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Last update 2008年03月16日

永久に悠久に  著者:知



「人が変わっていくのは救いであって、自分が変わらない世界なんて、私はごめんこうむりたいわ」

 彼女のその一言が強く印象に残った。
 変わっていく事が救い。
 何百年と変わっていない僕にとってその言葉が信じられなかったからだ。



 姿形が変わることなく永遠の時を過ごす一族がいる。
 決して歴史の表舞台には登場しない。しかし、様々な世界を旅し、歴史の導き手として世界に関わっている一族がいる。
 僕もその一人だ。
 でも、僕は……僕と双子の妹である悠(ゆう)は一族の中でも毛色が違う。
 一族と言っても血族関係にある者は殆どいない。
 夫婦である者たちもあまりいない。
 契約を結び一族の一員となる……とのことだ。
 僕と悠が毛色が違うと言った訳はそこにある。
 一族の父と母の間に生まれたのが僕と悠。

 僕と悠は生まれながらにして一族の一員。
 自らの意思で契約を結ぶことなく、契約を結んでいる状態で生まれてきたのが僕たち兄妹だった。

 一族になった者どおしの間に子どもができたのは僕達兄妹が初めて。
 一族になった者は姿形が変わる事がなくなる。
 契約をしている状態で生まれた子どもが成長するのか。
 子どもができたとわかったとき、色々な物議を醸した。
 実際は悠は16歳のときに成長が止まり、僕は20歳のときに成長が止まりそれ以降、姿形は変わらなくなった。 

「あれ? 珍しく兄さんが何か考え込んでる様子」
 背後からそんな失礼な言葉が聞こえてきた。
「……そんなに珍しいか……」
「うん、とても」
 振り返り、じと目で見ながら返した言葉に満面の笑顔で頷く妹……情け容赦が全くない。
「冗談は程ほどにして、長いこと考え込むのは本当に珍しいよね」
 悠の言葉に軽く落ち込んでいる俺に対し、地面に腰を下ろし小首を傾げ俺の顔をじっと見ながらそう言った。
「冗談だったのか?」と返したら「勿論、そんな訳ないじゃない」と返ってくるのは明らかなので、何も言わず肩を竦め苦笑を浮かべながら悠の隣に腰を下ろした。
 心地よい風が吹き抜ける。
 町を一望できるこの丘は二人にとってこの世界でのお気に入りの場所だ。
 ……彼女ともこの場所で出会ったんだよな……
「私は……兄さんが思うように行動すればいいと思うよ」
「直感でそうした方がいいと思ったんだよね? だったらそうするのが正しいんだと思うよ」
 沈黙を破り、悠が微笑みながらそう言った。
 俺は直感で動く事が得意で、悠は考えて動く事が得意。
 逆に俺は考えて動くことは苦手で、悠は直感で動くことは苦手(というか裏目に出てしまう)
 このように俺と悠は得意な事、苦手な事が真逆になっている。
『片翼の天使』
 互いに互いの苦手なところを補いあっていることから俺と悠はそう呼ばれることもある。
 そうは言っても、一人だけでも大きな問題があるわけではないが……
「……兄さん……」
 悠の言葉に何も返す事ができず黙って立ち去ろうする僕を呼ぶ小さな声が強く耳に残った。


「……はぁ……」 
 兄さんの後姿が見えなくから思わずため息が出た。
 何をそんなにためらっているのかな。契約を切ることは珍しいことではないのに。
 一族の一員になることは断られたと兄さんは言っていた。なら、彼女と一緒にいたいのなら契約を切るしかないのに。
 契約を切れば不老不死でなくなる。この世界で暮らす事ができるようになる。
 すべき事をし終えた者は契約を切り元いた世界に帰っていくのが慣わし。
 兄さんと私は自分の意思で契約を結んだわけではない。
 『片翼の天使』と呼ばれるのはそこにも理由がある。
 永遠に生きることの苦しみ。その苦しみに耐えてでも成し遂げたい事、成し遂げようとする意思。
 それらが私と兄さんにはわからないし、ない。
 一度契約を切るのは私と兄さんにとっては必要なことだと思う。
 一緒にいたいと思う人が現れたのなら、契約を切るのにこれ程いいときはないと思う。
 兄さんにしか見えていない何かがあるのかな。

