撃的な一言だった。
「でも、昨日会ったばかりだよ?」
「恋に時間なんて関係ない!!一目会ったその時に恋の花咲く時もある!!」
いっちゃんが演劇風にそう言うと、私の手を握り締めた。
「おめでとう!!で!いつ告白する?」
「だ・・だから!そんなんじゃないし!告白って・・・・いっちゃん~~~!」
「まぁまぁ、桃の初恋なんだから!この一香様が全力で応援しますって!!」
少々暴走気味のいっちゃんに呆れながら、私は結城君の事を思い出した。
男の子にしては細い白い肌が印象的で、ほって置いたらどこか消えてなくなってしまいそうな・・・そんな彼が・・・無性に心配で・・・・
ずっと、そばで見ていたくて・・・・
これが恋なのだろうか??
まだ、よく分からない・・・・

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お昼休みいっちゃんに無理やり引っ張られて、結城君のクラスまで来ると、クラスメイトの女の子が訝しげに歓迎してくれた。
「結城君なら、保健室よ。」
冷たくあしらわれて、結城君がモテルンダッテことが、よく分かってしまった。
と言うより、保健室について、結城君を見たいっちゃんの反応でもっと、分かった。
結城君は世間で言うイケメンのらしい・・・・
いつもより女全開のいっちゃんを横目に、私はため息を付いた。
いっちゃんの矢継ぎ早の質問に困り果てた様子の結城君が私に目配せするまで、私は何だか蚊帳の外にいる気分だった。
「いっちゃん。結城君困ってるよ・・・」
ちょっと、小さすぎるくらいの声でいっちゃんに話しかけると、やっといっちゃんが私の方に振り返った。
「あら?ごめん。あ!あたしはこの辺でちょっと・・・」
それだけ言うと、何もなかったように保健室を出て行くいっちゃんに、何だかものすごいものを感じて私は唖然としたままその後姿を目で追った。
そんないっちゃんの様子があまりにもおかしかったのか、結城君がいきなり笑い出した。それにつられる様に私も笑い出した。
ひとしきり二人で笑って、落ち着いた頃私と結城君は椅子に座って話し出した。
「ごめんね。何かいっちゃんって激しい人だから・・・」
「大丈夫だよ。中々面白い友達だね。」
結城君がそう言ってくれたことにホッとしながら、結城君の綺麗な横顔を見つめた。
風にさらさらとなびく髪が光に透けて、時々金色に輝いて見えて・・・・・何だかこの世の人に見えなくなるくらい綺麗だった。
見とれている私に、どうしたのと小首をかしげて除きこんできた結城君から、私は真っ赤になって視線を外した。
胸の奥がものすごい速さでリズムをとっていて、周りの音が聞こえないくらいだった。
この心臓の音が結城君にまで聞こえていそうで、私はますます顔を赤らめた。
何か話したいのだけれども、言葉が上手く見付からなくて何も話せないまま時間だけが過ぎていった・・・
いっちゃんみたいに上手に話せたらいいのに・・・・そう思っても、やっぱり言葉が出てこない・・・・
風の音と、遠くで聞こえる誰かのはしゃいでいる声だけが耳に入ってくる。
突然結城君が話しかけてきて、私は顔を上げた。
「今日はどうしたの?」
「あ・・・・」
いっちゃんに無理やり連れてこられたとも・・・言えず・・・結城君の綺麗な瞳に魅入られてしまっていて、私はとんでもない事を口にした。
「私とお友達になってください!!!」
言ってしまった後に慌てて口を塞いだけど後の祭り・・・結城君の大きな瞳がより大きく見開かれ・・・・次の瞬間困ったように曇った。
答えを聞くまでもなく分かってしまう・・・・
私は恥ずかしさといいようのない痛みにさいなまれ、立ち上がると。
「ごめんなさい!!」
そう叫んで、保健室を飛び出した・・・・・
私は一体何をやっているんだろう・・・
情けなくて・・・・涙が出た・・・・

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

あれから、一週間が経っていた。
あんな事があって、直接結城君に会いに行かないものの、私はいつの間にか結城君の姿を探すようになっていた。結城君の教室の前を通る時・・・校庭から見える保健室の窓・・・
結城君の姿を見るだけで嬉しくて・・・本当にいっちゃんの言っていたように・・・・これが恋なのか・・そう思い始めてからは後悔の毎日で・・・あんなこと言わなければ良かったと・・・・・・
それでもやっぱり探してしまう・・・・なのにこの二日間くらい結城君の姿はまったく見えなくて、いつもは必ず姿を見つけることが出来たのに、まるで存在していた事が嘘のように消えてしまっていた。
何か胸騒ぎのようなものを感じて、私は休み時間を利用して保健室へと向かっていた。
結城君に会うのはとっても恐かったけど、それよりも激しい胸騒ぎが強くて自然と保健室へと向かっていた・・・
保健室に入ると先生が居て。そこに結城君の姿はなかった。
ホッとする反面、言い知れない不安が頭をよぎる。
「あの、結城君は来てませんか?」
「今日は、学校に来てないわよ。あなた結城君のお友達?」
一瞬躊躇ったけど、私は頷いた。
「そう。結城君に友達が出来たなんて・・・」
先生が嬉しそうにそう言った事が引っかかる。
「あの、最近友達になったんです。結城君、何か病気なんですか?」
先生はゆっくりと深呼吸をすると私を椅子に座るように薦めた。
「結城君ね。心臓が生まれつき弱くて・・・最近はあまり調子もよくないみたいなの。」
驚き手が震える。
「あの、大丈夫なんですか?」
「手術をすれば直るらしいの。でもね・・・結城君に生きる気力がないというか・・・・あの子色々あるから・・」
先生はそこまで話して、言葉を濁した。
そんな事情があったなんて・・・・毎日のように保健室にいた理由もやっと分かった。
それと同時に結城君のことが心配になった。どうして、彼は生きる希望をなくしているのか・・・・
失う苦しみがふつふつと沸いてくる。
「あの、失礼します・・」
私は先生に一礼すると、保健室を後にした。

