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Last update 2007年10月07日

タイトルなし 著者:Clown


夏の名残の光が煙を余計にぼんやりと曇らせた。

 小倉那美はタバコの灰を砂浜に落とすと、再び口に咥えた。
「なぁ、タバコ止めねぇ」
 正直僕はタバコというものがキライである。親父がヘビースモーカーだったこともあり、幼い頃からタバコの煙に辟易していたのも原因のひとつである。大学生にもなって僕は未だに一回も吸ったことがない。思春期の多感な時期に度胸試しみたいな感覚で火をつけることすらしなかったから、おそらく今後一生口にすることはないだろうなと思っている。
 那美は高校時代の同級生で、当時から良くも悪くもちょっとばかり目立つ人だった。大学で上京したはいいが、一年ももたずに自ら退学。その後音信不通だったところに急に帰ってきたと電話で呼び出されたわけで。自分も久しぶりに来たよ、地元の海水浴場なんて。
 あ、言っておくけど別に恋人だったとか、それに近いベクトルがあったとか、そういう関係じゃないんだ。あえて言うなら・・・やっぱり『友達』としか呼べないか。
「ナツ、就職は決まった?」
 大学4年の9月である。決まっていないヤツがのこのこと呼び出されてたまるか。・・・と言いたいところだけど決まっていない。世の中不景気だね。
「僕の質問が先なんだけど」
 缶コーヒーを砂浜に突き刺すように立てて置くと、僕は砂が付くのも気にせずあぐらをかいた。那美はさすがに服が気になるのか、手ごろな石を椅子がわりにして落ち着いた。
「ああ、タバコね」
 那美がタバコを吸うのを知ったのは今日が始めてである。実は少しショックだったりする。これがまた絵になるようにスマートに火をつけたりするからなおさらだ。
「タバコってさ、煙がいいよね」
「スモーカーは結構な確率で同じ事を言う」
「うーん、ちょっと違うんだけどね。なんていうのかな、味とか香りとかじゃなくて、形?」
「は?」
「ふわーっと空にむかって消えてくときの形がすごく好き」
「ああ、まぁ、わからなくもないけどさ、それなら別にタバコじゃなくたっていいじゃないか」
 缶コーヒーを一口飲んで続ける。
「マッチとか」
「放火魔かと思われるわよ」
「今の時期ならまだ蚊取り線香でもいけるね」
「冬場はどうすんの」
「発煙筒は?」
「風流じゃないわ」
「タバコのどこが風流だよ」
 那美はクスリと笑って僕をチラリと見た。
「ナツは変わらないね」

 そのとおりだと僕も思った。



 僕の運転する軽自動車で那美を家まで送っていった。自慢じゃないが助手席に女性を乗せるのはこれが初めてだ。できれば初めての女性は恋人でいてほしかったね。
「何笑ってんの?」
「ん、なんでもない」
「ねぇ」
「何?」
「バンド、まだ続けてるの?」
 高校時代から友達とバンドを組んで自己満足以外のなにものでもない音楽活動を僕はやっていた。別に解散したわけでもないし、仲間達とは交友関係も続いてはいるが、今は完全休止中だ。
「ま、ほら、就職活動も忙しいし」
 那美はいたずらっ子のような目をして口元をほころばせた。
「あ、やっぱりまだ就職決まってないんだ」
 簡単な誘導尋問にひっかかった僕も僕である。

 人は時間が経つに連れて変わっていくものだと僕は思っている。それでも別の何かになってしまうわけじゃないんだ。那美はタバコを吸い始め、僕はバンドを無期休止中。それでもやっぱり『変わらない』んだ。

「次の角を右ね」
「へーい」
 僕はハンドルはゆっくりと切って路地へと入る。こういう道は小回りの利く軽自動車に限るね。税金も安いし。・・・って強がり。本当はRV車が欲しい。
「この辺って入り組んでるからわかりにくいのよね。来たことあったっけ家?」
「一回だけね」
「憶えてる?」
「うーん、あんまり自信ないからナビして」
「はいはい。でももうすぐよ。二つ目のとおりを右」
 僕は少し微笑んだ。ああ、やっぱり憶えてるよ。

 そのとおりだと僕も思った。





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