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Last update 2008年03月15日

俺と私とぼく  著者:知



「頭の中が文学してておよそ現実的じゃないから少し待って」
「文学じゃなくファンタジーの間違いじゃない?」
 俺を確認するとすぐに言った言葉に俺がそう返すと「そうだね」というように微苦笑を浮かべながら腕時計を確認した。
「……まだ、時間じゃないよね?」
「時間までは後90分以上あるよ」
 今日は次のゼミでするディベートに向けての話し合いのために集まることになっている。俺と彼女、他2名の計4名が同じグループ。俺と彼女は今日、講義が入っていないけど他の2人が3限に講義が入っているため集まるのは3限の講義が終わってからになっている。
 俺が1限分早く来たのは話し合いのために集めた資料を整理するため。何度か同じメンバーでグループを組んでいるうちに俺が資料を集める役割になっていた。
彼女が早く来ている理由はおそらく……
 ゼミが『知的財産法』のせいか、ゼミのメンバーにはオタクとまではいかなくてもマンガ、アニメ、小説、ゲーム、パソコン、映画等に詳しい人が多い。ご多聞に漏れず俺もその一人。彼女もその一人……と言うには少し毛色が違うか?
「原稿は進んだ?」
「うん、ちゃんと予告通りにアップできそうだよ」
 そう、彼女は所謂ネット物書きなのだ。


 彼女がネット物書きだということを知っているのはゼミの中では俺だけだ。俺も最近知った……正確には彼女から教えてもらったのだが。
 彼女のサイトの常連だったので知ったときは本当にびっくりした。全く気が付かなかったし。彼女の方は気が付いていたみたいで「他の人には教えないように」と念を押してから教えてくれた。
 俺に教えてくれた理由を尋ねると「不公平だと思うから」という返事が返ってきた。
 俺もブログで日記(みたいな物)を書いている。彼女のサイトの掲示板に書き込むときにそのブログのアドレスを書いているのでそこから飛んで時々俺のブログを見ているそうだ。だから不公平だと考えたのだろうか。そうだとしたら彼女らしい考えだと思う。


「何、ぼーとしてるの?」
 パソコンを終了させ、席を立った彼女が俺が考え事をしている間に戻ってきていたようだ。彼女の手には缶コーヒーが1つ。
「……それ、何本目?」
「……缶コーヒーは3本目……かな」
 相変わらずのヘビードリンカーのようだ。缶コーヒーはという前置きが付いているのが凄い。
「だって、ぼくはカフェイン依存症なんだから仕方がないよ」
 知らないうちにじと目で彼女を見ていたのだろう、そう抗議してきた。(そもそも抗議になっていない気がするがそれは置いておく)
「……ぼく、になってるぞ」
 彼女の抗議を気にもせず突っ込みを入れる。
「あっ……う~ん、どうしてもネットの私を知っている人と話す時は昔の癖が出てしまうなぁ」


 彼女が俺のよく行っているサイトの管理人だと気が付かなかったのには理由がある。それは別人としか思えない程に印象が変わるからだ。
 ゼミでの……リアル世界での彼女は理路整然としている印象が強い。そして凄くシビア、下手をすると冷たいという印象を与えてしまう程に。彼女に凹まされたゼミ生は多い。しかし、彼女の書く話は……どう言えばいいのか難しいけど、簡単に言えばすごくファンタジーしている話なのだ。そして俺には考え付かないような世界観を生み出していて、読み終わったあと凄く温かい気持ちになる、そんな話なのだ。おそらく、他のゼミ生に彼女が書いた話を見せても、それを彼女が書いた作品だと信じられないだろう。
 前にそのような事を彼女に言ったことがある。すると
「どっちも私なんだけどね。中学生のときにあることがあって変わらなきゃいけないと思って変わろうとしているうちに何時の間にか……悪く言えば冷たい人になってたかな。このままじゃ駄目だと思って『ぼく』を取り戻そうとして、今に至るという感じかな」
 そう真剣に、そして最後は少しおどけた感じで返してきた。


「そう言えば、何時から小説を書き始めたんだ?」
「いきなりだね」
 俺の何の脈絡もなく出た言葉にどことなく呆れたような声でそう返してきた。
「前から気になってたんだけどな。確か、一度書くのを止めて、又再開したというのはサイトで見た覚えがあるけど」
「小学校中学年ぐらいからかな。そして一度書くのを止めたのが中学生のとき」
 一度書くのを止めたのが中学生のとき……ということは……
「うん、そういうこと。小説を書くというのは『ぼく』を象徴するような行為だったから」
 だから今でも小説を書いた後すぐは『ぼく』って言ってしまうんだよねと苦笑いを浮かべる彼女に俺は何も言うことはできなかった。


「……うん、そうだね……ここまで話したのなら……もう、いいかな?」
 何を言えばいいかと悩んでいる俺に対し、彼女は暫く何か考えているという仕草をしてからそう言った。
「何が?」
「前に私に聞いたでしょ?」
「えっ?それって……」
 一度何気なく彼女に聞いたこと。そのときの色々な感情が混ぜ合わされたような彼女の顔は今でもよく覚えている。
「うん、たぶん、その事を誰かに話さなきゃこれ以上、前に進めない気がするから」
 戸惑う俺に対し、迷惑だと思うけどその事を聞いてしまった自分を悔やんでねと、少しおどけた感じでそう言った。
 人と人のめぐり合わせは合縁奇縁。彼女にとって俺と知り合った事の意味はそれにあるのかもしれない。ならば、それを受け入れないことに意義はない。
 わかったというように首を縦に振るとうつむき軽く「ごめんね」と小さな声で呟き、顔を上げたときには瞳に強い意志をこめて、宣言した。
「今日は時間がないから次に話すね。何故、ぼくが、再び書きはじめたのかを」




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