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Last update 2008年03月14日

熱のせいだけじゃなかった  著者:なずな



気長に待っていてくれた客は、
選りにも選って一番会いたくない相手だった。



艶やかに磨き上げられた 黒塗りの高級車。
深い藍色の空の下、駐車場の照明の中
ひっそり降り立った巨大宇宙船みたいに見えた。 
従業員用の扉から出た僕に気づいて 運転手が後ろのドアを開く。


「コーヒーでも飲んで、待ってて下さったら良かったのに」

わざと のろのろ仕事を延ばし、待たせていた。
どうせファミレスのコーヒーなんて飲まないんだろう。
解っていたけれど、言ってみる。

後部座席、ゆっくりと背をもたせ 腕を組んで目を閉じ
貴之の父親、篠原貴一郎は座っていた。
車内に流れるのは 交響曲。

貫禄。

ぶるり悪寒がしたのは 開いたその目の冷たさ。
雑誌やTVで見る温厚そうな笑顔とのギャップ。
身体から放たれる 冴え冴えとした威圧感。



 *

「話は簡単なんだがね、まぁ 乗りたまえ」
「いえ、結構です。ここで 伺います」
「君も解らない人だなぁ。秘書の話では納得してくれなかったようだから
 何とか時間の都合をつけて出てきたんだよ」
「そりゃそうでしょ?
 貴之君が亡くなったって教えられて、それだけでも動揺してるのに・・」



その日は冷たい雨が降っていた。
貴之の父の秘書という人がキャンパスにやって来て 僕に告げた。

 ─ 貴之坊ちゃまが亡くなりました。

高校の寮の窓から 転落。全身を強く打っての即死だった。

 ─ ご連絡頂いたその日の夜の事ですので 気になさるのも無理ありませんが・・




その日の前日、夕方頃 貴之から 突然の電話があった。
 ─ 特に用事はないんだ。ヒロ先生とちょっと話したくなっちゃって・・。
久しぶりなのに やけに淡々とした話し方。 穏かな声。
却ってそれが気がかりだったので、貴之の家に連絡を入れたのだ。

僕の連絡を受けて、どんな風に貴一郎氏が心配し、
学校や寮の様子を調べさせたかを 感情を交えず秘書は語り、
その後続けて、抑揚のない小さな声で僕に告げた

 ─ 坊ちゃまの事は 事故でした。
  お解りですね。
  間違いなく「事故」ですから。



翌日 貴之の葬儀は執り行われた。
立派な花輪の数、各界の著名人の多数の列席に 
僕は戸惑い、気分さえ悪くなった。
貴之の葬儀だというのに それはまるで貴一郎氏の
社会的地位を確認する催しの様だった。



 *



2年前ひと夏だけ 僕が家庭教師を務めた 貴之。
学校と塾と模試。
がんじがらめで遊ぶ時間もなかった 色白で華奢な中学生。

海外でホームステイしてくるから と、
結城君がピンチヒッターを僕に依頼した時の
やりとりは 確かこんな風だった。

「塾の宿題とテキストやってるのを、
 横で見てりゃいいんだ。楽勝、楽勝。」
通ってる大学のレベルは雲泥の差だけど、うちに下宿屋してた縁で、
結城君と僕は案外よく話をした。

子どもなんか全然好きじゃないと言いながら 
彼は家庭教師のバイトを沢山掛け持ちして 
学費や遊び代を上手にやりくりしていた。
中でも貴之のところのバイト料は破格だったらしい。


「それでも質問とかされるんでしょ?結城君ならいいけど
 そんな秀才の子の相手、僕がしていいの?」
「大丈夫、パパの言いなりに生きてる 
  頭のいいだけのお坊ちゃまだよ。寂しがり屋のね」

「お坊ちゃま」をやたらはっきり発音して、
結城君は 鼻でふふんと笑った。



「2ヶ月くらいヒロと遊んだって、あいつの学力は落ちないさ
 まぁ、せいぜいお話相手になって差し上げてくれ」

医者になって金持ちの患者をばんばん入院させて 薬を山ほど処方して儲ける、
将来は大きな病院の娘と結婚して後継ぎに納まったら、看護婦といっぱい不倫して・・・
本気だか冗談だか、結城君は いつもそんな野望を僕に語って聞かせた。

