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Last update 2008年04月19日

一夜の恋人  著者:沙羅(さら)



 夜の禍々しいネオンの中で出会った一双の瞳。
 他を拒むかのような孤独と、何かを欲しながらも全てを諦めているかのような淋しい瞳。
 猥雑な街の中で彼だけが異質なもののように浮き立ち、清廉ささえ感じさせた。
 彼もまた、この街の住人であることはその服装や装飾品で見当がつく。
 それでも彼への好奇心という言葉では収まりきらない強い興味は抑えることができない。
 この謎めいた、意味もないくせに胸を締め付けられるような奇妙な感情に、なぜこんなにも心をかき乱されるのだろう。
「ねえ。二人で楽しまない?」
 彼の方からそう声をかけられ、三谷(みつや)の答えは当然決まっていた。
「僕でよければ」
 セクシャルな誘いであることは承知の上で、三谷は承諾した。
 嫣然と微笑んだ彼の美貌に、歪んだ欲望を感じながら。
「こういうの、初めて?」
 雑居ビルの一室に案内され、さらに奥の個室に通される。
 そこは彼らがよく使う連れ込み部屋らしく、ベッドとあからさまな物品が置いてあり、今からここで行われる淫靡な行為を予感させた。
「君みたいな綺麗なコは初めてだよ?」
 シーツは取り換えられたばかりらしく、糊が利いていて清潔そうだ。
 白く、皺のないこのシーツが数時間後には無残にも汚されるところを想像し、三谷はうっそりとほほ笑む。
「口が上手いね。…そっか、慣れてるんだ?」
「クチ、上手いけど試してみる?」
 三谷の言葉に、まだ二十歳を過ぎたばかりという辺りの年頃の青年は呆れたように眉をひそめてみせた。
「それはオレの仕事なんだけど」

 フェラ好きなの?と問われ三谷は首を振る。
「好きじゃないけど、君にはしてあげたい気分なんだ」
 三谷が名前を問うと、「カナエ」という答えが返ってきた。
 本名かどうかはこの際どうでもいい。今はこの「カナエ」という存在が重要なのであって、名は単なる呼称にすぎない。
「カナエ、フェラされるの好き?」
 これが嫌いな男など、まずいないだろう。分かりきった質問をしたのはカナエの羞恥心を煽るためだ。
 しかし目の前の青年は見た目の年齢を裏切り、落ち着き払った態度で返してくる。
「好きだけど。するのも好きだよ」
「ふうん。でも今日は僕がしてあげるね」
 カナエの身体をシーツの上に横たえさせ、ジーンズの前をくつろげる。まだ兆しを見せない小振りなそれをボクサーパンツから取り出し、まずは手で優しく扱いてやる。少し硬さを帯びてきたところで口の中に招き入れる。
 カナエはあえかな吐息をもらし、三谷の行為を甘受している。うっすらと開いた唇から覗く赤い舌が妙に艶めかしい。カナエの性器は大きくなっても三谷の口内を圧迫することなく、口淫をするにはちょうどいいサイズと言えた。先端から液がにじみ出てきたところで三谷は行為を止めた。不満そうに漏らされたため息に三谷は苦笑する。
「イっちゃうと後が辛いでしょ?」
 わかってると思うけど、と三谷は言い加えてカナエの下肢を覆う衣類を取り去る。白く伸びやかな、ほっそりとした脚が晒され三谷を喜ばせる。
「綺麗な脚だ。毛が無くて女の子みたいだ」
 全て脱がせてみると、カナエは三谷の理想通りの身体つきをしていた。未発達の少年のような、あまり筋肉を感じさせない幼い肢体に三谷は思わず、
「カナエ、何歳なの?」
 まさか、未成年じゃないだろうね?と確認を取る。いくら享楽の限りをつくしてきた三谷とはいえ、最低限のルールは守ってきたつもりだ。
 つまり、未成年と素人には手を出さないこと。いくらカナエが三谷の好みのタイプだったとしても、未成年であるならばこれ以上行為を続けることはできない。
「542歳だよ」
 冗談にしてはやけに淡々と答えたので、それが冗談だと悟るのにわずかに時間を要した。
「面白いね。カナエは吸血鬼なのかい?」
 似合ってるけどね、と呟いて、いやしかし、あながち冗談でもないかもしれないと思い返す。
 本当に吸血鬼がいたとしたら、こんな風なのかもしれないと三谷は思う。
 それは見た目の美しさもさることながら、その若い年齢に見合わない、老成した瞳が三谷にそう思わせた。
 深い孤独と諦念と、世の無常を知り尽くしているかのような達観したその瞳だけが酷くアンバランスに見える。
「まあ、似たようなもんなのかな」
 否定もせず、寂しげに笑う青年はどう見ても人間そのもののにしか見えない。
 しかし、三谷の直感が彼の存在の異質さを感じ取っていた。
 一目見た時から感じていた、ときめきにも似た違和感。
 彼の存在をその目に捉えた瞬間から目が離せなくなった。
 はっきりとまだ名もないその感情に、あえて名前を付けるとしたら、
「恋、しちゃったかも」
 唐突に口をついて出た言葉にカナエのみならず、三谷自身も驚いていた。
「簡単に言う…」
 カナエは呆れたような、悲しいような、複雑な表情を浮かべて呟く。
 まるで期待することに疲れたとでも言うように、深いため息を吐いた。
「どうせ、あんたたちは忘れるのさ。ここでオレに会ったことも。その存在自体も」
 忘れるわけがない。忘れられない、と思うのにカナエのあまりにも寂しげな瞳に言葉を失う。
「一夜だけでいい。あんたはオレの一夜限りの恋人なんだよ」
 その時、三谷は気が付いてしまった。
 諦念の陰に見え隠れする、恐怖。それこそが、青年を臆病にし、怯えさせる原因となっていることを。
「一夜じゃ足りない」
 三谷の言葉に、カナエが少し怒ったような表情を浮かべる。
「お互いを知り合うには一夜じゃ足りないよ。違う?」
「別に、知りたいとは思わない」
「嘘つき」
 初めて目が合った時、目を逸らせなかったのはカナエも同じだったはずだ。
 その時から、何か運命的なものをお互いに感じ取っていたならば。
「今日からは僕が君の恋人になってあげる」
 永遠にね、と甘く囁いた三谷に、青年がどこか遠い目をして言った。
「永遠なんて、ほんの一瞬なのにね」




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