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Last update 2008年03月15日

Birthday Songは ラップとロック  著者:なずな



 ─おそらく あの頃のあたしだって、
その煙を吸ったら死ぬって、本気で思っていた
 ・・わけではなかった・・と思うんだ。

 ☆

木造の古いアパート。
廊下側にある小窓の隙間から、塔子は家の中を覗き込んでいた。
どのくらい長くそこにいたのだろう。だんだん頭がくらくらして 目の前がちかちかしてきた。
立っていられない。気分が悪くなって しゃがみこむ。
とんでもないヤツだ。家をタバコの煙だらけにしているその男、絶対にロクなもんじゃない。
このまま 死ぬのは遠慮させてくれ・・・・
新鮮な空気を求めて 塔子は口を押さえ、屈んだまま ずりずり、アパートの階段に向かった。

「何 やってんねん、学級委員」
いきなり 後ろから、聞き覚えのある関西弁。
人が生死の境でもがいているというのに 恐ろしくのんきな声。
すー、はー、すー、はー、すー・・・・
階段から上半身乗り出して 体中の空気を入れ替える。
深呼吸、シンコキュウ。
後ろで声の主、転校生の柳原健太が、腕組みして塔子を見ていた。
変な生き物でも観察するみたいな顔をして。


「だって うちのお母さん 死ぬって言ってたもん。子どもはタバコの煙吸っちゃいけないって。
 タバコ吸う人のそばにも絶対行くなって・・」
息ができるようになって 階段に座り直し、やっと話し出す。
「あほか、これっくらいの煙で死ぬわけあれへん。子どもだと思って 嘘、教えたらあかんなぁ」
胸がどきりとした。ある言葉にひどく動揺していた。
動揺をごまかすため、わざと健太に向かって 塔子は、げほげほ咳き込んだ。
「お前って母ちゃんの言うことなら何でも信じるワケ?
だいたい無理して息止め続けて、苦しくない訳ないやろ?」
肩に手をかけられ 顔を覗き込まれた。いつもふわふわ笑ってるような 能天気な顔。
こんなアップで男子を見ることなんか皆無。 塔子は酷くあせる。
「こ、これっくらいぃぃ?こ・こ・こんな部屋中 煙だらけの家、みっ、見たことないよ。
不健康だし不潔だし・・・・・っていうか あんた、いつからあたしを見てたの?」


「こっちこそ、聞きたいんやけど・・・」
健太はランドセルからぶら下がった家の鍵を片手で弄びながら 塔子の顔をじっと見た。
片方だけ肩にかけた、身体の大きさには もう不似合いな、ランドセル。
手にはスーパーのビニール袋。カップラーメンが数個、透けて見えている。
「何よ」
「お前・・・オレん家に何の用?」

玄関ドアに手をかけ、鍵が掛かってないことを確かめると
「何や オッサン起きとんのか?」
健太は 中を覗き込んで その家の人に声をかけた。
頭が混乱しまくって、どうしたらいいか解らなくなっていた。
こういう時は、逃げろ!・・・塔子はいつも こうやって何とかやってきた。


街中で見つけて後をつけた・・母の「新しいコイビト」。
 ─あの男、転校生の健太の家の人だった。えっと、自己紹介の時へらっとして言たっけ、アイツ。

「大阪で一緒に暮らしてる母親が、海外に長期出張なので、
 久しぶりに『元、父親』の世話になってやることにしました」
好奇心に満ちた視線を一身に集めながら、柳原健太は顔を上げてツーステップで通路を歩いた後
先生の指示に従って塔子の隣の席にストンと座ると、やや大きめの声でこう言って、ニッと笑った。
「キャリアウーマンの母親、作家志望の定職なしの父親、いかにも破綻しそうな取り合わせやろ?」

 ☆

猛ダッシュで息が切れた。塔子は河原の草むらにしゃがみこむ。 
空 青い。 眩しくて 目をつぶる。ばたりと草の上に身体を倒してみる。

 ─最悪。
母さんの「コイビト」は平日の昼間、くしゃくしゃ頭でよれよれの短パン姿でゴロゴロしてて
家の中、タバコの煙だらけにしてた。 学校帰りの子どもにカップラーメン買わせてた。
そうじゃない、そうじゃない。
もっともっと最悪なのは、クラスメイトの「元父親」だったって事だ。