生徒の指導の参考に・・と上手いこと言って、お手伝いさんや母親から
家庭の事情を聞きだす その技は感心するほど巧みだった。

「若くて美人の母親だったら、いっそう親身になって聞くんだけどな」
結城君はそう言って冷めた目のまま笑い 
貴之の家の事情を、簡潔に話してくれた。


 *


広い敷地の並ぶ住宅地。
長い坂を上りきったところに 貴之の屋敷はあった。

結城君の通う大学、学生相手の洒落た店の並ぶ大通り
少し離れると、昔ながらのアーケードの付いた小さな商店街 
こまこました住居の群れ、僕の通った公立の小学校 
日が翳るまで遊んだ、小高い丘。
川向こうの工業地帯、トラックの行きかう川沿いのルート
その向こうのぼんやり霞むあたりには、硬質の光りを放つオフィス街のビル。

その全てを見下ろすように その屋敷は建っていた。 




抜きん出た学力。
中2にしては幼い、たどたどしい話し方。 
勉強の合間、遠くを見る時の物憂げな表情。
僕に向かって見せる 人懐っこい笑顔。
貴之の全てが、酷くアンバランスな印象だった。

子どもらしい飾りのひとつとしてない、
機能性だけを重視したような、異様に殺風景な勉強部屋。

祖父と祖母は家柄と会社との結婚
父、貴一郎氏と母親は その会社をさらに大きくする目的の結婚。
その会社を継ぐためだけに望まれた 息子の誕生。

 ─ 身体の弱い奥様と貴一郎氏の間では 子どもはできなかったらしいぜ。
結城君はお手伝いさんに聞き出した話を 
昨日観たドラマの筋でも教えるように僕に言う。


いつ行っても 整然として静まり返ったその屋敷には 
生活感、家庭の温かみのようなものは 見出せない。
病弱な貴之の「母親」も、その夏の間に一度だけ姿を見せたが、
軽く僕に会釈しただけで。隠れるように自室にこもる。

顔立ちの中には確かに 貴之と似たところは探せなかったが、
寂しさを湛えた目の色だけが 貴之に重なった。

貴一郎氏が他所で産ませた子ども。
貴之自身 そのことをいつ知ったのだろう。



「僕、ずっとお母さんを守るんだって思ってた」
貴之は ぽつり そう言った。

「でも、僕がいるって事がそのまま お母さんを傷つける。
 誰かを責めたり、僕を憎んだりできない 優しい人だから
 僕といると それだけで苦しくて・・だから 離れてるしか仕方ないんだ」

幽霊のようにゆらゆらと自室へ入っていく母親の後ろ姿を見送った日、
貴之はそんな事を僕に話した。
特に聞き出すつもりじゃなかったし 言いたくないことは聞きたくなかった。



僕が返す言葉を探しているうちに 貴之は数学の問題集を開き、鉛筆を走らせる。
「できた、先生」
にこっと笑って 差し出したノート。
回答と見比べなければ僕には解らない程の難問。
僕が答え合わせするまでもなく それは全問正解だった。


 *

「ふうん。貴之、そんな事言ってたか」

ホームステイから帰ってきた結城君にまた職を返し、
僕は 学力に見合った気楽なバイトを始めた。
「どっちかっていうと 僕が子どもの時の話をした時間の方が多いかも。
 聞きたがるんだ、貴之。
 結城君は 貴之の中学受験の時からの付き合いなんでしょ?
 もっと色々話してるんじゃないの?」

「いや・・パパが連れてきた家庭教師だ。警戒されてるんだろうな。
 オレにとっちゃ、あいつはただの『金持ちのお客様』だし」

結城君はそう言いながら、眩しい時みたいに目を細めて僕の顔を見
「ヒロなら・・お前相手なら 心開きそうだって思ってた。
 ふふ、期待通りだな」

「え?結城君 もしかしてそういう事まで考えて僕にアルバイト回した?」

結城君はすぐに答えず、静かな横顔を見せたままゆっくりとビールの缶を傾ける。
「さあてね。でもヒロってさ、自分で気づいてる? 
    お前といるとオレでも調子狂うんだ」
「どういう事?それ」

