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Last update 2008年03月16日

片羽の天使たち  著者:宇津木



 ――ゴーンッ ゴーンッ ゴーンッ
 遠くで響く重くて悲しい鐘の音が、町に染み渡る。

 簡素な家の中には色彩がなかった。
 だから僕は、絵を描く。窓から入る光だけを頼りに、灰色の壁に囲まれて、油の匂いにまみれながら、僕は筆を動かす。
「シア! オレ、走ってくるな。商店街寄ってくるけど、何か買ってくるものあるか?」
 溌剌とした声に視線を向ければ、そこには見慣れた顔。やわらかい太陽の光のような色の短い髪に、幼さ特有の他意のない笑みを浮かべたトキは、すでにトレーニングウェアに着替えて、部屋の入り口に立っていた。
「リンゴ、買ってきて」
「また? お前どうせ腐るまでテーブルにおいておく気だろ。そりゃ絵に描くのもいいけどさ、ちゃっちゃと描いてちゃっちゃと食えよ、勿体無い」
「じゃあ、いいよ」
 僕は新しいリンゴを諦めて、イーゼルの前のテーブルに目を移す。テーブルの上には、朽ちたリンゴの残骸。それもまた、絵になる。
 だけどトキは、その僕の仕草を怒ったと勘違いしたらしい。小さくため息をついて、ちょっとムキになって声が大きくなった。
「いいよ、買ってくるよ。じゃ、一時間くらいで戻るから」
 いらないと言おうと彼に視線を戻せば、もうきびすを返して走り出したトキの背中で、真っ白い羽が風を受けるかのように広がろうとしていた。
 僕達の小さな羽では、飛ぶことなど出来ないのに。

 トキは、いつも夕方になると走りに出る。学校に行く前に走ればいいと思うのだけれど、彼は朝が苦手だから無理だと言う。朝は苦手でも、夕方は元気に毎日走りにいく。雨が降っても、雪が降っても。
 元気で、強くて、がさつなトキ。
 穏やかで、優しいシア。
 それが僕たちの一般的な評価。見てくれだけの、間違った評価。
 本当はトキがずっと優しくて繊細なことを僕は知ってるし、僕は優しくなんかない、真っ黒で歪んだ人間だって事を自分でわかってる。
 だけど僕は周りが期待する僕であるために、いつも笑顔を浮かべる。優しいシアであるために。それでもトキはわかっているのだろう。僕がそれほど優しくないことを。
 トキとはもう10年も同じ学年、同じ寮の友達として接しているから、いい加減お互いの性格はよくわかっているつもりだ。特にここ2年は同室になったこともあって、たいていは一緒にいる。
 だけど、それもあとわずか。
 僕の右羽が、落ちたから。
 片方しか残っていない僕の羽は、まだちょっと違和感を感じる。
 バサバサ動かしてみても、反対側がないからバランスが悪い。役に立たない羽根なのに無くなるとどこか寂しいなんて、都合の良い僕。
 15歳前後で、突然落ちる僕達の羽。
 右が落ちれば、女。左が落ちれば、男。
 どちらが落ちるか、落ちてみるまでわからない。でも片方落ちれば、少しずつ体の変化が始まって、2年のうちに残りの片方の羽も落ちる。そうすれば、成人として、この町を出なければいけない。
 だってここは、羽を持つ者だけの楽園だから。
 僕は、膨らみ始めた胸に手を当てた。まだちょっと、胸の奥が疼く。