「ごめん、少し遅れた?」
 顔を上げると腰まである長い髪をした女性が立っていた。
「私も今来たところだから」
 この世界での唯一の友人、永久(とわ)の何時もの言葉に私も何時もの言葉を返した。
 お互いに知っているのは名前だけ。
 詳しいことは何も聞かず、話さず。
 草の上に腰を下ろして他愛のないおしゃべりをしたり、何もせずぼーっとしたり。
 私は永久と一緒にいるときの空気が好きだ。
 もし、私が男性か永久が男性だったら一緒にいるために契約を切ることを真剣に考えたかもしれない程に。
「……どうしたの?」
 私の隣に腰を下ろし、ぼんやりと前を見ていた永久に思わずそう声をかけた。
 お互いの詳しいことは何も聞かない、話さないようにしてきた。
 永久の悩んでいる様子は何度か見た事がある。でも、今の永久の様子は何時もとかなり違う。
 そう思うと、自然と口からそう言葉が漏れていた。
 先程の兄さんの様子に似ていたからかもしれない。
「……大した事じゃ、ないんだけどね……」
 私の言葉に少し驚きつつもそう返してきた永久の言葉は、大した事であることがはっきりとわかる口調だった。
「悠は永遠の世界ってどう思う?」
「! なんで急にそんなことを?」
 話すか話さないか悩んでいた様子の永久が覚悟を決めたようにそう聞いてきた。
 その内容に私はびっくりして、でも、それを隠すようにそう尋ねた。
 どうやら永久との会話の中でよくでてきた彼――聞く感じだと友達以上恋人未満のようだ――にそう聞かれたようだ。何て答えたのか尋ねると。
「『自分が変わっていくのは救いで、自分が変わらない世界なんて耐えられない』って答えたわ」
 その言葉に頭の中で何かが繋がった。
「そう答えたときの彼の寂しそうな、何とも言えない顔が頭に残ってて。でも、どんなけ考えても、私は永遠に生きるなんて耐えられそうになくて」
 そうぼそぼそと呟く永久を余所に、私の頭の中では兄さんのある言葉が繰り返し再生されていた。
『あれだけ意見が対立しているんだから、そんなことができるわけがないよ』
 兄さんの話によくでててきた彼女。
 そんなに気になるのなら、彼女に一族の一員にならないか誘ってみたら、と兄さんに言ったときに返ってきた言葉。
 兄さんの話と永久の話……今まで2つの話だと思っていたけど……
 私は黙って腰を上げ、スカートについた汚れを払ってこの場から立ち去ろうとした。
「……悠?」
 不思議そうに私の名前を呼ぶ永久に、1つだけ尋ねた。
「ねぇ、その彼の名前、教えてくれる?」
「えっ……久(ひさし)だけど……」
「そう……」
 私は永久の返事に気のない返事をし立ち去った。
 実のところ心臓が破裂しそうなほどドクドクいっていた。
 予想通りの返事だったけど、実際にその名前が出ると予想以上に体が反応した。
「……悠」
「……兄さん」
 丘の入り口で兄さんに会った。
 どうやら悩むのは止めたみたいだ。覚悟を決めた目をしていた。
「永久なら、奥にいるよ」
「……そうか」
 永久の名前を私が言ったことに一瞬びっくりしたみたいだったけど、すぐに気を取り直して彼女の永久のいる奥の方へと歩き出した。



 言葉というのは、きわめて乱暴なもの。
 思いを全て言葉にすることは不可能。
 だからすれ違いや衝突が起こる。
 でも、言葉にしなければ伝わらない。
 兄さんと永久がどのような答えを出すのかはわからない。
 でも、それがお互いにとっていいものであることを願わずにはいられなかった。




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