結城君は、空き缶を乾いた音立ててつぶし、
「ヒロといると、オレはしゃべり過ぎる
 なぁ、スポンジみたいだって言われたことないか?」
にっと笑ってそう言うと、結城君は僕の部屋のゴミ箱に空き缶をシュートして
背中向けたまま手を振り、自分の部屋に帰って行った。

何で スポンジ? 
結城君のいう事は難しすぎて 時々良く解らない。
結城君の周りは天才揃いだから 
僕みたいなのは却って「変わってる」部類なのかもしれないね。



 *

「『君は関係ないから 誰が聞きに来ても余計な事は言わないでくれ』なんて
  急に言われて 『はい解りました』って答えると思います?」
「まぁ 意地張らずに乗りなさい。
 未成年じゃないんだろ? いいところに連れていってやろうと思ってたんだがね」
車の中の貴一郎氏は微笑みながら僕を見て
片手でグラスを傾け片手で何かを抱くようなしぐさをする。

「どこにも行きたくありません。
 息子さんのお葬式済んで間もないのに よくそんな気になりますね。」

どんな大物だかなんて関係ない。僕はキッとなって相手の顔を見る。
僕の視線をまっすぐ受け止め 貴一郎氏はふふっと笑った。
「では 家まで送ろう。少しだけ話をしたら解放するから」
僕はしぶしぶ その言葉に従った。


「君が家庭教師してくれていた期間、君が貴之から何を聞いたか知らない。
 うちの屋敷に通って どんな印象を持ったかは解らない。
 しかし、家族のことは 本当のところ家族にしか理解できない。
 ねぇ、そういうものじゃないかな?」
貴一郎氏は 運転手の差し出すライターで火をつけ
タバコの煙をゆっくり吐き出した。

「ご心配なく。警察が来ようが、マスコミが来ようが 
 僕は何にも言うつもりはありません。
 貴方や貴方の周りの方々が知っておられる以上に 
 僕が何を知ってるって言うんですか?
 2年前 たった2ヶ月の付き合いだったんですよ」

揺れもなく滑るような車の走り。
付いてくる青白い月を眺めてた。
貴一郎氏は目を閉じたまま表情も変えない。

 ─ 汚い仕事は部下や下請けにだけさせて 表面は人情味あふれる温厚さがウリ。
  途上国の工員と抱き合って見せたりさ、
  パフォーマンスも考え抜く、策略家だな、あれは。

結城君が貴一郎氏を評してそう言ったのを 僕は思い出していた。

「あの日の電話の内容は 秘書の方に話した通りです。
 貴方のお聞ききになりたいのが『言葉』だけだとしたらね」

僕の言いたい事なんて気にも留めないのか わざと外したのか
「綺麗な月だ・・」
貴一郎氏はつぶやいた後、急に身体からこちらに向けて 僕に言った。

「よく連絡をくれたね。君には感謝しているよ。
 大事な会議中だったんだが、秘書の安田にすぐ学校に問い合わさせたよ」
「それで・・どんな様子だったんですか」
「先生に聞いても 貴之の日ごろの様子に変わったところはなかったようだし
 第一 君にかけた電話の内容が あの通りだったとしたら・・・」
「あの通りですが・・?」
「では 心配するには及ばないと 判断してもおかしくはないだろう?」

