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Last update 2008年04月12日

闇夜物語    ~The Last night episode 1~  著者:真紅



子供の頃から何度も、そういう夢を見たことがある。

太陽がとても明るく世界を照らし、人々の溢れんばかりの笑顔が見える。
その中で私はゆっくりと跪いて、僅かな変化の兆しを見せる自分の身体をそっと撫でゆく。

私が指で撫でた所が、優しい風に吹かれる度に徐々に砂山の如く崩れていく。

子供達は、私のその姿が見えていないのか無邪気に辺りを駆け回る。
大人達も、それを見て手を叩いて笑ったり、語り掛けるように微笑む。
不思議と、この人達全てを護ってあげたいと思える。
私の両の目はもう色を失ってしまったのか、全てが白黒の映像になる。
その風景に、空っぽになったはずの私もどこか満たされていくのを感じた。

痛くは無い。

そう、身体だけはもう痛みすら感じないほど崩れ落ちた。
しかし、心だけは「誰かに愛されたかった」と叫んでいるのを私自身知っていた。
叶わない願いを、いつまでも持ちながら果てるのは望ましくない。
私は自分にそう言い聞かせて、その場で朽ち果てているのだ。

だから、此れで良いのだ。

やがて私の身体はカラカラに枯れ果て朽ちて、砂となって風に運ばれる。
其処には、"初めから誰も居なかった"かのように何も残らない。
 ・・・一見悪夢のようではあるが、私にとっては幸せな夢なのだろう。

人々から、忌み嫌われ続ける"私"という存在が唯一許された幸せなのだから。

全てに色が戻る。
まるで"私"が居なくなった事を、全てが祝い喜ぶかのように。

此れで良い。

私は"無"となることが、喪失感はあるものの何故だか怖くは無かった。
ふと、一人の女性の姿がまだ枯れ果ててはいなかった私の心に映る。
砂となった身体の一部に、暖かい「何か」を感じながら――――――――。

 ――――――――――――――――――――――――

目が醒めた。
もう見慣れた夢に、少しの動揺も感じずに私は寝床から出る。
空はまだ黒く、窓から見える街も光を落とし、一時ばかりの静けさを知らせる。
恐らくまだ日を跨いで、大して経ってはいないだろう。
私は、部屋に灯る僅かな明りを消して街へと繰り出した。

家の窓から見た街とはまた違い、静けさを纏った闇を持っている場所もありながら。
街角で、互いの唇を貪る男女を見れるような、まだ活気付いている場所もある。
私は、そのどこにも興味を抱かないままに、いつもの行き付けの場所へと向かった。

そこは昼間なら子供達が甲高い笑い声と、優しさに包まれて走り回っているであろう公園だ。
ブランコは、子供達の手垢で少し汚れて。
滑り台は、逆から昇った子が居たのか、足跡が付いている。
鉄棒には、誰かの縄跳びの忘れ物が掛かっている。
ベンチで、母親がそんな姿を笑顔で見守っているであろう姿が目に浮かぶ。

私は、その全てを指でなぞる。
そのどれもが私にとっては切なくて、でもどこか安心する。
どれもが、私が欲していた物で、決して手に入らない物なのだから。

何か、暖かい物が頬を流れ落ちた。
私はそれを、ゆっくりと味わうように指で拭う。
「まだ泣けたのだな・・・あれだけ泣いたのに・・・」と驚き、呟く。

 ―――人影。
私は、咄嗟に身を隠す。

「待って!」

寝間着姿の女性が、こちらを見ながら叫んだ。
しかし、私は姿を現さずに様子だけを見る。
女性は、ゆっくりとだが私が隠れている物陰に近付いて来る。

「来るな!!」

私は、脅すような声で腹の底から叫び返す。
彼女の身体がビクっとしたかと思うと、動きが止まった。
「来ないでくれ・・・頼むから・・・」と、私は嘆くように言う。

きっと、彼女も私を忌み嫌うだろうから。
それなら、誰とも逢わない方がマシだろうから。

私は、その場から姿を消そうとした。

 ――――が。

彼女が、いつの間にか私の腕をしっかりと掴んでいた。
痛いくらいに、手の温もりが伝わるぐらいに、しっかりと。
私は、躊躇しながらもその手を振り払おうとする。
しかし、その前に彼女は私の目をしっかりと見据えながらこう言ったのだ。

