Mystery Circle 作品置き場

なずな

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nightstalker

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Last update 2008年03月16日

It's a Small World  著者:なずな



「あなたは・・・行かなかったの?」

長い長い間、眠っていたような気がする。ほんの一瞬目を閉じただけのような気もする。
ずっと握ってくれていただろう少し骨ばった大きな温かい手に、問う。
身体の遠いところ、フィルターを通したような 鈍い痛み。 
ぼんやりした意識。
薬品の匂い。ほの明るい周囲。カタカタと音がするのはストレッチャー?
目が開けられない。開けたいのに瞼に力が入らない。
相手の顔を確認することも出来なかった。

「大丈夫。お母さんも無事だよ。心配しないでゆっくりお休み、ユウリ」


 * 私

どぉんと、突き上げるような縦揺れで目が醒めた。
とてつもない大きな揺れ。大地が吼え、のたうつ。
咄嗟に過去の「震災」を思い出す。
その時は幼くて何が起きたのか理解していたとは言えない。
ただ、TVで延々と神戸の街の火災が映し出されていたことだけは 記憶の隅に残っている。
「関西」とひとくくりに言われるが、この地域は当時、軽い揺れがあっただけだったらしく、
土塀に囲まれた古い民家も、昭和の香り漂う「文化住宅」なんかも、そのまま普通に建っている。
地震に対する恐怖感も日々薄れ、何の備えもない家が多い。
4年前母が選んだこの家も、大きな地震にあったら持ち堪えられないような古くて小さな借家だったが、
そういったことについて私も母も何の心配もせずに引越しを決めた。



品出しの仕事で早朝出勤する母が「行って来ます」と声をかけてきた。
学校行く時、鍵、締めてね。ガスの元栓も必ず閉めて。
 ・・いつものことだ、解っている。お母さん黙って出て行ってくれていいのに。
わざと母に背を向けるよう、寝返りを打つ。あいまいな返事をし、再度浅い眠りに入る。
母が出て、どれくらい経ったのだろうか。時間の感覚が掴めない。

吊り下げた電気が大きく揺れ、ぱらぱらと天井から砂のようなものが降る。
ばきばきと何かが崩れる不穏な音がした。
深夜まで、blogに載せた自作の小説のを最終確認し、倒れるように眠った。
早朝、ネット仲間のchikaが決まってコメントをくれる。
今日は小説の感想コメントをくれるはず。
座卓の上のノートパソコンを慌てて庇おうと、まだ醒めきっていない身体を起こし手を伸ばす。
これだけは守らなくちゃいけない。
私の一番大切なもの。私の気持ちの出入り口。

ゆさ、ゆさ・・大きな横揺れ。
台所の食器棚が倒れ、ダイニングテーブルに突き刺さり止まる。
中の食器が床にガシャガシャとたたき付けられ、容赦なく壊されていく。
 ─どうしたらいい?chika、私、どうしたらいい?
屈んだまま前に進もうとして、足が何かに引っかかりバランスを崩す。飾り棚の上から落ちてきた小物類が散乱している。
身体を立て直そうとした瞬間、再びぐらり、目の前が大きく揺れた。
身体の上に恐ろしい勢いで硬くて重い物がのしかかる。激しい痛み。
倒れてきた物を、動かせる方の片手で確かめる。堅固で艶やかな手触り。飴色に光る母の衣装箪笥。
父が逝き、母とふたり2DKの狭い借家に移る時、母が処分しようとしていたのを私が止めた。
小ぶりだが丁寧で細かい装飾の施された婚礼箪笥・・。どんなに愛着のある品なのか解っていたからだ。
腕を元の位置に戻そうとして、前に伸ばした途端、更に大きな音を立て何かが倒れ、
周囲が塞がれるように崩れ、どさりと落ち、視界が閉ざされた。



