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Last update 2008年03月15日

不可能  著者:ブラックジョーカー



例えばそこは、何の特徴もない街中。
アパートの換気口から焼けたさんまの匂いがし、薬局の前には少し色褪せたキャンペーン人形が佇む。
例えばそこは、薄汚い工業地帯。
煙突からは黒い煙が昇る。
辺りには腐卵臭が漂い、黒く汚れた川からも同じような匂いがする。
そんな目に止めないような光景――。
変わる物は変わって行き、失われる物は失っていく。

結局僕等は上手く行かなかった。
あの事によって変わってしまった僕を彼女は受け入れてくれなかった。
ある意味では本当に僕を愛していたのかもしれない。
見た目も声も地位も変わらず帰った来た。
前と変わらない車に乗り、変わらない会社に通い、変わらないアパートに住んだ。
外に出ない細かい変化も彼女には悟られてしまった。

そして僕は一人で海に居る。
都市から10キロと離れていないにも関わらず水は限りなく純粋に近い色をし、晴れているのも助けて海底まで光は通る。
近年急激に行われた地球清浄化運動によって透き通る海は僕を暖かく包み込んでくれる。
深く潜り目を閉じて息が苦しくなるまで海の音を聞き、苦しくなったら海面まで上がり息をする。
そんな事を繰り返す遊びにも飽きたので、真面目にダイビングを楽しむ事にする。
目を開けると綺麗な珊瑚礁の中に生命が息づいている。
ヤドカリはイソギンチャクを背負ってせっせと歩いている。
カニは僕に反応して素早く穴に入ってしまった。
ハリセンボンは膨れて見せる。
イカは優雅に泳ぎ、クラゲは時間を忘れたようにゆっくりと漂う。
小さな魚が大きな群れをなして泳ぎ、すり抜けて行く、まるで僕など居ないかのように。
あまりにも良く出来た幻想的な世界に時を忘れる。

クルーザーを走らせる。
港に着く頃には日は暮れていた。
いつもと同じ風景だけどどこかがおかしい。
違和感を感じながらも街までの道を歩く。
薄暗くなり街灯が道を照らす。
違和感は徐々に恐怖へと形を変えていく。
人がいない。
車も通っていない。
この時間といえどそれはおかしい。
余りにも静か過ぎる。
街までの道を急ぐ。
街の近くまで来ると衝撃的な映像が僕を襲った。
何かが燃えている。
バスのようだ。
コンクリートの壁に真正面に衝突したようだけど、跡形も無い。
この分だと消火活動もされないまま長時間放置されたのだと思う。
恐る恐る近づいてみる。
人は居ないようだっので、何が何だかか分からないまま通り過ぎる。
街に入ってみても同じような光景が続いている。
長い間炎に包まれた町を探索した。
人は誰も居ない。
ひたすら歩き続ける。
1日くらい経っただろうか?
上空から轟音がなったかと思うと上からヘリが降りてきた。

後で分かった事だが、この事件はテロリストの新兵器によるものだった。
生物だけを選択的に分解させる兵器だった。
元々、環境浄化用に開発された技術を流用した物との話だった。
環境保護の為に途上国を切り捨てた悪への報復の為というのが名目だったらしい。
僕達が行った行動が正しいのか今は分からない。
しかし、僕等がああしなければ世界が滅んでいた事は確かだと思う。
こんな事で切り捨てられた彼等は救われるのだろうか?
そんな事より僕にはもっと大切な事がある。
あのテロによって我が国の3分の1の人間が死亡した。
その中に彼女がいたという事だ。
別れてしまっても愛していたのかもしれない。
もう、あの声を聞く事も、肌が触れ合う事も無い。
どんな思いで祈っても返ってはこない。
僕の中には知らぬ間に憎しみがこみ上げていた。
彼女の意思や行動に一切関係なしに一生は奪われてしまった。
誰のせいでもあり、誰のせいでもない時。
そんな時はどうすれば良いのだろうか?
ただ単純にそうである事により、そうであるが為に振り回されてしまう。
そういう事なのかもしれない。

あれから何年経っただろうか?
波の音がする。
僕等がどんな事をしようが、どんな思い出聞いていようが鳴り止んでくれない。
どんなに大きな影響を及ぼそうとも、ただそこにありそうあり続けるに過ぎない。
嗚呼、この音はなんて耳障りなんだろう――。




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