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Last update 2007年10月07日

タイトルなし 著者:kazumi


障子を開けて、薄暗い茶室の畳の上に少年は一歩目を踏み出した。

古い畳の感触が足の裏に当ったとたん、その足先から、頭の上に向けてすべるよう
に、茶室のひんやりした空気が肌を抜けていった。と、その瞬間、少年は、硬直し
た。

初夏を思わせる目のくらむような日差しの中をずいぶんと歩いてきた。
こんもりとした雑木林に入ったとき、少年はほっとしていた。
木々の間から落ちてくる日差しは、幾分和らいで、心地いい光となった。
木々を抜ける穏やかな風も、汗ばんだ肌に心地よかった。
奥に行くにつれ、木々は密度が増し、薄暗い様を呈している。
この小さな林は、少年の冒険心をくすぐるのに十分だった。
上を、下をときょろきょろと見回しながら、小道を奥に進んだ。
やがて見えた茶室は、貧にあまんずる侘び茶の精神にあふれた佇まいであったが、少
年の目には、ただの朽ちかけた廃小屋に映った。
人の気配などするはずもないと思いつつも、靴で上がるのをためらったのは、古小屋
ながら、この茶室の持った気迫が、少年に敬意の感受をもたらしたのだろうか。
靴をそろえて脱ぎ、そっと、一歩、茶室に入ってみたのだ。
だが、その一歩で、この茶室の空気が、あまりに背中10センチ外の空気と異なって
いることに、体が拒否反応を示したのだ。硬直は続く。
視線だけがぐるぐると、せまい茶室の中を駆け巡っていた。
薄暗い、胞子めいた匂いのあるこの部屋に、
人の気配のないこの部屋に、何かを感じ取ろうとする本能が動いた。
「まずっ;これってもしかすると、陰陽師の世界?;」
「いや、まずくない?・・・や、まずいっしょ、おれ、ひとりじゃん;」
相変わらず動かない体とはうらはらに、緊張感のない自己会話が頭をめぐる。
「あれだろ、やっぱ、そのうち後ろにさ、見たなぁ、とか、かかったな、とかさ、お
決まりのグロがでてくるわけよ、やばいよ、おれ、数珠とか持ってないし;てか、呪
文とか知らないし、てか、まじ動かないし。なんなんだって、これ;」
「やっぱ、あれよ、こういうときって、きっとさ、間一髪でさ、あれよ、出てくるわ
け。正義の味方。絶対そう、決まってるって、あ、でも、本気でやばくなんなきゃこ
ないわけだよ、んじゃ、この状況じゃダメじゃん;」
「んじゃさ、んじゃさ、あれよ、おれがさ、なればいいわけじゃん、そういや、こん
なシチュエーションから、たいてい第一話が始まってさ、ふつーの少年がさ、世界の
平和とか?担うはめに陥るわけで。」
「もしかして、おれって選ばれた?こんなとこ、来ちゃったのもそれ?え?」

状況と思考の緊迫感が著しく隔たっていく。

彼の中に広がる妄想の先は、恐怖より、自身が主人公のストーリーに対する快感だっ
た。
どんな主人公かって?陰陽師でも魔法使いでも、エクソシストでもない。
彼が選ぶなら、

なんと言っても、変身ヒーローだ。






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