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Last update 2008年03月16日

「科学」から「魔法」へ  著者:知



「どうした。自分のミイラを作っている夢でもみたか?」
 不機嫌そうに起きてきた私に彼はそう苦笑いしながら言った言葉に
「……それ、洒落にならないからやめてよね……」
 私はそうため息を吐きながら返した。
 ……昨日、ゾンビやらスケルトンと呼ばれる物に遭遇したばかりだし……


 ここ数年で世界は一変した。
 ある事件を境にこれまでの『科学』の知識が役に立たない――通用しない世界に変わってしまった。まるで、この世界の法則が変わってしまったかのように……
 代わりに現れたのが『魔法』と呼ばれるものだった。
 誰が『魔法』と呼び始めたのかは定かではない。でも、小説の中の物でしかなかった『魔法』が今、この世界に実在している。


「はぁ……今回の旅も収穫なし、か……」
 この世界を『科学』から『魔法』の世界に変えたある事件。その事件に関する情報は広まっていない。情報封鎖をしているのか、本当に情報がないのかはわからないけど……おそらくは後者。そうでなければ、国が情報に報奨金を与えるはずがない。
 ……まぁ、国というものがほぼ形骸化していて、実際は町や集落単位で自治されているのが現状なんだけど……
「全く収穫がなかったわけではないだろ?」
 私の呟きに彼はそう返してきた。
 確かに、収穫はあった。でも……
「……売れない情報なんだから、収穫がないのと同じよ」
 売れないと言ってもどうでもいい情報というわけではない。売ったら膨大なお金が稼げる、そんな情報だ。
 でも、売れないのだ……
「まさか、あの事件があった中心地の近くにあんな楽園があるなんてな」


 あの事件があった中心地、そこはモンスター(動物が凶暴化したのをそう呼んでいるが、まさしく、RPGに出てくるモンスターという感じ)が跋扈する地と化していた。
 そして、不浄の地となっている。腐臭が漂い瘴気まで出ている。それは中心に近づくほどきつくなっている。
 私たちは、今回の旅でついに中心点と思われる地点まで後半分というところまで行ったのだが、ゾンビやらスケルトンが大量に襲ってきたため、これ以上は無理だと逃げ帰ってきた。
 その時に偶然、発見したのが彼のいう楽園だった。
 そこはまさしく楽園呼ぶのに相応しい場所だった。
 初めは目を疑った。幻影を見せられているのではないか、と。疲れのせいで幻覚を見ているのか、と。
 そこは草木が青々と茂っており、水も澄んでいた。『科学』が発達し何世紀も前になくなったはずの、自然がそこにはあった。昔の本の中にしかなかったはずのものがそこにはあった。それも、不浄の地である中心地に、だ。
 呆然としていた私たちに声をかけたのが、楽園の管理人――澪だった。
 見た目は12、3歳の少女。でも、一目見たときにわかった。彼女と戦うことになったらどう足掻いても勝てない、と。
 だから、彼女の一日この場所で休ませる代わりに、この場所については決して誰にも話さないように、という言葉をすぐに受け入れた。
 もし、受け入れてなかったら私たちは1秒もかからず殺されていただろう。

「こんな世界にもあんな場所があるとわかっただけでも大きいかもね」
 私の呟きに彼も頷くと以後私たちはあの楽園については何も口に出さなかった。
 壁に耳あり障子に耳あり、どこで誰が聞いているかわからない。
 あのような場所があると知れたら誰もが躍起になって探そうとするだろう。そうなると無駄な争いが増えるだけ。無駄な死体が増えるだけ。そして、何よりも私はあの楽園が戦火にのまれることが想像するだけでも耐えられない。


「……相変わらず、ただ大きいだけでいるだけで気分が悪くなる街ね」
 私は住んでいる街につくと開口一番そう呟いた。
 大きいだけあって人が多く情報は集まってくる。だから私たちはこの町に住んでいる。でも、住みやすいかと言われたら、おそらく他のどの場所よりも住みづらいだろう。
 多くの人が行き来するということは犯罪が増えるということでもある。治安は決してよくない。強盗、レイプだけでなく人身売買も日常茶飯事だ。
 そして一番酷いのが差別だ。
 この街へ新しく来た者達への差別。何より酷いのが、『魔法』を使えない者達への差別だ。
『魔法』は人によってどのくらい使えるのかが違い、中には全く使えない者達もいる。差別されているのは全く使えない者達だ。
 最近、あの事件が起こる前に働いていた会社の上司を見かけた。
 俺は凄いんだと威張り散らしており、実際、仕事において右に出る者はいなかった。
 でも、その面影は全くなかった。
『魔法』が全く使えなかったようだ。
 会社では威張り散らしていた上司も、ここでは嘲笑の対象でしかなかった。
 しかし、この街から出ることはできない。何故ならそれは死を意味するからだ。『魔法』を使えない者達は人が多いところで暮らすしかない。この世界にたいしてあまりにも無力なのだ。『魔法』を使えない者達だけで集まって暮らしても同じだ。ただただ、差別や嘲笑に耐えながら生きるしかないのだ。




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