 * ユウリ

幼い頃からこつこつと書き溜めている物語のノートが、宝物だった。
誰かに見せる勇気などなかったけれど、いつも持ち歩いていた。
傍にいないと不安・・それは恋いしい人を想う気持ちに似ているかもしれない。
「榊 ユウリ」
愛着のあるペンネームを記したそのノートを、一度だけ小学校の机の中に置き忘れて帰ったことがある。
次の日手にするまで、不安で不安で、たまらなかった。
ポツンと置き去りにされたノートのことを考えると胸が痛んで眠れなかった。


父の死後、思い出ばかりで辛すぎるからと、近隣の市に引越した。
表面的におしゃべりする友達は何人かできた。でも、本当の自分を見せているとは思わない。
親しくなって、父の死や家庭の事情を話したくない、話したって想いはちゃんと伝わらない・・
そんな気持ちが先に働いて自分が出せなかった。
創作ノートだけが「親友」で「恋人」だった。

高校生になって、ずっと欲しかったパソコンを貯金で買った。
インターネットはバイト代でなんとかできるようになってから繋いだ。
広い海のようなネットの中に、同じような創作好きの仲間を見出して、「ユウリ」の世界は一気に開ける。
この画面の先に、引っ込み思案な物語の書き手が沢山いる。
父親を亡くした同じような境遇のひともいる。
心を込めて書いた物語に、読んでくれた人のコメントが付く。
上手く言い表せなかった感情が、誰かの手によって鮮やかに文字になる。
そうだ、そうなんだ・・頷きながら文字を追う。
嬉しかった。
そして、そこにはいつも「chika」がいた。



無残に崩れた壁が、僅かな視界に写る。身動き取れなくなった身体。
パソコンが損傷し、ネットが繋がらなくなる・・ノートを置き去りにした小学校の日の胸の痛みが蘇る。
chikaちゃん・・低く呼ぶ。
一番激しく痛むのは、今押しつぶれそうな身体よりももっと別のところだった。
近く、遠く。ガラスの割れる音 ばきばきと木材が折れる音、何かが崩れ落ちる音がする。
さっきまで静まりかえっていた早朝の住宅街がざわつき、総毛立つ。
混乱という魔物が街を行く。


遠くなる意識の向こう、どこからか落ちて蓋の開いたオルゴールがキラキラと平和な音楽を奏でていた。
重くて暗い闇の中。響くのは能天気なディズニーソング。
世界はひとつ。笑いあって、助け合って・・「It's a Small World」


 * 有里子・守屋

手の先が温かいものに触れた。そっと包み込まれる。
何だろう。この、なんだか安心な感じ。


「吉崎?そこにいるの、吉崎やろ?」
ぼんやりと明るい所から、どこかで聞いた声がする。微妙にイントネーションの違う関西弁。
力を入れると足に激痛が走った。
相手の声の、せっぱつまった感じから、自分が今、深刻な状況なのだと改めて知る。

握り合っている手の先だけが、外の世界と繋がっているらしい。
「俺、守屋。解るか?どこが痛む?おい、喋れるか?お前今、身体、どうなってるん?」
どうなってるのか 自分でも解らないのだ。目が開けられない。
守屋・・ぼんやりした頭で考える。守屋・・クラスメイト・・水泳部・・それから・・

「インターネットなんかに嵌るヤツは現実逃避してるだけだ」
HRの時間、担任の体育教師が言った。
─ネットの中にほんとの事書いてるヤツなんてひとりもいないと思った方がいい。
本当の意味で「人間」なんてネット内には存在しないんだ。
コンピューターが作り上げた仮想世界で遊んでいるみたいなもんだ。
そのまま信じる方が馬鹿なんだ

何を言えばいいのか解らなかったけれど、声を上げそうになった。冷や汗が出て拳を握る。
ネットで知り合った仲間たちの名前が順に浮かぶ。そして・・chikaちゃん、あなた・・。
「あいつの方こそ、バッカじゃねーの」
守屋が後ろの席で、ぼそりと呟いた。
リアルで遊び仲間が沢山いて、物怖じせず物を言うひと。彼がネットを擁護するのが少し意外な気がした。



う・ご・け・な・い・・・

振り絞って出した声は目の前で霞のように消えそうだった。
額からぬるりとしたものが滴る。頭のどこかを切っていた。
意識の一部が遠ざかり、痛みでまた、別の場所が覚醒する。