「おい」
「ひゃっつ!」
素足に履いた汚いスニーカーが 塔子の頭のそばにある。その上は擦り傷だらけのゴボウ足。
その足が、いきなりとんでもない事を言った。
「肺ガンで 壮絶な死に様だった・・・っていうの、お前の父ちゃん?」
「え・・・?」
塔子は飛び起きて 髪の毛を撫で付けた。服についた草をパパンっと払う。

「今 お前の後追っかけながら思ってたんや・・・。
お前の母ちゃんの大げさなタバコ嫌いって そのせいかなぁ・・って」
意味が分からない・・頭を一生懸命整理する。
「そうか・・あのオッサンが熱あげとる服屋の店員・・って お前の母ちゃんだったんやな」
お願いだから、ひとりで勝手に、納得しないで欲しい・・。
「着もしない服ばっかり買うてくるから、おかしいと思って問い詰めて聞いた。
 あまりに凄い身の上話やし、こんな話マジ あれへんって オレ、思いっきり笑ったんや。
  ・・・・あれって、お前の母ちゃんと父ちゃんの話やったんか」

何だか嫌な予感がした。身体がかぁっと熱くなる。
「親父がな、涙流してオレに話すんや。こんな身の上の女性と出会ってしまった。
俺にできることは何もないんだろうか・・・・」
父親の口真似か、健太はもそもそした口調でそう言って、頭をくしゅくしゅ掻き回した。
「ど・・ど・・・どんな・・どんな・・みっ・・身の上っ?」
「家柄の違いを理由に猛反対する親を押し切って 大恋愛の末の結婚。毎年誕生日にはバラの花束。
 それも何十年先までの予約がしてあって、闘病の末、死に別れた今も、花屋から届く。
 花束には、『君の幸せだけを願っている』のメッセージつき・・・」
ああ・・・脱力・・・塔子は目の前が 真っ暗になった。

「ともかく・・」
何を言い出すんだ?・・ 少し身構える。
「ともかく・・・ ごめん」健太は ぺこり 頭を下げた。
健太の頭のてっぺんのよく日に焼けたつむじを、塔子は複雑な思いで眺めていた。

 ☆

「繊細なの。感受性の強い人。さすが作家のたまごって感じ」
塔子の母「加恵さん」は恋する少女のような目をして言う。
加恵さんは、気さくで人当たりがいいし、同学年の子のお母さんよりずっと若い。
美人だって言ってくれる人もいる。
ずっと紳士服専門店で仕事をしながら 塔子を一人で育てた人だ。

「別れた奥さんとの間に息子がいて、当分一緒に住むことになったって言ってたわね、そういえば」
台所の換気扇を回しながら 加恵さんはタバコを吸っている。
「同じクラスなの?その子 かっこいい?」
白い煙が銀色のレンジフードの中に、ゆらゆら吸い込まれていく様子を 塔子はずっと眺めていた。
じわじわ怒りがこみ上げてくる。気にすべきは そんなことじゃ ないだろ?
─肺がんで死んだなんて、よく言うよ。バラの花束って何だよ・・・。初耳だよ。
恥ずかしいよ。すぐバレちゃうよ。いつもバレて馬鹿にされて 笑われてたんだよ。
知らないのは母さんだけなんだから。
あそこまでいくと病気だね・・、前のコイビトはあたしに言ったんだよ
「もう つけ回す必要ないからね。さよなら、お嬢ちゃん」

違う、違う、今度はそれだけじゃないんだ。今までの人たちとは違うんだ。
言いたい事はたくさんあった。聞きたいこともたくさんあった。
でも加恵さんの笑顔が壊れてしまいそうで、今の自分の穏かな日々が消えてしまいそうで
塔子はいつも何も知らない振りをしていた。


会ったことも無い父親に対して、塔子は自分でも不思議な程、何の感情もなかった。

無責任でいい加減な男だったよって 亡くなった祖母はいつも けなした。
そんなの 塔子にしてみたら ちっとも聞きたい話じゃない。
だから加恵さんが空想で、王子様と大恋愛しても、悲劇のヒロインになってても、
そんな話を新しいコイビトができる度にぺらぺら喋っても、何人あきれて離れて行っても、
 ─ あたしには全然関係ない・・・塔子はそう 思おうとしていた。
 ─どうでもいいんだ。他の誰も迷惑しなきゃ。こんなことで警察はやって来ない。
そんな風に「学習」してきたんだ、この母親との暮らしから
 ・・塔子はずっと、割り切ろうと思っていた。
けれど、今度はちょっと 違う。

