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Last update 2007年10月07日

タイトルなし 著者:GURA


私はふと、もっと別の理由があったのではないかと疑った。

えっちゃんとかずちゃんは、母親の役目を担う女に、ひどく殴りつけられながら育った。
彼女たちが物心つくころには、いつもいつも体のアチコチに目を覆うような傷跡や大きな痣があった。
幼い二人には意味も解せないほどの罵倒を浴びながら、わけもわからず流れてくる涙を必死に拭いながら、二人はいつだってお互いを庇いあうように暮らしてきた。


喚き散らし、気がすむまで己の欲望のままに暴威を振るう女。
母親であるその女が脱力のままに眠り込むのを確かめると、えっちゃんとかずちゃんは決まって女の髪を撫でてやった。


「たとえどんな女だろうと、母親であることには違いない」
「きっといつか、きっとそれでも、血を見るほどの拳も、やがて そっと自分たちを抱いてくれる暖かい手になるのではないだろうか」
あんなに幼い子供たちが、無垢にもそう思っていたのではないかと胸がぐっと詰まった。

彼女たちは、それを許してやっている。
それでも自分たちの母親であることを受け止めているのかと…。



えっちゃんもかずちゃんも、少し大人になって色々わかってきた。
己の鬱憤を吐き尽すまで娘たちを殴り続ける母親も、たったひとりになれば止まぬほどに泣いているのを知った。
眠っているえっちゃんの寝顔を長いこと見つめながら、とめどなく「ごめんね」といい続けている母を、かずちゃんは見た。
寝たふりのかずちゃんの髪を、ずっとずっと撫でている母をえっちゃんは知った。

彼女たちは「母親」という女の中が、どんな風に渦巻いて、どんな風に自責の念に駆られるのかを漠然と知った。



彼女たちが、もう少しで大人になるだろうという、ある日。
女は、えっちゃんたちのマンションの前に蹲っていた。
高価そうなパンプスにスカート、でも上半身は露わのまま、必死に嗚咽を堪えようとしていた。
体にはあの頃の姉妹を、否応なく記憶から蘇らせる無数の傷跡や痣が遠くからでも見て取れた。


私は思わず足をとめ、それでも成すすべなく立ちつくしてしまった。
道行く人も、気づけば怪訝な顔を向ける。
大通りに面したマンションの入り口からゆっくりと、いまや成長した彼女らが現れた。

流れ出る血を確認するかのように、その体を縮こめるように蹲る女。
えっちゃんは、裸足に履いたヒールで女の後頭部を、あついアスファルトに押し付ける。
「死ぬな。一生、後悔しながら、そしてずっと生きろ」

呪いの言葉を言い放ったかずちゃんと そしてヒールの力を抜くでも入れるでもないえっちゃんの目は、もはや心をもった人間のものではなかった。

本当は、
「きっといつか、きっとそれでも、二人で復讐できる日がくる」
たったひとつのドーナツを欲しがっていた、あんな小さな頃から、ふたりはきっとこの日々のために、流れる血をおさえあいながら育ってきたのではないだろうか。

涙はあとからあとからと、ふくれあがってきては、止めどもなく流れるのだ。





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