「こんにちは。君に郵便だよ。羽、落ちたんだってね。おめでとう」
 振り向けば、部屋の入り口には黒い郵便配達夫の制服に身を包んだシロが、一通の真っ白い封筒を持って立っていた。2歳年上のシロ。もうとっくに羽を無くした、裏切り者のシロ。
 羽ほどに白い彼の肌と真っ黒い制服のコントラストが、僕には弔いに見える。
「ありがとう」
 彼の手から封筒を受け取った。相変わらず彼の手は、いやになるほど白い。
「右の羽が落ちたのか、じゃあ君は女になるんだね」
 僕の羽を肩越しに確認した彼の温かい笑みに、わずかに殺意を覚えた。
 幼い僕が女になれればいいと願ったのは、あなたのためだった。なのに、あなたは僕の羽が落ちるより二年も前に、僕を置いてエナと一緒に行ってしまった。それ以来、あなたに裏切られた僕は、男になれればいいと願っていたことを、あなたは無邪気な笑みで知らないフリをする。
 僕はペインティングナイフを持つ手に力を入れて、だけどあいまいな笑みを浮かべた。彼は、殺意に気づかない。
「今日は、トキ君は?」
「走りに行ってます」
 知っているはずでしょう? 彼が毎日この時間に走りに行くのは。注意深くて記憶力の良いあなたが、忘れるはずはないもの。
「それじゃ、彼にもよろしく伝えておいて」
「はい」
 僕はにっこりと微笑んだ。シロには、それが偽りだということなどすぐにわかるのだろう。彼は少し、困ったように笑う。
「それじゃ」
 彼がきびすを返したから僕は彼を追って廊下に出たけれど、それ以上追うことはしなかった。
 ペインティングナイフが、乾いた音を立てて廊下に落ちる。
 こんな軟いナイフじゃ、彼を殺せやしない。もっと固く、もっと鋭くなきゃ。
 遠ざかる彼の後姿には、かつて羽が生えていた部分に突起があった。それが、彼が堕ちた証。天から与えられたその羽を、自らの意思で引きちぎったその報い。
 だから彼と、彼と一緒に羽を引きちぎったエナは、羽を持たないけれども大人にもなれないまま、楽園に閉じ込められている。
 僕は彼の醜い背中を、彼が廊下を曲がって去っていってしまうまで見つめていた。
 何故僕は、彼の背中を見て泣きたくなるのだろう?
「シア-っ!」
 僕の気持ちを振り払うように、外から声が聞こえた。
 元気のいい声に呼ばれて一瞬で笑みを浮かべた僕が窓から顔を出せば、小さい子供たちが手を振って僕を呼んでいる。
「あそぼーよー」
「わかった。今行くよ」
 小さくて白い羽が、飛びたがっているように背中のうえで羽ばたいている子供たち。
 下に降りていけば子供たちが純白の羽を撒き散らしながら駆け寄ってきた。
「トキはー?」
「走りに行ったよ」
「じゃあまたあれだね、公園でシュっシュって」
「かっこいいんだよね、シュっシュって」
 子供たちがこぶしを突き出す真似をするので、ようやくボクシングの真似事だとわかる。だけど手を突き出すたびに羽がパサッパサッと鳴る様は、どう見てもボクシングには見えない。
 トキもきっと、似たり寄ったりだろう。
「トキはどうしてシュッシュッてしてるのかな?」
「わかんなーい。でもその時のトキ兄ちゃんは怖いからきらーい」
「ねー」
 幼いからこその遠慮のない言葉に、僕は苦笑する。きっとトキは真剣にやりすぎて子供たちがいることにも気づかないほどなのだろう。
「トキは優しいよ」
「えー、優しくないよー」
「シア兄ちゃ……あ、シア姉ちゃんのほうが優しいし、料理がうまいもん」
 姉と言われて、僕は右羽が落ちたことを意識した。スカスカする右の背中に、もはや無い羽を動かそうとしてちょっと力を入れてみるけど、平坦な背中はうんともすんともいわない。両羽をクイックイッと動かす子供たちが、今は何よりも羨ましく見えた。
「そういえば、シロ兄ちゃんが来てたねー。お手紙?」
「うん」
「シロ兄ちゃんは町外れでエナ姉ちゃんと住んでるんでしょ? 夫婦なの?」
「夫婦なんて言葉、どこで覚えたんだい? 夫婦はね、ちゃんと羽が落ちて男と女にならないとなれないんだよ。シロもエナも羽を自分で切っちゃったから、夫婦にはなれないんだよ」
 夫婦の意味だってわかっていない幼いキクには、理解できなかったらしい。ふしぎそうな顔で首をかしげるキクを押しのけて、今度はエルが断言する。
「シア姉ちゃんはシロ兄ちゃんと似てるね」
「そう? どのへんが?」
「笑った顔とか、優しいとことか。シア姉ちゃんはシロ兄ちゃんと仲良しさんだからかな?」
「そうだね。僕達は、よく似ているよ」
 僕はやはり、笑みを浮かべた。シロと同じ、表面だけの優しい笑みを。
「シア姉ちゃんはもう一個の羽が落ちたら行っちゃうの?」
「そうだよ。羽が落ちて、ちゃんと女の人になれたら、この町を出て行かなきゃいけないんだよ」
「どうして羽が落ちるの? どうして出て行かなきゃいけないの? ミアはここを出て行きたくないよ」
 そうだね、ミア。可愛いミア。僕もこの楽園を、出て行きたくないよ。でもね、羽が落ちたら出て行かなきゃいけないんだよ。ここに残ることは出来ないんだよ。残るなら、シロみたいに罰を受けることになるよ。怖い、怖い罰をね。
 首をかしげる幼いミアに、僕は真実を告げることをしなかった。

 僕達の祖先は、もっとずっと大きい羽を持っていたという。成人しても羽を落とすことはなく、自由に空を飛んでいたのだと言われている。
 男も女もなく、皆が平等に生きて。それは幸せの象徴のように描かれる。
 いつから人は羽を退化させ、性を分けるようになったのかは知られていない。
 けれども僕は思う。僕達はこの地上に生み出されたときすでに、天使になる資格を失ってしまったのではないか。
 飛べもしない羽を抱えた僕らは、憐れな出来損ないなんじゃないか。
 空を夢見ることさえ許されない、憐れな咎人の子たち。
 この小さな羽では、どこへも飛んで行けやしない。
 神に見放された僕らは、だから楽園を去らなければいけないんだ。
 17歳になって、最後の羽も落ちるそのときに。
 ――最後の希望が落ちる、そのときに。