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教室に着くと泣きつくようにいっちゃんに話し始めた。
保健室で聞いたこと、結城君との間にあったこと・・・
いっちゃんは私の話を静かに聴いていた。話が終わると、何も言わずに立ち上がりいっちゃんが教室を出て行った。
突然の事に驚き、私はいっちゃんが帰ってくるまで、あたふたとしていた。
いっちゃんに見捨てられたと思って・・・・
でも、いっちゃんは戻ってくるなり私のかばんを押し付け、手にメモを握らせた。
「いい!何が何でも、結城君に会ってきな!桃が初めて手にした恋なんだから。桃が後悔するようなことはしちゃだめ!!結城君だって、友達要らないなんていってる割に、桃には色々話してくれたんでしょ!!」
「いっちゃん・・」
「早く行きなさい!!ほら!!」
いっちゃんに背中を押され・・・私は走り出した!!結城君の元へ・・・・・

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集合団地の一角に結城君の家があった。
緊張する手を何とか押さえながら、インターホンを押す。
中から、結城君の声が聞こえる。
「あ・・あの・・都築です。」
ドタドタというものすごい音がして、扉が開いた。
目を真ん丸く見開いた結城君がたっていた。
「どうして・・・」
結城君が何かを話し始める前に、私が一気に言葉をまくし立てた。
「友達になってなんてもう言わないから!!だから、お願い自分を大事にして!初めて人を好きになったの・・・それなのに失ってしまうのは失恋するより苦しいの・・・・結城君に何があったのかなんて知らないけど、私には必要な人なの!!お願い、いなくなったりしないで!!」
言葉と一緒に涙が溢れる。どんなに苦しくても辛くても、この人に綿費の言葉が届かなくても・・・・・・失いたくない。たった一つの命を・・・・
結城君の腕を掴んで、握り締めた。この手を離したくなかった。
離してしまったらもう二度と触れることが出来ないような気がして・・・・

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結城君の部屋に入ってからも私は掴んだ手を離すことなく泣きじゃくっていた。
「都築さん。ごめんね。」
結城君は何度も何度も私に謝っていた。でも、その言葉に力はなくて・・・・私は謝られるたびに握っている手の力を強くしていった。
「僕の、父親は結構大きな会社を経営しててね。僕はその跡継ぎとして育てられてきたんだ。でも、この体・・・その所為で母は父に詰られ、虐められ虐げられてきた。そのことが原因で、僕が小学生の頃自殺未遂をしてね。世間体を気にする父が、僕と母を家から追い出したんだ。憎んでも憎みきれなかった。それなのに僕が18になるのを待って今度は会社経営を学ばせて、跡継ぎにしようとしている事を知ってね。許せなかった。だから、この体さえ治らなければ、もう、あいつの思い通りにならないと・・・・」
私は結城君の顔を見つめた。憎しみと絶望感がひとみの奥に宿っていて・・・・それを見たら言葉が出てこない。
「母は今でも精神的な病に悩まされて苦しんでいるのに、あいつは自分の会社の事ばかり・・・ほかの女に跡継ぎを産ませることも出来ないから、僕と母を利用しているんだ。そんなあいつに一番ダメージになることは・・・僕がこの世からいなくなる事なんだ。」
握っている手に力を込める。
「だめ!!」
もっと、上手い事を言いたいのに言葉が出てこない・・・
人の命はそんな軽いものじゃない!!恨みや復讐の為になくしていいものなんかじゃない!!
言いたい事はたくさんあるのに・・・・・
「都築さんは優しい人だね・・」
今までの言葉とは裏腹な言葉に私は顔を上げた。
「結城君・・」
「初めて会ってときに、思ったんだ。やばいなって・・・でも、本当に君は・・・真っ直ぐで僕の気持ちさえ揺らしてしまう・・」
私は精一杯の思いを込めて、結城君の手を握り締める。
この人の閉ざされた心が・・・溶けるようにと・・・

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

何時間私達は黙って手をつないでいたのだろうか。
繋いだままの手が、一つにどうかしてしまったような感覚さえ覚えてしまう。
不意に結城君が言葉を発した。
「この右手と左手のようになれないかなぁ。」
私は静かに頷いた。
繋いだままのこの手が、お互いの気持ちも何もかもを表していて、時間が止まったように静かにただ、静かに風だけが流れている。
「手術・・・受けるよ。傍に居てくれる?」
私は強く頷いた。
それだけでもう良かった。二人の間には・・・・それだけで良かった・・・・

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

あれから、結城君の手術はあっという間に決まった。
結城君のお母さんが泣きながら、私に何度も何度もお礼を言った時私は、何だか嬉しくて結城君が幸せになれることを感じ取った。
病院の薬のにおいにもなれてきた頃手術の日がやって来た。
当たり前のように繫いだ手が二人の気持ちを運んで行った。
「僕。ずっと思ってたんだ。いつかこの、現実から逃げ出してどこか幸せな不思議の国に行けたらって・・・それがあの世でも・・・」
私は何も言わずに頷く。
彼の新しい人生を始める一言を、私はただ嬉しく心に刻み込んだ。
きっと、そうだと・・・・・
「でも違ったね。何時だってちゃんと信じていれば、不思議の国は、ずうっと、ここにあるんだね。」
夏の風はただ優しく、二人の隣を通り過ぎていった・・・・・・・・・・・・




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