 ─だから・・・ごめん お前の母ちゃんのこと笑ったりして。 ごめん、疑って。
赤い顔して健太はあたしに言ったんだ。
泣き出しそうな顔をして、あたしに頭を下げたんだ・・。

 ☆

「あのオッサンな、いつも簡単に他人に騙されて、金も無いのに借金の肩代わりしたり、
 わけ解んない物買わされたり・・・あ、お前の母ちゃんの店の服のことと、違うから・・・
 そんなんやから・・・・オフクロに早々に愛想つかされてん。‘ほな さようなら’ってな」
「あきれたオッサンやで。いっつも 騙されんの。単純で 大事なときに想像力に欠けるねん。
 あんなんじゃ、作家になんかぜーったいに、絶対に なられへんな」

塔子の休み時間の密かな楽しみ、音楽室のピアノを弾いてる時も 健太はふらふらやって来た。
作曲家の肖像に落書きしながら鼻歌歌ってたかと思うと、いきなり父親のことを話し出す。

「ほんと言うと、あのオッサンのこと、オレ ほとんど知らないんや。
 物心ついた頃には もう別れててん、うちの両親。今のはオフクロの受け売り」
いつも通りの淡々とした口調でそう言った後、健太はぺろりと舌を出して照れくさそうに笑った。
お父さんのこと、好きなんだな・・健太はひとつも褒めないけど、何となく塔子には伝わった。
弾いてるのを邪魔されるの、迷惑だったはずなのに、音楽室に健太の気配がないと物足りない・・
そんな自分に 塔子はちょっと戸惑う。


 ☆

「昔、昔・・・加恵ちゃんって女の子がいました・・」
小さい頃、眠る前にいつも加恵さんが話したのは 加恵さんや塔子が主人公の夢物語。
仕事で疲れて帰ってきてもちゃんと食事を作って、一緒に食べて、一緒にお風呂に入った。
加恵さんは塔子の横に枕を並べて、眠りにつくまで色んな空想の話をしてくれた。
加恵さんの話は面白くて話し方もとても上手で、小さい塔子は眠いのに眠りたくなくていつも困った。
ふわふわきらきらした 幸せな色のついた思い出。眠る前の夢の国。
一人ベッドで眠るようになってからも 思い出すのは そんな時間の楽しかったこと。

どうしたって そんな母さんを嫌いにはなれない・・・
お皿を片付けたり、アイロンをかけたりしている加恵さんの気配に耳を澄ませながら、
塔子は布団を被って目をぎゅっと閉じた。


 ☆

 ─もうすぐ 母さん、誕生日なんだよなぁ・・。
学校帰り 回り道して商店街へ行き、塔子はバラの値段を確かめた。
さびしい貯金箱の中身、目に浮かべる。バラの花束なんて無理、無理。

「今年は、うちのオッサンにも何かプレゼントさせよか?」
飛び上がった。振り返ると真後ろに健太がいた。
逆光で顔が真っ黒だったけど何だか妙に、真面目な顔してるのは解った。

「なな・・何を?何の話?何でアンタがここにいるわけ?
 音楽室の時といい、今度といい・・あんた、ストーカー?」
「オレはここ通学路。お前こそ、寄り道やんか。」
健太は花屋の方に顔を向け、口笛でも吹くみたいに口を尖らせながら、横目で塔子の顔を覗う。
「花かぁ・・何で女の人って花なんか欲しがるんやろ。オレなら食い物の方が絶対いいけどな」
花屋の前に立ってただけなのに、何で解っちゃったんだろう。コイツ妙に勘がいい。

「もうすぐ 母ちゃんの誕生日なんやろ?」
「べ・・別に、そんなの関係ないし・・きっ・・気分転換にちょっと帰り道変えてみただけ」
苦しい言い訳をして塔子はくるり向きを変え、黙って歩き出す。また健太がついてきた。
ついてくんな・・キッとなって振り返ると、健太の肩越し、花屋の店先に塔子の視線が止まる。
品のいい母子が大きなバラの花束買って、にこやかに去っていく。胸がちくりと痛んだ。

「こういう花とかの方がさ、オレはかっこええなぁって思うけどな。強うてたくましくて・・」
健太が ちぎった葉っぱを弄びながら、独り言のようにつぶやいた。
よく見ると、道端には小さな花のついた草が丈を伸ばし、微かな風で揺れていた。
足元に目をやると、アスファルトの隙間からは 雑草が伸びている。
立ち止まって周囲を見渡すと、見慣れた草花が何だか急に感動的に思えて 鼻の奥がツンとした。

