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Last update 2008年03月14日

Dead or Alive?  著者:AR1


「いや、さっきの賭け。乗るわ」
 突如、狙撃ライフルを抱えつつ、双眼鏡でボナベンチャーホテルの五棟の円筒の一角を注視している相棒が答える。一体、何十分前の賭け――それも限りなく純粋なジョーク――に答えているのだろう? 仕事の腕が立つのは結構だが、いきなり思考が過去にワープするのだけは勘弁して欲しい。おまけに自己完結していたりするからタチの悪さに拍車をかける。
「なんの賭けだったか?」
「ほら、アレだ……難しい標的を仕留められたらって話」
 ああ、その話か。同時期に出たジョークと言えば幾つかある。俺達はビル・ゲイツの総資産を抜くことが出来るか否か、ラスベガスで女をはべらせながらロールスロイスのストレッチリムジンで闊歩するのはいつだ、宇宙旅行で「地球は青だった」というセリフをどちらが先に言うのだろうか――旧ソ連将校の言葉を持ち出すのはどことなくムズ痒いが――、など。それ以外にどれだけ『賭け』と言う名の絵空事を飛ばしただろうか? 枚挙に暇がないのだから、具体的にどの『賭け』に対しての回答なのかをしっかりと明示してもらわないと、こちらはどうにも答えようかないのは至極当然である。
「で? なにがどうした?」
「アレの賭け、まだ約束は生きてるかい?」
 はて? なにか報酬の約束でもしたか? こちらには覚えのないことなので小首を傾げて主張して見せた。しかし相棒は双眼鏡越しに明後日の方向を向いていたので、一言添えるのも忘れずに。
「なんだったっけか?」
「一万ドル」
 そういえば、そんな破滅的な金額を提示していた記憶もある。あまりにゼロの数が多過ぎて真剣な話ではなかったと思っていたのだが、相棒にとっては大真面目であったらしい。これだから謎の思考の持ち主は怖い。普段は豪快な空振りばかりのくせして、ふとした拍子にジャストミートの場外ホームラン。一発がデカいだけに、いつの間にか破産宣告にまで追いやられていそうで。
「で、その一万ドルの賭けがどうかしたか?」
「うん、それは有効なのか? まずはそれを聞きたい」
「それが有効であるかどうかは、そっちの用件次第だな」
 確信する。きっとこいつの用事はまともじゃない、と。
「とりあえず、双眼鏡で見てみろ。ホテルの玄関口」
 相棒のペースに巻き込まれるがまま言われるがまま、観測手用の双眼鏡を覗き込む。玄関までの焦点が遠い。ズーム、ズーム、ズーム……ストップ!
「……世の中、金回りのいい奴ってのはいくらでもいるもんだよな」
 マセラティのセダンから降りて来るスーツ姿のスキンヘッドの男と、豪奢なドレスで着飾った美女二人がレンズの中に映る。確かにそれを羨む心の声はあるが、だからどうしたという気にもなる。そこそこ金を持つのはいいだろう。だが、あまり利回りが良過ぎるのは心臓に悪い。ひたすらに多方面からの心象を多角的に悪くしそうで……というのは偏見であろうか?
「で、アレを狙うのかい? 本気で言ってるなら、俺は正気を疑うぞ」
「俺は狙うぞ。狙うに決まってる。今狙わなきゃ誰がやる」
 一緒に降りた成金の男、と言うのははばかられた。いつも必死になって歯車に杭を打ち込んで止めていると言うのに肝心な時につっかえ棒がボキリと粉砕されるのだから、少しはこちらの迷惑も考えてもらいたい。
「仕事はどうする? ここで一悶着起こすのは……」
 何分、ボナベンチャー・ホテルは背が高い。なにせ三五階構造の建築物である。ほとんどがガラス張りであるがゆえに狙撃手にとっては格好の的は違いないが、風が吹くことを考慮した弾道計算などがややこしくてしょうがない。ビル風の多発地帯では尚更である。
「大丈夫だって。問題はないさ」
 双眼鏡とライフルを屋上の床に置くと、いそいそと立ち上がって衣服の汚れを払い落とす。いや、まさかとは思うが――あ、そういえば車にタキシードを積んでいたっけか。思わず迷彩服で突っ込む気かと思ってしまった。
「じゃ、行って来る」
 二mに迫る巨体を軽やかに躍らせて相棒が階段へと消える。どうだ、仕事前だというのにあのリラックスしたステップは。必要以上に緊張していないのは結構だが、あそこまで向こう見ずの男はいかがなものか。
(殺し屋、ターゲットの前に美女を仕留める、か)
 で、仕留め損なって警察(ハンター)に嗅ぎつけられる訳だ。そうなったら本当に洒落になっていない。皮肉としても間抜け過ぎて恥ずかしい。
 しかも分の悪い賭けに平気で乗る――金額のことではない。もっと根本的に、あれだけの高級車と資産を持っているだろう男に、一介の小市民など見初められる訳がないのに。ハリウッド級の美男なら別だが、相棒はその条件も満たしていない。これはアレか、俗に言う『カミカゼ・アタック』とかいう奴か。とうとう相棒は東洋の精神にまでリスペクトするようになっていたのか!
 ……空しくなって来たが、独り賑やかしでもやっていないと呆れで物を言えなくなるか、ひたすら愚痴をマシンガントークしまくるかのどちらかである。それはそれで無性に腹立たしい光景だ。
「改めて思ったよ……あいつ、無意味に勝負師だよなぁ」




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