Mystery Circle 作品置き場

松永 夏馬

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nightstalker

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Last update 2008年03月15日

XXX  著者:松永夏馬



 にわかに自信がぐらつき、なぜか罪悪感を覚えた。

「ちょっと、待て」
 唐瀬宮広は黒尽くめの暴漢を床に押さえつけながら、なんとも言えない嫌な感覚を味わっていた。政治家の汚職をスッパ抜いた唐瀬を、暗殺者が狙っていると噂されて3日。あのライオンのような獰猛な顔をした嘘つき男が、地下を牛耳る内藤一家と繋がっているというのは本当だったようだ。事務所兼住居の古ビル、侵入者には物足りないセキュリティだろう。
 しかしながらも唐瀬もそんじょそこらの調査員とは違う。
 この街の日の当たらない地下も裏もそれなりに理解している男だった。

「コイツぁまいった、殴れねぇ」
 噂で聞いた暗殺者、右腕を極められ床に這いつくばるその姿をあらためて確認した唐瀬は、いくらか上機嫌で肩をすくめた。
「夜這いすんのは大歓迎」
 そしてあっさりと腕を解き、おどけた口調で続ける。

「もうちょっとムードってヤツを考えてくれると助かる」

 慌てて暗殺者が半身を起こす。そしてレザージャケットの内側に手をやりギクリと体を止めた。勝気な少しつりあがった目を開いた視線の先、見覚えのある小型のリボルバーを構える唐瀬がいる。
「こういうオモチャを女に突きつけるのは趣味じゃない」
「いつのまに……」
 顎で促され、暗殺者はゆっくりと立ち上がると両手を上げた。体のラインにぴったりとフィットしたライダスーツ。皮のジャケットを羽織り、足元はブーツ。乱れた帽子を右手で外すと長く美しい黒髪が波打った。

「こいつぁ……」
 唐瀬が口笛を鳴らす。
 くっきりとした目鼻立ち、悔しそうに噛んだ唇とそれでも強さを失わない瞳。ほとんど化粧をしていないと思われるがそれでも、それだけに美しさが映える。
「オモチャは返してやるよ」
 そう言いながら唐瀬は銃身とグリップを軽くつまんで捻った。一瞬にして解体され床に散らばる拳銃を見て、再び驚いた暗殺者の目。
「オレってけっこう手先が器用なんでね」
 ニィ、と笑みを浮かべたその時、暗殺者が唐瀬目掛けて殴りかかった。飛び退くようにかわした唐瀬を追い、そのまま反転しつつ回し蹴り。唐瀬はその一撃を鼻先でかわし、左腕でその締まった足首を掴む。流れるような体捌きで相手のバランスを崩すとそのまま倒れるのを抱きとめて腰を抱く。暗殺者の平手打ちを再び左手で掴んで止めると、そのまま顔を近づけた。右手で体を、左手で右手をしっかりと拘束されて暗殺者は再び唇を噛んだ。
 睫毛が触れそうな距離で唐瀬が口元を上げる。
「誰に依頼された?」
 僅かに戸惑いを見せたものの、勝気そうな瞳をそのまま向けて、暗殺者はベェと舌を出した。
「こっちもプロなの。口を割るわけないわ」
「そうか。そりゃ楽しみだ」
 首から背筋をなぞるように指を這わせると、暗殺者は一瞬身震いをする。

 唐背がひらひらと白いものを振った。

「へッ!?」
 暗殺者がそれに気付いた。慌てた顔で唐瀬を突き飛ばし、両手で胸元を抑える。

「な? けっこう器用だろ?」
 にんまりと笑みを浮かべ、唐瀬は両手でそれを広げて見せる。
「白か。けっこう清純派? えーっと……サイズは」
「この変態ッ!」
 真っ赤な顔で暗殺者は床を蹴り、ブーツの踵を唐瀬目掛けて振り降ろす。動転しているのが丸判りの攻撃はなんなく空を蹴り、あっさりとバックを取られてしまう。唐瀬は暗殺者を後から抱きすくめる形で、耳元に口を寄せた。両腕を拘束され、ぴったりとフィットしたライダスーツの胸元が強調される。下着をすり抜かれたおかげで形の良い乳房の先端がくっきりと主張しているのがやけに卑猥だ。

