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Last update 2007年10月07日

タイトルなし 著者:kazumi


何もかもかもがぐっすり眠り込んでしまったみたいに静かな午後だった。

丘の上の静寂は、緩やかな風の音にさえも自己主張を与えていた。
見下ろす街はめまぐるしい喧騒に満ちながら、一切の音の伝達が届かぬ丘の上からは、まるでコマ送りの八ミリ映画のような現在感が無かった。
こうして二人でここ立っていること自体にも、現実感や、時間の観念がうすらいでいく。
唐突に背中に吹き上げてきた追風にあおられたふりをして、僕は彼女の肩に胸を近づけ、そのまま横抱きに抱きしめた。
予感を現実にするべく、彼女は動かずにいる。と、僕はうぬぼれた解釈をした。
きっと彼女も、この現実感の無さを、ぬくもりで埋めたい衝動の中にいるのだと。
その顔をもこの胸に引き寄せようと、彼女の頬に手のひらを置いた瞬間、彼女がつぶやいた。
「あの・・・。背中を。うしろから、だいてもらえますか。。。」
「ん?」
急に敬語に変わった。その心理を思うと、僕は思わず顔がほころんだ。。
たぶん、彼女は人生で初めて「甘える」という作業を試みている。
黙って背中から彼女を抱いた。二人して街を見下ろすように。
そして無言のまま、しばらくの間 風の音を聞きながら、僕たちは街を見下ろし、やがて彼女は肩の力を抜き、ようやく背中を僕の胸に預けてきた。重みが伝わってきた瞬間、彼女の心が僕にほぐれて流れ込んできたように感じた。
「・・・安心って、こういうことなんでしょうか・・」
彼女は敬語を続ける。軽く咳払いをし、真面目な声を作り、『そうですね』と僕は言った。





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