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Last update 2008年03月16日

トミさんと私。。  著者:rudo



「どうして本当のことを言っているときに限ってみんな信じないのかしら」
「あんまりありえないことを言うからじゃねえか?」
「だって、どこかの駅に爆弾をしかけた とか今日の何時に大地震が来るとか言ってる訳じゃないのよ」
「そりゃぁ そっちのほうがありえんじゃねえの? 今の世の中な」

 答えてくれるのはトミさん。

「そろそろ飯の調達に行ってくるかな」
 トミさんはそう言って紙袋をいくつか持って立ち上がった。
「私、まってようかな・・・・・・」
「好きにするさ」 
 トミさんは振り向きもせずに公園を出て行った。

 ここは高速道路の下に申し訳程度に作られた公園。 滑り台が一つと誰も入りそうもないトイレと水のみ場。 ペンキのはげたベンチがひとつ。
 そこの橋桁によりかかるように建てたダンボールハウスにトミさんは住んでいる。

 ちょうど駅と私の住むアパートの中間にあって、会社帰りに雨の中滑って転んだ私にビニールの傘とタオルを貸してくれた。
 親切にしてもらって悪いけれど相手は浮浪者だ。 かかわりたくなかった。
 だからビニールの傘とタオルは捨ててしまおうと思っていた。
 次に雨の降るまでは・・・・・。

 その日は朝から雨で、夜の7時ころ駅に着いたとき、トミさんを見た。
 トミさんはずぶ濡れのまま紙袋を持って歩いていた。

「1本しか持っていない傘を貸してくれたのか・・・・・・」

 私は急いで家に帰り、借りた傘とタオル、思いついてコンビニで缶ビールを買ってダンボールハウスを訪ねたのだった。
 トミさんは別に驚くでもなく 「ああ」 と言って傘を受け取り、ハウスの中にタオルを敷き缶ビールを一つとって突き出した。 飲んでいけということらしい。

 私はなぜかごく自然に缶を受けとりハウスに入って一緒にビールを飲んだ。
 ハウスの中は思ったより広く、臭くなかった。

 それからはときどき帰り道にトミさんを訪ねるようになった。
 たいていは私が一方的にしゃべっていた。 会社の愚痴とか彼との事とか。
 トミさんの答えは単純明快でなんだかとても心地よかった。
 でも絶対ハウスの中だった。誰かに見られたら恥ずかしい・・・・・・。
 トミさんには悪いけどホームレスと知り合いだと思われるのはいやだった。

 カサカサと音がしてトミさんが戻ってきた。
 紙袋から今日の戦利品を取り出す。
 期限の切れたコンビニのお弁当3個、和菓子のパック1個、今日の朝刊と週刊誌が3冊。 チョコビーの食べかけが1箱。
 「その菓子な、大丈夫だぞ。 今そこのベンチでな、ガキが開けてたんだけどな俺帰ってくんの見えたら母ちゃんがあわてて手ひっぱってちゃったんだ。 そのガキ、菓子落っことしても拾う間もねぇのな」

「トミさんは何もしないのにね」
「・・・・・・弁当・・・・・・食ってくか?」 トミさんが遠慮がちに聞く。
 トミさんから食べ物をすすめられたのは初めてだ。
 私が言われても困るだろうと気を使っていたのかもしれない。
 確かに、あまり気は進まないけど・・・・・・でも・・・・・・。
 ちょっと迷って 「うん もらおうかな」 と答えた。
 トミさんは自分で誘ったくせにひどく驚いて、それでも嬉しそうにお弁当を一つ差し出した。
 なるべく新しい方をと思ってくれたんだろう。
 賞味期限の何時かまで読み上げてくれた。
「期限切れ、いまさっきなのにもうゴミなんだね」
「うるさくてな。 オレみたいのが居るから、前は店の裏に出てたけど今は出さねのな」
「じゃあ、これどうしたの?」
「店員と顔なじみなんだ。 でもそいつが辞めたらもうこんなの食えないかもな」

「トミさん、どうしてこんな地味なところに住む事にしたの?」
「前は大きな駅の地下道に居たこともあるけどな、誰が先に住んでただのこの店はオレの縄張りだだのめんどくさくてな。 一人のほうが楽だもんな」