 数日後、初雪が降った。
 そしてその次の日、トキが寝込んだ。
「風邪だよ。この間も雨の中走ってただろ。昨日は雪だって降ったのに。雨とか雪の日くらいは、走るのやめたら?」
 ベッドの中でだるそうに息をするときを見ていると、ついつい小言が言いたくなる。
 なのにトキは何を勘違いしたのか、僕の顔を見て温かい笑みを浮かべた。
「オレ、頭悪いからさ、体力くらいはつけておかないと。羽が落ちてからじゃ遅すぎるんだって。今のうちに体を作っておかないといけないんだ。それにさ、体力ある子は男になるって昔から言うだろ」
 って言いながら、僕の冷ややかな視線に気づいてか、彼は素直に頭を下げる。
「ごめん。でも、さ。風邪ひいてもシアがいてくれるから安心して走りにいけるんだぜ」
「ほう? それは僕に面倒をかけるのはどうでも良いと、そう思って確信犯的にやってるってことかな、トキ?」
「違うよ、安心してんの。おまえがいるから、さ。だって絶対俺のこと見捨てないだろ、優しいから」
 優しいからじゃないよ、トキ。
 そう言ってやりたかったのに、僕はその意思に反して笑顔を浮かべて。
「馬鹿言ってないで、さっさと寝ろよ。僕は学校に行ってくるからね」
「遅刻させちゃって、ごめんな」
 珍しく愁傷な態度のトキに、僕はなんだかくすぐったいような気持ちになってしまう。まだ羽さえ落ちてないトキなのに、なんだかとても大人に見えて。僕はどうしたいのか判らなくなって、だから微笑んだ。
「大丈夫。トキが風邪ひいたから遅くなるって、ケイに伝えてもらってる。それじゃ、ちゃんと寝ててよね」
 僕はトキの言葉を待たないで、外へ出た。