ずんずん歩いて、公園に入った。水飲み場で顔を洗う。
情けない顔を健太に見られたくなかった。


「でも・・、お前の母ちゃんは オッサンのプレゼントなんか、受け取らんかもな。」
「え?何で?」顔を拭く手を止めて、健太に思わず聞き返した。
「知らんのか?オッサン、もう振られたんやって」
「え?母さん おじさんのこと、振ったの?」
「うん、理由もはっきり解らんのや言うて・・オッサン、すっかり落ち込んどった」

健太は足元の土をつま先でつついていた。乾いた土は固い音をたて 緩い砂埃が舞った。
「オレはさぁ・・お前の母ちゃんには悪いけど、やっぱりずっと、疑っとった。
 でもな、そんなことよりも、こんなひねた息子がいるせいで 続くもんも続かんかったのかなぁ
  ・・って思ったら オッサンちょっと可哀想でな・・」
「お前の母ちゃんには悪いけど」なんて 子供のくせに気を遣った言い回しがよけいにぐさりと来る。

いつも夢物語の世界が収集つかなくなって 加恵さんの恋は終わる。
加恵さんの解り安すぎる嘘のせいで、どの恋もあっけない程 簡単に幕が降りる。
「また振られちゃった」と加恵さんはいつも笑って言うけれど、
もともと長続きさせる気なんかないんじゃないのかな・・最近 塔子は思うようになった。
これ以上加恵さんが健太のお父さんに、嘘つき続けないのは、せめてもの救いだったけど
 ─母さんがおじさんを「振った」って・・どういうことなんだろう。


健太が神妙な声で言った。思いもつかない事だった。
「なぁ、もしかして・・もしかしてやけど、違ってたらごめんやけど・・
 死んだ父ちゃんの代わりにメッセージまで添えて、毎年バラの花束贈ってるのって、お前?」

さすが作家の息子。素晴らしい話だよ。そんな美談なら その方がずっといい。
ずっといい・・・塔子は思う。


 ☆


「あの人の言うことなんて 全部 うそだから。」

「大富豪の令嬢だったとか 政治家の隠し子だったとか 産みの親は女優の誰だとかさ・・
 実業家のお爺様の話とか ピアニストのおば様の話とか、優しかった「ばあや」の思い出話とかさ
 突っ込まれたらすぐに ぼろぼろになるような そんな嘘、つきまくる人なんだよ」
「へぇぇ・・」健太が目を丸くして絶句する。
「でも・・・・それって、何だか凄いな・・・」
怒るかな・・笑うかな・・塔子の心配をよそに、健太は感心したような言い方をした。

「新しいコイビトができる度に そんなうそ話するんだ。どこでどんなこと言ってるか心配で
 あたし、よく後を付けてこっそり覗きに行ったんだ、あの人のデート現場」
「ほぉぉ・・・お前、その実体は・・探偵だったんや。うっかりしとった、気づかんかった」

ふざけているのか真面目なのか もう一つ解らない関西弁の調子が 警戒心を解くせいか
塔子は初めてそんな話を他人に打ち明けていた。せき止められていたものが 溢れ出す。


「一人娘はピアノが得意だとか しっかり者で学級委員してるとか、あたしの話もあったりして・・」
「お前 学校でピアノ弾いてるやん、結構上手いし・・それに学級委員やし」
「後から慌てて練習始めたんだ。楽譜だってろくすっぽ読めなかったんだもん。
  学級委員だって次の学期、初めて立候補したんだよ」
「それは ご苦労様なこっちゃ・・でも 何で?」
「一つぐらい本当のことにしてやるんだって いつも思ってしまうんだ
 何もかも嘘ばっかりなんて あんまりに空しすぎるじゃん。
 嘘の中しか幸せじゃないなんて なんか悔しいじゃん。」
ばかな理屈だと思った。自分でも変だと思っていた。でも 健太は ばかにしなかった。
少しの間黙って考え、それからホップ、ステップ、ジャンプで先に行って、振り返って塔子に言った。

「そーぉだったら いいのになぁ、そーぉだったら いいのになぁ
 ・・・・・ってヤツなんやろなぁ・・お前の母ちゃんにしたら」
TVの幼児向けの番組で よく流れる歌だった。でも健太の歌、音程がたがたで調子っぱずれ。
「そーだったら、いいのにな、そーだったらいいのにな・・・・・だよ」
噴出しそうになるのを押さえながら 塔子が歌って、訂正した。