 しばらく二人ともだまってお弁当を食べた。
 のどが渇いて 「お茶でも買ってこようか」 というとトミさんが後ろのダンボールから缶ビールを取り出した。
 受け取ると冷たい。
「おめさんが持ってきたビールの残りだから大丈夫だよ」
「冷蔵庫なんてあったっけ?」
 トミさんは缶を出した箱をみせてくれた。
 中にはもうひとつ発泡スチロールの箱が入っていてそこには氷がいっぱい詰まっていた。
「スーパーに行くとな。 氷おいてあんのな。 ご自由にどうぞってな」
「あー冷凍食品とか用のね」
「毎日もらいに行くんだ。 ちょっと嫌な顔されっけどな。 混んでる時間に行けば目だたねんだ」
 いろいろ工夫してそれなりに快適に暮らしているんだなぁ・・・・・・。
 そんな事を思いながらチョコビーをつまみにビールを飲んでいると外でなにか大きな音がした。 
 なんだろうと顔を見合わせているとサイレンの音も聞こえてきた。 「事故だ」 トミさんがハウスの外に飛び出した。 私もあとにつづく。

 上を通っている高速の先の方、赤色灯で空が赤く染まっている。
「大きな事故かな」
「さあな」
「死んだかな」
「どうだろな」
「人が死ぬのはイヤだね」
「ああ やだな」
 赤色灯の赤ってどうしてこんなに人を不安にさせるんだろう・・・・・・。

「オレ。 ここいなくなっかもしんねーから」
「えっ? どうして? どうしたの? 」
「今、決心した。 オレ自首するわ」
 何をいいだしたのかすぐに理解できなかった。
「いつ死ぬかわかんねもんな。 きれいな体で死にてえよな」
 なあに? トミさんは何を言っているんだろう?
「オレ。 人殺しなんだ」

 ヒ・ト・コ・ロ・シ・・・・・・?

 なんだか暗号みたくてうまく頭に入ってこない。
 トミさんは赤く染まった空を見ながら話し出した。

 オレの田舎。 秋田の山奥でな。
 つまんねぇとこさ。 なんにもなくて、冬は寒くてなぁ。
 賭け事にはまって山ほど借金作ったんだ。
 ぜんぜん返せねえのな。 あたりまえだよな。 バクチの借金なんて増える一方だもんな。

 それでも止めらんなくてもうどこも金かしてくんねえし、タバコ屋に忍び込んだんだ。 ばあさんが一人で住んでてな。
 そんなばあさん一人くらい包丁もって脅せばどうでもなると思ったんだ。
 ところが気丈なばあさんでな。 暴れるわ、大声出すわ包丁なんて見てねのな。 いくら田舎で人家が少ないったって気づかれちゃうんじゃないかとオレ焦ってな。
 目茶苦茶に包丁振り回したんだ。
 静かんなったなと思ったら・・・・・・そこら中血だらけだ。
 血の海んなってたな。
 こわくなって逃げて逃げて、ドブネズミみたいに隠れながら逃げてな・・・・・・
 でも、もう疲れたもんなあ。
 しばらく前から考えてたんだけんど、なかなか決心つかねくてな。

「今日は弁当いっしょに食ってくれてありがとうな」
「そ・・・・・・んなこと」 声が震えた。
「うれしかったな。なんかなぁ」

「いつ・・・・・・行くの?」 警察へとは言えなかった。
「そうだな」

「私、明日もくるよ。 いっしょに夕飯食べようよ。 だから私の分もお弁当調達してきといてよ。 ねっ」

「ああ」
「絶対だよ」
「ああ」
「本当だからねっ」
「ああ」

 ・・・・・・。

 翌日 会社帰りにビールを買うのももどかしく大急ぎで公園に向かった。
 ダンボールハウスはただのダンボールになっていた。
 トミさんはもういない。

「今朝、通ったときはまだ居たのに・・・・・・」

 たたまれたダンボールに腰を下ろし缶ビールをあけた。

 夜更けに血の海に立ちすくむトミさんを想像してみる・・・・・・。
 目は血走り、肩で息をし、悪鬼のようになった トミさん。

 トミさんのもうひとつの顔は月影で見るには恐ろしすぎる・・だけど。
 その顔を知ってしまった今も私の脳裏に浮かぶのはいつものトミさんだ。
 哀しげな目をした。 いつものトミさんだ。

 いつかきれいな体になったら そしたら・・・・・・。
 帰ってくればいいなと思う。

 帰ってきてほしいと思う。

 そうして私は飲み終えたビールの缶を、思い切り蹴った。




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