「貴方が何を怖がってるのかは知らない・・・だけど私は何もしないわよ。」

私の全身から、スッと力が抜けていくのを感じた。


 ―――彼女は、その公園の近くに住んでいる。
不眠症を患っていて、寝れなくなるとたまにこうして公園に散歩に来る。
そして、今日たまたま私を見掛けて、声を掛けてみようと思った。
彼女は身寄りが無く、家に居ても一人だ。

そうやって自己紹介を終えた彼女は、私にも自己紹介をするように促す。
勿論私は言えるはずも無く、「ただのしがない男だ」と自嘲して見せた。
彼女は、当然それが腑に落ちないらしく「ふーん」と口を尖らせている。
私は、彼女のその稚拙な表情に思わず吹き出してしまった。
彼女も、私が笑ったのがおかしかったらしく口に手を当てて笑い出した。

「いつから此処に来るようになったの?」と彼女が私に問う。
彼女には「分からない」と、返したがハッキリと覚えている。
物心が付いた頃だ。
その時も、今日のように目が醒めて。
独りが嫌で、出てきた街の喧騒にも耐えれなくて。
恐怖しか感じさせなかった街のネオンから逃げて、辿り着いたのが此処だった。
確かに独りではあったが、ブランコや滑り台を独占しているという幼いながらの満足感があった。
幼い頃の、数えるほどにしか無い楽しい思い出の一つである。

幼い頃からそうしてきた私にとって、隣に誰かが居る今夜は特別で。

その彼女だからこそ、その笑顔を傍で護りたい。

そう願ってしまっていた。

私の心の中に、小さな小さな、それでいて強い光が灯る。
込み上げて来る初めての感情に、私は苦しくなってベンチで隣に座る彼女の手を右手で握った。
突然の事にびっくりしたのだろう。
さっき私が叫んだ時のように、身体をビクッとさせたかと思うと私の手を握り返した。

暖かい。

血が通う人の手は、こんなに暖かいものだなんて知らなかった。

 ――――――――――――――――――――――――

彼女と、また逢う約束をした。
今夜と同じ時間、今夜と同じあの場所で。
しかし、そこへと私は行く事はない。
私は、部屋に戻るとずっと閉め切ったままだったカーテンを開ける。
暗闇に支配された街を、ゆっくりと照らし出す陽が昇ってきている。

私の中の欲望が疼いてしまった今、彼女と逢う事はしない。

そっと、自分の中に宿った彼女との一夜の思い出を振り返る。
それ等はとても優しくて、暖かくて。
彼女と出会うまで、心のどこかにあった寂しさが消えて。
心が、彼女という存在をこの先も求めていた。

それ以上に。

私の中で息付く異形の者としての本能。
何もかもを拒絶してまで。
そうして生きてきたはずなのに。
心も身体も拒絶する本能が、彼女を求めてしまった。
それがどんな出会いであったとしても。
それに―――――。
心臓が、一度ドクンと高鳴った。

ずっと抑えていた人間の血を求める、"吸血鬼"としての本能。

それが、疼いてしまった今では。

陽が、私の左腕を、文字通り射抜いた。
左腕が、ボトリと床に落ちて砂となっていく。

痛くは無い。
夢とは違って、もう心も痛くはない。

陽は、容赦など知らない。
光の矢を、私の全身に慈悲など感じさせないぐらいに突き立てた。

私は、スローモーションの中に居るように跪く。
全身が、熱を持ち、枯れ果てて、砂となる。

彼女の笑顔が、白黒にしか見えない視界に呼び起こされる。
私は幸いにも残った、右手を愛しく見つめる。
ギシギシ、と全身に亀裂が走ったのが分かった。

「ありがとう」

枯れ果てた心と動かない口で、私は彼女に届くように大声で叫ん

 ――――――――――――――――――――――――

彼は、とても不思議な人だった。
今宵の夢に、彼は出てきてくれるのだろうか。
私の夢を彩ってくれるのだろうか。

「また逢えるかな・・・」

私は、呟いて夜空を窓から見上げた。
私が座っているベッドが、ギシッと軋んで音を立てる。
すると優しそうな笑顔を浮かべた男が、私の肩を抱いていた。
私は、あの時彼に握られた手でその男の首をゆっくりとなぞった。