貴一郎氏は 一語一語かみ締めるように ゆっくりとそう言い
僕の目を見据え、よく響く声で最後に告げた。

「事故だったんだよ。もう忘れなさい」


 *


 ─お父さんに似てきた、と思うんだ。

貴之はその日 電話で僕にそう言った。

 ─経済のニュース、社会の動き ちょっとした身の回りの事件
 何を見ても 何を聞いても 解るんだ。
 お父さんなら こう考え、こんな風に行動する。

 僕はお父さんの決めた通りに間違いなく生きて
 いつかお父さんの望みの通りの者になって
 お父さんの前に立ってみようと思った。

 最近 気がついた。
 僕は お父さんに どこまでも似ている。
 解ろうとして そうなるんじゃないんだ。


 僕は・・お父さんの こども なんだ。




「貴方は聞かないんですね。貴之君が 何故ああ言ったのか、
  その言葉を聞いた僕がどう考えたのか・・」

言葉の奥に隠した貴之の叫び、貴之の想い・・僕は聞き取った気がしてた。
だからこそ、電話を受けた後、慌てて貴之の家に連絡したのだ。

なのにその僅か数時間後、貴之の身体は宙を舞い 貴之はもう何も語らない。
月の清らかな白さに 貴之の寂しげに笑った時の顔がだぶって見えた。

煙の行方を眺めたまま 少しの間貴一郎氏は黙っていた。
静かに車が停まる。僕の家の玄関。

「貴之と仲良くしてくれて有難う。
 就職とかで 何か困ったことがあったら遠慮なく言ってきなさい
 力になるから」

TVや雑誌で観るのと同じ「人格者」の笑顔で 貴一郎氏は僕の手を握った。


 *


車を降りると 身体が熱く頭がくらくらした。
僕はその晩から熱を出し、3日間うなされた。

火照る身体と全身の痛みの中、貴之の夢を見続ける。
夢の中の貴之と僕は 子どもの頃僕の遊び場だった丘で転げまわって遊んでた。

「たかゆきくん あそぼー。たかゆきくん あそぼー・・」

別の夢では 貴之の部屋の窓に向かって 僕は叫び続けていた。
貴之は出てこない。
誰も答えない。
静まり返った屋敷の前で僕はいつまでも声を嗄らして呼び続けた。

そうなんだ。
貴之と過ごした2ヶ月間の記憶。
貴之の部屋の窓から 僕のお気に入りの遊び場だった丘を指し、
季節ごとに変わる草花や 丘に寝転がって見る空の色の話を
貴之は飽きず聞きたがった。
数学の問題を解きながら。英作文を書きながら。


何度目かのぼんやりした夢から覚めた時 
くっきりと浮かび上がった もう一つの記憶。


僕は 跳ね起きる。身体がキシキシ痛かった。

「行かなくっちゃ。まだ 間に合うよね」
僕はベッドのそばで本を読んでいた結城君に言った。
「何に間に合うの?何無茶言ってんの?どこ行くの?」
「貴之の家!」


自転車のスタンドを跳ね上げるのももどかしく
飛び乗ると同時に ペダルを踏む足にめいっぱい力を入れた。
熱を持った頬に風が冷たい。


「おい、ヒロ。ヒロったらどういうつもりだよ。足ふらついてるじゃないか。」
結城君が後ろから自転車で追ってくる。

「貴之は電話を切る前に言ったんだ。『先生、・・・・・』って言ったんだよ」
「え?何て?」

秘書にも貴一郎氏にも言わなかった事が一つあった。
何度も繰り返して考えていたんだ。
どんな意味があったのか。何故そんな事を言ったのか。

「僕の行きたかったところと 僕が絶対行きたくなかったところ
 覚えてる?・・・って言ったんだ」


 *

あの夏、家庭教師の仕事は 短い盆休みがあっただけで毎日続いた。

「お墓参りしたんだ」
盆が過ぎた時、浮かない顔で貴之は僕にそう言った。

「先祖代々の墓って・・ばかでかいの。
 うちのいっこだけ 高いところにどーんってあって
 見下ろしてるの。どこまでも偉そうなんだ。うちの家って。」

「立派なお墓なんだってね。」

 ─ ご先祖様は大切にしないといけませんからね・・
貴一郎氏がその年、先祖代々の墓を広大な敷地に建て直したという話題は
結城君が買ってきた雑誌で読んでいた。

「親戚って言ってやって来る人たちも 年々数が増えるみたい。
 僕みたいな子どもに、お世辞なんて言う事ないのに
 頭ぺこぺこ下げる人もいるんだよ。何か変」

「あんなお墓嫌だなぁ。絶対嫌だ。あそこに入るくらいなら・・」
そういってから 貴之は困ったように僕の顔を、見た。

「死んだほうがマシって言いかけちゃった、変だよねぇ お墓の話なのに」
笑えない僕の顔を 正面から見て 貴之は言い直した。
「死んでも 嫌だ って言った方がいいかなぁ」