 いつもより遅い時間だから、雪が積もっていても少し暖かい。
 白い息を吐きながら、僕は歩いた。学校は、寮から十分のところにある。丘の上で、町が一望できる所だ。
 でも僕は、学校へ行く道を横で逸れた。
 真面目で優しいという、本質とはかけ離れたイメージを持たれている僕は、きっとサボったなどとは言われない。風邪をひいた同室のトキの看病のために休んだのだと、友達も先生も思ってくれるに違いない。そして誰かがそれをトキに言ったとしても、トキは笑って頷くんだ。そうだよって。
 それが僕の胸を締め付けるけど、それでも今日は学校へ行こうとは思わなかった。
 町外れの橋には、今日は誰もいない。
 いや、そもそも子供たちばかりのこの町で、学校のある時間に外にいるのは管理のスタッフくらい。それだって、めったに出会うことはない。
 だから学校をサボっても、誰も咎める人はいないんだ。
 白い封筒を、凍える手で小さく破って川に撒いたら、それは雪というよりはむしろ桜の花びらのようで、緩やかに風の軌跡を描きながら、黒い川に白い姿を浮かべて流れ去っていく。
 僕は小さく息を吐いた。
「サボりかい、シア?」
 ふりかえれば、郵便配達夫の格好をしたシロが立っていた。
「せっかく配達したものを、封も開けずに破り捨てたね」
「だって僕には、関係のないものだから」
 大学からの、入学を促す文書。羽が落ちたらすぐに入学するようにって。いや、羽があっても構わない。意思があるならすぐにこちらへ。
 もう何通も受け取っていれば、内容なんて読まなくたって覚えてる。
「この町からそんなに優秀な人間が出るなんて、珍しいことだよ。行けば良いのに」
「そしてこの不恰好な片羽を晒して、笑い者になれと?」
「そうじゃない。君の将来のためには……」
「あなたが僕の将来に口を出すの? お笑い種だね。自分から羽を落として楽園に留まっているあなたが、僕にはここを出て行けって言うの!?」
「シア……」
「前からあなたに聞きたかったんだ、シロ。あなたは泣いて縋る僕をおいて、エナと一緒にその羽を落としに行ったよね。それで、あなたは今幸せなの? エナと二人でこの町に残って。楽園にしがみついて、あなたは幸せ?」
 言いながら僕は涙が流れそうになるのを、必死にこらえた。
 こんなことが言いたいんじゃない。
 それは僕の甘え、僕のワガママ。そしてそれは人を傷つける。
 僕は傷つけたく無いのに、でも僕の口は止まらない。弱さを隠すように、僕は彼を傷つける刃になってしまう。
 僕は優しくないのに、優しいフリして。人を傷つけたくないのに、傷つけてばかり。
「幸せだよ」
 僕の痛みを知っているかのように、彼も辛そうな顔で、でも幸せだと呟いた。
「幸せだ、楽園にエナと二人でいられることは。でも、今は幸せでも、俺たちの先に待つのは悲しみだけだよ」
 それこそ、彼らの罪。自ら羽を落とした者たちに与えられた最上の罰。
 なのに僕は、その言葉さえ真っ向から受け止める強さも持たずに。また、刃を放つ。
「それは当然の報いだよ。自ら羽を落としたあなたの」
「だから、君は俺のようにはなるなよ。悲しみが待つ人生なんて……」
「勝手だよ、あなたは! 僕の気も知らないで勝手に出て行って、今更俺のようにはなるなって……。あなたが僕を……」
 ダメだ、これ以上言ったら、余計に傷つける。それだけは言っちゃいけないんだ。
 僕は、シロが何か言うのも聞かずに雪の中を走り出した。
 走って、走って、気がつけば寮に戻っていた。
 行くあてもなく、僕は部屋に戻る。寝ててくれれば良いと思っていたトキは、起きていた。
「おかえり。やっぱり学校行かなかったんだな」
「どうして……」
「封筒、持っていったろ? だから、さ。なんとなく」
 トキの声は弱々しいのに、優しい。僕はその優しさに縋りたくなるのを必死にこらえて、部屋を出た。
 昔は物置だった、僕だけのアトリエ。掃除をして、使えるようにして、油絵の道具を持ち込んだそこに、僕は向かった。
 誰かにすがって、頼って、裏切られるのが、怖い。もう二度と、裏切られたくない。弱さをさらけ出したくない。
 トキに抱きついて泣きたいのに、それが怖い。トキが裏切らないことを知っているはずなのに、それが出来ない。ぬくもりがほしい。抱きしめてほしい。なのに、僕はそれらをねだることもできずに、自分自身を抱きとめる。
 切なさを、寂しさを、恋しさを、押さえ込むようにきつく、自分の体を抱くように腕を回して縮こまる。暗いアトリエの中、冷たい涙が僕の頬に痕をつけて落ちていく。
 それでものろのろと僕は涙をぬぐって、立ち上がった。
 イーゼルには描きかけの絵。
 大きな、昔空を飛んでいた祖先たちの翼を持つ天使の肖像。
 その顔は、まだない。
 描きたい顔を、僕は確かに知っている。
 天真爛漫で、疑うことを知らない、純朴な、まさに天使にうってつけのトキ。
 筆をただ動かしていればいつもなら無心になれるのに、その顔を描こうとすると手が止まってしまう。僕は、その翼を丹念に描いて。どこまでも飛べるように、昔本で見た祖先たちの翼のように雄雄しく大きい白い翼を、精一杯描く。
 本物の天使を、僕は描きたかった。
 なのにその顔だけが、いつまでも描けない。僕の手は、止まってしまう。

 その日のことを、僕はよく憶えている。
 吹雪きはじめた夕方、もうすっかり風邪の治っていたトキは走りに行った。僕はそんなトキの帰りを待ちながら、夕飯の支度を。
 あとは煮込むだけのスープを弱火にかけて、キッチンで本でも読もうかとしたところだった。
 ざわめきと、悲鳴。乱暴に開けられたドアから吹き込む、身を切るような風。そして、雪まみれのトキと、その背中に担がれたシロ。それだけで、僕はスーッと自分の感情が引いていくのがわかった。
 恐ろしいほど冷静に、僕は物事を理解する。
 ついにその日が来たのだと。
「トキ、シロをそこのベッドに寝かせて。
 ムン、見ているなら管理室に連絡して医者を!
 君たちも見ているだけなら手伝ってくれ。ハレ、お湯を沸かして!
 ミオはタオル、清潔なのを持ってきてくれないか。
 イラは体温計を下で借りてきて。
 スイは毛布をありったけ、ウルと集めてきて」
 野次馬全員に指示を出して、僕ははじめてシロを見る。
 想像以上に苦しんでいる。身をよじり、汗をかくのに、体は驚くほど冷たい。
 とにかく濡れたままの服を脱がせたとたん、さすがに僕も凍りついた。羽を強引にちぎったときの傷が、縦横に裂けて体中を茨のように取り巻いていたのだ。おそらくそこから痛みがあるから、身をよじるのだろう。
 その傷をかきむしろうとするシロの手を止めながら、僕は消毒をしてシャツを着せる。それが精一杯だったから。
 医者は鎮痛剤と睡眠薬を投与して眠りにつくシロを確認すると、そそくさと帰っていった。他に出来ることは無いと。打つ手は何も無いのだと、彼は静かに告げた。だからせめて苦しみだしたら、呼ぶようにと。
 僕達は、実際にシロを見るまで知らなかった。羽を自ら失った者達の、末路を。それは禁忌とされていて、だから犯す者はいなかったから。ただ、羽をちぎれば死が訪れると、それだけを聞かされていた。
 もちろんシロにもエナにも、その死は訪れるはずだった。だけどそれは近い将来のいつかであって、今日ではないはず。その、繰り返し。
 僕達はすっかり、羽の無い彼らのいる生活に慣れてしまっていた。死の恐怖が、彼らを失う怖さが、麻痺してしまっていた。
 だけどシロもエナも、知っていたはずだ。羽を失えば死が待っていると。
 それなのに二人は禁忌を破った。理由は簡単。二人がずっと一緒にいるため。なのに今、エナはここにはいない。誰かが呼びに行ったはずだけど、外を見れば激しい吹雪。ここまで来れるかどうかも怪しいところだ。
 羽根をひきちぎった者は、苦しんで、苦しんで、狂い死ぬ。医者は、そう告げた。
 だからせめて致死量ぎりぎりの鎮痛剤を。安らかな眠りを。
「シア、みんな部屋に戻った。もう、消灯時間だから」
 気を使っているのか、いつもより心なしか優しい声音でトキは言った。
 僕はそう言われるまで、みんなが後ろにいたことにさえ気づいていなかったというのに。
 流れ落ちた感情は戻らない。理性だけの人形のような、僕。
「交代で診よう」
「いや、僕は起きてるよ。シロが明日を迎えられる確証はないから」
 どんな声で、僕はそう言ったんだろう?