「着たままっつーのもソソルよな。やーらしぃ」
 耳元でクスクスと笑う声も、暗殺者の羞恥心を刺激する。唐瀬の指先がつつ、と乳房のラインをなぞり、密やかな刺激に震える彼女の反応を楽しんでいるのがわかる。
「誰に雇われた?」
 スーツの表面を滑る指先は、首筋へと登る。
「教えな……んッ!?」

 突然唐瀬が暗殺者の言葉を押し留めるかのように唇を押し付けた。

「むッ……」
 むりやりねじ込むように舌を入れ、彼女の舌を歯茎をじっくりと舐る。薄暗い部屋に唾液の絡む音が卑猥に響いた。
「ん……ふッ……」
 右手で彼女の両手を拘束し、左手でライダスーツのジッパを下ろす。体全体で彼女の体を抱く。
「んぁ……はッ……」
 吐息が漏れる。冷たい左手が今までスーツに隠されていた地肌へと触れ、何かを探すかのように蠢く。
「はッ……ぁん」
 一瞬彼女の体が震えた。それと共に彼女の舌が唐瀬を受け入れる。最初はおずおずと、徐々に激しく、啜るような音が勢いを増し、仰け反らせた首が白く踊る。降ろされたジッパから露にされた胸の谷間がほんのりと上気しているのが薄闇でもわかった。
 ようやく口を離した唐瀬はペロリと自分の上唇を舐め、目を細めた。
「……で、誰に雇われた?」
「言えな……ぁ……」
 暗殺者の返事を無視し、唐瀬は耳元に舌を這わせた。ゆっくりと首筋からうなじを丹念に探る。
「……ッ」
 僅かな反応の違いを逃すことはなかった。唐瀬は耳元に軽く息を吹きかけながらくくッと喉を鳴らした。
「なかなか強情だな。さすがプロだ」
 囁くようにそう言うやいなや、首筋に吸い付いた。

「んァ……」
 足から力が抜ける。崩れ落ちそうな暗殺者は唐瀬の腕にしがみつくようにしてそれを堪えた。それでもなお勝気な光を失わない暗殺者と、余裕を湛えた唐瀬の眼が合った。
「さぁ。どうする? このま……」
 ニヤリと笑った唐瀬の口を、今度は暗殺者が塞いだ。あきらかに今までと違う貪るような口付けに、唐瀬は僅かに驚いて身を離した。妖艶な笑みを浮かべた暗殺者は唐瀬の首に手を回し、囁く。
「依頼人を吐くなんてこっちの信用問題になるの」
「だろうな。この世界信用第一だ」
「だから言えない」
「じゃぁ、どうする?」
「そのかわり……」
 暗殺者は唐瀬を見上げ僅かな躊躇いを見せつつ呟いた。
「好きにして」
 互いに思わせぶりな笑みを浮かべた唐瀬は、ふわりと両腕で彼女を抱きしめ、唇が触れそうな距離で見つめた。
「どういう心境の変化だ?」
「貴方のキスが気持ちよかっただけ」
「OK。契約成立だ」
 肩をすくめ、片眉を上げたヤヒロはそのまま唇を吸った。舌を絡め、唾液が混じる。口の中を弄りあう。それと同時に再びライダスーツの奥へと忍び込む冷たい手。まっすぐに胸の頂きへと辿りつく。漏れる吐息を打ち消すように唇が音を立てた。ジャケットが脱げ落ち、ライダスーツも半身を露にしていく。

「どうせ知ってる……くせに。……依頼人なんて」
 顔を離すも止まらない愛撫に暗殺者は悦びの表情を必死に堪えつつそう言った。唐瀬はニヤリと口元を上げる。
「さぁな」
「その割には……あっさりしてる……」
「依頼人の名前よりも君の名前のほうが興味あるね」
「……馬鹿」

 唐瀬は脱がせかけの彼女をひょいと抱き上げると、さっきまで寝ていた仮眠用のソファを、足で蹴り倒してベッドタイプへと変形させた。

「男だからな。あからさまな誘惑には弱いんだろう」




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