私の頬に、しぜんに笑みが浮かんできた。



闇夜物語  ~The Last night Dark side episode~  著者:真紅



子供の頃から何度も、そういう夢を見たことがある。

苦しみと怒りが立ち込める、熱く咽るような空気が漂う。
その中で、私は膝まである赤く纏わり付くような池の中で立ち尽くしている。
異様な臭いが私の鼻を突いて、立ち尽くしていた私の自我を呼び戻す。
私は両手でその池の水を掬うと、それを、満遍なく全身へと塗り付けていく。

恍、惚。

鼻を突くほどの臭気にも関わらず、私の顔は笑みを宿していた。

もっと。

もっと。

私の手は、全く休む事など知らない。
池の水を掬っては身体へ、掬っては身体へと塗り付けていく。
いつしか私の白い肌は、目にするのも苦しくなるほどの赤に染まる。
恐らく、池の水のせいだけではない。
その証拠に、私の顔は熱いぐらいに上気し始めている。

視界までもが赤に染まる。

自然と頬が緩む。
この状況で笑っている自分が奇妙に思えるが、それがまた私を掻き立てる。
頭の奥が痺れるほどの恍惚に、私は池の中に崩れ落ちる。

赤い池から、私に目掛けて白い手が伸びてくる。
ゆっくりとした動きで、確実に私の全身に纏わり付いていく。

愛撫ではない。

ギリギリと、蛇が獲物を殺すように手は私の身体を締め上げていく。
愛撫ではないが、私に更に恍惚を与えるには十分な刺激であった。

もっと痛みを。

もっと恍惚を。

"私はそれを全て、快楽として迎え入れてみせよう―――――――――。"

手は、私を骨が軋むまで締め上げると池の底へと引き摺り込み始める。
勿論私は、抵抗などしない。

受け入れよう。

私は、満面の笑みで手に池の底へと連れて行かれる。
まだ僅かに、まだ左手が動く。
私は空へと。何の意味も無く左手を翳した。

その左手にも、青白い手が巻きついてくるまでに時間はさほど掛からなかった。

 ――――――――――――――――――――――――

目が醒めた。
もう見慣れた夢に、少しの動揺も感じずに私は寝床から出る。
空はまだ黒く、窓から見える街も光を落とし、一時ばかりの静けさを知らせる。
恐らくまだ日を跨いで、大して経ってはいないだろう。
私は、部屋に灯る僅かな明りを消して街へと繰り出した。

家の窓から見た街とはまた違い、静けさを纏った闇を持っている場所もありながら。
街角で、互いの唇を貪る男女を見れるような、まだ活気付いている場所もある。
私は、そのどこにも興味を抱かないままに、いつもの行き付けの場所へと向かった。

そこは昼間なら子供達が甲高い笑い声と、優しさに包まれて走り回っているであろう公園だ。
ブランコは、子供達の手垢で少し汚れて。
滑り台は、逆から昇った子が居たのか、足跡が付いている。
鉄棒には、誰かの縄跳びの忘れ物が掛かっている。
ベンチで、母親がそんな姿を笑顔で見守っているであろう姿が目に浮かぶ。

私にとってはどうでも良いのだが。

いつも私が来るこの時間、そこには誰も居ない。
しかし、今日ばかりは先客が居た。
その人物は、慈しむように遊具に触れて回っている。

「誰・・・?」

「先客」がこちらに気付くよりも早く、私は物陰に隠れようとした。

 ―――はずだった。

「先客」は、気配を察したのか私よりも早く物陰に飛び込んだ。

「待って!」

思わず、声を掛けてしまった。
とりあえず顔だけも見たくて、私は徐々に距離を縮める。

「来るな!!」

思ったよりも、威勢の良い声で拒絶されたため一瞬身体が硬直する。
私は立ち尽くしたままで、「先客」の様子を窺う。

「来ないでくれ・・・頼むから・・・」

今度は、先程よりも何倍も弱々しい声で私に投げ掛けてきた。
私はその変わり様に呆気に取られたが、瞬時に頬に笑みを宿す。

私は、地を蹴って一気に距離を詰める。
そして、その場から去ろうとしていた「先客」の腕を掴んだ。

ドクン。

私の心臓が、強く一度波打った。
それが何を知らせるかを、私は知っている。

「貴方が何を怖がってるのかは知らない・・・だけど私は何もしないわよ。」

彼は、私の偽りの笑顔という"肉の仮面"に気を許した。


 ―――私は、その公園の近くに住んでいる。
不眠症を患っていて、寝れなくなるとたまにこうして公園に散歩に来る。
そして、今日たまたま貴方を見掛けて、声を掛けてみようと思った。
私は身寄りが無く、家に居ても一人だ。