「ここは酷くやられとんな。うわっ、有里ちゃんか? こりゃ大変や・・待っとれ、助っ人呼んでくる」
隣家のおじさんの声がする。
「まだ余震あるかも知れへんし、ここにいたらアンタも危ない。・・有里ちゃんの知り合いか?」
「友達です。早く何とかしてやりたいんです、今、助けたいんです。お願いします、手、貸して下さい」

友達?
守屋くんとあたし、「友達」?守屋の躊躇のない返答に、有里子は戸惑う。

「レスキュー隊ももうすぐ来るはずや。アンタは避難場所に行きなさい。
 ご家族の安否は確認したんか?学校行くところやったんやないんか?
 ここは大人に任せて、早く行き。大丈夫、絶対助けるから」

なんだか辺りが騒がしい。
なんだか 身体が熱い。
心細いよ、chikaちゃん・・。


 * ユウリ・chika

 ─ここに いるから。
 ─ちゃんといるよ。ここにいるよ。

chikaちゃん、小学校の時から私の書き溜めた小説を、blogで恐る恐る公開した時、
初めてコメントくれたのはあなただったね。
凄く面白かった、このキャラが特に好きだなぁ。続きも書いてよ、楽しみにしてる。
もっと書け、背中押してくれたのも、chikaちゃん、あなただった。


『大丈夫か、しっかりしろ。こんな経験またとないぞ。頑張って覚えてて、また創作の糧にしな』
守屋の声のはずが、いつしか頭の中でchikaの書き込むコメントの文字に変わる。
意識が遠のき、また揺り返す。そうしながら、だんだん混沌の闇の中に落ちていく。

chikaちゃん、あなた、どこかにちゃんといるんだよね。
コンピューターが作った幻想じゃ、ないよね?


『しっかりしなよ、ちゃんといるよ、ユウリ。ねぇ、ほら何だっけ、
「Circle*創」で使った、’お題’の元になった本。あれみたいじゃん? 今の状況ってさ』
ネット上の創作小説サークル、「Circle*創」は、一月に一作、出版された本をテーマに決めて
メンバー各々、オリジナルの小説を書く。
「読むのが専門」というchikaが、ユウリにきっと合っているから・・と参加を勧めてくれたユウリの居場所だった。

壁の外と内、手を握り合ったまま動くわけにいかなくなったその小説のふたりの状況は、
確かに今の私と守屋君に似てる。
そして顔を知らないまま交流し、お互いのことを少しずつ知り合う様子は、ネット上の私とchikaちゃんにも似ている。


開設してから何年か経つのに放置しっぱなしのblog。
たまに更新するのは、美味しかった食べ物や珍しい物の画像に添えた数行だけの記事。簡潔でユーモラスな文体。
ポップな水玉の背景、プロフィール写真は繊細な感じのする色白な手。
さっぱりした、明るい女の子・・ショートカットの似合うボーイッシュな感じ・・
一人称の「オレ」のせいかもしれないけど、chikaのイメージはすぐに固定した。
リアルで傍にいても仲良くなるきっかけさえないまま通り過ぎていったかもしれない、他のグループの女の子。


「ずっと気になっていたことがあって、試しに検索したら、ここにたどり着きました」
chikaが初めて「榊 ユウリ」のサイトの掲示板に書き込んだコメントだった。



 * chika

7歳上の兄は都内の大学に入学が決まっていた。
「僕も残る。関西なんかに行きたくない」
12歳の主張は簡単に退けられ、守屋正規は親に付いて引越しした。
馴染みたくもなかった。関西弁なんか絶対に使うか、と意地になっていた。
転入したクラスで いきなり「ヤモリ」とあだ名がつけられ、標準語で喋っただけで「ええかっこしい」と言われた。
かっこ付けたがるキザな奴・・とでもいう意味だ。