聡明そうだけど まだまだ幼さの抜けない貴之の横顔。
うつむいて肩を震わせているのは 本当に笑っていたのだろうか。


 *

自転車を止め チャイムを押す。
玄関に出てきたのは いつものお手伝いさんだった。

「まあ、結城先生、どうぞこちらです」
遅れてきた結城君を見て お手伝いさんはすぐに中に通してくれた。

線香の香り 百合と菊の花の香り。
相変わらず 静まり返った家。
冷たい輝きを放つ、壁、床 手すり。
案内された部屋には 貴之の写真が飾られた大きな祭壇があった。

「こんなことになってしまって・・」
お手伝いさんは 涙声で言い、
賢くて優しい坊ちゃまだった・・と貴之の思い出話を語りだした。

「やっぱりお寂しかったんでしょうねぇ・・」
母親の引きこもる二階の部屋のあたりに首をめぐらすと
「あっ」というように 口を塞ぎ、
「お茶、そうそう、今お茶をお持ちいたしますね・・」
慌てて部屋を後にした。


僕と結城君だけ残された部屋。
遠ざかるお手伝いさんの足音。
ちらちらと揺れる蝋燭。 細く立ち上る線香の煙。
引き伸ばされた貴之の笑顔の写真。

僕は祭壇の前に進み出、白い布に包まれた「貴之」に手を伸ばす。




「ヒロ!何するんだ?」
結城君が止めるのを振り切って 僕は「貴之」を抱いて外に駆け出した。




 *

 ─ 自転車で丘まで全速力。
  坂上るのが また 辛くてね。
  一等早く登りきったヤツが その日のヒーロー。

  登りきって 自転車放りだして 草っ原に倒れこんで
  意味もなく げらげら 笑ったりしてさ。


 ─ そんな時 空はどんな色なの?
  風はどんな感じがした?
  ねぇ、ヒロ先生、それからどんな風に遊んだの?


 ─ 行ってみる?貴之。行ってみる?

 ─ ・・・いいんだ・・僕は まだ 行けない。


 *


丘の上に立ち 白い容器のふたを開け
僕は 小さなかけらになった貴之を解き放つ。





「おい、ヒロ、待てよ、ヒロ!!」
遅れて自転車を押して登ってきた結城君 が僕に叫ぶ。

「そんなことしていいの?これも立派な犯罪になんじゃねぇの?」

「貴之の気持ちを無視し続け、あの墓に押し込めてしまう方が
 よっぽど罪深いでしょ」


 ─ 朝の空や夕焼けの雲、季節の風、揺れる草花
   僕 全部見てみたいな。

   いつか 僕を連れて行ってね。
   僕が自由になった日に。


いつだって連れて行ってやったんだ。
こんなになる前に 連れ出してやれたんだ。
何故と ああすればが良かったのに・・が 僕の中で渦を巻く。


「嫌だって言ったんだよ。あの墓に入るのが。
 死んだって嫌だって・・貴之はそう言ったんだ」



 *


貴之、あそぼ。
貴之 あそぼうよ。

寝転がっても 木に登っても 
泥んこになっても
靴下破けてもいいんだよ。


夕焼けが綺麗だろ?
虫の声が聞こえるよ。
香ってるのは 金木犀。
ほら、魚。川面がきらり光るよ。




細かい白いかけらが 夕日の中できらきら光って落ちていく。
足元がゆらゆらするのは 熱のせいだけじゃない。

「ヒロ、もういいよ、もういいから・・」
結城君が僕の頭を撫ぜ、僕の手から静かに「貴之」を受け取り連れて行く。



「後は あの親父がするべきだ」
結城君の背中が つぶやいた。




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