 ――――良くも、抜けぬけとこれだけ嘘を並べれるものだ。
少しそんな自分を軽蔑し、尊敬もした。
嘘を付き終えた私は、彼に自己紹介をするように促した。
すると彼は「ただのしがない男だ」と言ったっきり、黙り込んでしまった。
私は「ふーん」とだけ相槌を打って、彼の表情を窺い見る。
不意に彼は顔を上げて、私のその顔を見ると吹き出した。
私もまた、そんな彼の姿に戸惑ったが釣られて笑ってしまった。

ひとしきり笑った後に、私は彼に「いつから此処に来るようになったの?」と問う。
彼は「分からない」と答えると、視線を空へ投げて何かを思い出している様子だった。
私も、果たして何時から此処へ来るようになったのだろう。
いつも気付くと、私は此処で時間を潰していた気がする。
誰か、この公園の前を通らないだろうか。
そう願いながら、ブランコに乗って、その揺れに身を任す。
すると、見知らぬ男が近付いて来て私に金を握らせる。
男は、私の肩を抱くと下卑た笑いを浮かべて夜の街の中へと誘う。
私は、男に付いて行き自分の欲望を満たす。
そして、またこの公園に戻ってくる。
まるでここが、私を生んだ胎内のように落ち着くのだから。

だからこそ、何故かまだ私の肩さえも抱こうとしないこの男は特別なのだ。

だからなのか、彼が自分の中でそれ等の男達とは全く違う生き物に見える。

彼の傍に居たら一体自分はどうなるのか、それが気になり始めていた。

私は、今までに無いような感情を感じた。
それまでの男達に対して感じた事の無いような、暖かい何かを。
私の左手を、大きな暖かい彼の手がそっと包んだ。
そのとてもリアルな感触に、私の全身が一瞬ざわついた。
ざわついて、乱れた心臓の鼓動は段々と落ち着きを取り戻していく。

暖かい。

夢で見たあの手と違って、血が通う人の手はこんなに暖かいものだなんて知らなかった。

 ――――――――――――――――――――――――

彼と、また逢う約束をした。
今夜と同じ時間、今夜と同じあの場所で。

しかし、恐らくもう逢う事は無い。
彼に触れた時に知った事を、彼もまた感じているはずなのだから。

彼と私は、似ているのだ。
だからこそ、彼はこの一夜を大切にするだろう。

あの公園は、私の"狩場"だ。
声を掛けてくる男は、全て私のとっては餌にしか過ぎない。
そこに、まさか彼のような者が現れるなんて考えても無かった。

私の中で息付く異形の者としての本能。
心も身体も従順なはずの本能が、彼だけは拒絶した。
それに―――――。
心臓が、一度ドクンと高鳴った。

本能が知らせる。
ずっと抑えていた人間の血を求める、"吸血鬼"としての本能。

彼は。

私と"同種"だ。

"同種"の血は、幾ら吸血鬼といえど吸う事は出来ない。

吸血鬼に、「誰かを愛する」などという感情は許されない。
それは我々にとって、即刻の「死」を意味する。

恐らく彼は、今頃自らの命を絶っているだろう。
自分の中の、一夜限りの小さな想いを汚さないように。
私は、自分の部屋のベッドで寝転がり天井を見上げる。

どこからか、彼の「ありがとう」という声が聞こえた気がした。

 ――――――――――――――――――――――――

私は、とある部屋の中で今宵も「餌」に肩を抱かれていた。
この"食事"が終われば、また私はあの夢を見るだろう。

青白い手と、私を飲み込む赤い世界。
ソノナカニハ、彼ノテモマザッテルノカナ―――――――。

「また逢えるかな・・・」

何か、暖かい物が頬を流れ落ちた。
私はそれを、ゆっくりと味わうように指で拭う。
「餌」が話し掛けて来る。

その時には、悲しみの涙は歓喜の涙へと変わっていった。
今宵もこうして「餌」に、本能のままに在り付ける事への涙に。
夢の中で翳した左手は、今は「餌」の首元へ。
私は、「彼」と違って本能に従って生きていく。

溺れよう―――。

本能のままに。

沈んでいこう―――。

心の痛みさえ、恍惚にへと感じながら。

私の頬に、しぜんに笑みが浮かんできた。




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