どいつもこいつも馬鹿ばっかり。毎日が苦痛だった。
そんな時、思い出したのがホームページを持っていると自慢していた中尾のことだった。
まだ、やってるかな?
アドレスは忘れたけれど、画数の多い漢字を並べたセンスの悪いハンドルネームを覚えていた。
簡単に検索に引掛かる。
中尾のことを個人的に好きでも嫌いでもなかったが、繋がった瞬間、嬉しくて心が震えた。
学校ネタの日記。ずっと通っていた懐かしい校舎、仲間の顔が浮かぶ。ローカルな話題が身近に感じる。
「転校した守屋だけど・・」勢い込んでコメントを残した。

中尾はコメントに応え、学校仲間を呼んでチャットしようと誘ってくれた。
「パソコンの授業もあるし、ネットで遊べる奴、結構いるんだぜ」
掲示板に集まったのは、守屋にとっても懐かしい面々だった。
小さいときからの遊び仲間の彼らは 守屋のことを「チカ」と呼んだ。



 ─6さい上の兄は「正之」で「マサくん」。
ぼくの名は「正規(マサチカ)」だから 兄と区別するために「チカちゃん」だ。
「チカちゃん」って呼び名はは何だか女みたいだけど、別にきらいじゃない。

だけど、時々ちょっと思う。
兄の名前が先にあるから、ぼくの名前が決まり
兄の呼び名が決まっているから、ぼくの呼び名が決まる。
兄は「ユキくん」とはよばれない。

 ・・別にたいしたことじゃないんだけど。



チャットに飽きてきた頃、中尾がblog作りを勧めてきた。
飽きたというのは正確ではない。
学校仲間同士のチャットに転校生の守屋が付いていけなさを感じ始めたのだ。
ハンドルネームくらい好きにすればいいのに なぜかとっさに「chika」と打ち込んだ。

プロフィール画像にするために、自分の手をデジカメで撮った。
「綺麗な指よね、チカちゃん。爪の形だってママよりずっといい、羨ましいわ」
母がよく褒めてくれる、自慢の手。色の白さが画像では余計に際立った。
「女と間違われるかもしれないな」

誰かを騙そうなんて思ったわけではないけれど、他の人が想像する自分が本当の自分とかけ離れてたら面白いな
そう思った。
名前はchika。東京出身。白い華奢な手の画像。
性別は特に書かない。でも一人称は普通に「オレ」と書いた。
背景の画像は適当に選んだら水玉になった。

嘘はついてない。
結局日記を書くのはあまり楽しいと思えず、blogは放置しっぱなし、
一度もプロフィール画像や背景を変えることもなく、今に至っている。

面白い自作小説のサイトを目にすると、思い出す。
まだ馴染めない6年の教室で、ふと見つけた机の中の忘れ物。
ほとんどの生徒が外遊びでいなくなった昼休みの教室、少女がそのノートを開き何かを書き付けているのを見たことがある。
あんな顔、するんだ・・家庭の事情とかで休みがちで、いつも沈んだ表情の少女が
その時は、別人のようだった。
「至福」という言葉を知ったとき、このときの彼女の顔が浮かんだ。

忘れ物のノートをそっと手に取る。
題名の後、「榊 ユウリ」とペンネームが続き、きちんとした小さい字で物語が綴られていた。
面白い、と思った。勝手に読んで悪かった、いつか謝らなきゃ・・と思った。
けれど、少女はそのまま転校して行き、先生がそれを皆に報告したときには 机の中は片付けられ、すでに空っぽになっていた。




 * 吉崎有里子・守屋正規

「吉崎、大丈夫か?吉崎、意識ある?」

守屋の声がする。有里子は指を少し動かして合図する。喉が渇いて声が出ない。
数人の男の人が声を掛け合って、周囲から慎重に重いものを動かしている様子が伝わる。
ああ、私、もうすぐ出られるんだ、chikaちゃん・・
お母さんは無事だったろうか?怪我してないだろうか。母のことが頭をよぎる。
箪笥はもう使い物にならないのだろうか。傷を負った姿を見て、母は悲しむだろうか・・・

