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Last update 2008年03月16日

Sacrifice  著者:知



「あれは事故だったんだ。そんなに自分を責めるな」
 自分で言ってなんだが、反吐が出そうな言葉だ。
 そんな言葉は全く意味をなさない。そんな事はあいつもわかってる。でも、そんな一言で納得ができるはずがない。


 あの事件が起こってからこの世界は変わった。
 科学の世界から魔法の世界へと……何故、こんなことになってしまったのか判明していないのだが、殆どの科学技術が使い物にならなくなってしまった。
 その代わり使えるようになったのが魔法だった。
 使える者と使えない者が存在するが魔法は科学の代替技術としてゆっくりとではあるが発達している。現在はまだまだ黎明期といったところだろうか。

 魔法が科学の代替技術……魔法は決して万能な物ではなく、飽くまで科学でできていたこと――例えば火をつける等――ができるだけ。
 ……そう、一般的には思われている。
 でも、それは違う。何故、そう言い切れるのか。
 俺、あいつ、そして……妹の雪が異能ともいえる力を持っているからだ。

 魔法は黎明期……だからか非人道的な実験が秘密裏に行われている。
 その実験の対象になるのが、異能の力を持っている者だった。
 俺達も異能の力を持っている事がばれてしまい、連れさらわれそうになった。でも、実際に連れさらわれたのは雪だけだった。
 おとなしく捕まる代わりに2人は見逃してくれるように雪が話を持ちかけたからだ。

 何故、その時俺が捕まると言わなかったのか、捕まるなら3人一緒だと言わなかったのか、俺もあいつもそう後悔しているのだ。

 それから2週間後、雪が連れて行かれた実験所で事故が起こり、その実験所にいた者は皆死んでしまった。

 何故、雪が死ななければならなかったのか。
 俺とあいつの怒りは自分自身に向けられ、最後にはこの世界に対して向けられた。

「こんな世界滅ぼしてやる。俺にはその力がある」
 そう、あいつが叫んだ時、違和感が生じた。

 上手くできすぎているのだ。
 世界を滅ぼそうと思っている者に、そうするだけの力が備わっている。
 そんな都合のいい話があるのだろうか。

 俺は動物と意思疎通ができ、動物を意のままに操ることができる。
 それはモンスターであっても、だ。
 モンスターを操り、襲わせる。そうするだけで、人類は簡単に滅んでしまうだろう。
 さしずめ俺はRPGの魔王と言ったところか……


 なら、魔王を演じきってみせようではないか。


 世界を滅ぼそうとする魔王が生まれたのなら、世界を救おうとする勇者が生まれるはずだ。
 誰だって死にたくない、滅ぼされたくないから、人は一丸となって魔王を倒そうとするだろう。

 ……なるほど上手くできたシステムだ……

 今まで神がいるなんて信じていなかったが、信じざるをえない。
 神ではなくこの世界を作った者といった方が正しいか。
 ならそのシステムに乗ってやろうではないか。
 俺がこのシステムに気が付くことも決められていたことかもしれない。
 その先に、平和な未来があるというのなら、魔王を演じ切り、見事勇者に倒されようではないか。
 根城は……そうだな、あの事件――科学から魔法の世界へ変わった原因とされている事件のあった中心地がいいか。


 魔王として君臨してから数年経った。
 まだ勇者は俺の元に現れない。
 初めから強いモンスターをけしかけているわけではない。でも、俺の元に辿り着く前にモンスターに殺されてしまう。
 でも、手を緩める気は全くない。
 殺されるなら本当に強い者に殺されたい。それぐらいの我侭ぐらい許されてもいいだろう。


「ここは……どこだ……」
 何かいい策はないかと考え事をしながら歩いていたせいか、迷ってしまった。
 鳥獣系のモンスターを呼び出して帰るか、そう思った瞬間、前方から今まで感じたことのない気配がした。

「なっ……」
 何時もの俺なら気にせずに帰るのだが、妙に気になって確認してみると目の前には信じられない光景が広がっていた。
 何世紀も前になくなった自然がそこにはあったからだ。それもあの事件があった中心地に……だ。
 俺の意思とは関係なしにフラフラと1歩踏み出した瞬間、何か壁みたいな物にぶつかった。
「……結界?」
「ごめんなさい。あなたをこの場所に入れるわけにはいかないの」
 目の前に12、3歳ぐらいの少女が立っていた。
「あなたは血の匂いが染み付いている。この子達にとってそれは猛毒だから」
「そうか……」
 俺が自ら手をくだした事はない。でも、俺の手は血に濡れているのは間違いない。
「ごめんなさい」
「どうして謝るんだ?」
 おそらく彼女はこの場所を管理しているのだろう。それなら俺を入らせないのは当然で謝ることではないはずだ。
「あなたはあなたの役割を果たそうとしているだけだから」
「!?……もしかして、君は……」
 それに続く言葉が俺の口から発せられることはなかった。
 彼女のそれ以上は言っては駄目と言うように悲しそうに首を横に振る姿を見て俺の考えが正しいことがわかったから。
 おそらく……神に近しい存在なのだろう。

「君の……名前は?」
 ふとそんな言葉が俺の口から出ていた。彼女の名前を知っても何にもならないのに。
「……そら……宇宙と書いて、そら」
「そら……か……」
 科学が発達し宇宙は決して遠いものではなくなった。
 でも、今、又、宇宙は遥か遠いものになってしまっている。……人類は又、宇宙まで辿り着けるのだろうか……
「……宇宙はあなたを愛してはくれませんが、許してはくれます」
 暫く黙っていると彼女がそうぽつりと、しかし力強い声で呟いた。
「誰も見ていなくても、誰も知らなくても、宇宙は見ていますし、知っています」
 私が見ていますというように。
「ありがとう」
 そう呟くと彼女に背を向け立ち去ろうとした。
「行くの……ですか……」
 彼女の一言に一瞬だけ歩みを止め、すぐに歩き出した。


 観客の誰もいない舞台だと思っていたが、観客はいるようだ。
 なら、一世一代の大演技を披露しようではないか。




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