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Last update 2008年03月16日

In Love  著者:Monica



「はっはー ジャストミート!」

ジャスティンが子供のようにテレビゲームにむかって声をあげてる。
昔は、こういう彼の子供っぽいところがたまらなく愛しくて、
その大きな背中に抱きついて顔をうずめずにはいられなかった。
それなのに、いったいいつからその子供っぽさが私をイラつかせる原因になってしまったんだろう。

恋の賞味期限は4年だという
知り合って3年になるジャスティンとのこの恋は
あと一年で終わってしまうのだろうか。

今でも彼を愛してる。
それはどうどうと胸を張っていえる。
後ろめたさは微塵も無いのと同時に
昔感じていた愛という言葉に対しての
気恥ずかしさもない。

ずっと恋心を持ち続ける事は不可能なんだろうか。
愛しかったなにもかもが色あせて
もう私の胸を暖めたりしない。

誰よりも大切に思ってる。
きっと彼に困る事が起きたら
家族よりも親身に彼をサポートすると思う。
彼の痛みは私の痛み。
彼の喜びは私の喜び。
世界中がジャスティンを信じなくても
私だけはきっとジャスティンを信じる。
そういう気持ちは変わらないのに
ゲームに一喜一憂する彼を憎々しく思う。

「もぉ、一日中ゲームばっかりやってないで、もっと何か生産的な事でもしようと思わないわけ?」
いらいらしながら、嫌味のひとつも言いたくなる。

「たまの休みくらい、ぐーたらさせてくれよ、俺の勝手だろー?」

休みじゃなくても、ぐーたらしてるじゃないと言いかけて
それは言いすぎだと自分をたしなめて言葉を飲み込む。

彼と結婚したら、きっとこんな日曜日を繰り返すのだと思うとうんざりする。
あんなにも胸を締め付けていた何かがもう
今は感じることさえ出来ない。

きっと彼とこのまま付き合っていけば
私たちは結婚するのだろう。
お互い大きな不満も無く、障害もない。
だけど、私の中にひっかかるのは
恋をした時のあの高揚感。
床から5インチ浮かび上がっているような
ふわふわとしたあの浮かれた気持ち。
見詰め合うだけで沸騰しそうになるあの特別な何か。

あぁ、でも、もう正確に思い出す事さえ出来ない。

「オーマイガッ!ファック!!やられちまった!」
コントローラーを床に投げつけてる。
また壊さないといいけれど・・。

「ねぇ、散歩に行って来るわ。」

 ・・・返事さえ、無いのね。
友達に言えば、どこのカップルだって3年も付き合えばそんなものだと言う。
いつまでも仲睦まじく笑い合える関係なんて夢物語なんだろうか。
違うと信じたいのは、あたしの中のかわいらしい少女の心で
大人になれば、消えていく幻のようなもの。

マンハッタンの冬の寒さが好き。
故郷のウラジオストックを思い出す。
10歳までしかいなかったけど、それでも刺すような寒さだけは
なんとなく覚えてる。
家から歩いて5分のバッテリー公園は私の心のオアシス。
海風が刺すように痛い中、スターバックスのモカラテをすすりながら
ベンチに座って自由の女神行きのフェリーを眺めていると
頭の中を駆け巡る日々のいろいろな事柄が静かに着地すべき場所に着地していく。
もちろん、かならず効き目があるわけじゃないけれど。

ふと、足元に毛むくじゃらの子犬が絡み付いてきた。
周りを見渡しても飼い主らしき人はいない。

「おまえ、どこのこ?こまったなぁ」

ひざに抱き上げてなでやる。
ふふ、あったかくてちょうどいいかも。

暖かな相棒を得た私は、心地よくモカラテを飲み干すまで公園を行きかう人々を眺めてた。
ジョギングする人、手をつないで歩く恋人同士、観光客らしきグループ。

「すいません、その犬、あなたの犬ですか?」
ふと、やさしそうな目をしたブロンドの男の人に声を掛けられた。

「いいえ!あなたの犬ですか?良かった。飼い主を待ってたんです」

「どうもありがとう。つい知人とおしゃべりに熱中してしまって目を放した隙にいなくなって
ずっと探していたんです。」

彼は人懐こそうな笑顔で隣に座ると子犬をなでながら
「ありがとう」と心を込めてまっすぐ私の目を覗き込んだ。

あまりに真剣な眼差しに、私の心臓は飛び跳ねたように大きく高鳴った。

何も言い返せずに見つめ返した私と彼は見つめあったまま
視線を外す事が出来なかった。
そのまま彼は私の唇に口付けた。

こんな事、生まれて初めての出来事だった。
一目見つめあった瞬間にこの人だと解った。
お互いにお互いが強烈に惹かれあって
名前さえ知らないまま、それがさも当たり前の事のように
ただキスせずにはいられなかった。

こんな時、言葉なんかなんの意味も無いって知った。
だって、なにを言えばいいんだろう。

キスをしてしまった後に自己紹介なんて
なんの意味も成さない気がして、キスをした後、二人でただ微笑み合った。

それだけ。

私たちはそれから何度も公園で「ばったり」会うというデートを繰り返した。
初めて会った時以降キスもしなかった。
その事にさえ触れなかった。
不自然なほど自然に、私たちは近いうちに結ばれる事を
互いに確信しながらも、ゆっくりと関係を深める手段を選んだ。

2回目に会った時にはじめて自己紹介をし合い
エーヴェルトというフィンランド系アメリカ人である事を知り
3回目に会った時に彼がSOHOに小さな画廊を経営している事を知った。
急激に恋に落ちて、ゆっくりと関係を進める事はすごくもどかしかった。
それでも、彼のそのやり方に私は乗った。
私たちの関係に確信があったからだと思う。

簡単に進める事も出来たけど
彼はそうしなかった。
初めて見つめあいキスした以外、彼はとても紳士だった。
丁寧にゆっくりと、恋の始まりを謳歌しようとしてるように見えた。

一度だけ急いで関係を縮めようとした私に、彼はこんなたとえ話しをした。
短時間で濃い味でマリネしたコッド(白身魚)はすぐに腐ってしまうんだ。
だけど、時間をかけてゆっくりとマリネしたコッドはすごくおいしい上にいつまでも新鮮なんだ。

料理があまり得意じゃない私は、それが本当かどうかは知らないけど
彼が何を言いたいのかだけは解って、私もゆっくりと恋の始まりを楽しむ事にした。

もうすぐクリスマスだというのに、今日もジャスティンはクリスマスのショッピングにさえ出かけず
ビデオゲームに夢中になってる。
遅くなったけど、まだ彼はいつものバッテリー公園にいるだろうか。

「散歩に行って来る。」

「この寒い晩に散歩にいくの?やっぱロシア人は違うね。」

マンハッタンで生まれ育ったジャスティンは
あたしの郷愁の念をいつもバカにする。

でも、フィンランドの血を引くエーヴェルトはきっと解ってくれるだろう。

気持ちを打ち明けあう事さえまだ先になるだろうけど
沸き立つ高揚感に胸を押さえながら
5インチどころか10インチは浮かんでいそうなあたしの足は
うきうきとバッテリー公園へ小走りに向かってる。




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