私は・・私はパソコンが無くなったらどうするだろう。
もっと心配すべきことは沢山あるのは解っているはずなのに、
ただっ広い陸の見えない海に、ひとり漂流するような孤独を思い、胸がくぅと痛んだ。


「もうすぐだからな。負けんじゃねぇぞ」

守屋くん・・そうだ・・小学校でも一学期間だけ同じクラスだった。
6年の一学期、東京からの転入生。

「守屋ぁ? ヤモリぃ?」口の悪いヤツがいきなりあだ名をつけた。
きれいな標準語が、みんなの関西弁の中で浮いた。

硬い表情で一番端の席に座った、ひょろりと背の高い、色白の少年。
これといった接点もないまま、有里子の父の病状は悪化し、2学期にはもう転校していた。
高校で同じクラスになった時 同一人物とはすぐには気が付かなかったのも当然かもしれない。
日に焼けて、がっしりした身体。関西弁で喋る守屋・・・
担任のネット批判の時ぽそりと言った
「バッカじゃねーの」を聞いたとき、妙に懐かしい気がした。
「守屋くんが『バカ』って言った」、クラスメイトとの喧嘩の原因はたいていその言葉だったのだ。

有里子の手を握っている、硬くてごつごつした青年の指、大きな手のひら。
かつての転校生の少年とは確かに結びつきもしない。
忘れていた、むしろ忘れようとしていたのかもしれない。
その頃の有里子の精神は、父親の病気とそれを心配する母のことでで一杯一杯だった。
毎日が苦しかった。

離れていた中学の3年間で、守屋くんは変わったのかな。
それとも変わろうと、変わってみようと思ったのかな・・・。


「有里ちゃん、もう少しの辛抱だからな、よぉし、そこを除けて!」
「ああ、ゆっくり、ゆっくりな・・ほれ、キミはそっちを頼む」
「そこ、持ち上げて!!せぇの・・」
「有里ちゃん、もう出られるからなぁ」

ああ、chikaちゃん、周りが開ける。息が楽になる・・。

「おおい、無事だぞぉ」
「無事だぞぉ」
「有里ちゃん、良かった、良かったなぁ。もう大丈夫だぞ。よぉ頑張った」

誰かが私のために泣いてくれている。喜んでくれている。
そして、ずっと手を握ってくれた「友達」。守屋・・モリヤマサチカくん。



 * 女神

chikaちゃん、掲示板で喋ったよね。
私は思うんだ。昔の人がテレビの中に小人がいるって想像したみたいに
パソコンの中に女神様がいて、ひとりぼっちの私のために、沢山の仮想の友達や小説を作り出しているって、
そんな風に考えるのも、案外悪くないなって。

 ─ そうかぁ?あんなに色んな小説や、その作者たちの人格をパソコンが作り上げるっての、それはそれで凄いけど・・
  女神様ねぇ、それって、夢があるんだか、ないんだか・・
  ユウリはさ、オレも実は存在しない人間ってことになっても、それでもいいわけ?

そうだね、chikaちゃん・・
 ・・いて欲しいな、やっぱり。
どこかに皆、ちゃんと生きて、存在して欲しい。一度も会うことがなくったって。

女神がいるとしたら・・そうね、ネットの広い海の中で 誰かと誰かを繋ぎあわせる力があるの。
さり気なく帆に追い風吹かせ、行くべき方向を指し示し、
解りあえる相手に出会いたいっていう願いを、そっと叶えてくれる、そんな女神様。




ストレッチャーを動かす音が止み、意識がまた遠のく。
温かい大きな手をもう一度確認する。
力強く、優しく、握り返してくる。
体中がゆっくり温かいもので満たされる。
chikaちゃん私はひとりなんかじゃないんだね。ネットの中でも。そしてきっと現実でも。


心を静かにして、穏やかな眠りに落ちていく。
頭の中に広がる世界が、たとえ真っ暗闇でも、もう怖くない。
優しく深い闇の中、きらり小さな星が輝き、ネットの女神が微笑みかける。


「ゆっくりお休みなさい。目が覚めたら彼に会えるでしょう」




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