「医者呼んでくるから!」
 深夜、苦しむシロを僕が押さえている間に、トキはコートを着込んで飛び出していった。
 さっきよりも酷い苦しみように僕はシロの大きな体を押さえきれない。それでもどうにか彼がベッドから落ちないように、ひっしに彼の体に覆いかぶさった。
 叫びは、もはや人間らしいものではなく。開かれた目に知性の光はない。
 獣のようなシロの体を、ただただ必死にベッドにつなぎとめるだけの僕。これはあまりにも滑稽で、そして悲しい。
 不意に、彼の手が僕の左手を掴んだ。信じられない力で、僕の手のひらを握り潰す。何かに縋るように、いや、引きずり込もうとするように。
 そしてその目が、まっすぐに僕を射抜いていた。
 僕は、静かに問う。
「僕を連れて行きたいの?」
 この苦しみの中に。道連れとして。あなたを傷つけた僕を、あなたに似ている僕を――。
「でも僕はあなたとは同じ道は行かないよ、シロ」
 だって、僕には大事な人がいるから。あなたと同じ末路をたどりはしない。
 だから安心して、シロ。僕はもうあなたの後を追いかけるだけの、幼い子供ではないから。
 ふっと、彼は動きを止めた。僕は自然と笑みがこぼれるのを、どこかで冷静に感じていた。僕の微笑みに、彼も応えて笑ってくれた、ような気がした。
 そうしてそれっきり、彼の目は光を消した。
 握り潰されておかしな方に曲がった手が、いまさら思い出したように痛み始めるのに、冷たくなったシロの手はそれでも僕の手を離さない。
 駆けつけた医者とトキがシロの手を開くまで、僕はただ彼の亡骸の横で為すすべなく、座っているだけだった。

「羽……」
 気づいたのはずいぶん遅く。
 シロの遺体を別の部屋に安置して、医者が帰った後だった。
 トキの真っ白い羽が、無残にもかきむしられ、根元からだらりと垂れ下がっている。
「ああ、気づかなかった」
 そんなわけないのに、トキは痛みを隠してそう言う。
 あれだけ暴れるシロを背中に担いでここまで走ってきたのなら、当然だ。もっと早く気づくべきだった。
 彼の羽はずいぶん抜け、骨は折れている。
「おまえの手も、手当してもらえよ」
「もう医者、帰っちゃったから」
「せめて冷やそう。このまま化膿したら大変だろ」
「トキの羽もね」
「そうしたら少し眠ろう。明日は葬式だ」
 ああ、彼は聞いていないんだ。僕は小さく、頭を振った。
「葬式はね、出せないんだって。自ら羽をひきちぎった者には、天国に行く資格がないんだってさ」
「じゃあ……」
「それでも墓地の片隅に、埋葬してもいいんだって。エナを誘ってさ、埋葬しよう」
 今度はトキが、頭を振る番だった。
「エナ、もういないんだ」
 僕は驚いた。エナが、シロといっしょに羽をひきちぎったエナが、ここに現れないのはそういうわけか。
「……シロより先に?」
「医者を迎えに行ったときに、聞いた。シロはエナをたった一人で見取ったんだって。一ヶ月前」
「そう……」
 じゃあどうして、幸せだなんて答えたの、シロ?
 悲しみはとっくにあなたを覆っていたというのに。
 そして僕はどうしてそれに気づくこともせず、彼を最後まで傷つけたの?
 彼と自分は似てるって、そう思っていたからこそ慕ってもいたし嫌ってもいた。
 なのに彼と僕はちっとも似てなかったじゃないか。彼は僕のことをわかってたのに、僕は彼のことを理解することもなく。ただ傷つけて。
 僕は何一つわかろうともせずに、最後まで……。

