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Last update 2008年03月14日

~summer vacation~ 「手」  著者:真紅


『ボクはパラソルの下で微笑んでますよ。 』

八月の海。
陽射しがとても痛い。
本当に数えるほどしかない有給を取り、友人数人と来ている。
「泳げないんですよ。それに、あなた達が泳いでるのを見てる方が楽しいので。」
ボクは皆にそう促した。
「あ、そう・・・?じゃあ悪いけど、ここで待ってて!!」
皆はそう言うと、笑顔で暑い浜辺を裸足で駆けていった。
「・・・ふぅ。」
ため息を付き、砂浜に寝転んだ。
波の音。
風の音。
パラソルの陽射し加減。
それら全てが心地良い。
「あれから十年か・・・。」
ボクは決して泳げない訳ではない。
十年前のあの出来事からだ。
泳ぎたくないのだ。
泳ぐと、見てしまうだろうから。
泳ぐと、思い出してしまうから。
救いを求め、呻く、人では無い物の姿を。

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「それ」を最初に見たのは幼少の頃。
忘れもしない、今日みたく良く晴れた日だった。
この海に両親と共に来ていた。
ボクは初めての海に、喜び、勇んでいた。
両親も、そんなボクを見てとても嬉しそうだった。
なのに。
両親と泳いでいたボクは、飲み物を飲みに浜辺に戻った。
その時だ。
両親が溺れている。
先程まで元気に、笑って自分の事を見ていた2人が。
ボクは急いで海に飛び込んだ。
それと同時に、目の前で2人は海へと沈んでいった。
ボクも追うように潜る。
そこで見たのは、異様ともいえる光景。
幾多に伸びる「手」が海の中で、両親の脚を引っ張っていた。
この世の物ではない。
「手」は沈み行く両親の体を、まるで歓迎するかのように囲む。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
ボクは海の中で叫んだ。
それに反応するかのように、「手」がこちらにも伸びてくる。
必死で振り解くが、幼いボクは無力同然であった。
全身を、絡みつく青白いその「手」に締め付けられ、ボクは気を失った。

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 ・・・お母さん・・・お父さん・・・どこ・・・?
目を覚ますと、そこは病院。
ボクは真っ白なシーツに包まれていた。
「あ・・・気が付いたのね・・・。」
傍には看護師さんがいる。
話によると、浜辺で倒れているボクを通った人が見つけてくれたらしい。
気が付くと共に、呼び覚まされるあの海での光景。
「・・・お母さん・・・お父さん・・・2人は!?」
慌てて、すがり付き聞くボクに、看護師さんは無言で俯く。
「・・・う・・・うわぁぁぁぁぁぁ!!!お母さん、お父さぁぁぁぁぁぁ
ん!!!!」
幼いながらにも、「死」を理解したボクは賢いといえたのだろうか。
ボクはベッドの上、泣き崩れた。
あの「手」が憎い。
ボクから全てを奪ったあの「手」が。
くっきりと両足に残っていた、「手」の「跡」が疼いた。

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あれから十年。
またこうしてこの海に来た。
あの頃の事はもう頭から離れかけている。
このまま忘れられるのだろうか。
なら、それはそれでいい。
運が悪かった、そう、それだけなのだから。
「・・・忘れよう・・・母さん、父さんが心配しないように・・・」
ボクはそう言って目を閉じた。
ボクを包み込む、静寂。
だが、それも僅かな間だった。
「うわあああああああ!助けてくれええええ!!」
海の方から聞こえる叫び声。
 ・・・まさか。
ボクは立ち上がって、海を凝視した。
友人が溺れている。
 ・・・嘘だろ。
激し過ぎる胸騒ぎ。
疼く。
とても熱く。
「手」の「跡」が。

『膿み始めた傷のように、どくどくと熱を持って疼くのだ。 』




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