「そやから、そーだったら いいのになぁ・・でいいんやろ?」
「ちゃう、ちゃう そーだったら いいのになぁーやで」
「アクセント変な大阪弁 喋んな。あほ」
「えらい すんませんなぁ」
おかしくなって笑いが込み上げる。お腹抱えて、二人、笑った。
笑いながら 空がまぶしくて 塔子の目が霞んだ。ちょっぴり涙が滲んだ。



低いところまで鎖の垂れたブランコに片足を乗せて、塔子は少し揺すってみる。
「・・・・けど・・・・振り回される子どもの方は ほんと、大変だよ。」
「そうやなぁ・・・うちも大概、いい加減な親やからな、ほんまお互い苦労するなぁ。
 うちのオフクロに言わせたら、オヤジがなりたくてなれない‘作家’なんてのも ま、
 嘘つきの親玉みたいなもんらしいし・・」
健太は大口あけて がはがは笑った。

「お前の母ちゃんこそ、作家目指したらいいのにな」



夕暮れ、公園のブランコ、打ち明け話・・っていうのこそ、どっかのドラマみたいだよな・・
塔子が座るのを戸惑っていると、健太は隣のブランコの鎖をぐるぐる捻って、巻き戻らせて遊んだり、
上までよじ登って鉄棒みたいにぶら下がったり、塔子が考えもつかないような、変なことばかりした。
「お前もやってみ、意外とおもろいから。」
促されて、変わった乗り方やこぎ方を 次々編み出して遊んだ。
少し心が軽くなった。 少し心がほくほくした。


「何とか うそ話をほんとにしたろうなんて、お前案外母ちゃん思いやなぁ、ウン、感心、感心」
「そんなんでもないよ。ほとんど意地っていうか あたしにとったら、ささやかな抵抗なんだと思う」
「抵抗か・・でも、母ちゃんのうそ話のおかげでピアノ上手くなって良かったやん。

音楽室で弾いてる時 結構いい感じやで」
ぴろろろろぉん・・健太は空の鍵盤に指を滑らして見せた。

「・・でもって、バラの花束、母ちゃんの誕生日に買ってやろうとか思うんや・・・」
「うん・・そう思ってた。でも・・・・」
花屋の前の道路に立ってた時、道端で揺れてた草の花を思い出していた。
バラの花束なんかより そんな花々を集めてリボンをかけ、プレゼントしたい気がした。
「・・‘あたしの気持ち’だもんね、プレゼントってさ。・・・・だからもう少し考えてみるよ。
 それと、ちゃんと色んなこと、話してみようと思う・・・できたら・・・だけど」
「そっか、それも、いいかもな。
 んじゃ、オレはこっちにいる間、あのオッサンのいいところ探しでもしてみよっかな
 ・・できるもんなら、やけどな」
健太は初めて普通のこぎ方で 大きくブランコを揺らした。塔子も 揺らした。


行ったり来たり・・ブランコは揺れる。
小さい頃、こうしてブランコ漕ぎながら、加恵さんがベンチでタバコ吸うのを塔子は見てた。
「あっちで遊んでおいで。タバコの煙、子どもが吸ったら死んじゃうのよ」
そう言っていつも、加恵さんは纏わりつきたがる塔子を遠ざけた。
独りになった加恵さんがその後、煙と一緒に長い長いため息を吐き出していたのを塔子は知っている。

 ─行ったり、来たり・・行ったり、来たり。
遠ざかる母さん、近づく母さん。遠ざかる母さん。近づく母さん。
こんな風に心は揺れ続け あたしはいつも 母親への思いやりと反抗心の狭間に立っていたんだ。


「そんなに漕ぎすぎたら、お空に飛んでっちゃうよ・・・って母さん、よく言った」

「え~何って?」
揺らすタイミングがずれて、声が聞こえないのか健太が聞き返す。

「そんな日はー 寝る前- あたしがー空に飛んでってー 
      冒険する話― せがんでーしてもらったんだー」
「な・ん・や・って~?」
「いいのぉー。何でもないっ」塔子が大きな声で叫ぶ。


「そぉだったら いいのになぁ~、そぉだったら、いいのになぁ~」
ブランコを大きく大きく揺すって、健太はラップ調にして歌った。
次は 塔子が、ハードロックみたいに首振りながら歌った。


一番星、きらり光った。
 おうちにかえれ、とからすが鳴いた。
「無理したらあかんで」健太がぽそり そう言った。




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