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Last update 2008年03月16日

always I think of....  著者:rudo



私はもうどこにも心を寄せたりしない・・・

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西日がまぶしくてよく見えない。
テレビの画面に窓の外が映りこむ。

私はシュンに抱かれながら
テレビを見ていた。

シュン。見て、きれい。
くるくるウズができるよ・・・

リキッドタイプのミルクのCM。

コーヒーに上からミルクを垂らす。
ミルクの白は
内側から外へと 渦をまく。


私とシュンのsexは
ご飯を食べたり
歯をみがいたり
本を読んだり

そんな風なことと同じ場所にある。
いつも 平常心のまま始まって
平常心のまま終わる。

声も立てず・・吐息ももらさず
普通におじやべりをしながら
いつまでも ただ
つながっているだけだったりする。

それは私がなるべく気持ちを平らかに
しようとしているせいだ。

不感症なわけではない。
体はちゃんと反応する。

だけど触れても触れられても
膜を通したように遠く
心にとどかない。

とどかないようにしている。



「コーヒー飲みたくなっちゃったな。
 ちょっと飲んでから 続きにしない?」

うん。いいよ。

私は裸のまま お湯を沸かしに行く。

シュンはコーヒーメーカーや
サイフォンで淹れるコーヒーより
インスタントコーヒーが好きだ。

ちゃんとしたの淹れようか?
私 豆を挽くのうまいのよ。
そういったこともあるけれど

「そんな洒落た育ちじゃないんだ」
そう言って 笑う。

インスタントコーヒーをカップに入れて持っていく。

シュンはカップを受け取り
一口飲むと 私を膝にのせ
ゆっくりと中に入ってくる・・・

「あれは・・・しょうゆだよ」

しょうゆ? なにが?

「ミルクが きれいに渦をまくのは
 コーヒーじゃなくて しょうゆだからなんだ」

あぁ・・さっきの話か・・と納得する。

シュンはそういう人だ。

何か話していて
その時 答えが返ってこなくても
しばらくして・・
あるいは ずいぶんたって・・

もう忘れた頃に
唐突に返事がかえってきたりする。



「りょうこ。俺・・・働くよ」

今だって、働いているじゃない。

「そうじゃなくて、ちゃんとどこか就職してさ」

 ・・・

「もちろん墨も消すよ」

 ・・・

「だからさ。 俺たちも ちゃんとしない?」

私のことなんて 何も知らないくせに・・・


「必要なことは知ってるさ。
 りょうこは何を知ってほしいの?」

私はシュンのこと好きじゃない。

そっぽを向いてそう答える。
シュンは少し傷ついた顔をして
でもちっとも気にしない風に
私を抱きしめる。

「嘘だよ。りょうこ。
 じゃあ どうしてここにいるんだよ」

「かんのん」がいるからよ。
「かんのん」に抱かれていたいからよ。
最初にそう言ったじゃない。


「うん、いいよ。
 それでもいいよ。りょうこ」




シュンは 今度は上になり
浅く 深く
はやく ゆっくり 動く。
そして 耳元でいつまでも
 「りょうこ りょうこ・・・」 とささやき続ける。





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「かんのん」

観音。


シュンは左肩から肘にかけて精緻に
彫られた観音を持っている。

「多羅尊観音」(たらそんかんのん)というのだとシュンは言った。
救済者なのだとも・・・


日本ではあまり知られていなくて
だから決まった姿はないのだそうだ。

シュンの観音は 三日月の上に立ち。
小さな炎を手にしていた。

三日月はうっすらと黄色く
お湯に浸かったり
汗をかいたりすると
色鮮やかに浮き上がる。


シュンと初めて会ったのは去年の秋祭りだ。

賑やかな音に誘われて
覗きにいってはみたけれど

家族づれや 子供たちの笑い声は
かえって私に「誰もいない」という事実をつきつけた。

あまりの孤独にしゃがみ込んだ目の前に
シュンが金魚すくいの店を出していた。

そして「かんのん」を見た。

私は観音に触れてみたいと思い。
観音の彫られた腕に抱かれたいと願った。

「その観音像の腕で私を抱いてくれませんか?」

私はシュンにそう頼んだのだった。


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夢を見ていた。

「かんのん」
小さな炎を手のした「かんのん」

炎はくらりと揺れて
「かんのん」に不思議な陰影をつける。

そして私に向かって 手をさしのべる。

私はその手にすがろうと
手を伸ばす・・・

ギュッと握られて目が覚めた。

私の手をとっているのは
シュンの暖かな手だった。




「りょうこ。仕事に行って来る」

そんな 時間?

