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Last update 2008年03月15日

似た者同士の恋愛譚 3  著者:知



 久しぶりに会った瞬間、叱責の幻聴が聞こえてきた気がして、私はどう話しかけようかと少しためらってしまった。

「思ってた以上に重症みたいね」
 そんな私を見て私の唯一無二の親友である澪はそう呆れたように言った。
「……そう?」
「重症だって自覚はあるでしょ?」
「それはそうだけど……」
 あの時よりはましだと思う。
「あの時よりはましだなんて思ってないでしょうね?」
 そう思っているのが顔に出ていたのだろうか澪は私にそう釘を刺した。
 澪の真っ直ぐな瞳に思わず目線をそらしてしまう。
「やっぱり……あのねぇ……」
 それで図星だというのがわかったのだろう、澪は呆れたようにため息を吐き何か言おうとした瞬間に口を閉ざした。
 その後の言葉を言うべきかどうか悩んでいるようだ。
「……澪……」
「わかっているのなら何も言わないよ」
 そんな事を言うために会う約束をしたわけじゃないしねとおどけた感じで澪は言った。
 今日は澪が用事で私の大学の近くに来るとのことなので久しぶりに二人で飲む約束をしていた。
 私と澪は大学で別々になったんだけど偶然ネット上で再会してそれからネット上で色々やりとりしている。
 3年以上会っていないのに何も違和感がないのはそのためだろうか。

 これ以上、立ち話をするのも何なので店に移動することにした。
 行くのは私の行きつけの店。
 料理もお酒も美味しいんだよね……少し値段が高いけど……



「「乾杯~」」

 初めの酒の肴になった話は予想通りネットの事だった。
 澪の用事というのがオフ会に参加するためだからそうなることは仕方がないことだろう。

「澪は『箱舟』さんと『Wisdom』さんにも会ったことがあるんだよね?」
「『Wisdomさん』に会ったのは最近だけどね」
『箱舟』と『Wisdom』というのは私と澪の共通のネット友達。
『箱舟』さんのサイトがきっかけで澪とネットで再会したんだよね。
『Wisdom』さんは『箱舟』さんの彼女さん。

 ……それ以上の詳しいことは省略ということで……

 お酒が進むにつれ話題は変わっていった。
 大学生活の話、就活の話……などなど。
 でも、目下私の悩みの事については一回も話題に出ることはなかったように記憶している。
 その記憶にあまり自信がないけど。
 実を言うと普段よりもハイペースで飲んだからだろうか、私の記憶が途中からぷっつりとなくなっていたのだ。
 どうやって家に帰りついたのかも覚えていなかった。



「さて……どうしよう……」
 私は酔いつぶれて爆睡している親友――結衣を見てそうため息混じりに呟いた。
 もうそろそろ閉店時間だ。このまま放っておくわけにはいかないが私は結衣の下宿先を知らない。
 住所は知っているけど、住所だけではどうしようもない。

 結衣は一度寝ると朝まで起きないんだよなぁ……

「……無駄だと思うけど……」

 結衣の体をゆすって起こしてみることにした。

「ほら、起きなさい。そろそろ閉店時間だから……」
「……閉店時間?」

 結衣は私が閉店時間という言葉を言うと起きた。

「嘘!?」

 思わずそう口に出してしまう。

「……閉店時間……家に……帰る……」

 そう呟くとちゃんとコートを着てバッグを持って立ち上がり

「す~み~ま~せ~~~~ん~~~~~」

 どことなく間延びした調子で店の人を呼び会計をしている。
 大丈夫なのだろうか。
 店を出てから「大丈夫?」と聞いても「大丈夫、大丈夫」としか返ってこない。
 家にちゃんと帰りつくのか心配になって結衣が家に入るまでちゃんと見守ることにした。

「私の~家は~ここ~だか~ら~~~~」

 あるマンションの前に着くと結衣はそう言った。
 マンションの名前を確認するとちゃんと合っている。

「じゃあ~ま~た~ね~~~」

 そう言うと私の返事を待つことなくビルの中に入っていった。
 心配なので結衣の後を付いていき部屋に入るまで見守り、無事、部屋に入ったことを確認してからマンションを出た。



「……さて、タクシーを探さないと……」

 ホテルまで歩いていける距離ではないが電車はもう動いていないからタクシーでホテルまで行かなきゃならない。
 結衣の家が駅の近くだったのが幸いしてタクシーはすぐに見つかった。
 ホテルに着き部屋に入るとほっと一息つく。

「……思っていた以上にあの時のことをまだ引きずっているみたいね」
 もう何年前のことだろうか。
 私と結衣が中学2年の時だったから……9年ぐらいになるのか……
 もう、あの時から10年になろとするのにまだ結衣は引きずっている。
 そして愚直なまでに、失われた時への哀惜を叫び続けている。

『空白の時代』

 後に結衣は自分の中学時代をそう語っている。
 結衣は中学時代のことをあまり覚えていない。いや、全くと言ってもいいかもしれない。
 友達、担任の先生の顔や名前など中学時代のことは結衣の記憶から完全に抜けているのだ。
 アルバムなどで確認することもできるけどそれは結衣にとって単に情報にしか過ぎない。
 情報にしか過ぎないものを見ても何の感慨もわいてこない。
 結衣はそのことをとても悔やんでいるのだ。

「さて……と……」

 これ以上考えていても仕方がないのでそう声を発し思考を切り替える。
 明日はここに来た用事――オフ会の日。
 このオフ会には目下、結衣の一番の悩みの原因である『彼』も参加する。
 結衣の言う『彼』が私のネット友達だと気が付いたのは最近だった。
 気が付いた数日後にオフ会の連絡が入り『彼』も参加すると聞き、私も参加することにした。
 結衣が「正反対だけど、私に似ている」と言った『彼』
 ネット上ではそうは感じなかったけど、実際に会ってみたら結衣がそう言った理由がわかるかもしれない。
 そう考えるとすぐに私は参加すると返事していた。
 何で『彼』に会おうと思ったのかは自分でもわからない。
 明日『彼』に会えばそれもわかるかもしれないと思いながら私は眠りについた。



 時間の10分前に到着すると二人の男性がもう来ていた。
 二人とも初対面なのだが、その一人が『彼』だということは一目見てわかった。
 結衣が正反対だけど似ていると言った理由が『彼』一目見ただけで納得できた。
 光と影のように正反対だけど似ている、いや、正反対だから似ていると言うべきかもしれない。

 結衣を光とするなら『彼』はまさに影だった。




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