 ――ゴーンッ ゴーンッ ゴーンッ
 重くて悲しい鐘の音が、町に染み渡る。

 埋葬は晴れた高い空の下、僕とトキだけ。
 神父さんが貸してくれたスコップで、少しずつ土をかける。片手しか使えない僕に、トキは手を貸してくれた。  でもそのトキの背中で、添え木を当てられた羽が小刻みに震えている。
 一枚、二枚、羽がそのたびに抜け落ちた。
 不安が、胸をよぎる。彼まで、羽を失いそうな。そして僕から遠ざかってしまうような。言い様のない不安に、僕はだんだん満たされる。
「オレ、シロと毎日話してたんだ」
 懺悔をするように、彼は土をかける手を休めずにポツリと呟いた。
「シアが知ったら怒ると思ったから、内緒にしてた」
「トキもシロのこと、好きだったの?」
「……お前のこと、聞いてた。昔はあんなにシロに懐いてたのに、今は無理に嫌ってるように見えたから、心配で」
 やっぱりトキは、繊細で優しい。だけど、お節介だ。
「ふうん。シロ、何か言ってた?」
「幸せになりたかったって」
「そう」
 幸せに、なったんじゃなかったの?
 僕には幸せだって言ったよね、シロ?
 なのに僕にはシロの、幸せだと言ったときの辛そうな表情しか、思い出せない。
「ここに残れば、ずっと幸せだと思ってたって。それまでと同じように、幸せな毎日が過ごせるって。でも、違った」
 僕は、口を挟めない。トキは土をかける手を休めない。
「シロが言ってた。羽を引きちぎった本当の理由は、ただこの生活を続けたかったからなんだって。二人だけで幸せになりたかったんじゃなくて、シアや、他の子供たちがいるここを出て行くのが嫌で、ずっと皆で仲良く暮らしたかったからだって」
 なんて勝手な言い分。誰だって変わっていかなきゃいけない、生活していかなきゃいけないのに、二人だけがその変化を止めてここに留まることなんて、許されるはずも無いのに。
「だけど羽を引きちぎってまでここに残っても、あるのはいつ来るかわからない終わりへの不安。恐れ。そして、変化した環境が、何より辛かったって」
 死ぬことを、もちろん二人は知っていた。それが怖いのは当たり前だ。
「二人は、もう羽根を持たない。でも大人にもなれなくて。羽を持つ子どもを見て、羨ましさと憎しみを感じた。もう決して、その中には戻れないってわかったからさ。
 なんで自分たちがこんなに苦しまなければいけないのか、すごく悔やんだって。
 もう戻れない楽園が、目の前にずっとある。そこから抜け出せない苦しみを、エナと二人でずっと感じていなきゃいけなかった。
 それに……」
 言葉を切ったトキの瞳が、迷ったまま僕を見る。
「僕のこと? いいよ、話して」
「シアに申し訳なかったって。どうしてシアが怒ってるのかがわかるから、謝ることも出来なかった。それだけが、心残りで」
 いや、僕の怒りを二人が理解するはずがない。
 だって僕の怒りは、僕のものだから。僕の中に渦巻く汚いものだから、二人が理解するはずなんてない。
 おいて行かれた悲しみを。仲間はずれにされた寂しさを。言葉にすればこんなにチープなこの怒りを、慰めてほしくなんかない。謝ってほしくなんかない。
「本当は自分とは似てないシアを、似てる似てると思い込んでたのはシロの方なんだって。そのせいで、シアを自分と同じ所まで落としてしまうとこだった。
 でも、シアが自分のようになっちゃいけないって、羽をなくして初めて思えた。 だから自分の代わりに謝ってほしいって。自分はもうシアに謝る機会を与えてもらえないだろうから、自分が死んだらシアに謝ってほしいって。
 自分に似てると言い続けて、シアの心を閉ざさせてしまって、ごめん。だから俺のようにだけは、なるなって」
 ――だから君は、俺のようにはなるなよ。
 シロの声が、不意によみがえる。悲しい瞳で、だけど強い意志で、あなたは笑いもせずにそう言った。