「うん。3時過ぎた」

シュンは今、二つ先の駅にある神社の
秋祭りに出店している。

また・・金魚?

「いや、たこ焼き。
 夕飯はたこ焼きにしようぜ」

青ノリとカツオ節はかけないでね。

「何だよ それ。
 そんなの たこ焼きじゃねえよ」

シュンは苦笑しながらドアを開け
振り向いて 早口に言う。

「あのさ、さっきの話だけどさ・・
 ちゃんと考えてみてくれないかな」

私はシュンのことを特に好きなわけじゃないの。


「観音像が気に入っているならこのままで
 なんとかするよ。ずーっと長袖で通せばいいんだし」



私は誰も好きにならないのよ。



背中を向けたまま答える。

怒ってよ シュン。
怒って嫌いだって言ってよ。
そう念じる。

だけどシュンは怒らない。



「時間ないから・・行くけど
 帰ってきたらもう少しちゃんと話そう」



シュンはそう言ってドアを閉めた。

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途方にくれた。

私はもう誰かを大切に想ったり
誰かを特別な位置においたり
そういうことをしたくなかった。


私が大切だと思う人・・・
私が失くしたくないと願うもの・・・
みんな どこかにいってしまうから。


まだ学生のころに両親をなくし

そのあと世話を引き受けてくれた
伯母をなくし・・・ 

結婚して二年もたたずに
夫をなくし・・・

その時 おなかにいた子も
流れてしまった時

あまりの事に 騙されるのを覚悟で
占い師に視てもらった事がある

私の情念は強く。激しく。
気持ちを傾けると相手を
呑みこんでしまうのだと言われた。

嘘だとか本当だとかは
もう どうでもよかった。

こんな悲しみを味わいたくない・・・
その為だけに私はこの先ずっと
どこにも 何にも 心を寄せたりしない。
そう決めた。

決めたのに・・
いつのまにかシュンは
私の大事な人になっていた。


極力考えないようにしているだけで
ずっとシュンといっしょにいたいと
思っていたのは私の方かもしれない。


そう認める事は怖かった。
認めたとたんにまた
私はシュンを失ってしまうんじゃないかと
今までがそうだったように・・・


シュンには「かんのん」がついているから
大丈夫かもしれない・・
自分の都合のいいように
そんな愚にもつかない事を思ってみる。

観音様ってそういうものだよね?

苦しむ人の声を聞き
救ってくれるんじゃなかったっけ?


帰ってきたら 話してみようかな・・
私のこと 私の思っていること

私もシュンが好きだっていうこと。
シュンに・・シュンとシュンの「かんのん」に。

そう思うとなんだか
少し 気持ちが明るくなった。

どこから どんな風に話そうかと
考えているうちにもう9時だ。

9時にはお祭りが終わる。

10時にはかた付けも済んで
みんなでちょっと 一杯飲んで・・・

たいてい 11時には 
「りょうこ。たこやき」だったり
「りょうこ。 金魚」だったり

「りょうこ。やきそば」だったり・・

そんな風に言いながら帰ってくる。


今日はたこ焼きだって言ってたから・・
たこ焼きだけじゃさみしいから
サラダでも作っとこうかな。

たこ焼きは たこ焼きだけかなぁ。


だけどシュンは12時を過ぎても帰ってこなかった。



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お祭りの後のささいな喧嘩だった。

小さな冗談が 罵り合いに変わり
怒鳴りあいになり・・・

手が出て・・・・

周りを巻き込んだ小競り合いになり
その真ん中で シュンは刺された。

血が流れ出るのに時間がかかり
倒れるまでに時間がかかり

まわりが気づいた時は
手遅れになっていた。


白い布に包まれた シュン。

呆然とする私の横には
警官がいて あれこれと
シュンのことを聞いてくる。

私は何一つまともに答えられない。

私はシュンの本名さえ知らなかった。



私が大切だと思う人・・・
私が失くしたくないと願うもの・・・
みんな どこかにいってしまうから

「もうどこにも心を寄せたりしない」

そう決めたのに・・
私は何を・・・


私の隠していた想いがシュンに向かい
シュンがゆらゆらと揺れる炎の中に
呑み込まれるのが見えた気がした。



もう私には流す涙も残っていない。

私はただひたすらに
シュンの腕の「かんのん」を
撫でさする。




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