 気がつけば、僕はあの部屋に閉じこもっていた。スコップを投げ出して、走って寮に戻って、アトリエに鍵をかけて。
 不意に沸き起こる感情の本流が僕の中で渦巻いて僕を全て染め上げてしまう。
 誰の話す声も耳に入らない。トキの声さえも、僕の心を捕まえられない。
 だって、シロは死んでしまったのだから。
 シロに似ているといわれて嬉しかった幼い僕。
 シロとエナと一緒にいるのが、何よりも幸せで。
 シロが優しくないのを知っていて、それでも優しく振舞おうとしていたのを知っていた。僕も優しくないから、シロのように優しくあろうと真似をした。
 似てないのは僕の方だ、シロ!
 優しく振舞おうとしていた本当のあなたの優しさに、気づかなかった。辛さや苦しみを抱えて、それでも幸せを探していたあなたを、責め立てた。
 あなたは僕のことを心配してくれたのに。
 僕はあなたに伝えたいことがたくさんあるのに、もう全てが手遅れなんだね、シロ!
 謝りたいんだ、シロ!
 僕はあなたに謝らなきゃいけないんだ!
 でも、もう伝わらないね。どんな言葉も、あなたには届かないね。
 僕は、筆を取った。
 描きかけの天使の絵。
 天使は、純真無垢じゃなくていい。悩み、苦しみ、辛さを知って、それでも幸せを求める姿を。空へ、空へと羽を伸ばす姿を。
 僕は描くよ。
 もう届かない気持ちを、言葉を、僕はこれでしか表せないから。
 あなたの笑顔を覚えていない僕だけど、あなたがどうやって笑っていたかは知っている。
 僕は一心不乱に、絵を描き続けた。
 パレットを持てない左手は、そのままギプスの上に色を乗せてパレット代わりに。寝るのは絵を乾燥させるときだけ。アトリエに毛布だけを持ち込んで、床で寝た。
 生活のほとんどを僕は捨てて、ただ絵を描く。この情熱の本流が枯れないうちに。僕の理性が落ち着かないうちに。僕は、僕は……。

 久しぶりにベッドで寝たときには、もう何日経っていたかわからなかった。
 油まみれで出てきた僕を、友達は心配そうに見つめていたけど、僕は言葉を交わす元気すらなく、ただ部屋に戻ってシャワーを浴びてベッドに突っ伏した。
 柔らかくて温かいベッドの感触に、僕はすぐに意識を失う。
 だけど深夜に目が覚めたのは、不安が胸をよぎったからとしか言いようがない。
 違和感があったのだ。
 トキが、いない。
 アトリエにこもって最初の数日、声をかけ続けてくれたトキがいない。
 僕があまりにも反応しなかったから怒ってるんだろうと思ってたけど、だから僕と会わないようにしているんだろうとしか思えなかったけど、でもどこかで心に引っかかる。
 トキは、そんな奴じゃない。言いたいことがあれば、真っ先に正面から堂々と言うはず。
 僕は起き上がって、隣の空のベッドを見つめた。
 窓から青白い月明かりが入ってきて、そして僕は見てはいけないものを、発見した。
 ベッドの下にある、白いものを。
 恐る恐る引っ張り出してみると、それは落ちた羽だった。骨の根の方が折れている。
 シロをつれてくるときに折れた、トキの右羽。
 ――右が落ちれば、女の子。
 僕は、すぐに奥の部屋に続くドアを開けた。トキがいるとしたら、そこしかなかったから。
 あのトキの右の羽が落ちたなんて寮生に知られたら、噂にならないはずがないし、誰かが必ず僕に言っただろうから。何も聞かなかったってことは、トキが皆から隠れてるとしか思えなくて。
 だとしたら、いるのはここだ。物置代わりの小さな部屋。
 僕はまた、大切な人を失うかも知れない。何も伝えられず、何も分かり合えないまま。そんなのは、もう嫌だ!
 ドアは鍵もかかっていなくて、すんなりと開いて。
 目に飛び込んできたのは、おびただしい数の羽、羽、羽。
 紅い血にまみれながらもその白さを強調する、羽。
 鋭いはさみを手に、血塗られた羽で、力なく笑うトキ。何も纏わない上半身で、その背中と羽の付け根に走る、赤い糸。いや、鋭く肉を抉った、痕。
「手がさ、後ろまでちゃんと届かねぇんだよ。だから下の方ばっかり切って、肝心の骨が背中から外れてくれねぇんだ」
 ガサッ、ガサッ、と僕に踏まれた羽が悲鳴をあげる。もうトキにはまともな羽なんて一枚も残ってなくて、途中で切れているか、血にまみれているか、抜かれているか。
 僕はトキを抱きしめた。
「どうして羽を落とそうとするの?」
「女にならないためだよ」
 かすれた声で、トキが答える。
「シロの最期を見たのに? それでも、羽を落とそうとするの? 2年しか生きられないってわかってても」
 ビクッと、トキのからだが震えた。
「でも、駄目なんだよ。オレは女じゃ駄目なんだよ。2年間……、2年間いられるならそれでいい。女になんかなりたくないんだよ!」
「女でも男でも、トキはトキだよ。どうしてそれじゃ、駄目なの?」
 カラン、とはさみが床に落ちる。僕はトキを抱く腕に力を入れた。
「だって女になったら、お前を守れないだろ!」
 搾り出すような涙声で、トキがそう言った。
「オレはおまえが好きなのに、俺が女になったらおまえを守れないし、お前と一緒にはいられない! 同性じゃ、結婚も出来ないし、好きでいる事だって認められないんだろ。だったら2年間だけでも、今までどおりおまえと暮らしたかったんだよ」
 僕はトキの体を自分から引き離す。
 そうして真正面からトキの顔を見た。弱く、打ちひしがれた少女が、そこにはいた。
「そんなものなの?」
 僕の声は、月の光よりもはさみよりも鋭く、トキに突き刺さる。
「トキの想いはそんなものなの!? 男とか、女とか、そんなものに左右されるような、そんなに軽いものなの!? たった2年間で満足できる、その程度のものなの!?」
 僕は、残された右腕で時の頭を支えたまま、彼に口付けた。
 柔らかい感触が、一瞬だけ。
「僕はトキが好きだよ。男でも女でもトキが好きだよ。それじゃ駄目? だって性別があったって、羽が無くたって、僕は僕だもの。僕がトキを好きなのは、変わらないんだよ? 一生トキと一緒にいたい。そばにいてほしい。性別なんか関係ない。だって僕が好きなのは、トキだから」
「だって、男じゃなきゃ守れない。シアを守る存在でいたかったのに!」
「力があるだけが守ることにはならないだろ?
 僕が羽を落とさなかったのは、トキがいたからだ。いつも元気で笑ってるトキが隣にいたから、僕は僕でいられたんだよ。
 お願い、トキ。
 僕の前からいなくならないで。
 愛してるんだ、トキ。
 トキじゃなきゃ、嫌なんだ。
 トキがいなくなるかもしれないって事が、怖いんだ。
 僕のそばにいて、トキ、お願いだから、トキ」
 僕はもう一度、トキの目をしっかり見て確認してからゆっくりと口付けた。トキは、恐る恐る僕の背に手を伸ばして、そしてしっかりと抱きしめて。
 僕たちは固く抱き合いながら、何度も何度もキスをした。

「絶対に開かないって感じだろ」
 僕が金槌を持つ手を休めて振り返れば、トキが呆れ顔でそこに立っていた。羽はすっかり元に戻ってきれいなままで、僕の左腕も少し痩せたけれども元通りにちゃんと動く。
 あれから、何も変わらない日常が続いている。いや、ちょっとだけ、トキが自分のことを私って言うようになったとか、よく頬を染めるようになったとか、胸が出てきたとか、そういう変化はあるけれど、基本的な僕達の生活は何も変わらない。
 そんな日常の中で、僕は一枚の絵を描き上げて、そしてアトリエのドアを打ち付けて塞いだ。
「そりゃ、絶対に開かないだろうけどさぁ。台風の前じゃないんだから」
 僕もドアを見直して、言われれば確かに台風の前みたいだと納得する。大きな板で左右を何枚も何枚も釘で打ち込んで封印してしまったドア。
 開かずの、僕のアトリエ。
「よかったのか? あの絵、本当にすごいのに」
「いいんだよ。ここは天使の墓。僕の幼さを埋葬してるところだから」
 部屋の中にはイーゼルが、一つ。そこにあるキャンバスには、大きな羽を持つシロの肖像。
 優しく微笑んでるシロじゃない。もっと強く、激しく、憂いを秘めながらも幸せを探す、シロの横顔。
 大きな羽で、空を夢見る。僕から見た、シロの姿。
 それだけが部屋にある。そのドアを、僕は封印した。
 思い出は過去に。
 それは振り返るものではなく、ただ僕が歩いてきた軌跡。
 そして僕の過ちの確かな証拠。
 だけれども温かい、楽園の記憶。
「シロのこと、好きだった?」
 トキが複雑な表情のまま尋ねてくる。最近の彼女は、前ほど単純じゃなくなった。いや、単純なフリをしなくなった。そこが、イイ。
「好きだったよ。トキも好きだったろ、シロのこと」
「そういうのじゃなくて……」
「愛してたかって?」
 トキが頬を染める。まだまだうぶな彼女のそういうしぐさは、可愛い。伸びかけの髪の毛と、丸みを帯びた体つきが、余計にトキをいとしく見せる。
 僕は抱きつきたくなる衝動を我慢して、でもまだ少し震える心が怖くて、トキの手を掴んだ。
「最初は、僕も愛してるって思ってた。でも違ったんだ。やっぱり僕とシロはよく似てたと思う。だから、一緒にいたいと思ったし、あこがれてたし、嫌ってた。兄さんみたいな人だったよ。だから好きだけど、愛してるわけじゃない」
 だから僕は、シロへの感情をアトリエに閉じ込める。
「さ、行こうトキ! 一緒に!!」
 手をつないだまま、僕達は歩き出した。遠くで鐘が鳴っていた。




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